遺産分割は、遺産の分け方に関する話し合いであり、まずは協議を行い、決裂した場合には調停、審判に移行していきます。このとき、遺産分割がもめると、その紛争は長期化し、家族の間に決定的な亀裂を生じることとなります。できれば、もめることは避けたいのは当然です。
しかし、あくまで話し合いなため、円満に解決するには譲歩と合意が必要となります。お互い引けず、大きなもめごとになると、遺産分割協議は終わりません。
遺産分割のもめごとを防ぐために、もめる理由と原因のよくあるパターンを理解し、予防するようにしてください。
そもそも遺産分割とは
遺産分割は、相続財産について、民法の定める法定相続分とは異なる分け方をするときに、どのような分割がよいかを相続人間で話し合う手続きです。最初は協議をしますが、まとまらないと調停、審判といった法的手続きになってしまいます。
法定相続分は、一定の参考にはなりますが、必ずしも全ての家庭にあてはまるものではなく、不公平感を抱く人もいます。また、遺言が残っていると故人の意思を尊重する必要があったり、相続人のなかで多くの取り分を希望する人が寄与分、特別受益を主張して、もめることがあります。
- 寄与分
生前の被相続人を援助、貢献した点を財産評価して遺産分割に反映する考え方 - 特別受益
被相続人の生前に特別の受益を得た点の不公平を解消する考え方
遺産分割がもめないようにするため、まずは遺産分割とは何かを知ってください。
遺産分割の基本について
遺産分割がもめる理由と原因の8パターン
遺産分割ではしばしば、これまで表面上はうまくいっているかに見えた家族の関係が悪化し、大きなもめごとを引き起こします。もめる様子は「骨肉の争い」「争続」などとも表現されます。
よく「もめるのは金持ちだけ」という相談もありますが、実際には、遺産が多くても少なくても、その取り合いは大きな争いに発展します。ここでは、遺産分割がもめる理由と原因を8つのパターンに分けて解説します。自身の家族があてはまっている場合、事前の対策が必要です。
遺産分割の事前準備が不足してもめる
遺産分割は、協議の結果に対し、相続人全員が合意し、協議書に押印するまで終わりません。そのため、次の場合にはもめる可能性が高いです。
- 相続人内部で、適正な分割に関する意見が異なる
- 相続人の一部が音信不通、行方不明
- 相続人の一部が認知症で意思疎通できない
- 調査が不十分で、他に相続人がいる可能性がある
このようなもめごとはいずれも、協議前の準備が不足していることが原因です。事前準備として、不在者がいる場合には不在者財産管理人、意思能力が不足する人がいる場合は成年後見人を専任することで予防できます。このような準備がなかったことが協議後に明らかになれば、もめるのは当然です。
思わぬ相続人が発見されてもめる
協議に先立ち相続人の調査をしたとき、意外な相続人が見つかってしまうことがあります。思わぬ相続人がいるとき、被相続人の死亡を前提とした話をしていないのはもちろん、いわゆる隠し子など、一度も会ったこともない人の可能性も高く、もめる原因と言わざるを得ません。
特に次のケースは、感情的にも円満な話し合いは難しく、激しいもめごとになります。
- 現在の妻と、前妻の子
- 遺言書を有する内縁の妻
- 愛人の子
対策としては、生前に、思わぬ相続人が出てくる可能性があるかどうか、被相続人と積極的なコミュニケーションをとり、可能な限り遺言を作成してもらうことです。
昔の不満が噴出してもめる
仲の悪かった兄弟であっても、年齢を重ねて大人になると自然と普通の関係になっていきます。逆に、時間が経つごとに連絡が取りづらくなり、音信不通になってしまう例もあります。それでもなお、遺産分割は全員参加が原則なので、ギクシャクした関係の人も一同に会することとなります。
強制的に設定された議論の場では、昔の不満が噴出し、もめる原因となります。これまで目を向けてこなかった人間関係の不自然さが、相続を機に勃発することは、遺産分割がもめる理由として十分です。
相続財産の大半が不動産でもめる
相続財産の大半が不動産であることもまた、もめる原因となります。遺産が、容易に分割できる現金、預貯金であれば、どのような割合にも分割でき、公平を保つことができますが、不動産は、売却しない限り、細かく分割するのは困難です。
また、自宅用や事業に使用している不動産は、売却によって換価することを求めない相続人もいて、他に現金がないと、遺産分割がもめる理由になります。そのため、不動産が大きな割合を占めるケースや、ましてそれが事業の継続に不可欠なとき、後継者に必ず承継させるには、遺言を作成するのが有効な対処法となります。
