障害者が各種の税金を納めるとき、税の種類に応じた控除の特例があります。障害者の日常生活の負担を考慮し、負担を軽減するのが目的です。
障害者の税金を低く抑える障害者控除は、相続税にも設けられています。これにより、障害者が相続や遺贈によって遺産を承継したときには、一定の税額控除を受けられるのです。
今回は、相続税の障害者控除の基本と、対象者や金額、注意点を解説します。
相続税の障害者控除とは
相続税の障害者控除とは、相続人が85歳未満の障害者である場合に、相続税の金額から、一定の計算式で算出した控除額を差し引く特例です。
この控除は、相続財産から一定額を差し引く基礎控除(3000万円+600万円×法定相続人の数)とは異なり、未成年者控除と同じく、税額自体から一定額を差し引ける「税額控除」なので、控除の効果が非常に大きいです。
相続税の障害者控除の対象者は?
まず、相続税の障害者控除を利用できる「障害者」は、次の要件を満たす人のことです。
この要件にいう「障害者」は、「一般障害者」と「特別障害者」の2種類をいい、いずれに分類されるかによって控除額が異なります。
一般障害者 | 特別障害者 | |
---|---|---|
身体障害者 | 3級〜6級 | 1級、2級 |
精神障害者 | 2級、3級 | 1級 |
身体障害者は身体障害者手帳、精神障害者は精神障害者保健福祉手帳によって、障害等級がこの条件を満たすかどうかを証明できます。そのため、障害者手帳のコピーが、控除を利用する申請の際の必要書類となります。
障害者控除を利用するには、法定相続人でなければなりません。なお、相続放棄があった場合でも、遺贈などを受ける人は「相続放棄をしなければ法定相続人である」という場合は障害者控除を利用できます。
相続税の障害者控除の金額は?
相続税の障害者控除を利用するときに、差し引くことのできる控除額は、その障害者が満85歳になるまでの年数1年につき、一般障害者は10万円、特別障害者は20万円とされています。
つまり、相続税の障害者控除の額は、次のように計算できます。
- 一般障害者の控除額
満85歳になるまでの年数×10万円 - 特別障害者の控除額
満85歳になるまでの年数×20万円
障害者として相続財産を取得したとき、年齢が若く、相続後の生活期間が長いほど、障害者として受けられる控除額が大きくなるわけです。
そして、相続税の障害者控除を計算した結果、その控除額がその障害者の相続税額より大きくなった場合、引ききれなかった金額については障害者の扶養義務者の相続税額から差し引くことができます。扶養義務者とは、次の人のことをいいます。
- 障害者の配偶者
- 障害者の直系血族(両親、祖父母、子、孫など)
- 障害者の兄弟姉妹
- 障害者の3親等内の親族のうち一定の者
相続税の障害者控除の計算例(具体的なケース)
相続税の障害者控除の計算式が理解できたところで、具体的なケースにしたがって、相続税の障害者控除の計算例を解説します。
なお、以前にも相続や遺贈で障害者控除を受けたことのある障害者は、控除額が制限される場合があるため注意が必要です。
現在50歳3か月の一般障害者が、親の死亡によって相続人となった例を想定します。
このとき、50歳3か月の障害者が、満85歳になるにはあと35年(1年未満は切上)あるので、控除額は350万円(35年×10万円)です。
相続税の障害者控除を利用するときの注意点
最後に、障害者控除を利用するときの注意点について解説します。
障害者が財産を相続する必要がある
相続税の障害者控除を利用するためには、対象となる障害者が、遺産を取得している必要があります。つまり、障害者が、全く遺産を相続していない場合に、相続人のなかに障害者がいるというだけでは税額控除を利用できません。
そのため、障害者控除を利用し、少しでも税金を減らしたいなら、遺産分割協議を駆使し、その障害者に少しでも財産を相続させるようにしてください。
障害者手帳が必要となる
障害者控除を利用するには、相続税の申告のタイミングで障害者手帳を提出しなければなりません。必要書類となる障害者手帳が手元にないとき、障害者控除を受けられません。
なお、障害者手帳の交付より前に相続が開始されてしまったら、医師の診断書などで相続開始時に障害があったことを証明できれば、障害者控除の利用が認められる場合があります。相続税の期限が、相続開始を知った時から10ヶ月とされるため、必要書類は余裕を持って準備してください。
要介護認定では障害者控除は利用できない
要介護認定を得ていても、障害者控除を利用する条件は満たしません。相続税の障害者控除を利用できる「障害者」とは限定列挙であり、要介護認定だけではこれに該当しません。
ただし、要介護認定を受けており、かつ、年齢が65歳以上で、その障害の程度が身体障害者手帳の交付を受けている方に準ずるものとして市町村長等の認定を受けた場合には「障害者」に該当して控除を利用することができます。このとき、自治体に申請を行い、障害者控除対象者の認定書を発行してもらう必要があります。
まとめ
今回は、相続税の障害者控除について解説しました。当てはまる場合には、相続税をできるだけ安くするためにぜひ理解してください。自身が障害者の認定を受けた方だけでなく、家族に障害者がいる場合は、障害者控除を利用してください。