生前対策として遺言を残したのに、相続が開始するよりも前に相続人が死んでしまうことがあります。相続すべき人が、先に死亡してしまったときの対応方法を理解する必要があります。
残念ながら「親よりも先に子が亡くなる」というケースもあり、遺産を残されるはずだった人が既にいないという場面があります。このとき、もはや遺言書の通りに相続させることはできません。また、相続人が先に死亡してしまった場合に子が代わりに相続する「代襲相続」も、遺言による承継の場合には適用されません。
今回は、遺言によって財産を取得するはずの人が先に亡くなったときの対処法を解説します。
遺言で指名された相続人が先に死亡した場合
遺言で指名された相続人が先に死亡されたときの、相続トラブルについて解説します。
死亡の時期は流動的である
死は突然に襲いかかるもので、その時期は流動的であり、コントロールすることはできません。遺言は、残された家族に遺産を残すためにとても重要な役割を果たしますが、既に死亡した家族に遺産を承継することはできません。当然ながら、財産の取得は、その相続人の生存を前提としています。
通常は、遺言は自分よりも長く生きる人に対して財産を分け与える内容としますが、「子が親より先に亡くなる」というケースは残念ながら起こりうるものです。病気や事故はいつ起こるかわかりません。若い人のほうが必ず長生きするとは限らず、このようなケースの対処法を理解する必要があります。
なお、将来の変動には、書いた財産がなくなったケースもあります。
特別な指定のない限り遺言は無効になる
遺言によって指名された相続人が、相続開始より先に死亡してしまうと、遺言の法的な効果に支障が生じます。この状況では、遺言書に特別な指定のない限りは、その遺言は無効になります。特別な指定とは例えば「XXXの財産につき、YYYに相続させるが、死亡していた場合には……とする」といったような決め方です。このような場合には、その指定にしたがって遺産分割します。
遺言が無効になった結果、原則に立ち返って、法定相続分に応じて分割されることになります。
法定相続分の割合について
代襲相続は適用されない
相続人が先に死亡したことによって遺言が無効となったとき、代襲相続は適用されません。代襲相続とは、被相続人よりも先に相続人が亡くなったときに、その子が代わりに相続する制度です。この手続きは、遺言のない相続の場合に適用されるルールで、遺言には適用されません。
代襲相続は、遺言では認められない
遺言書の書き方には次の2種類があります。
このうち遺贈については代襲相続が発生しないことが民法に明記されています。
民法第994条(受遺者の死亡による遺贈の失効)
1. 遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。
2. 停止条件付きの遺贈については、受遺者がその条件の成就前に死亡したときも、前項と同様とする。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
民法第995条(遺贈の無効又は失効の場合の財産の帰属)
遺贈が、その効力を生じないとき、又は放棄によってその効力を失ったときは、受遺者が受けるべきであったものは、相続人に帰属する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
民法(e-Gov法令検索)
これに対し、「相続させる旨の遺言」は、相続分の割合の指定と評価され、裁判例において代襲相続の適否は分かれていましたが、最高裁判例で次の通り、代襲相続が発生しないと判断されました。
「相続させる旨の遺言は、当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、当該「相続させる」旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから、遺言者が、上記の場合には、当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効力を生ずることはないと解するのが相当である。
最高裁平成23年2月22日判決
遺言者が先に死亡したとき代襲相続できる例外的ケース
例外的に、遺言者より先に相続人が死亡したときに、その子が代襲相続できる場合があります。この例外的な扱いは裁判例によって認められています(東京地裁平成21年11月26日判決)。
この裁判例では、原則通り、遺言者より先に相続人が死亡したら遺言は執行すると述べた上で、例外的なケースについて次の通り判断しています。
当該遺言を合理的に解釈したうえ、遺言者の意思が、当該相続人が先に死亡した場合には、当該財産を代襲相続人に相続させるというものであったと認められるような特段の事情がある場合には、代襲相続が認められる。
東京地裁平成21年11月26日判決
つまり、遺言書の合理的な解釈として、相続人が死亡したときにはその子が相続する、というように読めるときには、代襲相続と同じことが起こるというわけです。
とはいえ、死亡後の遺言書の解釈に委ねるのはとても危険であり、自分の思った通りには受け取られず、故人の意思が反映されないおそれがあります。代襲相続と同じように処理したいのであれば、その旨をきちんと遺言に記載しておく方法で対策しておくべいです。
遺言者より先に相続人が死亡した場合の対応
次に、遺言者より先に相続人が死亡してしまったとき、その後の対応について解説します。
遺言書を作り直す
遺言に記載された相続人が先に死亡してしまったとき、その遺言は無効となるのが原則です。少なくとも、その受遺者の分については、相続財産を渡すことは不可能になり、行方の定まらない財産が生じてしまいます。その結果、その部分については遺産分割協議をする必要があります。
そのため、改めて生前対策をし直すためには、遺言書を書き直すのが有効です。遺言はいつでも作り直し、変更することができます。再作成すれば、遺産全体を把握し、公正な分割になるよう決め直すことができます。
再作成時には、確実性を高めるため、公正証書遺言がお勧めです。
公正証書遺言について
予備的遺言によって対策する
生前対策は早ければ早いほうがよいですが、早期に決めるほど、将来の変動によって決め直す必要がでてきてしまいます。このような事態をできるだけ防止するには、遺言に別段の定めをしておくのが効果的です。例えば「自宅について妻に相続させる。ただし、妻が先に亡くなった場合には子に相続させる。」といった遺言を残すことです。
このように、受遺者の死亡に備えて、条件付きの記載をした遺言書を、予備的遺言といいます。ただし、予備的遺言は、その内容が複雑になり、死亡後にその読み方について争いが生じる危険があります。そのため、予備的な記載をするならば、多くなりすぎないようにし、できるだけ明確に読み取れるよう細心の注意を払わなければなりません。
まとめ
今回は、遺言の作成後に、それによって遺産を得るはずだった人が先に亡くなったときの対応について解説しました。
代襲相続という考え方がよく登場しますが、これはあくまで法定相続にしたがって相続人となる人が死亡していた場合に、子が代わりに相続できる制度であり、遺贈(遺言による贈与)には適用されません。