★ 相続の専門家の正しい選び方!

相続放棄してほしいと言われたらどう対応すべき?

「相続放棄してほしい」と他の相続人から言われることがあります。

例えば、生き別れとなった親の相続、長年連絡がなく疎遠となった親戚の相続、生前に全く関係性のなかった遠縁の者の相続といったとき、相続人にたまたまあなたが含まれていたとしても、他の相続人としては「できれば相続放棄してくれないか」とうのが本音でしょう。

このとき、相続放棄を要請される側として、対応に迷うことがあります。相続放棄の基本を理解した上で、どう対応するのが得かを冷静に判断する必要があります。

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相続放棄を要求されたときの初動対応

まず、相続放棄を要求されたときの、基本的な心構えを解説します。

相続放棄を要求された場合、まずは冷静な状況分析が大切です。相続放棄は、一度すると戻ることのできない重大な手続きなので、慎重になりましょう。

まず、相続放棄を求められた理由を明確にしてください。相続放棄してくれと言われたということは、あなたが法定相続人なのは間違いないでしょう。それもかかわらず、それだけ他の人から見て「あなたが相続するのは筋ではない」と見える状況だということです。

相続放棄の要求があった場合の初動対応は、次のステップで進めてください。

STEP
相続財産の状況を確認する

遺産の内容や価値、負債の有無や額によって、相続放棄が有利かどうかを調べます。

STEP
相続放棄の期限を確認する

相続放棄は、相続開始を知った日から3ヶ月以内に行う必要があるので、考える猶予がどれほど残されているかに注意すべきです。

STEP
弁護士に相談する

弁護士などの専門家から法的アドバイスを受けることが重要です。

初動の時点で、感情的な判断は避けるようにしてください。相続放棄を強く迫られると悪感情を抱くのはもっともですが、個人的な気持ちは抜きにして合理的に判断すべきです。

なお、相続放棄では、遺産が得られない代わりに、相続債務からも解放されるため、相続放棄してほしいと求める人の言い分を聞き、借金が多額であるなど、放棄する理由がある場合には応じるのも良い選択です。

相続に強い弁護士の選び方について

相続放棄の基本

次に、相続放棄してほしいと言われ、その要求を飲むにしても、拒否するにしても、先に相続放棄とはどんな制度か、その基本とプロセスを知っておく必要があります。

相続放棄の手続きと期限

相続放棄は、家庭裁判所に申述することで、初めから相続人ではなかったものとして扱われる制度です。相続放棄の手続きは、相続の開始を知った日から3ヶ月以内に行う必要があります。この期限は厳格であり、期限内に家庭裁判所に申述しなければ、相続を承認したものとみなされます。

相続放棄に伴うリスクと注意点

相続放棄にはリスクも伴うため、相続放棄の要求に応じ、やむを得ず放棄を進める際は特に注意しなければなりません。

  1. 一度放棄すると撤回できない
  2. 相続財産調査が不十分だと見落としがある
    相続放棄の前によく調査しないと、どうしても相続したかった遺産など、見落としがあると予期せぬ損をしてしまいます。
  3. 代襲相続人が起こる
    自身に子や孫がいると代襲相続が起こり、相続放棄しても代襲相続人に遺産が承継されてしまいます。

相続放棄を行う前には、これらのリスクを十分に検討し、必要に応じて専門家のアドバイスを求めることが重要です。弁護士なら、相続放棄の意味や影響、効果について詳しい説明をしてくれます。

相続放棄の基本について

相続放棄を要求されたときの対応

相続放棄を要求されたときの適切な対応について解説します。相続放棄を要求されたときには、いくつかの重要なステップがあります。

冷静に対応しなければ、判断を誤り、すべきでない相続放棄を、他の相続人に強く言われたことで進めてしまったり、逆に、本来であれば相続放棄すべき場面で、意地を張って負債を含めて承継してまったりといった失敗例が生まれてしまいます。

相続財産と負債を詳細に調査する

相続放棄をすべきかどうか、正確に判断するには、相続財産がいくらあるか、負債がどれほど多いかを知る必要があります。そのため、決定を下す前に、遺産の全体像を把握することが不可欠です。

相続放棄を要請してきている相手は、あなたに放棄をさせたいわけで、方針が異なればつまりは「敵」です。遺産の情報を正しく開示しているとは限りません。嘘をついている可能性もありますし、少なくともこちらにとって有利な情報を見せておらず不完全な情報であることも多く、相続放棄をするかどうかの判断に十分な情報が明かされているとは限りません。

他の相続人とコミュニケーションをとる

相続放棄は、他の相続人に大きな影響を及ぼします。そのため、関係者とのコミュニケーションは必須です。まずは、相続放棄を強く要求してきている人と話し合い、なぜ放棄してほしいのか、自分が放棄した後はどのように遺産分割を進めたいのか、といった疑問を解消します。相手の立場を理解し、納得ができなければ、安易に放棄に応じる必要はありません。

