ご家族がお亡くなりになって遺言書が発見されたとき、故人の遺志を尊重してあげたいものの、どうしても納得いかない内容の遺言が残されていたという相続相談があります。
遺産分割協議とは、遺産の分割方法を、相続人全員で話し合い、相続人全員の合意のもとに相続財産(遺産)を分け与える手続きのことをいいます。
他の相続人も、遺言書の内容にどうしても従いたくない場合には、遺言書の内容とは異なる内容の遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作成することができるのでしょうか。できるケース、できないケースについて、相続に詳しい弁護士が解説します。
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相続人全員の合意があれば、遺言書と異なる遺産分割協議が可能!
遺言書に書かれた被相続人の意思とは異なる遺産分割協議を行うことも可能です。遺産分割協議は、相続人全員の合意によって成立するものであって、相続人全員が合意すれば、遺言よりも優先するということです。
遺言書は、被相続人の死亡(相続開始)により効力を有しますが、その後に、遺産分割協議の結果によって、遺言書にしたがわないこともできるというわけです。
この場合、遺言書と異なる内容の協議にしたがって相続財産(遺産)を分割したり、相続登記(相続不動産の名義変更)を行うためには、遺産分割協議書を作成し、相続人全員が実印を押印し、印鑑証明書を添付しなければなりません。
遺贈(遺言による贈与)を受けた人(受遺者)がいる場合であって、受遺者が相続人の場合には、その人は、遺言書と反する遺産分割協議に同意することによって、遺贈を放棄したのと同様と考えることができます。
注意ポイント
共同相続人全員が、遺言書と異なる内容の遺産分割協議に同意しているといえるためには、その前提条件として、相続人全員が遺言書の存在と内容を知っていなければなりません。
一部の反対しそうな相続人に対して遺言書の存在を隠して遺産分割協議を行って、結果として遺言書と異なる遺産分割協議書を作成しても、遺言に反することで無効となります。
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遺言書と異なる遺産分割協議ができない4つのケース
法的に有効となる要件を満たした遺言(公正証書遺言、自筆証書遺言、秘密証書遺言)があっても、その後に共同相続人が全員で遺産分割協議をしたときは、遺言と異なる遺産分割協議書を作成することも有効であることをご理解いただけたでしょうか。
しかし一方で、次の4つの場面では、遺言書と異なる遺産分割協議をすることはできない場合があります。
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【ケース①】相続人全員の同意が得られないとき
相続人全員の同意が得られないときには、遺言書と異なる遺産分割協議を成立させることができません。
そもそも、遺産分割協議によって遺産の分け方を決定するためには、相続人全員の合意が必要です。そして、相続人全員の合意を証拠化するために、遺産分割協議書には、相続人全員の実印と印鑑証明書の添付が必要なのです。
遺産分割協議で、相続人全員の同意が得られないとき、遺言書が存在しなければ、遺産分割調停・遺産分割審判で、家庭裁判所の手続きで財産の分け方を決めるわけですが、遺言書があるときには、遺言書に従うことになります。
【ケース②】相続人以外に受遺者がいるとき
相続人以外に受遺者がいるときには、その受遺者の同意が得られなければ、遺言書と異なる遺産分割協議をすることができません。
遺産分割協議は、あくまでも相続人間の話し合いであり、相続人全員が遺言書と異なる財産分与に同意したとしても、遺言で利益を受ける相続人以外の人がいて、その人が反対すれば、遺贈された財産は相続人たちのもとには戻ってこないからです。
【ケース③】遺言書と異なる遺産分割協議を、遺言者が禁止したとき
お亡くなりになった方(被相続人・遺言者)が、遺言書と異なる内容の遺産分割協議を行うことを、遺言書で禁止している場合にも、遺言書と異なる遺産分割協議を行うことはできません。
遺言書に記載してまで禁止するということは、それだけ遺言者の強い意思表示であることと考えられ、遺言書に記載された遺産分割の方法、割合を尊重すべきだからです。
【ケース④】遺言執行者が、遺言書と異なる遺産分割協議に同意しないとき
遺言執行者とは、お亡くなりになった方(被相続人・遺言者)が、遺言書で指定する、遺言書の内容を死後に実行する役割を持つ人のことをいいます。親族・血族である場合もありますが、遺言内容の確実な実現のために弁護士が選任されることもあります。
遺言執行者が、遺言書と異なる遺産分割協議に同意しないときもまた、遺言書と異なる遺産分割協議はできません。
ただし、ケース④の遺言執行者が反対している場合に限っては、遺言執行者の反対にもかかわらず、共同相続人はみな、遺言書と異なる相続財産(遺産)の分け方に賛成していることもあります。
そうであれば、一旦は遺言執行者が遺言書にしたがって相続財産(遺産)を分割した後で、新たな契約(贈与契約・売買契約・交換契約など)によって、相続人たちの望む分け方に修正する方法で、事実上、遺言書と異なる遺産分割協議とすることも可能です。
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遺言書と異なる遺産分割協議で「不動産相続」を行うときの注意
相続財産(遺産)の中に不動産(家・土地など)があり、遺言書で決められた不動産相続の方法・割合とは異なる内容で遺産分割協議を行うときには、相続登記(不動産の名義変更)のときに注意しなければならないポイントがあります。
例えば、遺言には「相続太郎に不動産を相続させる」と書いてあるけれども、遺産分割協議の結果、相続人全員の合意で「相続次郎に不動産を相続させる」ということが決まったときのことを考えてください。
この場合、一旦、「相続太郎」名義に、「相続」を登記の原因とする所有権移転登記を行った後で、次に、「相続次郎」名義に、贈与または交換を登記の原因とする所有権移転登記を行う必要があります。
遺言書と異なる遺産分割協議を行うことは、可能ではありますが、相続登記や相続税など、相続手続きにおけるさまざまな面で、特別な取り扱いが必要な場合があり、注意が必要です。気になるときは、事前に弁護士、税理士などの専門家に相談して進めてください。
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いかがでしたでしょうか?
今回は、遺言書の内容に対して不満のある相続人の方に向けて、遺言書の内容とは異なる遺産分割協議を行うことができるかどうかについてと、不可能な4つのケースについて、弁護士が解説しました。
法的に有効な遺言書が発見された場合には、遺言書に従って財産を分けるのが原則であり、遺言書の内容に反して、さらに遺産分割協議を行うという方法は例外です。そのため、可能ではあるものの、注意しなければならない法律上、税務上、登記上のポイントを理解しなければ、思わぬ損失をこうむり、「争続」の原因ともなりかねません。
「相続財産を守る会」では、相続に強い弁護士、税理士が、遺言書が存在する場合であっても、これに反する分割方法としたいという相続人の希望を最大限叶える方法を、ケースに応じて臨機応変にアドバイスします。