不動産を所有すると毎年払うべき税金が、固定資産税。この税金は、所有者が払うのが原則ですが、所有権が移動するタイミングでは、どの税金を誰が払うべきか、問題になることがあります。特に、相続による所有権の移転では、元の所有者である被相続人が亡くなっているため、対応をよく理解しておかなければ税金が未納になるおそれがあります。
相続後に、名義変更を怠り、故人名義の登記のままになっている不動産については、故人名義での固定資産税の納税通知書が届くことがあります。このとき、まだ遺産分割について争い中で、不動産を今後誰が承継するか決まっていないと、税負担がもめごとの原因となります。
今回は、遺産に不動産を含む方の相続で注意すべき、固定資産税の支払義務者について解説します。
固定資産税とは
まず前提として、固定資産税の基本的な知識について解説します。
固定資産税の基本
固定資産税とは、各自治体が、固定資産(土地、建物などの不動産)の所有者に課税する地方税です。各自治体が評価する固定資産の価格(固定資産税評価額といいます)に税率1.4%を乗じて税額を算出します。
固定資産税の対象となる財産
固定資産税は「不動産」に対して課される地方税です。課税の対象となるかどうかは自治体の判断となりますが、住宅用不動産(一軒家、マンション、アパート)、商業用不動産(オフィスビルや店舗、工場など)、土地(宅地、農地、山林など)その他の不動産(駐車場、倉庫など)はいずれも、固定資産税の対象となります。
固定資産税の対象となる財産の評価は、自治体が固定資産税評価基準に基づいて行います。この評価は数年ごとに見直され、物件の価値や種類に応じて税額が調整されます。
固定資産税の支払い義務者
固定資産税は、毎年1月1日にその不動産を所有していた人が納税義務者となります。つまり、不動産登記簿上で1月1日に所有権者として登記されている人が、その年の固定資産税の納税義務者となります。自治体は登記を調べ、1月1日時点の所有者に、その年の5月から6月初旬あたりに固定資産税と都市計画税の納税通知書を送付し、税金を請求します。
ただし、この原則のみだと、年中に所有権移転があったときの不公平感は否めません。年の途中までしか所有していないのに1年分払うのは不都合だ、という不満が生じるからです。しかし、この不満を解消する方法は法律には定められておらず、前所有者と次の所有者との間の話し合いによって負担割合を定めて調整するしかありません。
不動産売買によって所有権を移転させる場合には、その売買契約において固定資産税の負担割合を決めることが多いです。多くの場合には、1年の間に所有していた割合に応じて、売り主と買い主とが日割り計算によって負担することを定めるのが実務ですが、必ずしもそうでなければならないわけではありません。このような取り決めは、不動産売買契約書に記載されますが、あくまで当事者間の税負担を決めているだけで、市区町村に対する支払い義務者が変更されるわけではありません。
相続における固定資産税の扱いは?
