事業を営んでいる経営者の方の中には、相続・事業承継を目前にひかえたとき、「自分が死んだあと、会社はどうなるのだろうか」とご不安に思う方が多いです。
経営者である社長がお亡くなりになったとき、その後に残された人は、会社の事業承継を行う道と、会社を解散する道とのどちらを選択するか、決断を迫られることとなります。しかし、会社の経営者として、生前にしっかり責任もって、「事業承継」か「解散」かを決めて、準備することがお勧めです。
そこで今回は、会社の経営者である社長に知っておいていただきたい、事業承継と解散の比較と、それぞれの方法のメリット・デメリットについて、相続・事業承継に詳しい弁護士が解説します。
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会社の相続時に選ぶべき「解散」と「事業承継」とは?
会社の経営者がお亡くなりになったとき、その会社がなくなってしまうのか、それとも、事業を継続していくことができるのかは、経営者である社長の、生前の準備がどれほどしっかり行われているかによって変わってきます。
当面の運転資金に困らず、事業の将来性が十分に残っており、後継者となる人(親族、役員、社員など)も見つかっている場合には、「事業承継」の手段により、事業を継続することができます。
これに対して、資金難であったり、事業の将来性が感じられず競合にとってかわられるものであったり、後継者不足、人手不足に悩まされている場合には「解散」の手段を選択する場合もあります。
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会社の「解散」とは?
会社の「解散」とは、簡単にいうと、会社をたたむことです。
会社の経営者の相続が開始することが予定されているときなどに、会社を「解散」する道を選択するときには、大きくわけて、「清算手続き」と「破産手続き」の2種類の手続があります。
清算手続きと破産手続きのそれぞれの特徴、進め方、メリット・デメリットなどを理解していただき、適切な手続きを選択するようにしてください。
会社の清算手続き
会社の債権債務を清算して、十分に債権が返済しきれるけれども、人手不足や後継者不足などによって会社を解散せざるをえないときには清算手続きを利用します。
会社の清算手続きとは、会社の財産を処分して換金し、会社の債務を返済して、最後に会社を消滅させる手続きです。
会社の清算には、通常清算と特別清算の2種類があります。
- 通常清算とは、会社に残った財産で、会社の債務をすべて返済できる場合に使用される清算手続きです。
- 特別清算とは、債務超過の場合、つまり会社に残った財産で、会社の債務をすべて返済できない場合に使用される手続きです。
特別清算は、債務超過の場合に用いられる手続きであり、最終的に会社が消滅するという点で、次に説明する破産手続と似ています。
ただし、破産と異なり、手続きを進める人を会社が選任することができる、破産よりも柔軟な手続きが可能であるといった違いがあります。
破産と比べてマイナスのイメージが少ないという点も、特別清算のメリットです。
会社の破産手続き
会社が債務超過であったり支払不能状態に陥ってしまったりしているときには、破産手続きを使うこともできます。
会社の破産手続きとは、裁判所が選任した破産管財人が、会社の財産をすべて換金処分し、債権者に分配する手続きです。破産手続きの場合も、財産をすべて債権者に配当し終えると、最終的に会社は消滅します。
破産手続きを申し立てる場合には、主に破産管財人(弁護士)の報酬をまかなうため、裁判所に「予納金」を納付する必要があります。
もっとくわしく!
裁判所に破産を申し立てると、破産管財人という、取締役(代表取締役)に代わって会社の財産を管理する者が選任されます。破産管財人には弁護士が就任するのが実務です。
破産管財人は、会社に残った財産を売却し、売掛金などがあればそれを回収して、会社の財産をすべて換金します。
換金が終わると、会社の債権者に対してそれを分配します。すべての作業を終え、破産手続きが終結すると、会社は消滅します。
少額管財手続
中小企業の破産手続きの中には、会社が債務超過であり、裁判所に支払う費用もまとまって用意することが困難な場合もあります。このような場合に利用される制度が、少額管財手続です。
少額管財手続では、通常の破産手続きを行う場合と比べて、破産管財人の仕事を減らす代わりに、予納金も少なくてすみます。
少額管財手続が利用可能な程度の資力の余裕もなくなると、会社をつぶすことすらできなくなりますので、相続・事業承継の場面でも、計画的な会社経営が重要です。
会社の「事業承継」とは?
