夫婦でマイホームを購入するときに、所有名義を誰にするか、お迷いになることがあるのではないでしょうか。このとき、夫婦の共有名義で購入することも少なくありません。
相続のことを考えなかったとしても、夫婦いずれかの死亡にいたるまで、住宅を夫婦共有名義にしておくことには、金銭的なメリットも多くあります。
しかし、自宅を、夫婦の共有名義にしておくことは、相続のときに、メリット・デメリットがあり、共有名義にしておくことが得なのかどうかについて、相続開始のときまでに比較、検討していただく必要があります。
そこで今回は、夫婦で自宅を共有することの、相続における注意点について、相続に強い弁護士が解説します。
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不動産の「単独名義」、「共有名義」とは?
マイホーム(自宅)をはじめとした不動産を購入するときには、「単独名義」、「共有名義」の2種類があります。これは、所有権を誰が持ち、誰の名前を登記簿謄本にのせるか、ということです。
単独名義とは、1人の名義で所有権登記をすることです。マイホーム(自宅)の例でいうと、夫名義で登記をするのが、単独登記の例です。
共有名義とは、複数の人の名義で所有権登記をすることをいいます。マイホーム(自宅)の例でいうと、夫婦が持分割合50%ずつで、自宅を共有するのが共有名義の例です。
夫が単独で住宅ローンを組んだときには単独名義、夫婦でお金を出し合って購入するときは共有名義が、よく利用されます。夫が単独でお金を出したけれども、夫婦共有名義とする、という場合には、贈与とみなされて贈与税を課税されるおそれがあります。
自宅を夫婦の共有名義にするメリット
マイホーム(自宅)を購入するとき、夫婦の共有名義にしておくことには、次のようなメリットがあります。逆に、単独名義にしておくと、これらのメリットは享受できませんので、単独名義にすることのデメリットともいえます。
特に、相続開始が近づいている場合(たとえば、ご高齢の夫婦がご自宅を購入される場合)には、夫婦共有名義としておくことで、将来起こる相続のときの、相続税の節税対策として活用することもできます。
【メリット①】住宅ローン控除
夫婦で自宅を共有名義にしたときのメリットの1つ目は、夫婦のいずれもが、住宅ローン控除を受けることができる点です。
住宅ローン控除とは、所得税と住民税が、その税額から直接控除額を引くことによってより安くすることができるという制度のことです。具体的には、住宅ローンの年末残高の1%を、10年間にわたって減税することができます。
夫婦それぞれが住宅ローン控除を受けることができる結果、世帯収入で見ると、共有名義のほうが単独名義のときよりも、税額の控除を多めにつかうことができます。
【メリット②】相続税の節税対策
夫婦のうち片方がお亡くなりになり、相続が発生したとき、単独名義としておいてその所有者がお亡くなりになったときには、不動産全体が相続財産(遺産)となります。
これに対して、夫婦の共有名義にしておいたときには、相続財産(遺産)となるのは、お亡くなりになった夫婦(被相続人)が所有していた持分割合のみとなり、課税対象となる財産が少なくなるため、単独名義のときよりも相続税が少なくて済みます。
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自宅を夫婦の共有名義にするデメリット
自宅(マイホーム)を夫婦の共有名義にしておくことには、メリットだけでなくデメリットもあります。そして、将来必ず起こる相続のことを考えたとしても、デメリットが大きすぎて無視できない場合には、単独名義としておいたほうがよいケースもあります。
特に、自宅を夫婦共有名義にしておくと、離婚の際に困ったことになります。マイホームの購入時から離婚のことを考える夫婦はいないでしょうが、離婚率は統計上高いため、念のため、単独名義にしておくのも手です。
【デメリット①】離婚時の財産分与
夫婦が離婚をすると、夫婦でいたときにつくりあげた財産を分配する必要があります。これを「財産分与」といいます。財産分与の原則的なルールは、夫婦の共有財産を、その貢献度に応じて分配する、というものです。
そして、夫婦でいたときに自宅を購入したとき、妻は専業主婦であり、夫の働いて得た給与や貯金から購入資金を出したとしても、その自宅は夫婦共有財産となります。
