相続には、多くの手続きが必要です。相続の準備は手間が多く、時間もかかります。しかも役所や金融機関など、平日の日中しか開いておらず、昼に仕事がある会社員などの方々は、手続を進めることが難しい場合があります。
相続の手続きや準備をする際に、弁護士、司法書士、税理士などの相続の専門家を積極的に活用することで、便利に相続手続きができます。
相続の専門家に手続きを任せる際に記載するのが委任状です。今回は、委任状が必要なケースと、その際の委任状の記載方法について、相続に強い弁護士がご説明します。
委任状をきちんと作成することで、委任状が無効となったり、他の相続人に委任状が有効かどうか争われたりするため、トラブルを避けるためしっかり理解してください。
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委任状とは?
委任状とは、特定の手続きなどを行う権限を第三者に与えるための書類です。
委任状によって、本人と代理人との委任関係を示し、代理権を示すことができます。口頭ではなく、委任状という書面を作成することで、委任をした事実を対外的に証明できます。
委任状で示す「代理」をする権利には、2つの種類があります。それが、法定代理と任意代理です。それぞれの違いについても解説しておきます。
「法定代理」と「任意代理」
法定代理とは、本人の意思とは無関係に、法律によって認められている代理のことです。例えば、未成年の子どもの親は、子どもの法定代理人です。
判断能力がいちじるしく低下した方を保護するために、家庭裁判所によって「成年被後見人」であると審判された場合には、成年後見人が、その成年被後見人の方の法定代理人となります。
任意代理とは、本人の意思で選ぶ代理のことをいいます。
今回詳しく解説する委任状とは、この2種類の代理権のうち、「任意代理」をあらわす重要な書類です。
委任状が必要なケースとは?
委任状が必要なケースは、相続には多く存在します。たとえば、役所で本人に代わって戸籍謄本などの書類を取得する場合、金融機関で本人の代わりに預貯金に関する手続を行う場合などです。
相続に関する手続きは、専門家ではなくてもあなたの家族や親戚などの、身近な方々に任せることができるものもありますが、弁護士、司法書士、税理士など専門士業に相続手続きを依頼する場合と同様、委任状が必要となります。
ちなみに、弁護士が相続に関する裁判を行う場合も、委任状が必要になります。(もっとも、この場合は弁護士が委任状のひな形を持っているので、委任状の書式に迷うことはありません。)。
なぜ委任状が必要?
委任状が必要な理由は、手続きを行う代理人が、「本人からきちんと権限を与えられた人物である」ことを、代理権を対外的に示すためです。
たとえば・・・
Aさんが金融機関の窓口に来て、「Bさんの代理人なので預貯金の払戻しの手続きをしたい」と言っても、金融機関はAさんが本当にBさんの代理人なのか分かりません。
何も証拠がないのに、勝手にAさんのいうことを信じて預貯金を払い戻してしまえば、Bさんが不利益を被ることとなります。
そこで、AさんがBさんの本当の代理人であるということを確認するために、委任状が必要となるのです。
本人がすべての手続きを行うなら、委任状は不要ですが、他人に手続きを依頼する場合には、委任状が必要となるケースが多いでしょう。
相続手続きでは、市区町村役場に日中に行かなければならなかったり、その市区町村役場が、お亡くなりになった方(被相続人)の本籍地で非常に遠方であったりすることがよくあるからです。
相続で委任状が必要なケースは?
相続で委任状が必要となるケースは、以下のような場合です。
ポイント
- 役所で本人に代わって相続に関する書類を取得する場合
- 銀行や証券会社などで、本人に代わって手続きを行う場合
- 不動産の相続登記を司法書士に依頼する場合
- 公証役場での公正証書の作成を誰かに依頼する場合
【注意!】非弁行為に注意!