会社の経営者の相続の準備として、会社の「事業承継」を選択するときには、解散手続きにもまして、社長の生前におこなうべき準備がとても重要となります。
会社の事業承継には、大きく分けて、社内で承継を行う方法と、社外で承継を行う方法の2種類があります。弁護士が順に解説します。
社内で事業承継を行う方法
会社内で、事業承継を行う方法とは、会社内で後継者を探し、その人に対して、会社のいっさいの事業を継いでもらうことです。社内の後継者には、息子・娘など親族の場合(親族内承継)と、社員・役員など親族ではない人に継いでもらう場合とがあります。
社内で事業承継を行うとき、特に、家族経営の会社の場合には、会社の株式や、事業に用いる不動産、機械などの所有権が、お亡くなりになる社長名義になっていることがあります。
このような場合には、次のようなトラブルが起こるため、社長が健康なうちから弁護士に相談して十分な対策を考えておくことが必要です。
注意ポイント
- 適切な後継者が見つからない、または時間がかかり過ぎる
- 株式を後継者に与えることに相続人が納得しない
- 会社の資産を引き継ぐ際に多額の税金が発生する
事業承継の場面では相続税についての十分な検討も必要ですので、税理士に相談しながら進めてください。
社外で事業承継を行う方法
事業を継続しながら、会社外へ事業承継を行う方法とは、すなわち、社長の死亡(相続開始)と前後して、会社を売却することをいいます。
会社を売却する方法には、合併、会社分割、株式譲渡、事業譲渡などの方法がありますが、次の点を考慮して、最良の方法を選択しなければなりません。
ポイント
- 会社をそのまま残したいか?
- 優良事業だけ売却して残りは清算するか?
- 従業員の雇用をどうするか?
- 税金はどうなるか?
会社外に事業承継を行う場合にも、「被相続人(社長)、相続人(社長の親族)のうち、誰が株式を持っているか」がとても重要です。
買収(M&A)、事業譲渡など、会社の重要な決断をするときには、株主総会の決議が必要であり、株式を持っている人の3分の2の同意が必要となることが多いからです。
民事再生による方法
会社の民事再生手続きとは、裁判所の監督の下で債務を減免したり、一部返済したりすることで、会社を健全な状態した上で、事業の継続を目指す手続きです。
会社の事業に将来性があり、会社内、会社外のいずれであっても事業承継を行いたいと考えるものの、会社の債務が多く、利払いの負担で十分な経営ができないような場合に、民事再生手続きの利用を検討してください。
民事再生手続きは、裁判所に申し立てると、裁判所の監督の下で、それまでの経営者が経営を続けることになります。
同様に、債務が多い不採算部門と、利益のあがっている採算部門とが区別できる場合には、事業譲渡の方法により採算部門を売却し、その代金で会社の債務を返済することもお勧めです。
「解散」と「事業承継」のメリット・デメリットの比較は?
会社の経営者である社長が、今後長く経営を続けることができないと考えたときに、会社の行く末を考えるにあたっては、「解散」と「事業承継」という2つの方法の、メリット・デメリットを的確に理解していただく必要があります。
「会社」と「事業」は区別して考えなければならず、会社には債務がたくさんあって継続不可能な場合であっても、事業に将来性がある場合には、事業譲渡の方法によって、事業だけを生きながらえさせることも可能です。
「解散」と「事業承継」のメリット・デメリットを、それぞれ相続・事業承継の場面において比較して、弁護士が解説します。
「解散」のメリット
「解散」のメリットとして考えられるのは以下のような点です。「事業承継」の場合と比べてご理解ください。
- 後継者や買受先を見つける必要がない
- 事業継続の必要がなく、事業から完全に解放される
- 相続の際に事業承継でもめない
解散してしまえば会社の財産は換金されますので、相続財産は現金・預貯金だけになります。そのため、相続の際に、後継者選びや株式の相続についてトラブルとなる心配がありません。
「解散」のデメリット
一方、「解散」のデメリットとして考えられるのは以下のような点です。同様に、「事業承継」する場合と比較して検討してみてください。
- 会社がなくなるため、従業員の雇用を維持できない
- 取引先の信用がなくなる
- 会社資産を売却する場合の売却価格が低くなる可能性がある
- 債務が返済できなければ代表者(社長)の個人保証や担保権を実行される
事業を終了して会社を解散する場合には、資産は切り売りとなりますので、事業を営んでいる場合と比べて、売却代金は低く算定されがちです。慌てて解散せず、しばらく様子見をしたほうがよい場合もあります。
会社を解散・清算する場合には、会社の債務をすべて返済する必要があります。
もし返済できない債務があると、経営者が個人的に差し入れた保証や、担保権(自宅不動産に設定された抵当権など)を債権者が実行し、経営者個人に負担が生じる可能性があります。
「事業承継」のメリット
「事業承継」のメリットとして考えられるのは以下のような点です。
- 会社が継続するため、従業員の雇用を維持できる
- 優良事業であれば事業の価値が高く評価される
- 取引先との取引を継続できる
- 代表者(社長)の個人保証や担保権を外してもらえる可能性がある
事業を売却する場合には、その事業の価値は、単なる資産の価値の合計額に営業としての価値を加えて算定するのが通常です。したがって、優良事業であれば、解散する場合と比べ、その事業の価値は高く評価される可能性があります。
事業承継の場合には、新しい経営者が個人保証を差し入れる、あるいは優良企業による承継であれば、そもそも経営者個人の保証提供を求められない場合があります。
いずれにせよ、旧経営者の個人的な保証や担保設定は、外してもらえる場合が多いでしょう。
「事業承継」のデメリット
最後に「事業承継」のデメリットとして考えられるのは次のような点です。
- 後継者や買受先を探す必要がある
- 事業に引き続き関与することを求められる場合がある
- 相続の際に後継者選びや株式の相続をめぐって争いになる
事業承継の場合には、経営者がいきなり関与しなくなると、事業に影響を与える場合があるため、顧問などの形で、一定期間、事業への関与を続けることを要請される場合があります。
「解散」と「事業承継」のどちらがよい?判断基準は?
