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危急時遺言とは?緊急時に作成できる遺言の種類と有効となる要件

遺言を残したくても、急な病や事故のせいで、遺言書の作成が難しくなるケースもあります。こうした緊急時に役立つ制度が、危急時遺言。

危急時遺言では、その特殊性から、通常の遺言では認められない、口頭で伝える方式が可能とされます。余命がわずかで健康状態に支障があったり、事故や災害に巻き込まれて意思表示が難しかったりする場面でも、可能な限り故人の意思を遺産分割に反映するためです。

ただ、危機的な状況だからこそ、危急時遺言にはリスクもあり、適切なプロセスを踏まなければ遺言としての効力を認めてもらえない例もあります。法で定められた要件を満たすよう、きちんと手続きを進めるには、関係者だけで解決するのでなく、弁護士など専門家に頼ることが大切です。

本解説では、特別の方式で行える遺言のうち、危急時遺言について解説します。

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危急時遺言の基本

まず、危急時遺言の基本的な法律知識について解説します。

危急時遺言とは

危急時遺言とは、疾病その他の事由によって死亡の危機に迫った者が行える、特別の形式の遺言のことです。遺言者の意思を死の直前まで、最大限に反映するための遺言の方式です。

病気や災害、事故など、危機の理由は問いません。また、死亡の危機は、必ずしも客観的に存在しなくても、遺言者の主観でも足ります。例えば、75歳の遺言者が胃疾患により危篤だと自覚して遺言したものの、その後50日間生存した事案でも、危急時遺言が有効とされました(大阪高裁昭和34年12月24日判決)。本人の自覚なく医師や親族が重態と判断して、本人に勧告して緊急時遺言をさせても適法となるという見解もあります。

なお、遺言には次の種類があります。本解説では、特別の方式で行える遺言のなかではよく利用される方式である「死亡の危急に迫った者の遺言(危急時遺言)」について解説します。

【普通方式遺言】

【特別方式遺言】

  • 遺言者が死亡の危機に瀕した場合に認められる方式
    ・死亡の危急に迫った者の遺言(民法976条)
    ・伝染病隔離者の遺言(民法977条)
  • 遺言者が交通の遮断にいる場合に認められる方式
    ・在船者の遺言(民法978条)
    ・船舶遭難者の遺言(民法979条)

危急時遺言は、伝染病隔離者の遺言などの特別な事情のあるケースにおける特別方式の遺言と区別して「一般危急時遺言」と呼ぶこともあります。

遺言書の基本について

危急時遺言の法的要件

危急時遺言の効力を発生させるための要件には、形式要件、手続要件の2つがあります。形式要件が他の遺言より緩和される代わりに、手続要件も遵守しなければなりません。

  • 形式要件
    遺言書の書式や作成方法などの形式に関する要件
  • 手続要件
    遺言書作成後に遵守すべき手続きに関する要件

 危急時遺言の形式要件(作成時)

危急時遺言では、死亡の急迫に迫った状態でも遺言が残せるよう、普通遺言方式よりも要件が緩和されています。そのため、自筆証書遺言のように「全文を自署する」といった要件はなく、口頭での遺言でも足りますが、その分、特別な要件が加重されています。

作成時に備えるべき危急時遺言の形式要件は、次の通りです。

  • 証人3人以上の立会いがあること
  • その一人に遺言の趣旨を口授したこと
  • 口授を受けた者が筆記し、遺言者と証人に読み聞かせまたは閲覧をせたこと
  • 各証人が筆記の正確性を確認して署名押印したこと

口がきけない者、耳の聞こえない者についても、通訳人の通訳によって危急時遺言を作ることができます。

なお、口授する能力のない人は、この要件を満たすことができず、危急時遺言を作成できません。例えば、遺言者が傾眠状態などで発話が困難なケースでは口授する能力がないと判断されました(東京高裁昭和32年8月28日判決など)。また、口授は遺言の内容を伝えるものであるため、単に首を振って答える程度では口授とはいえません。

危急時遺言の手続要件(作成後)

