特別縁故者の考え方は、一般にはあまり知られていないですが、相続では重要な役割を担います。家族が亡くなったときに相続できる人は民法で定められていますが、法律に定められていない人でも、例外的に相続できる可能性があり、これを認めるのが特別縁故者の制度です。
相続における特別縁故者の地位は、遺言による指名や法定相続人とは異なる独特のものであり、認められる条件や手続きを正しく理解しなければ、遺産をもらい損ねるおそれがあります。
今回は、特別縁故者として認められるケースと、その人が財産を受け取る流れについて解説します。特別縁故者がどのようにして相続財産に関わるのか、また、その際の遺言や法定相続人との扱いの違いを知ることで、適切な相続計画を立てることができます。
特別縁故者とは
特別縁故者は、相続人のいない故人と特別の関係のある人が、亡くなった方の財産を受け取る権利を有するというものです。特別縁故者が、その権利を実現するには、家庭裁判所に相続財産分与請求権を行使する必要があります。
故人の意思としても、献身的に介護した人など、特別の関与のある人には、他に相続人がいないなら財産を承継したいと考えるのが自然でしょう。特別縁故者の制度は、このような故人の思いを実現することを目的としています。
特別縁故者がいないと遺産は国のものになってしまうため、そうであれば誰かに与えたい、という故人の意思が推察できる場合には、縁故のある人に取得してもらうための制度です。
特別縁故者として認められるケース
次に、どのような状況で特別縁故者として認められるのか、具体的な事例をもと解説します。特別縁故者の権利について定める民法958条の2を参照ください。
民法958条の2(特別縁故者に対する相続財産の分与)
1. 前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
2. 前項の請求は、第九百五十二条第二項の期間の満了後三箇月以内にしなければならない。
民法(e-Gov法令検索)
大前提として、特別縁故者への相続が認められるのは、民法の定める法定相続人がいない場合です。つまり、配偶者も子や孫も、両親も兄弟姉妹も、いずれも存在しないことが前提です。また、存命であっても相続放棄や相続欠格、相続廃除によって相続人にならないケースも、特別縁故者が認められる可能性のある場面です。
相続人がいる場合には、その人が相続し、いかに密接な関係のある人といえども遺産はもらえません。
一方で、友人や知人なら誰でも特別縁故者になれるわけではありません。必ずしも親族や血縁には限りませんが、特別縁故者と認められるには、財産を与えるに足る一定の親しい関係が必要です。
被相続人と生計を同じくしていた者
特別縁故者の1つ目の分類が、被相続人と生計を同じくしていた者です。これには、例えば次の人が該当します。
- 内縁関係にある人
婚姻届を出していないが夫婦と同視できる男女 - 事実上の養子と養親
正式な養子縁組をしていないが親子と同視できる関係
事実上の家族として長年一緒に生活していた人は、故人との間に特別な精神的な結びつきがあり、その扶養や支援によって暮らしてきたため、遺産を承継すべきという考えからです。
被相続人の療養看護に努めた者
特別縁故者の2つ目の分類が、被相続人の療養看護に努めた者です。
亡くなった方を積極的に看護し、介護していた人が該当します。血縁や親族でなく、近所の人や友人、知人でも該当しますが、ヘルパーのように業務として看護や介護を担当した人は含みません。長期にわたって故人の世話をした人は、その分の遺産を承継することができるのです。
その他被相続人と特別の縁故があった者
特別縁故者の3つ目の分類が、その他被相続人と特別の縁故があった者です。上記2つのいずれにも該当しないものの、同程度に遺産を承継すべき理由があり、密接な関係の人があてはまります。
「その他」の場合、法律上、要件や基準が明文化されておらず、該当するかどうかは裁判例を参考に判断する必要があります。過去の裁判例で、特別縁故者と認められたケースを紹介します。
被相続人の姉の長男の妻A(被相続人の義理の姪)を、以下の理由で特別縁故者と認めた事例
- 被相続人が、家の血を引く唯一の近親者として、Aの夫を気にかけ、相当程度親密な交流をしていたこと
- 被相続人は、Aの夫の生存中は、同人に対して財産の管理処分を任せる意向を有するなどして頼りにしていたこと
- A自身も、夫を通じて被相続人と親密な交流を継続していたこと
- 被相続人がAの夫に財産の管理処分を託する遺言書を書いた旨伝えていたことからすれば、被相続人は、Aに対しても一定程度の経済的利益を享受させる意向を有していたと認められること
被相続人の従兄Cを、以下の理由で特別縁故者と認めた事例
- 被相続人に代わってその父親の葬儀を執り行っただけではなく、被相続人の父親の死後は、自宅に引きこもりがちとなり周囲との円滑な交際が難しくなった被相続人に代わって、被相続人宅の害虫駆除作業や、建物の修理等の重要な対外的行為を行ったこと
