「分筆」という言葉をご存知でしょうか。不動産登記の専門用語で、1つの土地を2つ以上に分けることを「分筆」といいます。具体的には1つだった土地の登記を、2つ以上の登記簿謄本に載るように分割することです。
専門用語で、土地は「1筆(ふで)」、「2筆(ふで)」と数えます。「筆を分ける」ことを意味する「分筆」を行うことで、1つの土地だった土地は、登記上別々の土地とみなされ、法律上、税務上さまざまな効果があります。相続の前後でも「分筆」が活用されます。
登記の専門家というと「司法書士」が思い浮かぶ方もいるかと思います。しかし、「分筆」の登記は司法書士ではなく「土地家屋調査士」の専門分野です。
そこで今回は、「分筆」の基本的知識や具体的な方法と、相続の際や生前対策の際に、「分筆」を活用すべきケースなどについて、分筆登記を多く取り扱う土地家屋調査士が解説します。
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そもそも「分筆」とは?
「分筆」とは、1つの土地を、2つ以上に分けることです。「土地を分ける」といっても、境界線を作ったり塀を立てたりして物理的に分けるわけではありません。
土地を登録する国の制度である登記簿上、2つ以上の別々の土地とみなすだけで、見た目は全く変わりません。分筆をすると、登記簿上の地番に枝番が付きます。例えば、土地を2つに分筆するとき、登記簿上の表記は次のようになります。
- 分筆前:「2番地」
- 分筆後:「2番地の1」、「2番地の2」
分筆も、所有権移転や抵当権設定などと同様に、登記手続きですから、専門家に依頼いただくときは、土地家屋調査士の得意分野です。
「土地家屋調査士」をご存知ない方も多いかもしれませんが、土地の現況や境界を測量などによって調査し、登記に反映する仕事をしています。
相続前後で分筆を利用した方がよいケース
相続前の生前対策や、相続後の遺産分割のときに、相続財産(遺産)の中に含まれる土地を、分筆しておいたほうがよいケースがあります。
相続のとき、不動産(土地・建物)は、特に価値が高く、そのままでは遺産分割しづらい財産であるため、広すぎる土地、評価額が高額すぎる土地は、相続問題の際の支障となるおそれもあるからです。
そこで、相続前後で土地の分筆を利用しておいたほうがよいケースについて、分筆登記を多く取り扱う土地家屋調査士が解説します。
相続財産(遺産)に占める土地の割合が高い場合
相続財産(遺産)に占める土地の割合が高すぎる場合、つまり、土地以外の財産(特に預貯金・現金などの分けやすい財産)が少なすぎる場合、遺産分割協議がもめて「争続」となりやすい状態です。
土地しかめぼしい財産がないとなれば、他の相続人もみな土地を欲しがるでしょうが、土地1つのまま相続人間で公平に分割することは困難だからです。土地を分けずに共有のままにしておくこともまた、争いを長期化させてしまいます。遺産分割協議は、相続人全員の合意が必要です。
そのため、相続人の人数のわりに、相続財産(遺産)に占める土地の割合が高すぎる場合には、遺産分割でもめない生前対策として、ご家族がお亡くなりになる前に土地を分筆しておくことが有益です。相続人の人数や、相続分に応じて分筆しておくことが考えられます。
生前対策が間に合わなかったとしても、遺産分割のときに、土地を分筆して複数の土地にすることで、相続人間で、公平で納得感のある遺産分割協議が成立する可能性が高まります。
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土地の一部だけを売却したい場合
相続人間で、土地の活用方法について意見の相違がある場合があります。例えば、次のケースにおける公平な解決を考えてみてください。
土地は、登記簿上の単位でしか売買することができません。1つの土地のままでは、その一部分だけを売却することができませんが、分筆して2つの土地にすれば、別々に処分することができ、各相続人の希望を叶えることができます。
たとえば・・・
お亡くなりになった方(被相続人)の相続人が兄と弟の2人で、相続財産(遺産)の中に不動産があり、自宅として利用していたとします。
お亡くなりになった方(被相続人)と、最後まで同居をしていた兄弟は、不動産(土地・建物)を自宅として利用し続けることを望むけれども、早いうちに結婚して家を出た兄弟が、自宅を売却してマンションとして活用したいと望むケースで、分筆が有効です。
特に、相続人間に、資金力の格差がある場合に、お金のない相続人が、相続した不動産を現金化したいと希望することが多くあります。
相続税の支払をするだけの資力がなく、一部を売却して相続税の納税資金を作りたい場合や、相続税の物納のために土地の一部を物納したい場合にも、分筆が必要となります。
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土地の一部だけの用途を変更したい場合
土地の用途のことを、不動産登記の専門用語で「地目」といいます。登記簿に記載された地目には、「宅地」、「田」、「畑」、「雑種地」など、土地の利用目的が記載されています。
例えば、相続で取得した不動産が、自宅用地として利用されている場合には、地目は「宅地」となっています。不動産のうち一部の用途を変えたい場合にも、分筆をしなければ、土地の一部だけの地目を変えることはできません。