危急時遺言では、形式要件が大幅に緩和され、緊急事態のなかでも遺言者の意思を最大限尊重するという趣旨を実現しやすくしています。そのため、遺言者の真意を担保するための手続要件が課されています。

具体的には、危急時遺言後の手続要件として、家庭裁判所の確認の審判を必要とします。

遺言の失効

危急時遺言は、まさに死期が近い者のために例外的に認められています。そのため、遺言者が普通の方式によって遺言を残せるようになった時から6ヶ月生存した場合には失効します(民法983条)。

「普通の方式によって遺言をすることができるようになった」かどうかは、事案によって異なるため難しい判断であり、法律に明確なルールがあるわけではなく、裁判例を参考にするしかありません。

  • 東京高裁平成18年6月29日判決
    危急時遺言をした後、1年5ヶ月余り生存した事案で、痴呆状態が継続し普通方式による遺言をすることができるようになったとは認められないから、遺言は失効しないと判断した裁判例。
  • 福岡高裁平成19年1月26日判決
    危急時遺言をした後、1年7ヶ月以上生存した事案で、遺言の1ヶ月あまり後には普通方式による遺言をすることができるようになったと認められるから、遺言は失効したと判断した裁判例。

 危急時遺言の具体的な手続き

次に、危急時遺言の具体的な手続きについて、解説します。

証人を確保する

緊急時遺言では、遺言の正確性を担保するため、証人3人以上の立会いが必要です。そこで、まずは証人を確保しなければなりませんが、誰でもよいわけではなく、証人となる者には条件があります。

証人となる条件

次の者は不適格者であり、証人にはなれません(民法982条、民法974条)。

  • 未成年者
  • 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
  • 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人

3名の適格者を確保できたとして、不適格者をその場に立ち会わせるのすら控えた方がよいです。不適格者が同席していて遺言を有効とした裁判例(大阪高裁昭和37年5月11日決定)はあるものの、不適格者の同席によって遺言の内容が左右されたり、真意に基づく遺言が妨害されたりするなどの特段の事情があると遺言が無効となりうると判断した裁判例(最高裁平成13年3月27日判決)もあり、リスクは大きいからです。

また、危急時遺言では、証人が署名をする必要があるので、署名能力がない者も証人にはなることはできません。

実際の危急時遺言の現場では、次のような人が証人となる場合が多いです。

  • 遺言書の作成をした弁護士や、その事務員
  • ケースワーカー
  • 医師や看護師などの医療従事者
  • 隣人、知人、友人など

希望があれば親族から証人を選ぶことはできますが、推定相続人や受遺者となる可能性がある人については証人となることができないため、血縁関係の遠い人を選ぶしかありません。

なお、証人を要する遺言の種類ごとの、証人の人数と立会人の有無は、次の通りです。

スクロールできます
遺言の種類証人の人数立会人
公正証書遺言2人以上なし
秘密証書遺言2人以上なし
危急時遺言3人以上なし
伝染病隔離者遺言1人以上1名(警察官)
在船者遺言2人以上1名(船長または事務員)
船舶遭難者遺言2人以上なし

遺言者の意向を確認して書面化する(口授)

次に、遺言者から口頭で意向を確認します。このプロセスを「口授」と呼びます。

口授を受けた者は、遺言書の内容を筆記します。作成した遺言書の内容は、口授の趣旨に一致していればよく、一言一句同じである必要はありません。危急時遺言は、自筆証書遺言とは違って必ずしも手書きでなくてもよく、ワープロやスマホ、パソコンで記録することもできます。

なお、作成日付は記載し忘れても心配ありません。危急時遺言については、自筆証書遺言や秘密証書遺言と異なり、遺言の時期を証人によって明らかにできるからです。記載された日が正確性を欠くような場合でも、ただちに遺言が無効となるわけではありません(最高裁昭和47年3月17日判決)。

書面化した内容を遺言者と証人に確認する

完成した遺言書の文面を、遺言者と他の証人に読み聞かせるか、閲覧させるかのいずれかの方法によって確認をします。証人には、筆記が正確であることを確認してもらいます。危急時であることが考慮され、公正証書遺言のように遺言者の承認までは要求されません。