相続を得意とする「士業」と呼ばれる専門家にも、役割分担があります。
争いごと(紛争)になった場合には、基本的には弁護士に依頼する必要があります。たとえば、遺産分割協議で相続人間で争いが生じた際に、交渉を任せるのであれば、弁護士に依頼する必要があります。
弁護士でない者が紛争の解決をすると、弁護士法に違反し、「非弁行為」となる可能性があります。非弁行為は、刑事罰の科される「犯罪行為」です。
弁護士ではない資格者や、無資格者の中には、「相続の専門家」を名乗って非弁行為を行う違法な業者もいるので、十分に注意して下さい。
委任状の書き方
相続手続きでは、さまざまな場面で委任状が必要となることをご理解いただけたでしょう。委任状は、用途や提出先によって、さまざまな書式・ひな形があり、注意点も異なります。
まずは、委任状の書き方の注意点について、一般的にどのような委任状でもあてはまる共通の注意点を、相続に強い弁護士がご説明します。
代理権の範囲を明確にする
代理権の範囲とは、代理人に任せる事項の範囲のことです。代理人は、代理権の範囲でのみ、本人に代わって手続きをすることができます。
たとえば・・・
委任状に記載する代理権の範囲を「A土地に関する登記手続き」とすれば、代理人は、A土地に関する登記手続きだけを代理することができます。
これに対して、代理権の範囲を、「B銀行との取引に関する一切の行為」とした場合には、少なくとも文面上は、B銀行の預金の払戻しでも、B銀行からの借入れでも、代理できることになります。
委任状を作成して他人に代理権を与える場合には、代理権の範囲は明確にし、かつ、不必要に広い代理権を与えないようにしましょう。
代理権の範囲を明確にしておかないと、自分が思ってもいなかったような取引をされてしまい、後でトラブルの元になるおそれがあります。
白紙委任に注意!
白紙委任とは、代理権の範囲をまったく定めずに委任することです。この際の委任状を「白紙委任状」といいます。
「白紙委任状」の典型例は、署名と押印をした委任状に、代理人の名前を書き、しかし、代理権の範囲については空欄にしておくケースです。白紙委任は、すべて一任したことと一緒です。
白紙委任状を交付すると、自分が思ってもみなかった取引をされ、その取引についての責任を負わされる可能性があります。白紙委任状は、たとえ信頼できる身内が相手であっても、絶対に作るべきではありません。
委任とは、他人に対して自分の取引などを任せることです。代理権を与えた後、相手が何をやっても本人は文句を言えません。他人に代理権を与える場合、細心の注意が必要です。代理権の範囲は必要な範囲に限定してください。
必要な情報を正確に記載する
委任状は、正確性が重要となる場合も多くあります。委任状に記載された情報が不正確であったり、間違っていたりすることで、委任の範囲が不明確になってしまったり、悪用されたりするおそれがあります。
専門的な事項についての委任状はもちろん、そうでなくとも、本人や代理人の確認のために、生年月日や住所、委任事項などを、正確に記載する必要があります。
たとえば・・・
不動産について相続登記をする場合の委任状には、相続財産にある不動産の情報を、登記簿謄本を見て確実に書き写す必要があります。
また、弁護士に裁判を委任する場合には、事件番号を正しく記載することも必要です。
委任状には実印が必要?
委任状を作る際には、本人が、署名や押印をすることになります。委任状に押印をする場合に、必ずしも実印が必要となるわけではありません。三文判でも大丈夫な場合も多いです。
しかしながら、金融機関での手続(預貯金の名義変更、解約など)で、実印を押した上で、印鑑証明書を求められることもあります。
三文判は誰でも用意できますが、印鑑証明書はふつう本人でなければ取得できないので、本当に本人が委任したということを確認するために、実印登録されたものを求めるのです。
【相続の場面別】委任状の書き方
すでにご説明したとおり、相続では、委任状が必要な場面が多く存在します。そこで次に、相続の場面ごとに、その委任状の目的、内容に合わせた注意点と書き方を解説します。
相続開始から、協議の終了、遺産分割に至るまで、委任状が何通も必要となることが多いです。委任状に記載すべき内容は、行おうとする手続きの内容によっても異なります。
相続手続では、税に関する事項を扱う税理士、不動産の登記などを扱う司法書士、契約書・遺産分割協議書の作成や裁判を扱う弁護士など、多くの専門家が必要です。ぜひ、専門家集団である「相続財産を守る会」にお任せください。
役所で戸籍謄本などを取得する場合の委任状
役所で戸籍謄本などの証明書類を取得する場合の委任状の記載事項は、以下のような事項です。
役所のホームページ、窓口などに書式がある場合も多いので、請求する先の役所が分かっている場合には、ホームページで確認したり、事前に問い合わせをしてください。
ポイント
- 本人の住所、氏名、押印
- 代理人の住所、氏名
- 請求する証明書の種類と通数
- 委任状の作成日
戸籍の取得は面倒で手間のかかるものです。古い戸籍が必要なケースもあり、戸籍に詳しい司法書士に相続調査を任せることも検討しましょう。司法書士に戸籍の取得を委任する場合には、委任状が必要となります。
