未成年の相続人がいる場面では、予期せぬ複雑な問題が絡みます。その最たる例が、親子間に利益相反が生じ、特別代理人の選任を要するケースです。
相続人それぞれの利益が反する関係を「利益相反」といいます。親子は生計を共にし、利益を同じくするのが基本ですが、共同相続人となれば理論的にはその利益が逆を向き、親と敵対する可能性があります。仲良いうちはよくても、家族でさえ対立するのが相続トラブルの特徴であり、親子間の利益相反は無視できません。
親権者には法定代理権がありますが、親子間で利益相反が生じるときに、未成年者の権利を適切に守るのが特別代理人の役割です。
今回は、未成年者の特別代理人が必要なケースと、その場合の選任方法を解説します。相続は、故人の意思を尊重し、遺産を公平に分けるためのプロセスですが、未成年者が関与する場合は、より慎重に進めねばなりません。
特別代理人とは
特別代理人とは、未成年者が相続人となる場合に、その共同相続人に親権者がいるとき、未成年者固有の利益を守るため特別に選任される代理人です。
特別代理人が必要となる理由
親権者は、法定代理権を有し、未成年者に代わって法律行為ができます。親権者とその子は、生計を共にし、利益を共通にする場面が多いですが、共同相続人となればそれぞれの利益が対立します。共同相続人間では、ある人が遺産を多く取れば、他の人の取得する財産が減るからです。
この利益相反の関係は、親権者とその子の間でも、相続の場面では容易に起こり得ます。
特別代理人の役割
このとき、特別代理人を選任し、親権者の法定代理権を制限することで、子が本来有する相続権を守り、親の都合で相続を決めさせないことが大切です。そのために特別代理人は、未成年者の利益を守り、遺産分割の交渉や財産の管理、法的手続きなどを、未成年者に代わって実施します。
夫が死亡し、母と未成年の子が相続人となるのが典型的なケースです。このとき、具体的には、家庭裁判所に選任の申立てをし、裁判所の選任した特別代理人が、未成年の子を代理し、配偶者との間で遺産分割協議を行います。
特別代理人が必要となるケース
未成年者は、一人で遺産分割協議に参加することはできません。保護が十分でなく、権利を侵害されるおそれがあるからです。未成年者の権利を保護する役割は、通常は法定代理人となる親権者が担いますが、親権者に代理させるのが不都合なとき、特別代理人が必要です。
なお、利益相反が存在しなければ、親権者は法定代理人として未成年者に代わって相続に関する行為をすることができます。
親権者が共同相続人となる場合
未成年者の特別代理人が必要なケースの典型例は、未成年者とその親権者が、いずれも共同相続人となる相続です。例えば、父が亡くなり、母と子が共同相続人となる事例です。
この場合、法定相続人である親権者も共同相続人のため、親権者が未成年者を代理できてしまうと、その親権者が自分にとって有利な割合で遺産分割を決定してしまうことができるため、未成年者の権利を不当に侵害するおそれがあり、特別代理人による保護が必要となります。
未成年の子が複数いる場合
未成年の子が複数いる場合にも、特別代理人の選任が必要となります。親権者が共同相続人とはならなかったとしても、未成年の子が2人いると、親権者がその双方を代理したときに、一方の子の権利が不当に侵害されてしまう危険があります。
親権者が共同相続人とはならず、未成年の子が複数いるケースとは、例えば、親権者が相続放棄したり、相続欠格や相続廃除に該当する場合があります。この場合、親権者が法定代理人として子のうち1人を代理し、もう一方の子には特別代理人を選任する必要があります。
未成年者が相続放棄する場合
相続は、財産の取得だけでなく、負債もまた承継します。このとき、相続放棄をして、相続をしないという選択肢もありますが、放棄を巡っても親権者と未成年者の利益が相反するケースでは、特別代理人の選任をしなければなりません。親権者が法定代理人として、未成年の子の相続を勝手に放棄することで、本来得られるはずだった権利を失うことを避けるためです。
ただし、相続放棄のケースでは、特別代理人が必要な場合と、不要な場合があります。
【特別代理人の選任が必要】