証人3名が署名押印する

正確な記載であることの確認が取れたら、証人は各自その書面に署名押印をします。署名押印をするのは証人だけで足り、遺言者本人のものは不要です。署名は証人自身でする必要があり、代署は許されていません(大審院大正14年3月27日判決)。

押印は、実印と認印のいずれでもよく、拇印を適法とした裁判例もあります(大審院大正15年11月30日判決)。

トラブルにならないよう、署名押印は、できるだけ遺言者の面前でしてください。なお、この点について争われた裁判例では、遺言者の現在しない場所での署名押印も、筆記の正確性を担保しようとする法の趣旨に反しないとし、遺言の効力を認めました(最高裁昭和47年3月17日判決)。

家庭裁判所への確認請求

緊急時遺言は、遺言の日から20日以内に、証人の一人または利害関係人が家庭裁判所に請求をしてその確認を得なければ効力を生じません。緊急時のために大至急作成された遺言について、その正確性を裁判所が確認する趣旨です。真意に出たことを確認するだけなので、遺言の有効性が確定するわけではなく、遺言の執行はできません。裁判所が「遺言が真意に基づく」という心証を持たなければ、遺言は有効にはなりません。

そのため、証人のうち1名が、家庭裁判所へ確認の申立てをする必要があります。確認の審判では、遺言が本当に遺言者の真意に基づくものであるか否かが審理されます(民法976条5項)。申立て先は、遺言者の死後は相続開始地の家庭裁判所、遺言者が存命の場合は遺言者の住所地の家庭裁判所です。

裁判所の手続きのために、原本を失くさないよう大切に保管する必要があります。

なお、危急時遺言は、自筆証書遺言や秘密証書遺言と同じく、死後に検認の手続きをする必要があります。

遺言書の検認の手続きについて

危急時遺言の有効性をめぐる裁判例

危急時遺言の要件は厳密であり、緊急時に不用意に作成されることも多いため、その有効性は裁判例でもよく争いになります。実際の裁判例でも、危急時遺言が有効と判断されたケースと無効と判断されたケースのいずれも存在します。

裁判例の結論とその理由を知ることは、できるだけ認められやすい危急時遺言を作成する際の助けになります。

危急時遺言が有効と判断されたケース

東京地裁昭和59年7月30日判決

口授より前に筆記されていた事案。弁護士があらかじめ遺言者の意向を確認して危急時遺言の案を作り、その後に口授をして遺贈の意思を確認したケースで、裁判所は、遺言者の真意を確保して正確を期するという法意に反せず、適法であると判断した。

東京地裁昭和61年8月25日判決

口授より前に筆記されていた事案。遺言者から依頼された弁護士が、公正証書遺言または秘密証書遺言のために草案を作っていたが、容態が急変したので、急遽遺言書案を読み上げ、遺言者が「それで結構です」などと口頭で肯定した。

裁判所は、一連の過程を全体的に考察すれば、遺言者の真意に基づくものであるとして有効と判断した。

最高裁平成11年9月14日判決

以下の事情について「口授」の該当性が争われ、裁判所は「口授」に該当すると判断した事案。

入院中の遺言者が、担当医師らに証人を依頼した。証人が、弁護士の作った草案を1項目ずつ読み上げ、遺言者は都度うなずきながら「はい」と返答した。「遺言執行者の指定」の項目の読み上げに首をかしげる素振りもあったが、説明を受ければ「うん」と答えるなどし、証人から「これで遺言書を作りますが、いいですね」との確認を受け、「よくわかりました。よろしくお願いします」と最終的に答えた。

危急時遺言が無効と判断されたケース

東京地裁平成18年7月28日判決

人工呼吸器を装着し、まばたきによる意思表示によって作成した危急時遺言について、遺言内容が複雑であったことや、まばたきは外部からの評価が難しく正確な意思確認ができないことから「口授」の要件を否定し、危急時遺言を無効と判断した。

東京地裁平成17年3月9日判決

弁護士が下書き原稿をもとに意思確認したが、作成した清書の読み聞かせをしなかった危急時遺言について、遺言者が疲れ切っていて改めて読み聞かせるのが忍びないと判断したとしても、「口授」「読み聞かせ」の要件を欠き無効であると判断した。

