★ 相続の専門家の正しい選び方!

相続で委任状が必要なケースと委任状の書き方

相続には、多くの手続きが必要であり、準備には手間と時間が多くかかります。しかも、役所や金融機関は平日の日中しか開いておらず、昼に仕事をしている会社員などだと、手続きを進めるのが難しい場合があり、弁護士や司法書士、税理士といった専門家を積極活用すべきです。

専門家に様々な手続きを任せる際、必要となる書類が委任状です。しかし、委任状に誤りがあると、委任そのものの有効性が争われ、最悪の場合には相続に支障が出るおそれがあります。

今回は、相続手続きを前提に、委任状が必要なケースと、その書き方について解説します。

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委任状とは

委任状とは、特定の手続きを行う権限を第三者に与える書類です。委任状によって、本人と代理人との委任関係を対外的に示し、代理権を与えたことを明確にします。口頭ではなく、委任状という書面を作成することで、委任の事実を証明することができるのです。

代理には次の2つがありますが、本解説の委任状による代理権は「任意代理」を指します。

  • 法定代理
    本人の意思とは無関係に、法律によって認められる代理権
    (例:未成年の子に対する親の代理権、成年後見人の代理権)
  • 任意代理
    本人の意思による代理権

委任状が必要な理由

委任状が必要な理由は、手続きを代行する代理人が、本人から権限を与えられていることを対外的に示すためです。

正当な代理人の行為の効果は本人に帰属するため、代理権が付与されているかどうかはしっかり確認する必要があり、委任状なしでは相手に信用してもらえません。例えば、相続のケースにおける次のケースを紹介します。

金融機関の窓口における口座名義の変更は、代理人が行う場合に委任状を要する典型例です。このとき、口頭で代理人であると伝えるだけでは、金融機関は、本当に代理権を得ているのかを確認することができません。

根拠なく、預金の払い戻しに応じてしまい、実は代理権を得ていないことが明らかになったら、預金が減ってしまい、本人を不当に害することになります。

本人が全ての手続きをするなら委任状は不要ですが、多忙な場合もあり、難しいこともあるでしょう。また、相続手続きは複雑であり、専門知識を要する場合も多く、専門家に依頼するために委任状を作成しておいたほうがスムーズに進みます。

委任状が必要な場面

相続において、委任状を必要とするケースが多く発生します。専門知識を要する業務を、弁護士、司法書士、税理士といった士業に任せる場合はもちろん、役所における資料収集など、簡単な手続きであれば、委任状を書いて家族に任せることもできます。

相続で委任状が必要な場面は、例えば次の通りです。

  • 役所で本人に代わって相続に関する書類を取得する場合
  • 銀行や証券会社などで、本人に代わって手続きを行う場合
  • 不動産の相続登記を司法書士に依頼する場合
  • 公証役場での公正証書の作成を誰かに依頼する場合

委任状の書き方

次に、委任状の書き方について解説します。

相続手続きの様々な場面で委任状が必要となるように、その用途や提出先によって書式は様々です。ここでは、どの委任状にも当てはまる共通の注意点を解説します。

代理権の範囲を明確にする

代理権の範囲とは、代理人に任せる事項がどこまでか、ということです。代理人は、代理権の範囲でのみ、本人に代わって行動することができ、その効果が本人に帰属するのであって、代理権の範囲を超えた行為は無効です。

例えば、「A土地に関する登記手続き」についての委任状で「B銀行からの預金の払い戻し」を行うことはできません。悪用されないよう、代理権の範囲を明確にし、不必要に広い権限を与えるのは慎まなければなりません。

代理権の範囲を適切に設定しなければ、自分が思ってもいなかった取引を代理され、後でトラブルに発展するおそれがあります。

白紙委任は絶対にしない

代理権の範囲を全く定めない委任状を作成することを、白紙委任といいます。典型的には、署名と押印のみした委任状に代理人の名前を書き、行う代理行為の内容は記載せず、全て一任するケースです。委任状に捨印を押し、修正が可能なようにすることも白紙委任になりかねません。

白紙委任状を交付すると、予想外の取引について責任を負わされる危険があります。そのため、たとえ信頼できる身内だと思っていても、絶対に作るべきではありません。

委任状は、対外的に、代理権を与えたことを示すので、それを利用して何をされても文句はいえません。他人に代理権を与える場合は細心の注意が必要で、代理権の範囲は限定的に記載するようにしてください。

必要な情報を正確に記載する

委任状は、正確性が重要です。委任状に記載された情報が不正確だったり間違いがあったりすると、委任そのものが無効となってしまう危険があります。

生年月日や住所、委任事項を正しく書くのはもちろんのこと、相続の場面では、不動産の表記の書き誤り、預金口座の誤りなどに気を払ってください。

押印は慎重に行う

委任状には、本人が署名、押印をします。委任状への押印は、実印であることは必須ではなく、認印や三文判でも足りることが多いです。ただし、金融機関の手続きでは、正確性を期するため、実印を押し、印鑑証明書を添付することが求められます。

相続の争いの激しいケースでは、印鑑の管理が甘いと、親戚や家族に盗用され、意に反する委任状を勝手に作成されてしまう場合があるため注意してください。

委任状の撤回や取り消しはできる?