- 親権者と未成年者が共同相続人で、未成年者のみ相続放棄する場合
【特別代理人の選任は不要】
- 親権者が先に相続放棄した後、未成年者も放棄する場合
- 親権者と未成年者全員が、同時に相続放棄する場合
未成年者も親権者も、共に相続放棄するならば、利益相反は生じません。負債が多く、明らかに放棄する方が得なケースでは、基本的にどちらも放棄するでしょうから、利益相反はなく、特別代理人がいなくても未成年者の利益は守られるからです。
成年後見人と成年被後見人の利害が対立する場合
未成年者と親権者と同じく、成年後見人と成年被後見人についても法定代理に関係にあるところ、いずれもが共同相続人となるケースで利害の対立が生じれば、成年被後見人の利益を守るために特別代理人の選任が必要となります。
ただし、成年後見においては、後見監督人を選任している場合は、成年後見人に代わって後見監督人が代理することができるため、特別代理人の選任は不要です。
特別代理人を選任する方法
次に、特別代理人を選任する方法について解説します。
必要書類を準備する
まず、特別代理人の選任に必要な書類の準備をしてください。
- 申立書
- 未成年者と親権者の戸籍謄本
- 特別代理人候補者の住民票または戸籍の附票
- 遺産の内容を示す資料
不動産登記簿謄本、固定資産税評価証明書、預金残高証明書など - 利益相反を示す資料
身分関係を表す戸籍、遺産分割協議書案など
分割方法については選任後にあらためて決めるものですが、選任の申立時にも遺産分割協議書の案を示す必要があります。
特別代理人の候補者を決める
特別代理人を選任するには、申立時にその候補者を立てる必要があり、事前に決めておかなければなりません。特別代理人となるからには、未成年者はもちろん他の相続人とも利害関係のない人であることが条件です。親族であってもそうでなくてもよく、候補者がいないときは弁護士などの専門家を候補とすることもあります。
ただし、最終的に、誰を選任するかは、家庭裁判所の判断によります。
家庭裁判所に選任を申し立てる
以上の準備が整ったら、家庭裁判所に、特別代理人選任の申立てをします。
申立ては、親権者または利害関係人がすることができ、未成年者の住所地を管轄する家庭裁判所が提出先となります。申立てにかかる費用は、未成年者1人につき800円の収入印紙と、連絡用の郵便切手代です。
無事、特別代理人が選任されたら、特別代理人を含めた相続人間で、遺産分割について話し合いをします。特別代理人は、未成年者の利益を守るために、その子にとって不利益な行為はできません。そのため、法定相続分を下回る合意は、裁判所に認めてもらうのが難しいと考えてよいでしょう。
次のような事情で、未成年者に与える遺産を少なくしたいこともあるでしょうが、この場合、家庭裁判所に説得的に伝え、理解を得なければなりません。
- 未成年者の生活費を、親権者が全て出している
- 高額の学費や病気に治療費がかかっている
この点を考えると、遺産分割の柔軟性は、ある程度失われることとなりますが、基本的な注意点は、一般的な遺産分割協議の進め方と変わりません。
遺産分割協議の進め方について
特別代理人についてよくある質問
最後に、特別代理人についてのよくある質問に回答しておきます。
特別代理人には誰がなれる?
特別代理人になるのに特に資格は決まっていません。遺産分割に利害関係のない人ならば、誰でも特別代理人になれるのが基本です。親族でも、そうでなくても構わず、例えば祖父母や叔父、叔母などが選ばれるケースが多いです。
まとめ
今回は、相続人に未成年者がいる場合に必要な、特別代理人の選任について解説しました。
未成年者は弱い立場にあり、法的な保護が必要です。通常は、親権者が法定代理人として保護するので足りますが、相続の場面では、家族関係でも利益相反が生じるため、未成年者の特別代理人についての知識を必ず理解してください。
特別代理人が必要となる場面を理解しなければ、せっかくまとまった遺産分割をやり直さなければならない危険があります。また、その場合、選任方法やその後の相続手続きをどのように進めるかも、より慎重な配慮を要するケースだといえます。