離婚をするとき、自宅が共有名義だと、次のような争いが起こりやすくなります。
ポイント
夫婦が離婚した後、どちらが自宅に住み続けるのか
夫婦が離婚した後、どちらがローンを返済し続けるのか
自宅を売却処分するのか
特に、ローンの名義変更について、金融機関の承認が得られないこともあり、また、自宅を売却処分するにしても、共有名義だと、夫婦双方の同意が必要となります。
【デメリット②】売却処分しづらい
たとえ夫婦が離婚しないとしても、夫婦共有名義の不動産を処分するときには、共有者である夫婦の一方の同意が必要となります。
そのため、例えば、妻が自宅に住み続けることを望んでいる場合には、夫は、その共有名義の自宅を売却することが困難です。
また、妻が住み続けることを望んでいたとして、今後は妻だけが住宅ローンを支払っていきたいと夫婦間で合意ができたとしても、妻の給与が少ない場合には、金融機関は、住宅ローンの名義変更を認めてくれない可能性が高いです。
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【デメリット③】相続人が多くなる
相続のときにも、夫婦共有名義の不動産(家・土地)の存在が、デメリットとなる場合があります。
ここまでの解説でもお分かりのとおり、共有名義の不動産は、共有者が増えれば増えるほど、さまざまな問題点を発生させます。そして、相続のとき、共有者のさらに相続人が複数いると、更に共有者が増えていくことになります。
夫婦に子がいる場合には、夫婦のどちらが死亡しても子が相続人となりますが、子がいない場合には、夫婦の片方の持分について、その親が相続人となったり、その兄弟姉妹が相続人となったりして、不動産の共有持分権者が増えていってしまうことがあります。
関係者が増えていけば、相続のときに行われる遺産分割協議もうまくまとまらずに「争続」となり、遺産分割調停、遺産分割審判などへと発展していきます。
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共有状態を解消するためには?
以上のとおり、自宅を夫婦の共有名義にしておくことにはメリットもありますが、デメリットも大きいです。夫婦がいつまでも元気で、かつ、仲良く生活できればよいですが、そうではなかったとき、離婚や相続など、人生の節目で、問題点が出てくるからです。
共有名義とした不動産について、その共有状態を解消する方法は何通りかありますが、いずれも、税金がかかったり、手間がかかったりという注意点があります。
贈与税
共有状態を解消するにあたり、夫婦の仲がよいうちに、相続対策などの目的で行う場合には、夫婦の一方が他方に対して、持分をあげる、という方法があります。
無償であげる場合には、「贈与」となり、贈与税がかかります。
婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産を贈与した場合には、最高2000万円までの配偶者控除を受けることができます。
登録免許税
さらに、贈与であっても、売買(有償の譲渡)であっても、不動産を登記するときには、登録免許税がかかります。
登録免許税は、不動産の価額の1000分の20(つまり、2%)の税率となります。
また、不動産の登記名義を、共有名義から単独名義に変更するにあたり、登記の専門家である司法書士にまかせる場合には、専門家費用がかかります。
財産分与・共有物分割
夫婦が離婚する場合には、夫婦共有の財産である自宅は、財産分与の対象となります。
一方で、離婚はしない場合であっても、共有状態を解消するために、共有物分割訴訟という手続きを利用することができる場合もあります。
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今回は、相続のときに争いの火種となりがちな自宅不動産(家・建物)について、夫婦で単独名義・共有名義のいずれにしたほうがよいか、メリット・デメリットを弁護士が解説しました。
夫婦がいつまでも元気でいられるとは限りませんので、死別による相続の際のことも考えて、どちらが得か、しっかり検討する必要があります。
「相続財産を守る会」では、自宅が共有となっているケースの遺産相続、遺産分割についても多くの経験があります。単独名義・共有名義のいずれが適切か、相続についてお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。