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金融機関(銀行など)で照会・名義変更・解約する場合の委任状
金融機関で、代理人として預貯金口座についての照会を行ったり、払戻しや解約の手続きなどを行う場合にも、委任状が必要となります。
一般的には、次のような記載事項が必要となりますが、金融機関の側でひな形を用意している場合も多いので、手続きをしようとする金融機関のウェブサイトを見たり、窓口に問い合わせるなどして、事前に確認するのが確実でしょう。
ポイント
- 本人の住所、氏名、押印
- 代理人の住所、氏名
- 手続きを行う口座の口座番号
- 委任する手続きの内容
- 委任状の作成日
金融機関での手続きは複雑、また、相続財産がどの金融機関の預貯金に入っているかを調べるためには、めぼしをつけた金融機関に照会を行う必要があります。
委任状によって司法書士などの専門家に依頼すれば、預貯金の調査を、手早く済ませることができます。
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不動産の相続登記を司法書士に委任する際の委任状
不動産の相続登記は、登記の専門家である司法書士に委任すべきでしょう。
司法書士に相続登記を委任する場合、委任状の記載事項には、以下のような内容を記載します。
ポイント
- 本人の住所、氏名、押印
- 代理人の住所、氏名
- 手続きを行う口座の口座番号
- 委任する手続きの内容
- 登記の目的、原因
- 委任状の作成日 など
ただし、司法書士に委任する場合には、司法書士がひな形を持っているので、司法書士の指示にしたがって、必要事項を埋めていけば大丈夫でしょう。
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遺産分割協議、遺産分割調停を弁護士に委任する際の委任状
遺産分割に関する話合い(遺産分割協議)の内容が複雑、専門的なものとなったり、争いを含んだものになったりした場合で、交渉を第三者にゆだねたい場合は、弁護士に相談しましょう。
調停や訴訟などの裁判所における手続きを委任する場合、委任状を裁判所に提出する必要があります。
委任状には、弁護士の権限や、事件番号などを記載する必要があります。弁護士が委任状のひな形を持っているので、通常は、弁護士が作成した委任状に押印をするだけで十分な場合が多いでしょう。
弁護士は、トラブルが生じた場合だけでなく、トラブルが生じないようにする事前予防のため、積極的にご活用ください。
たとえば・・・
遺産分割協議において、相続人どうしで争いがないような場合であっても、後からトラブルになるのを避けるために、曖昧さのない、明確な遺産分割協議書をきちんと作成しておくべきことは多いでしょう。
遺言書も、本人が亡くなった後で、書いてある内容の解釈をめぐって争いになることもよくあります。
弁護士は、遺産分割協議書、遺言書、契約書などを作成する専門家です。トラブルのない円満な相続を実現するために、ぜひ活用することを検討してみてください。
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委任状の撤回・取り消しはできる?
一度は代理人に交渉や手続きを委任したけれども、やはり委任はやめて自分で解決したいと考える場合、どのように対応したらよいでしょう。
委任状の撤回・取り消しを検討している方から、次の相談をいただくことがあります。
たとえば・・・
- 遺産分割協議をひとたびは弁護士に任せたが、相続人本人同士で話し合った方がスムーズに交渉が進みそうな場合
- 体調が悪く、相続手続きを親戚にいったん任せたものの、体調が回復して自分で行うことができるようになった場合
相続手続きでは、委任状の撤回・取り消しをすることが可能です。ただし、代理人が既に手続きを終えた後で、「あの代理人がした行為を取り消す」ということは基本的にはできませんので、注意しましょう。
委任状の撤回・取消しをする場合には、代理人に渡した委任状は、必ず回収してください。委任状が手元にあると悪用、濫用の可能性があるため、代理人が勝手に手続きを行うことを防ぐためです。
相続手続きは、「相続財産を守る会」にお任せください!
相続手続きは実にやることが多く、自分ひとりで全てを行うことは困難です。相続の専門家である弁護士、税理士司法書士などのサポートを受けるほか、親族の協力を得る必要があります。
相続手続きを、「自分の代わりに」やってもらうことを代理といい、代理をしてもらうときは、代理権を外部の第三者に伝えるため、委任状がなければ手続が進みません。委任状が必須の書類となります。
今回は、委任状の作成方法と注意点や、委任状が悪用、盗用、濫用されないための予防策について、相続に強い弁護士が解説しました。
「相続財産を守る会」では、相続を得意として取り扱う弁護士、税理士、司法書士が、委任状をいただき、あなたの代わりに相続手続きを迅速に進めます。ご依頼いただく際には、各委任状のひな形をご準備しますので安心してください。