たとえば・・・
お亡くなりになった方(被相続人)が自宅として使用していた土地の一部を駐車場にしたい場合には、地目の変更が必要となるため、分筆の登記が必要となります。
相続人が利用するには広すぎる自宅を建替え、あまった敷地の一部を公園にしたいという場合にも同様に、分筆登記と地目の変更が必要となります。
土地の相続税評価額が高額な場合
土地の相続税評価額が高額すぎるときに、土地を分筆することで、土地の評価額を下げることができる場合があります。
相続財産(遺産)を計算した結果、不動産の価値が高すぎて相続した財産の中では相続税を支払いきれない場合には、生前からの相続税の節税対策が必須であり、この際に分筆が活用できます。
たとえば・・・
土地が角地にあり、土地の2面以上に道路が面している場合には、とても便利な土地であるとして、土地の相続税評価額が高額となり、高額の相続税を納める必要が生じる場合があります。
このとき、各土地の一方の面にしか道路が面しないように土地を分筆することによって、分筆した土地の評価額を合計しても、分筆前の土地の評価額より低くなるようにして、節税対策とすることができます。
土地の分筆を、節税対策として行う場合には、相続の際の土地の評価というとても難しい問題が関係することとなります。実際に分筆を土地家屋調査士に依頼するときに、あわせて、相続税に強い税理士の意見も聞いておくことがお勧めです。
公平な土地活用を希望するとき
土地がある程度の面積があるとき、遺産分割のときの最も公平な土地の分け方は、法定相続分にしたがって土地を分割することではないでしょうか。その他に預貯金・現金など分けやすい財産がある場合には、そちらで調整することも可能ですが、土地自体も法定相続分で分けてしまえば公平であることは間違いありません。
遺産分割協議の際に、公平な土地活用を希望して、土地を法定相続分にしたがって分けるときには、分筆を活用することができます。
土地の「分筆」と「分割」の違い
土地の「分割」は、よく似た言葉ですが、今回解説する土地の「分筆」とは異なります。土地の「分割」は、単に土地を2つに物理的に分けることです。この場合、「分筆」もいっしょに行うこともあれば、行わないこともあります。
1つの土地を塀や壁で2つに分けて、2人の共有者がそれぞれ利用するという場合には、「分筆」はしなくても、土地を「分割」したことになります。
「遺産分割」というとき、相続財産(遺産)の中に含まれる土地を、相続人で分け合うときには、複数の土地を、「土地Aを相続人Aに、土地Bを相続人Bに」と「分割」することもありますが、この際には、土地Aと土地Bは登記簿上も既に別々の土地ですので、「分筆」は必要ありません。
分筆する具体的な方法
土地を分筆した方がよいという結論となったときに、実際に土地を分筆するときの具体的な方法、手続などについて、土地家屋調査士が解説します。
土地の分筆の手続は、2~6カ月など長い期間かかることもあるため、ご家族がお亡くなりになる前に相続の生前対策の一環として行いたいときなどには、十分な時間的余裕をもって行いましょう。
分筆の話し合いを行う
ある土地を分筆して2つ以上の土地に分けるとき、分筆の割合は「等分」と決まっているわけではありません。土地の形状や利用方法、土地の所有者間の公平などを考慮して、どの境界でどのように分筆するか、まずは話し合いが必要です。
相続した不動産を分筆する場合には、共有となっている相続人間での話し合いが必要であり、遺産分割協議の話し合いといっしょに行うことができます。このときも、必ずしも法定相続分の割合にしたがって分筆しなければならないわけではありません。
相続のとき、土地の分筆を希望する場合には、分筆登記の申請は、相続人全員で行う必要があります。そのため、分筆をすることが公平であるかどうか、遺産分割協議のとき相続人全員で話し合わなければなりません。
共同相続人のうちの1人が、分筆登記に協力しないときは、遺産分割調停を家庭裁判所に申立てし、裁判所での手続きが必要となります。
測量し、分筆の登記を行う
分筆の割合などが決まったら、次に、土地家屋調査士に依頼をし、土地の状況を測量などによって調査をします。
土地家屋調査士は、登記のうち、表題部(表題登記)について、不動産の調査を行い、登記する業務を行います。
分筆登記をする際にかかる土地家屋調査士の費用は、確定測量が必要なケースで土地の面積や隣接土地所有者の人数、公道か私道かなどにより変動致しますが、100~200㎡程の宅地を2分割するような場合で、概算で40万円~90万円程度が一般的です。
面積が広かったり、地形が複雑であったり、近隣対応の人数が多かったりしますと、100万円以上の費用がかかるケースもございます。
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いかがでしたでしょうか?
今回は、相続問題の中でも、特にトラブルとなりやすい不動産相続のうち、不動産を巡る「争続」を回避したり、相続税を安く抑えたりするための「分筆」の活用法について、分筆登記に強い土地家屋調査士が解説しました。
分筆を活用した相続対策はとても難しい問題であり、考えなければならないこと、注意しなければならないポイントが多くあり、費用もかかります。司法書士、税理士をはじめとした、相続に詳しい専門家のアドバイスを受けながら実行してください。