「解散」と「事業承継」のメリット・デメリットを知っていただいたところで、結局どちらの方法が会社の将来にとってよいのか、その判断基準について、弁護士が解説します。
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事業が継続できるか
相続・事業承継の局面で、会社を解散すべきか、それとも、会社を継続して事業承継すべきかを判断するための最も重要な判断基準の1つは、「事業が継続可能であるかどうか」という点です。
そもそも事業として継続できないのであれば、事業承継という選択は困難になります。
現在、営業利益がどの程度出ているのか、経営破綻の可能性はないのか、などを検討する必要があります。
一見すると利益が出ていないようであっても、原因が多額の債務による利払い負担であって、事業そのものは優良ということであれば、債務のカット、返済計画の見直し(リスケジュール)、再度の資金調達といった方法を活用することで、事業が継続できる可能性を引き上げることもできます。
会社に価値があるか
「会社」とは、「事業」を入れる箱です。会社自体や、行う事業に価値があるかどうかは、「解散」するか、「事業承継」するかを決めるための、2つ目の判断基準となります。
会社の価値には、その事業の価値以外に、雇用している従業員の価値、顧客リストの価値、取引先との契約の価値、会社財産を構成する知的財産や不動産の価値などがあります。
会社自体に価値があれば、清算・破産などにより会社を解散するのでなく、従業員が会社を承継してくれるかもしれませんし、M&Aなど、社外でも事業承継の需要が高い場合もあります。
相続問題に巻き込まれないか
会社を継続することが、相続問題の「争続」の長期化につながる可能性もあります。
たとえば・・・
社長が持っている株式は、相続の際には遺産分割がまとまるまでは共同相続人間の「共有」となり、自由に議決権行使をしたり、処分したりすることができなくなります。
会社を誰が引き継ぐのか、会社の株式を一人が相続する代わりに他の相続人はどの財産をもらえるのか、といった点について争いになれば、「争続」が長期化することは避けられません。
役員の選任や配当、M&Aなど、会社の基本的な問題を決定するのは株主です。
大株主がうまく意思決定できない状態になれば、会社は混乱します。このような場合、社長の死亡と相続の開始を理由として、会社の継続がもはや困難になってしまいます。
事業承継を行う場合には、相続問題「争続」に巻き込まれないよう、十分な対策が必要です。
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事業承継は、「相続財産を守る会」にお任せください!
今回は、会社の経営者が将来の問題を考えるにあたっての、「解散」と「事業承継」の違いについて、弁護士が解説しました。
ご自分が経営する会社には、経営者だけでなく、家族、従業員や取引先も関わっており、今後も自分や後継者の下で事業を継続するのか、解散するのか、第三者に売却するのかという点を判断するのは決して簡単なことではありません。
また、経営者ご自身の相続という観点でも、個人の資産の中で、会社の株式が占める価値は大きい場合も多く、経営者が相続の生前対策を怠ると、のこされた家族の中で相続の際に紛争となってしまう可能性もあります。
「相続財産を守る会」では、相続や事業承継に強い弁護士や税理士が、経営者ご自身だけでなく、ご家族や従業員のことも考えながら、親身になって事業承継や相続の問題を解決いたします。