お亡くなりになった方(被相続人)から、生前贈与などによって特別な利益を得た人は、その分を遺産分割のときに調整することとなります。これを「特別受益」といいます。
特別受益の考え方は、共同相続人間の不公平を正すために、相続財産(遺産)となるはずの財産をより多く得ていた方が、その財産を相続財産(遺産)に加算して清算するためのものです。しかし一方で、法定相続分を超える財産を生前に得ていたとき、特別受益の考え方では調整ができない場合があります。
そこで今回は、法定相続分を超える財産を、被相続人の生前に得ていた「超過特別受益者」が、この受益についてどのように調整する必要があるのか、返還する義務があるのかについて、相続に強い弁護士が解説します。
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超過特別受益とは?
特別受益とは、被相続人の生前に、生前贈与や遺贈によって特別な利益を受けている場合のことをいい、特別受益があるときには、その特別受益の金額を相続財産(遺産)に加算し、その上で遺産分割を行い、特別受益との差額を受け取ることになります。この計算方法を、「持戻し計算」といいます。
しかし、この持戻し計算によると、生前贈与や遺贈などによる特別受益の金額が、民法で定められた相続割合(法定相続分)を超えているときに、特別受益者が受け取る金額がマイナスになってしまいます。
特別受益の金額が、法定相続分を超えている場合のことを「超過特別受益」といい、この超過特別受益を得た相続人のことを「超過特別受益者」といいます。
超過特別受益を返還する必要はない
法定相続分を超える特別な利益を、生前贈与や遺贈によって得たとしても、この超過特別受益について、他の相続人に返還する必要はないものとされています。
つまり、さきほどご説明しました特別受益の計算式において、相続財産(遺産)に特別受益分を加えて遺産分割した結果、本来もらえるはずであった財産以上の財産を得ていたとして、相続によってもらえる財産がマイナスになったとしても、その金額を他の共同相続人に返さなくてもよいのです。
これは、お亡くなりになった方(被相続人)が、法定相続分を超えるほど多額の財産をある1人の相続人に渡していたということは、その人により多くの財産を相続させたいという意思があったということであり、その意思を尊重すべきだという考え方からです。
この場合に、法定相続分を超える金額について、他の相続人に渡さなければならないとすれば、被相続人が生前に、より多額の財産を譲渡した意味が薄れてしまいます。
超過特別受益と、遺留分減殺請求権との関係は?
超過特別受益を、他の相続人に返す義務はないと説明しました。そうすると、生前贈与などによって多額の財産を得ていた相続人は、他の相続人に比して不公平であるものの、そのまま「もらい得」になってしまうのでしょうか。
しかし、超過特別受益を返還する必要がないとしても、その分によって他の相続人の「遺留分」が侵害されてしまったときは、「遺留分減殺請求権」によって救済を図ることは可能です。
遺留分とは、民法に定められた相続人(法定相続人)が、最低限、相続できることを保障された財産のことをいいます。遺留分は、相続人のうち、配偶者(夫または妻)、子、直系尊属(両親・祖父母)に認められており、兄弟姉妹には遺留分がありません。
したがって、生前にご家族からもらった生前贈与や遺贈(遺言による贈与)が、法定相続分を超えているだけでなく、他の相続人の遺留分まで侵害している場合には、他の相続人に対してその一部を返還しなければならないことになります。
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兄弟姉妹には遺留分がない
兄弟姉妹は、法定相続人ではありますが、遺留分がありません。兄弟姉妹は、生計を別にしており、被相続人の財産によって生活しているわけではない場合が多いと考えられているからです。
ご家族がお亡くなりになるとき、相続人が、配偶者(夫または妻)と兄弟姉妹、となる場合(つまり、子も両親、祖父母もいない場合)には、兄弟姉妹に財産ができる限りいかないようにするためには、全ての相続財産(遺産)を、配偶者に対して生前贈与しておくことが可能です。
このような方法によっても、特別受益とはなり、持戻し計算の対象とはなるものの、そもそも法定相続分を超えており、かつ、兄弟姉妹には遺留分が存在しないからです。
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【具体例】超過特別受益の計算方法
では、最後に、超過特別受益がある場合の、遺産分割の計算方法を、よりわかりやすくご理解いただくために、計算の具体例をあげておきます。
次の例で考えてください。