相続放棄によって代襲相続が発生する可能性のあるときは、子や孫など、自分の家族とも相談して決めなければなりません。

期限を遵守して法的手続きを遂行する

相続放棄を決定した場合には、法的手続きを確実に遂行する必要があります。特に、相続開始を知った日から3ヶ月以内の熟慮期間内に手続きを進める必要があり、期限を守らなければならないため、決定したら速やかに着手し、必要書類の準備を初めてください。

相続放棄の要求に応じるという判断をしたのに、期限に間に合わず放棄できなかったのでは、せっかくの決断が台無しになってしまいます。

相続手続きの期限について

相続放棄を拒否する場合は?

相続放棄してくれといわれても、これに応じず、拒否する場合にどうなるか、について解説します。相続放棄してほしいという求めを拒否するならば、今度はできるだけ多くの遺産を相続する努力をしたほうがよいと考えます。

このとき、他の相続人とは敵対的となり、戦わなければなりません。どれだけの財産を相続できるかは、亡くなった方(被相続人)が遺言を残しているかどうかによって変わりますが、相続放棄を強く求めてくるほど敵対的ならば、被相続人もまたあなたの存在に気づき、遺言を残してできるだけ財産を与えないようにしようとしていた可能性は高いと考えなければなりません。

「あなたには財産を与えない」という遺言が残っていた場合でも、兄弟姉妹以外の法定相続人の地位にあるならば、遺留分を有しており、民法の定める最低限の相続分が保障されます。遺留分に足らない財産しか承継できないなら、遺留分侵害請求権を行使することで救済を得ることができます。

相続放棄してくれと求めてくるほどなので、遺言の存在も隠される可能性が高く、正確な判断と、公平な相続を実現するためには、交渉によって遺言を開示するようこちらも強く求めなければなりません。

相続放棄してほしいと言われたときによくある質問

最後に、相続放棄してほしいと言われたときに、気になる質問について回答しておきます。

相続放棄を求められたらどうしたらよい?

まず、自分にとって相続放棄すべき場合か検討してください。借金が多く遺産が少ないなど、放棄すべき場合なら求めに応じてもよいでしょう。

これに対し、遺産がほしい場合、相続放棄の求めに応じる必要はありません。執拗に強く求められる場合は強要に当たり、違法であると訴えるべきです。そして、相続放棄しなければ相続人のままでいられるので、遺産分割協議にて自身の権利を主張しましょう。

相続放棄は勝手にされてしまう?

相続放棄してほしいと強く言われると、断っても、自分が知らない間に勝手に放棄されてしまうのでは、と不安を抱く方もいます。しかし、相続放棄は、放棄する本人の許可なく勝手にすることはできないので安心してください。

詐欺や強迫による放棄の意思表示は、民法96条に基づき取消し可能です(なお、家庭裁判所における申述の手続きを要するので、実際は詐欺や強迫で相続放棄が成立してしまうこと事態少ないです)。

相続放棄は一筆でできる?

相続放棄はサインの一筆ではできず、家庭裁判所での申述手続きが必要です。したがって、相続放棄してほしいと強く言われ、その場で一筆書いてしまっても、それだけで相続人の地位を失うことはありません。

相続放棄の代筆はバレる?

相続放棄の申述書を代筆することは可能ですが、あくまで本人の許可を得て代筆し、本人の意思表示として出す場合に限られます。偽ってその人のふりをして代筆し、印鑑を押して申述するといった方法は許されません。

相続放棄をしてもらう代わりにお礼すると言われたら?

相続放棄をする代わりにお礼をすること、謝礼金や品物を渡すことは、実務ではよく行われます。相続放棄をしてもらうために、その対価を与えるわけで、俗語で「ハンコ代(印鑑を押してもらうために払うお金)」とも呼びます。一般に、放棄してもらう遺産の取り分の半分を渡す、といったケースがよくある例です。

ただし、たとえ相続放棄をしてもらうとしても、謝礼を渡すことは法律上の義務ではありませんし、確たる相場もありません。あくまで、どうしても相続放棄してほしい人が交渉材料として提案するものに過ぎません。

まとめ

今回は、相続放棄してほしい、というように、相続放棄を要求された側の立場で、どのような対応をすべきなのかを解説しました。

突然に、相続放棄を求められたら、驚くのは当然です。「自分が相続人だとは思いもしなかった」という人もいれば「できるだけたくさんの財産を得たい」と考える人もいます。このとき、相手は相続放棄を迫ってきているわけで、そのまま応じることが自分の利益になるとは限らないので冷静に検討する必要があります。

まずは自身で財産の調査を進め、相続放棄に応じるのが得か、調査をしてください。

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