不動産を所有していると毎年支払わなければならない税金が「固定資産税」です。
しかし、不動産を相続したり、不動産を売買したりして、不動産の所有者が変更したときに、固定資産税を誰が支払ったらよいのかについて、正確に理解している方は少ないのではないでしょうか。
相続した後も、相続登記(相続不動産の名義変更)を怠って、故人名義のままになっていた土地・建物について、故人名義で固定資産税の納税通知書が届いたとき、その固定資産税を誰が負担するのかについて、相続人間で揉め事となり「争続」となることがあります。
そこで今回は、相続財産(遺産)の中に不動産が存在する方の相続などについて有利に進めるために、固定資産税の支払義務者について、不動産相続に強い税理士が解説します。
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そもそも「固定資産税」とは?
固定資産税は、各自治体が、固定資産(土地・建物などの不動産)の所有者に課税する「地方税」です。
各自治体が評価する固定資産の価格(固定資産税評価額(固定資産税課税標準額))に税率を乗じて税額が計算されます。このときの税率は1.4%です。
【原則】不動産の固定資産税は誰が支払う?
不動産の固定資産税の納税義務者は、毎年1月1日にその不動産を所有していた人であるとされています。不動産登記簿上に、所有権者として登記されている人ということです。
1月1日時点で所有権を持っている人のもとに、その年の5月初旬から6月初旬あたりに、固定資産税と都市計画税の納税通知書が郵送されてきますので、送られてきた納付書にしたがって納税することとなります。
しかし、この原則にしたがうと、1月1日以降に、相続や売買などによって不動産の所有権者に変更があったときであっても1月1日現在の所有者がすべての税負担を負うとすると、不公平感が生まれてしまいます。
不動産の固定資産税を、日割り計算で負担する方法
ここまで解説してきたとおり、不動産の固定資産税は、1月1日の所有権者のもとに納税通知が届きます。
12月31日にしか相続、売買などの所有権者の変更を行わないのであればよいですが、そうでなければどうしても、「自分は1年中所有していたわけではないのに、なぜ1年分の税金を支払わなければならないのか」という不満が生じます。
このような不公平感を是正するための固定資産税の負担のルールは、法律には特に決められておらず、不動産売買の場合には、前所有権者と、所有権を取得したものとの間の話し合いで決まることになります。
不動産売買で、契約で税負担を決めるケース
不動産売買によって、不動産の所有権が1年の途中で変わる場合に、一般的には、日割り計算で、所有権をもっていた期間の割合に応じて売主と買主が公平に固定資産税を負担するというのが実務上多くある取扱いです。
このような固定資産税の公平な清算については、不動産売買の際に取り交わされる不動産売買契約書に記載して決めます。ただし、市町村に対する納税義務者が変更されるわけではなく、あくまでも売主・買主間の税負担をうちうちに取り決めるだけです。
買主負担分の固定資産税相当額を、あらかじめ不動産の売却代金に加算する場合もあります。
相続税の節税対策のために、1年の途中で不動産を売買するときには、不動産売買契約書に、固定資産税の清算についてのルールが決められているかどうか、確認してください。
もっとくわしく!
固定資産税の清算について、法律上決められたルールはありませんから、期間に応じた日割り計算でなければならないわけではありません。
特に、相続税対策、節税対策のために、生前にご家族間で不動産の売買契約をするときには、固定資産税を売主がすべて負担することとするケースも少なくありません。そもそも相続財産(遺産)を生前にできる限り減らし、相続税を低くするためであれば、固定資産税負担を買主に負わせるメリットは特にない場合もあるからです。
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相続の場面での固定資産税とは?
相続の場面でも、固定資産税の納税義務者が誰かで、争いの火種となる場合があります。相続によってもまた、売買と同様に、1月1日以降に不動産の所有権者が変わる場合があるからです。
特に、相続の場合には、不動産売買の場面とは違って、あらかじめ予測することができず、突然降りかかります。不動産売買であれば、さきほど解説したように、不動産契約書で税負担の割合を公平に決めることができますが、相続の場合には、あらためて話し合いが必要となります。
遺産分割協議中の固定資産税は誰が支払う?