- 民生委員や近隣と連絡を取り、緊急連絡先としてCの連絡先を伝え、時々は被相続人の安否の確認を行っていたこと
- 被相続人の死亡時には遺体の発見に立ち会い、その遺体を引き取り、被相続人の葬儀も執り行ったこと
上記の裁判例から分かる通り、特別縁故者と認められるかどうかはしばしば法的な紛争になります。裁判所で争い、遺産を勝ち取るには、専門性の高い弁護士への依頼が必須です。
相続に強い弁護士の選び方について
特別縁故者が財産を受け取る流れ
次に、特別縁故者と認められる可能性のある人が、実際に財産を受け取れる流れについて、その手続を解説します。
故人の相続人がいないとき、相続財産管理人の選任や公告などの手続きを経て、遺産が国庫に帰属します。そのプロセスのなかで、特別縁故者は、相続財産分与の申立てをして、遺産の承継を求めます。
相続財産管理人の選任と公告
家庭裁判所によって選任された相続財産管理人は、相続人の調査をし、官報に載せて相続の開始を公告し、相続人を捜索します。調査や公告の過程で、相続人が発見されると、遺産はその人に承継され、特別縁故者の権利はありません。
債務の支払いと遺贈への対応
次に、相続債権者と受遺者(遺言による贈与を受けた人)への公告と催告をします。
被相続人に債権者がいた場合、相続財産管理人は遺産からの返済を行います。また、遺贈(遺言による贈与)のある場合にも、相続財産管理人がその財産移転を行います。
相続人の不存在が確定する
最低6ヶ月の期間を定めて公告しても相続人が現れない場合は、相続人の不存在が確定します。
法定相続人がいない場合の手続きについて
特別縁故者の相続財産分与の申立て
相続人捜索の公告期間が満了し、相続人の不存在が確定してから3ヶ月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して申立てをします。
家庭裁判所による認定
家庭裁判所は、審判により、特別縁故者に該当するか、該当する場合にはいくらの財産を与えるか、という2点を決めます。特別縁故者と認められる人がいないと、遺産は国庫に帰属します。
即時抗告
家庭裁判所の審判に不服がある場合、2週間以内に即時抗告することで、高裁での審理(抗告審)に進むことができます。
特別縁故者を主張する人にとっては、できるだけ早く家庭裁判所に申し立てるのが大切です。期限を過ぎると手続きを進めることができなくなってしまうので注意しましょう。このとき、必要書類は次のものです。
【申立先の裁判所】
- 被相続人の最終住所地を管轄する家庭裁判所
最終住所地が不明なときは、被相続人の住民票の除票や戸籍の附票を取得してください。
【申立時の必要書類】
- 家事審判申立書
裁判所サイトの記入例を参照してください。 - 被相続人の戸籍
出生から死亡までの全ての戸籍を収集します。 - 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
- 遺産の存在を証明する資料
預貯金通帳、不動産登記簿謄本、有価証券に関する証券会社の資料など - 被相続人との特別な縁故を示す資料
被相続人との同居を示す住民票、健康保険証、看護記録など
【申立てにかかる費用】
- 収入印紙:800円
- 官報公告費
- 郵送費用
特別縁故者が遺産を受け取るためのポイント
特別縁故者と認めてもらいやすく、かつ、より多くの遺産を受け取るには、故人との関係性の深さを、家庭裁判所に説明する必要があります。このとき、客観的な証拠が大切です。そのため、特別縁故者に関する法的手続きを有利に進めるには、事前に十分な証拠を集めておく必要があります。
収集すべき証拠は、類型によって異なりますが、例えば次のものです。
【「被相続人と生計を同じくしていた者」の証拠】
- 同居を示す戸籍や住民票
- 一緒に生活していた際の写真や動画
- 故人との日頃のやりとり
- 故人の日記
【「被相続人の療養看護に努めた者」の証拠】
- 療養や介護のため支出した費用の領収書
- 通院に同伴した際の交通費
- 療養記録、看護記録
- 診断書やカルテ
- 健康保険証
- 故人との日頃のやりとり
- 故人の日記
【「その他被相続人と特別の縁故があった者」の証拠】
- 主張に応じた被相続人との関係の密接さを示す資料
- 親族関係を示す戸籍など
- 周囲の人の証言
まとめ
今回は、特別縁故者についての法律知識を解説しました。
特別縁故者という地位は、相続プロセスにおいて特別な考慮が必要となります。亡くなった方(被相続人)に一定の関わりを持った方は、相続人でないからといって遺産の取得をあきらめてはなりません。特に独居で身寄りのない方が死亡したケースでは、特別縁故者と認められる可能性があります。
今回の解説をもとに、特別縁故者として財産を受け取れる流れについての理解を深め、少しでも多くの遺産を分与を家庭裁判所に認めてもらうのに役立ててください。