危急時遺言に関する弁護士のサポート

危急時遺言を含む遺言書の作成にあたっては、弁護士のサポートを受けることが推奨されます。

意識さえはっきりしていれば、遺言をあきらめる必要はありません。医療の発展により、最期の時を病院で迎える人も増えており、危急時遺言の要件である「3名以上の証人」については比較的容易に確保できるケースも多いものです。このとき、危急時遺言が後から無効とされないよう、弁護士によるサポートを受け、適法な手続きを踏んでください。

危急時遺言を弁護士に依頼してから解決までの流れ

危急時遺言を弁護士に依頼する流れは、次の通りです。本人からの依頼の場合はもちろん、家族が依頼することも可能です。

STEP

無料相談

まずは法律事務所に大至急連絡ください。状況をヒアリングし、危急時遺言の作成が適切かどうかを弁護士が判断します。危急時遺言を検討される方は緊急事態であることが明らかなため、電話で簡単な事情を聞き取り、速やかに遺言作成を提案します。

遠隔地の場合にも、適切な相談先を紹介します。

STEP

遺言者のもとに弁護士が出張する

遺言者のもとへ弁護士が直接出張し、その場で、遺言者本人や家族と段取りし、危急時遺言の作成に着手します。病院の場合、個室を用意してもらうよう交渉します。希望する遺言内容がある場合はメモなどの準備をしておいてください。

STEP

危急時遺言を作成する

駆けつけた弁護士が、遺言者の意思を確認し、口頭でヒアリングした内容を書面化します。遺言が無効になったり、明確性、正確性が損なわれたりしないよう弁護士がチェックします。財産の特定が十分でないと後で争いとなるおそれがあるため、可能な限り遺産に関する資料を調査しておいてください。

作成した内容は、弁護士が遺言者に読み聞かせ、証人と共に確認します。

STEP

証人3名が署名押印する

遺言書が完成したら、証人3名が住所と氏名を記載し、署名、押印します。利害関係人は証人になれないので、相続人となる人は証人にはなれませんが、協力してくれる証人がいない場合、弁護士が用意することも可能です。

STEP

家庭裁判所に申述する

遺言書の作成から20日以内に、利害関係人または証人のうち1名が、家庭裁判所に危急時遺言の申述を行う必要があります。緊急で作成した遺言書に不備がないかを裁判所に確認してもらうためです。1,2ヶ月程度で家庭裁判所から通知が来て、危急時遺言書の作成は終了です。

なお、普通の方式での遺言が可能となってから6ヶ月生存したときは失効するので、危急時遺言の作成後、できるだけ早く通常の遺言の作成も弁護士に依頼すべきです。弁護士に遺言作成を依頼するときは公正証書遺言が最も確実です。

危急時遺言を依頼する際の弁護士費用の目安

弁護士に危急時遺言を依頼するときの費用の目安は、次の通りです。

【危急時遺言の作成費用】

  • 遺産5,000万円未満:10万円
  • 遺産5,000万円以上1億円未満:15万円
  • 遺産1億円以上3億円未満:20万円
  • 遺産3億円以上:25万円
  • 遺産5億円以上:30万円
  • 遺産10億円以上:50万円

【その他の対応費用】

  • 弁護士の出張日当:4万円(移動時間を含めて4時間以内の場合)
  • 証人の日当:4万円
  • 家庭裁判所への申述:5万円

相続に強い弁護士の選び方について

まとめ

今回は、危急時遺言という遺言の特別な方式について、解説しました。

危急時遺言では、遺言者の自書が不要となることはもとより、口授、筆記、読み聞かせ後に、署名押印すら要しないなど、方式が緩和され、緊急時でも遺言を残すことができます。とはいえ、特別な形式だからこそ法の定める要件は厳しく、その方式に則らなければ、遺志を正しく反映させることができなくなってしまいます。

遺言者の余命がわずかな場合など、本人も家族も焦る気持ちもあるでしょうが、危急時遺言の有効性を認めてもらうには、適切な手続きを理解し、弁護士に相談して進めるのが賢明です。

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