原則として1月1日時点の所有権者が固定資産税を支払うものの、そもそもその人が死亡してしまい、相続が発生した場合には、既にお亡くなりになった方に税負担を負わせることはできません。そのため、この場合には相続人が固定資産税を支払います。
遺産分割協議中に、相続した不動産の固定資産税を支払わなければならない場合には、相続不動産は「共有」の状態にありますから、固定資産税もまた、相続人が、その法定相続分に応じて支払うこととなります。
遺産分割協議中の固定資産税の支払は、実務上は、ケースに応じて次のように処理されています。
ポイント
- 相続人の代表者が立て替え、遺産分割協議において相続財産の中から支払う
- 相続人の代表者が立て替え、各相続人から法定相続分に応じた負担額をもらう
- その不動産(土地・建物)の相続を予定している相続人が支払う
- 相続財産管理人が、相続財産の中から支払う
以上のように、遺産分割協議中であると、固定資産税の納税通知書自体は、故人の名義で届きますが、実際に支払うのは相続人のいずれかです。
ただし、固定資産税を支払ったからといって、その不動産を単独で相続できるわけではないことに注意が必要です。
被相続人が固定資産税の納付前に亡くなった場合には、未納の固定資産税は、相続税の計算上債務控除として財産の額から控除することができます。
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遺産分割協議後の固定資産税は誰が支払う?
遺産分割協議が成立し、不動産の相続が済んだ後であれば、その不動産を相続した相続人が、固定資産税を支払うのが公平です。
ただし、この場合であっても、1月1日にはお亡くなりになった方(被相続人)の所有であった場合には、固定資産税の納税通知書は故人の名義で届きます。税負担を明らかにするために、「不動産を相続した相続人が払う」ことを、遺産分割協議書で明確に定めておけば相続人間のトラブルを回避できます。
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相続放棄した不動産の固定資産税は誰が支払う?
1月1日に被相続人所有であった不動産を、その後に相続が発生したけれども、相続放棄をしたケースを想定してください。
この場合、相続放棄の手続は、相続をした時点にさかのぼって効果を生じ、最初から相続をしなかったものとして取り扱われます。その結果、相続放棄をした不動産の固定資産税は、支払わなくてもよくなります。
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被相続人が滞納した固定資産税は誰が支払う?
お亡くなりになった故人(被相続人)が、生前に固定資産税を滞納していることがあります。この場合に、滞納によって溜まった固定資産税は、誰が支払わなければならないのでしょうか。
滞納した固定資産税の支払もまた、遺産分割協議の話し合いによって決めるしかありません。原則としては、故人の債務として法定相続分に応じて分けることになりますが、不動産を相続する人がその税負担を引き受けることもあります。
滞納した固定資産税があまりに多額である一方で、不動産の価値がそれほど高くない場合には、相続放棄の申述をしたほうが得な場合もあります。
固定資産税を滞納するとどうなる?
ここまで「固定資産税は誰が支払うの?」という疑問について、特に相続の場面において問題となるケースを、税理士が解説してきました。
しかし、現実には、遺産分割協議が円満に進まず、固定資産税が支払われずに放置されてしまう場合も少なくありません。固定資産税を支払わないと「滞納」の状態になり、その期間に応じた延滞金が発生します。
固定資産税の延滞金の利率は、①納期限の翌日から1か月以内:年2.6%(平成30年中)、②納期限の翌日から2か月超:年8.9%(平成30年中)です。
なお、延滞金が1,000円未満である場合は、その全額が切り捨てられ延滞金はかかりません。
固定資産税を納付しないまま放置し続けると、市区町村から催告状、督促状が届いた後、それでも放置し続けた場合、最悪のケースではその不動産が差し押さえられてしまいます。
相続税申告は、「相続財産を守る会」にお任せください!
いかがでしたでしょうか?
今回は、相続財産(遺産)の中に不動産(土地・建物)があるご家族に向けて、生前に不動産を売却処分する場合や、不動産を相続によって承継する場合などに生じる「固定資産税」の問題について、税理士が解説しました。
固定資産税について、法律で定められたルールは、1月1日に不動産登記簿上所有者となっている人が納税義務者であるという点であって、それ以上のことは、契約や話し合いによって決まります。少しでも公平な売買、相続を実現するために、固定資産税の基本的な考え方を理解してください。
「相続財産を守る会」では、相続税に強い税理士が、相続税の申告はもちろんのこと、生前から、所有不動産をどのように処分することが有利な相続につながるかなどについて、ご家族の状況に応じた積極的なご提案をしています。