相続の場面でも、固定資産税の納税を誰がするか、争いになることがあります。相続によって、1月1日以降に不動産の所有者が変わると、1年中所有していたわけではないのに払う必要がある、という不公平感が生じる可能性があります。
それだけでなく、相続は売買と異なり、あらかじめ予測できないタイミングで所有権が承継されます。突然降りかかると納税資金の準備のない人もいます。また、前所有者と協議しようにも既に亡くなっていてできないという課題もあります。
売買ならば、契約によって決めることができ、合意に達しなければ売買自体を断ればよいですが、相続は取りやめにすることができません。遺産分割協議でよく話し合うべき重要な議題となります。
ここでは、相続のプロセスに合わせて、どの時期の固定資産税を誰が払うか、解説します。
遺産分割協議中の固定資産税
相続開始後は、被相続人は既に亡くなっているため税負担を負わせられず、名義が被相続人であっても相続人が払うべきことは当然です。ただ、この際に公平な税負担を相続人間で決めなければなりません。遺産分割をする前は、相続不動産は共有の状態のため、固定資産税もまた相続人がその法定相続分に応じて払うこととなります。
遺産分割協議中の固定資産税は、実務上次のように扱われる場合が多いです。
- 相続人の代表者が立て替え、遺産分割協議において遺産から払う
- 相続人の代表者が立て替え、各相続人に法定相続分に応じて求償する
- その不動産を相続予定の相続人が払う
- 相続財産管理人が遺産から払う
被相続人名義で通知が届きますが、結局は払うのは相続人のいずれかです。なお、固定資産税を払ったからといってその不動産を得られるわけではありません。
遺産分割協議とは
分割後、相続登記までの固定資産税
遺産分割が終了した後は、相続登記によって名義変更を行います。このとき、分割から相続登記までに一定の期間のあるとき、その間の固定資産税は、分割によってその不動産を取得する相続人が払うのが公平です。
この場合にも、1月1日には被相続人の所有であった場合、固定資産税の納税通知書は故人の名義で届きます。争いの生じないよう、遺産分割協議書にて、「分割後の固定資産税は、不動産を取得する相続人が支払う」と定めておくべきです。
相続放棄した不動産の固定資産税
相続放棄をしたケースにおける固定資産税については、相続放棄をした相続人は支払い義務を免れます。その結果、放棄をせずに相続した相続人が負担する割合が増えることとなります。なお、全員が相続放棄した場合は、固定資産税を支払う人もいなくなります。
相続放棄の基本について
被相続人が滞納した固定資産税
亡くなった方(被相続人)が生前に固定資産税を滞納していることがあります。このとき、滞納した固定資産税は、遺産中の負債として相続人に承継されます。原則として法定相続分に応じて分割されますが、不動産を取得する人がその負担を内部的には引き受けるケースも多いでしょう。
なお、滞納した固定資産税は、マイナスの財産となるため、相続税を算出する際には、債務控除として差し引くことができます。滞納した税金が高く、不動産の価値など遺産があまりないときは、相続放棄をしたほうが得なケースもあります。
固定資産税を滞納するとどうなる?
固定資産税の支払いを誰がすべきかを解説しましたが、これを理解せず、納税を怠ると不都合が生じます。相続の場面でも、遺産分割協議が円滑に進まず、感情的な対立が大きいケースでは、誰も固定資産税を負担しようとせず、払わず放置されてしまっている場合も少なくありません。
しかし、固定資産税を滞納すると、その期間に応じた延滞金が発生し、納税額が増えてしまいます。固定資産税の延滞金の利率は、①納期限の翌日から1か月以内は年2.4%(令和6年中)、②納期限の翌日から1か月超は年8.7%(令和6年中)です。なお、延滞金が1,000円未満の場合は、その全額が切り捨てられ延滞金はかかりません。
固定資産税を納付しないまま放置し続けると、市区町村から督促状、催告状が届いた後、それでも放置し続けると、最悪は、その不動産が差し押さえられてしまいます。
固定資産税と相続についてよくある質問
最後に、固定資産税と相続についてのよくある質問に回答します。
- 相続した不動産の固定資産税はいつから支払う必要がある?
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固定資産税は、常に払う必要があり、誰が払うか、という問題として考えるべきです。したがって、遺産分割が決まり、自分が取得したタイミングからは、その人が払う必要がありますが、その後も段階に応じて、相続人のいずれか(遺産分割前は全員、分割後は相続した人)が払うのが基本となります。
- 複数の相続人がいる場合、固定資産税はどのように分担される?
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複数の相続人間での固定資産税の負担は、分割前後で異なります。分割前であれば不動産は相続人の共有であり、税負担をすべき義務は相続人全員にありますが、分割後は、相続した人が払うのが原則です。
まとめ
今回は、遺産に不動産のある家族に向けて、固定資産税の問題を解説しました。
被相続人の所有していた不動産は、相続によって相続人に承継されます。このとき、固定資産税のルールは、法律上、1月1日に不動産登記簿上で所有者となっている人が納税義務者であると定められており、それ以上のことは契約や話し合いによって決まります。少しでも公平な相続とするには、法律のルールを理解するだけでなく、それをもとに交渉を有利に進めなければなりません。