一度は代理人に交渉や手続きを委任したけれども、やはり自分で解決したいと考える場合、撤回や取り消しが可能かどうかが問題となります。

委任状の撤回や取り消しをしたいケースには、良い方向では、揉め事を想定して弁護士に依頼したが、思いの外話し合いがうまくいあった、という場面。一方で、悪い方向では、委任手続きに失敗してしまった場合などがあります。

いずれの場合も、委任状の撤回や取り消しをすることは可能です。ただし、それまでに代理人が既に終えていた手続きについては、取り消すことができません。その責任は、後から自分に降り掛かってくるおそれがあります。

なお、委任の撤回、取り消しをする場合には、代理人に渡した委任状は、必ず回収するようにしてください。委任関係がなくなった後も委任状が代理人の手元にあると、悪用や濫用をされるおそれがあるからです。

相続のケース別の委任状の書き方と注意点

最後に、相続においてよく発生する、委任状が必要な場面に特有の、委任状の書き方と注意点を解説します。場面ごとに、委任状の目的や内容が異なるため、状況に応じた配慮が必要となります。

役所で戸籍謄本などを取得する場合の委任状

市区町村役場で戸籍謄本などの資料を取得する場合、委任状の記載事項は、次の通りです。

  • 本人の住所、氏名、押印
  • 代理人の住所、氏名
  • 請求する証明書の種類と通数
  • 委任状の作成日

役所のホームページ、窓口などに書式がある場合も多く、請求先が判明している場合は事前に問い合わせて確認すべきです。戸籍の取得は面倒で、手間のかかるものです。古い戸籍が必要なケースでは、戸籍に詳しい専門家に委任して、助けを借りましょう。

相続に必要な戸籍の集め方について

銀行で照会、名義変更、口座解約する場合の委任状

銀行などの金融機関で、代理人として預貯金口座を照会したり、払戻しや口座の解約をする場合にも委任状が必要です。金融機関でひな形が準備されていることも多いため、事前に確認するのが確実です。委任状の記載事項は、次のようなものです。

  • 本人の住所、氏名、押印
  • 代理人の住所、氏名
  • 手続きを行う口座の口座番号
  • 委任する手続きの内容
  • 委任状の作成日

金融機関での手続きは難解なものが多く、また、遺産がどの金融機関、口座にあるか明らかでない場合には、調査のために何度も照会をかける必要があり、専門家に委任するメリットは大きいです。

相続登記を司法書士に委任する場合の委任状

不動産の相続登記は、専門知識を有するため、司法書士に委任するのが簡便です。その際の委任状の記載事項としては、以下の内容です。

  • 本人の住所、氏名、押印
  • 代理人の住所、氏名
  • 手続きを行う口座の口座番号
  • 委任する手続きの内容
  • 登記の目的、原因
  • 委任状の作成日

相続登記の手続きについて

遺産分割協議を弁護士に依頼する場合

最後に、遺産分割協議において対立が激化したり、調停に発展したりした場合には、交渉を弁護士に委ね、窓口になってもらうのが解決への近道です。この際、調停や訴訟などの法的手続きを委任するために、裁判所に委任状を提出する必要があります。

裁判所に出す委任状には、定形の書式があるため、弁護士の指示に従うのがよいでしょう。依頼者は、弁護士の示すひな形に署名、押印をするのみで足ります。弁護士は、トラブルが生じた場合だけでなく、争いのないケースでも遺産分割協議書や遺言の作成など、事前予防にも役立つので、積極的にご活用ください。

相続に強い弁護士の選び方について

まとめ

相続手続きは実にやることが多く、自分一人で全て完璧に進めるのは困難です。専門家や親族の助けを借りて進めるにあたり、委任状の書き方を知っておく必要があります。

ただし、委任状を作ることにはリスクもあります。書き方を誤れば、後から無効になって相続が滞ってしまったり、作成した委任状を盗用されたり悪用されたりする危険もあります。このとき、代理権を示す委任状はとても重要であり、自分の意に反した利用をされても、対外的には信頼され、有効となってしまう危険があります。

このように委任状にはメリットとデメリットがあるので、注意して扱う必要があります。

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