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生命保険金と遺留分の関係は?生命保険は遺留分侵害額請求の対象になる?

生命保険金は、私たちの未来を守る大切な資産。ですが、遺族間での財産分配を巡るトラブルを避けるには、生命保険金が遺留分侵害になるかどうか、その関係を理解するのが不可欠です。

遺留分は、法律によって定められた相続人が最低限受け取るべき財産の割合で、このルールは遺族間の公平な分配を保証するためにあります。生命保険を契約し、その掛け金を払うことは、潜在的には、死亡時の相続財産を減らすことにつながります。そうすると、生命保険金が、この遺留分にどう影響を与えるでしょうか。

本解説で、生命保険と遺留分の2つの関係をよく理解してください。

目次(クリックで移動)

生命保険と遺留分の基本

まず、生命保険と遺留分についての、基本的な知識を解説します。

生命保険とは

生命保険金は、保険契約に基づいて、保険契約者が払った保険料に対し、保険会社が契約条件にしたがって払う金銭です。その支払条件は、被保険者の死亡や入院など、定めたケースに直面したときに満たされ、その際の遺族などの経済的な基盤を支え、生活を支援することが目的となります。

なかでも死亡保険金は、遺族の直面する経済的な窮地を救うため、葬儀費用や当面の生活費、残された故人の債務の返済などに充当されるます。そのために、被保険者が生前に指定した受取人に直接払われ、受取人固有の財産となり、相続財産には含まないのが原則です。

生命保険と遺産分割について

遺留分とは

遺留分は、相続法における重要な概念で、一定の相続人が法律により保証された最低限度の財産を相続できるよう定めた制度です。その目的は、故人の遺言や生前贈与によっても、法定相続人のうち兄弟姉妹以外は、完全に相続から排除されるのを防ぎ、経済的に保護されることにあります。

遺留分の基本について

生命保険金と遺留分の関係

生命保険金は遺産とは別に、受取人に直接支払われるので、相続財産には含まないとする解釈が通例です。そのため、遺留分の対象ともなりません。ただし、例外的に、遺留分の対象となるケースがあります。

この基本と例外を考えるには、2つの裁判例の解釈が重要なポイントとなります。

平成14年の最高裁判決

まず、最高裁平成14年11月5日判決は、被相続人が、当初は妻を受取人とする保険契約を締結していたところ、その後に第三者に受取人を変更したケースで、次のように述べ、生命保険金が遺留分減殺の対象とならないと判断しました(2018年相続法改正以前は、遺留分侵害請求は遺留分減殺請求ト呼ばれていました)。

自己を被保険者とする生命保険契約の契約者が死亡保険金の受取人を変更する行為は、民法1031条に規定する遺贈又は贈与に当たるものではなく、これに準ずるものということもできないと解するのが相当である。」

最高裁平成14年11月5日判決

したがって、受取人の変更によっては、遺留分減殺の対象はならないと考えられます。ただ、この裁判例では、受取人の変更がなかった場合に、生命保険金と遺留分の関係をどう考えるのかは判断されていませんでした。また、そもそも第三者に変更した場合には、相続人以外の人の公平や保障を考える必要がないことから、相続人の遺留分が侵害される場合と同じように考えることはできません。

平成16年の最高裁決定

最高裁平成16年10月29日決定では、生命保険金と遺留分の関係について、次のように判示しています。

被相続人を保険契約者及び被保険者とし、共同相続人の1人又は一部の者を保険金受取人とする養老保険契約に基づき保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権は、民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらないが、保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率、保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、特別受益に準じて持戻しの対象となる。

最高裁平成16年10月29日決定

ただし、この裁判例にもある通り、著しく不公平な生命保険契約の場合は、特別受益として考慮されます。

  • 遺産に占める生命保険金の割合
  • 生命保険受取人と被相続人の生前の関係、貢献の程度、生活状況、同居の有無など

例えば、残された遺産よりも生命保険の方がずっと多いとき、不公平という判断が下りやすいです。ただ、その受取人が、生前に被相続人の介護などに助力したという場合、不公平であるかどうかは総合判断で決めることになります。

特別受益は、遺留分算定の基礎に含まれ、遺留分侵害額請求の対象になると考えられています(最高裁平成10年3月24日判決)。2018年の法改正により、これまで特別受益は全て遺留分算定の基礎とされていたのが、相続開始から10年までのものに限られることになりました。

保険金受取人が被相続人自身だった場合

死亡した家族の保険契約の内容が、亡くなった方(被相続人)自身を受取人としていた場合には、既に死亡してしまった人が保険金を受取ることはできません。

このとき、生命保険金を受け取る権利は、相続人に相続されます。このような財産的な価値のある権利については、遺留分の対象となります。つまり、生命保険金を受け取る権利は、受け取る保険金額によって評価され、相続税を申告、納付しなければならず、かつ、それが多額であって遺留分を侵害する場合には、遺留分侵害額請求をすることができるわけです。

生命保険契約に関する権利について

まとめ

本解説では、生命保険と遺留分の相互関係について掘り下げて解説しました。

生命保険金は、被保険者の死後、指定された受取人に直接払われるもので、遺留分の対象とはならないのが原則です。遺留分は、相続人が法律によって保障された最低限の財産ですが、あくまで、相続の領域で検討されるものであり、生命保険はその外側にあります。ただし、この考え方ではあまりに不公平の強い場合には例外的に、遺留分の対象とされて是正されるケースがあります。

今回の解説をもとに、生命保険金が遺留分侵害請求の対象となる例外を理解し、自身の有する権利を守るための措置を講じるようにしてください。この際、遺留分や生命保険の扱いに疑問のある場合は、弁護士の助言を求めるのが重要です。

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