ご家族がお亡くなりになったとき、その方(被相続人)がタンスにしまっていた現金、いわゆる「タンス預金」は、相続税の課税対象なのでしょうか。正確には把握できませんが、一説には、数十兆円ものタンス預金が日本には存在するといわれています。
もし、「タンス預金」が相続税の課税対象になるとすると、「相続開始(被相続人の死亡)から10カ月以内」という申告・納税期限内に、相続税の申告をしなければなりません。期限に間に合わないと、延滞税などがかかり、納税額が高額となってしまいます。
「節税対策」という観点からも、タンス預金の存在や金額を把握し、適切な生前対策をほどこしておきたいところです。
そこで今回は、タンス預金が相続税の課税対象となるのかどうか、相続税の申告が必要なのかどうかについて、相続税に強い税理士が解説します。
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タンス預金も相続財産に含まれる
タンス預金が存在するときに、相続税の申告が必要かどうか、という冒頭の疑問について、結論からもうしますと、タンス預金も相続財産(遺産)に含まれ、相続税が課税されます。
金庫や押し入れ、仏壇や冷蔵庫などに保管されることもありますが、これらも「タンス預金」と呼びます。
相続税の課税対象となる相続財産(遺産)とは、お亡くなりになった方(被相続人)の保有していたすべての財産であり、当然ながら、現金もその対象に含まれるからです。自宅に保管されている現金も集計して、相続税申告をする必要があります。
タンス預金自体がだめなわけではありませんし、お金をどこに保管しようとも個人の自由ですが、タンス預金であることをいいことに財産を隠して、相続税の脱税をすることは違法です。
タンス預金のメリット・デメリット
タンス預金が、相続税の節税にはまったくならないにもかかわらず、タンス預金をする人がとても多いのは、タンス預金にはメリットがあるからです。
まず、タンス預金は、金融機関に頼らない分、金融機関の営業時間や手数料などにかかわらず、いつでも使えるため便利です。また、預貯金は、銀行などが破綻してしまうと1000万円までしか保証されませんが、タンス預金は銀行などが破綻してもなくなりません。
手元に現金がたくさんあるという安心感は、ご家族の死亡、葬儀などお金が入り用なとき、なにものにも代えがたいものです。
一方で、タンス預金のデメリットは、タンス預金の存在が証拠に残らないことから、悪意のある人が関わる場合であっても、そうでない場合であっても、「お金がなくなりやすい」ということです。それゆえ、タンス預金はトラブルの元凶となります。
地震や家事、水害などに弱い点も、タンス預金のデメリットです。
タンス預金が税務署にバレる理由は?
タンス預金であっても相続税を支払わなければならないと解説しました。「家に保管してある現金など、税務署にばれようがないのではないか」、「申告しなくても見つからないのでは?」という疑問が生まれるのではないでしょうか。
しかし、税務署は、お亡くなりになった方の所得を、確定申告や住民税の納税などの機会に把握することができます。また、税務署の権限を用いて、税務調査を行い、銀行など金融機関の預貯金額を調べることもできます。
そのため、被相続人の生前の所得に比して、相続財産(遺産)となる預貯金が少なすぎる場合や、預貯金から不自然に多額の引出しが行われていた場合などには、調査が行われて、タンス預金が発覚してしまうケースがあります。
税務調査において、説得的な理由が説明できない場合には、過少申告加算税、無申告加算税などが5~20%課せられ、相続税の支払額が増額されてしまう危険があります。
さらには、隠蔽、偽装など悪質性があると判断された場合25%~40%の重加算税を支払わなければならないケースもあります。
タンス預金をめぐるトラブルの注意点
タンス預金が相続財産となり、相続税が課税されるという基本を解説しましたが、一方で、タンス預金は、預貯金などにくらべて、トラブルの大きい資産です。
まず、タンス預金が存在するかどうか、存在するとしてその金額がいくらであるかを証明する証拠がなく、タンス預金がなくなってしまったときに、その救済を得ることが難しいという点が理由の1つです。
更には、同居の親族などの近親者が、タンス預金を勝手に持ち去ってしまったり、悪意がなくてもタンス預金を紛失してしまったりした結果、相続人間の「争続」の火種となることもしばしばです。
タンス預金の相続税で困らないための事前対策
タンス預金と相続税の問題で、トラブルをまねかないためには、まず、タンス預金が今回解説したように問題の大きい資産であるということをよく理解していただくことが必要です。
どうしてもタンス預金で現金を保有しておかなければならない理由があるのでない限り、銀行など金融機関に預金していただくほうが無難です。
資産状況を相続人と共有する
その上で、相続財産(遺産)となる各資産の保管状況について、被相続人と相続人との間で、情報を共有しておくことが、円満に相続・遺産分割するためのポイントです。
同様に、貸金庫に現金を入れておいたり、他人に現金を預けておいたりした場合にも、その存在や金額が証明しづらく、紛失されてしまったり、横取りされてしまったりといった問題が起きやすくなります。
どうしても手元に現金をまとまって用意しておきたい事情がある場合にも、タンス預金は一か所にまとめ、相続人にも保管状況を伝えておきましょう。
タンス預金を贈与する
タンス預金のまま保有し続けていた現金は、いざお亡くなりになったときには相続財産(遺産)となり、相続税が課されます。
そのため、相続税が課されてしまうくらいであれば、生前からしっかりと節税対策をし、タンス預金のまま相続税がかかってしまうことのないようにしておくほうがお勧めです。
タンス預金の主な使い道として、節税対策のために考えられる手が、生前贈与の資金にあてることです。生前贈与が、結婚・子育て目的のものである場合には最大1000万円までの贈与について非課税枠があります。
また、受贈者1人あたり年間110万円までの贈与は贈与税が非課税になるなど、時間をかけて相続税対策をしていけば、タンス預金のまま隠しておくより有意義な使い方ができます。
タンス預金は節税にならない
相続財産(遺産)の総額が少なければ少ないほど、支払うべき相続税額は少なくなります。特に「3000万円+500万円×相続人の数」という相続税の基礎控除以下の財産しかない場合には、相続税はかかりません。
不動産や預貯金など、外部に情報が記録されている財産に比べて、タンス預金の場合には隠しておくことができるのではないかと考える人も多いですが、実際には、発覚してしまうと大きなリスクがあるため、節税対策にはなりません。
税務署には、税務調査を行う強力な権限があり、預貯金通帳に記録された入出金履歴を、過去にさかのぼって調べることも可能です。不審な点がみつかれば徹底的に調査され、タンス預金を隠し通すことは困難です。
相続税対策は、「相続財産を守る会」にお任せください!
今回は、相続税の節税対策の1つとして思いつきがちな「タンス預金」について、相続税の申告が必要であることとともに、なぜ税務署にばれてしまうのかなど、相続税に強い税理士が解説しました。
預貯金口座の開設にマイナンバーが義務化されるともいわれており、税務署の強い調査権限とあわせて、今後ますます、タンス預金によって相続財産(遺産)を隠すことは難しくなります。
相続税の未申告による重い制裁(ペナルティ)をくらってしまわないよう、正しい節税対策を行うためには、事前に「相続財産を守る会」の税理士に、ぜひ一度ご相談ください。