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第三者対抗要件とは?不動産の取引や相続において問題となるケース


第三者対抗要件は、不動産の取引の分野で、非常に重要な役割を果たします。対抗要件というのは、特定の法律行為による権利の変動を、それに直接関与しない第三者に対しても効力を主張するために必要となる条件のことです。理解しにくい考え方ですが、自身の権利を守るのに重要です。

不動産の売買や贈与、相続でも、所有権が移転した際に登記をするのは、登記が対抗要件としての重要な意義を有しているからです。

今回は、第三者対抗要件の意味とそのケース別の活用方法を解説します。また、第三者対抗要件は、裁判例などでも多く争いになっているため、あわせて紹介します。

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第三者対抗要件の基本

まず、第三者対抗要件について基本的な法律知識を解説します。難しい考え方ですが、重要ですのでよく理解するようにしてください。

第三者対抗要件とは

第三者対抗要件とは、特定の法律行為について、第三者に対しても効力を発揮させるために満たすべき条件です。対抗要件について定める民法の条文は、次の通りです。

民法176条(物権の設定及び移転)

物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。

民法177条(不動産に関する物権の変動の対抗要件)

不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

民法(e-Gov法令検索)

この考え方は、不動産取引や相続において重要なものとなります。例えば、不動産の権利移転においては、登記をすることが第三者対抗要件とされます。つまり、登記という公的記録に記載することで、第三者も容易に権利の存在を認識できるようになり、それを尊重しなければならなくなるのです。

第三者対抗要件の目的

第三者対抗要件は、取引の透明性と安全性を確保し、トラブルを防ぐ役割があります。

上記条文の通り、不動産の所有権移転などの権利変動は、当事者間では、その意思表示の合致によって行うことができますが、第三者に対抗するためには登記が必要なのです。売買や相続が繰り返され、誰が所有しているかがわからないと安心して取引を行うことができず、その基準を登記とすることで取引の安定を図っているのです。

第三者対抗要件の最も一般的な例が、不動産の登記です。不動産の所有権移転を第三者に対抗するには、それを登記簿に記録する必要があります。登記されない間に現れた新たな買い主に、その不動産の所有権を主張できません。これにより、第三者(例えば、その不動産に対する抵当権者や賃借人)が、取引の存在を知らずに不利益を被るのを防げるのです。登記は、不動産の所有権その他の権利(抵当権、地役権など)を明確にし、取引の安全性を高めるために重要です。これにより、不動産市場の透明性が保たれ、取引参加者の信頼が確保されます。

不動産登記の意味について

第三者対抗要件を活用すべき場面

不動産の登記による第三者対抗要件を活用すべき場面は、次のようなケースです。

不動産の二重譲渡のケース

不動産登記による第三者対抗要件が最も問題となるのが、不動産の二重譲渡のケース、つまり、売り主が、不動産を売却後、更に他の人に売ってしまった場合です。不動産の売買は、登記されない限り見た目上はわからないので、登記をせずに二重譲渡しても第三者には分かりようがありません。

この不動産の二重譲渡のケースでは、先に第三者対抗要件を得た方が、他の一方に対して対抗することができます。登記を先に取得した片方のみが、有効に所有権を取得できるわけです。登記を得られなかった買い主は、二重譲渡をした売り主に損害賠償請求をして被害を回復します。

このような登記の原則について「公示力」はあるが「公信力」はない、と表現されます。その意味は、以下の通りです。

  • 公示力がある
    権利変動を登記に記すことによって、第三者に示す力がある
  • 公信力はない
    登記をしたからといってその通りの実態となる権利変動があったことにはならない

このような第三者対抗要件としての不動産登記の重要性は、個人間の取引ではもちろんのこと、企業間の取引のおいても重要な意味を持ちます。

相続において第三者対抗要件が問題となるケース

相続の場面でも、遺産に不動産が含まれる場合には、第三者対抗要件が問題となるケースが多くあります。そのため、家族の死亡などによって相続した不動産については、すぐに不動産登記をし、対抗要件を備えておくようにしなければなりません。

具体的には、次の2つの場面で問題となります。

遺産分割による不動産登記における対抗要件

遺産分割協によって、遺産のなかの不動産の相続が決まったとき、その効果は相続開始時に遡って適用され、相続開始時から相続人が所有していたこととなります。

この場合、協議の終了後、登記までの間にその不動産の所有権を得た第三者が登場してしまった場合には、いわゆる「対抗関係」となり、登記による第三者対抗要件を先に備えた人が優先することになります。

したがって、協議が終了したら速やかに相続登記をする必要があります

遺言による不動産登記における対抗要件

2018年の相続法改正によって、遺言によって不動産を相続した人は、法定相続分を超えて相続した部分については、登記による対抗要件を備えないと第三者に所有権を主張できないものとされました。

これまでは、遺贈(遺言による贈与)と、相続させる旨の遺言とで扱いが裁判例により異なり、相続させる旨の遺言であれば対抗要件は不要とされていましたが、これでは取引の安全を損ねるとし、法改正によって登記の必要な範囲が広がりました。これにより、今後ますます、遺言による相続の場面で、相続登記の重要性が増します。

相続登記の手続きについて

第三者対抗要件が不要な場合は?

権利の変動を第三者に対抗するには、第三者対抗要件が必要なのが原則です。しかし、例外的に、第三者対抗要件が不要なケースもあります。

以下の場合には、第三者対抗要件がなくても、第三者に対抗することができます。これは、登記がなくても対抗できる第三者に当たる人が相手だからです。これらの人は、対抗要件を備えていなくても取引の安全と円滑が害されるおそれがなく、いわば保護の対象外となっているのです。

当事者及び包括承継人の場合

不動産売買の際の売り主、買い主のように、その物権変動の当事者は、それを知っているのが当然ですから、登記されていなかったからといって「所有権の移転を知らなかった」という主張は許されません。したがって、対抗要件で保護される「第三者」には含まれず、登記を備えなくても対抗することができます。

また、包括承継人、つまり、当事者の地位を包括的に承継した人も、当事者自身と同じであると評価されます。包括承継の典型例が相続人であり、相続人に対しては、当事者と同様、登記を備えなくても権利変動を対抗することができます。

背信的悪意者の場合

第三者対抗要件によって保護される「第三者」となるには、保護に値する人物である必要があります。そのため、登記されていないことを主張する正当な利益を有するのでなければ、取引安全の保護される人には当たりません。この点で、背信的悪意者は保護されないため、登記なく対抗することができます。

背信的悪意者とは、嫌がらせなど不当な目的で、所有権を侵害しようとするなどといった極めて悪意のある人のことです。

まとめ

今回は、第三者対抗要件の意味と効果、対抗要件を備えるべき理由などを、特に不動産の登記について解説していきました。

不動産売買の取引はもちろん、所有者が亡くなった場合の相続の際にも、必ず第三者対抗要件を備えて、二重譲渡によって不動産を失う危険を回避するようにしてください。

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