なお、遺言による生前対策では、遺留分侵害に注意しなければ、更にもめごとを増やすことにもなりかねません。
相続財産の評価でもめる
相続財産に不動産が含まれる場合、その評価がもめる原因となります。不動産は、高価な財産なので、その評価が少し違うだけで、遺産全体に与える影響が大きいからです。この場合、各相続人が、それぞれ自身に有利な査定書を提出すると、もめごとは収まりません。
不動産の評価には、いくつかの方法があり、自分に有利な主張にこだわっていては争いが終わりません。最終的には、不動産鑑定士に依頼することで、公正な評価を得ることが対処法となります。
同居人の利益が大きくてもめる
相続人のうちの一部が亡くなった方(被相続人)と同居していると、もめごとの起こりやすい状況です。このとき、同居している人には、相続分を多くもらいたくなる理由があることが多いからです。
- 同居中に介護を行っていた
- 家事を担当していた
- 被相続人の家賃や生活費を負担していた
- 相続人の妻がストレスを感じていた
しかし、逆に、同居しなかった立場からすれば、子供の面倒を親に見てもらったり、遺産から生活費を出してもらっていたりなど、同居の相続人が受けるメリットが際立ち、もめる原因となります。「隣の芝は青く見える」というように、いずれの側からも不公平感が生じます。
これらの主張は、遺産分割の手続きのなかで、寄与分ないし特別受益といった考え方で具体的に調整することで解決できます。
不誠実な相続人の非行でもめる
遺産分割がもめる理由に、相続人のなかにトラブルメーカーがいてかきまわしているケースもあります。いわゆる「モンスター相続人」というわけです。相続の際には、大きなお金が動くため、欲に目がくらんで悪さをする人が出てきます。
多くの遺産を獲得しようと、遺言書を偽造したり、被相続人をそそのかして有利な遺言を書かせたり、相続財産に含まれる現金や預金を盗んだりといった相談例もあります。このようなもめる協議を解決するには、不当な利益を得ようとする問題のある人は、相続欠格や相続廃除によって相続人の地位を失わせる手続きをとることが対策となります。
事業承継でもめる
事業承継の絡む遺産分割は、特にもめやすいです。被相続人が経営者であるパターンです。事業承継のある相続がもめるのは、次の原因があります。
- 事業用資産なのに被相続人の個人名義になっていた
- 事業用に利用されている財産が高額で、後継者と他の相続人に不公平が生じる
- 事業に将来性があり、そこから得られる収入を承継しない相続人に不満がある
- 事業に必要となる多額の借金があり、連帯保証人が必要となる
被相続人が、オーナー企業、ワンマン経営者であるほど、生前からの円滑な事業承継の準備は困難を極めます。多くの資産と借金が、故人の名義で残されることは、遺産分割がもめる理由として十分です。
事業承継の基本について
遺産分割がもめたときの対処法
遺産分割がもめ続けて収まらないときには、まずはもめる原因と理由を特定し、前章で解説のパターンにしたがって対応してください。自身での対応が限界に達したときには、もめごとの交渉は、弁護士に代理して行ってもらうことができます。
また、当事者同士の協議ではどうしてもまとまらないほどに、もめごとが長引いたら、家庭裁判所の手続きを利用するしかありません。このとき利用するのが、遺産分割調停と審判です。遺産分割調停では、家庭裁判所の調停委員が、もめている相続人の間に入り、意見を利き、仲立ちをしてくれます。要は、解決に向かうための話し合いの場を提供してくれるわけです。
第三者の客観的な意見を聞くことで、冷静になってもめごとが収まる場合もあります。遺産分割調停で提案された解決にも納得のいかない場合は、裁判官が主導的に遺産の分割方法を決めてくれる遺産分割審判に移行します。
なお、もめる前の事前の準備、生前対策が重要なのは言うまでもありません。前章のパターンを見て、もめそうだという予兆を感じる場合は、早めに弁護士に相談してください。
相続に強い弁護士の選び方について
まとめ
今回は、遺産分割が円満に進まず、もめてしまうケースについて、その理由と原因ごとに分類し、対処法を解説しました。
仲の良かった家族や親戚も、お金が絡むと人が変わることが多いもの。特に、不動産や事業承継などは、多額の財産となる可能性があり、目の色を変えてもめる人もいます。また、親にしてあげたこと、血縁だけでなく配偶者(夫または妻)が絡むと、感情的な対立は更に複雑化します。