たとえば・・・
被相続人は、2500万円の相続財産(遺産)を残してしぼうしました。
被相続人には、妻、長男、長女、次男がいました。被相続人は生前に、長男に対して事業開業資金として3000万円、長女には結婚支度金として500万円を生前贈与していました。
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みなし相続財産を計算する
まず、特別受益となる生前贈与が存在するときには、その金額を相続財産(遺産)に加算して、「みなし相続財産」を計算します。これが持戻し計算です。
今回の例では、みなし相続財産は、6000万円(2500万円+3000万円+500万円)となります。
相続人の本来的相続分を計算する
次に、各相続人の、本来相続できるはずであった財産の金額を計算します。具体的な方法としては、さきほど計算した「みなし相続財産」の金額に対して、民法で定められた相続割合(法定相続分)をかけて算出します。
つまり、各相続人ごとに、本来的相続分は次のとおりとなります。
- 妻:6000万円×1/2=3000万円
- 長男:6000万円×1/6=1000万円
- 長女:6000万円×1/6=1000万円
- 次男:6000万円×1/6=1000万円
したがって、本来相続できるはずの法定相続分が1000万円であるのに、生前に事業開業資金として3000万円の贈与を受けていた長男は、「超過特別受益者」となります。
相続人の具体的相続分を計算する
最後に、特別受益分を考慮して、各相続人が、具体的に相続できる金額を計算します。つまり、さきほど計算した本来的相続分から、既にもらっている生前贈与、遺贈に関する部分を控除した金額が、実際に相続で取得できる金額となります。
生前贈与などを得ている長男、長女について、具体的相続分は次のように計算されます。
- 長男:1000万円―2500万円=―1500万円
- 長女:1000万円―500万円=500万円
このように、超過特別受益を得ている相続人の、具体的な相続分はマイナスになりますが、不足額について他の相続人に返還する必要まではないとういうのが、今回の解説のポイントです。
超過特別受益分の調整は?
今回の例のケースで、長男には1500万円の超過特別受益が生じており、長男は、1500万円も、本来もらえるはずであった法定相続分よりも多くの相続財産(遺産)をもらうこととなりました。
この超過特別受益を、他の相続人に返す必要はないと解説したとおりですが、そうすると、この「マイナス1500万円」の分は、長男以外の相続人が負担することとなります。この場合、遺産分割協議や、調停・審判によって決着することとなりますが、負担の考え方は次の2つが参考となります。
長男以外3名の相続人の、本来的相続分の割合は、「妻:長女:次男」=「3000万円:1000万円:1000万円」、つまり「3:1:1」となります。
つまり、本来的相続分に応じて、長男が1500万円よけいに相続した分を負担すると、各自の相続できる財産は、次のとおりとなります。
- 妻:3000万円―1500万円×3/5=2100万円
- 長女:1000万円―1500万円×1/5=700万円
- 次男:1000万円―1500万円×1/5=700万円
長男以外3名の相続人の、具体的相続分の割合は、「妻:長女:次男」=「3000万円:500万円:1000万円」、つまり「6:1:2」となります。
こちらの場合には、長女に対して被相続人が、生前贈与をしたいと考えた意思をできる限り尊重した結果となります。各自の相続できる財産は、次のとおりとなります。
- 妻:3000万円―1500万円×6/8=1875万円
- 長女:1000万円―1500万円×1/8=812万5000円
- 次男:1000万円―1500万円×2/8=625万円
そして、この場合には、いずれの相続人も遺留分を侵害されてはいないため、遺留分減殺請求権は行使できません。もし、この計算結果で、例えば次男の相続分が、「1000万円×1/2(遺留分割合)=500万円」を下回るような結果となれば、遺留分減殺請求権を行使することができます。
遺産分割は、「相続財産を守る会」にお任せください!
いかがでしたでしょうか?
今回は、「超過特別受益」という特殊な場合の遺産分割の処理方法について、相続に強い弁護士が解説しました。生前に特別な利益を多く得てしまった方も、逆に、相続財産(遺産)をあまりもらえず不公平感を感じている方も、「超過特別受益」の考え方を理解してください。
特に、遺留分を侵害されるほど多額の相続財産(遺産)の生前贈与、遺贈については、遺留分減殺請求権による救済を図ることができます。遺産分割を正したい方は、ぜひ一度「相続財産を守る会」の弁護士に法律相談ください。