親族内承継は、多くの家族経営の企業にとって重要なプロセスです。後継者の選定から始まり、教育や社内のコミュニケーションなど、課題は山積みです。家族だからと安心していると、思わぬトラブルに足元をすくわれます。
事業承継には様々な方法がありますが、家族経営の小規模な会社ほど、親族内承継が適しています。親族内承継をうまく進めれば、企業の持続的な発展、文化や社風の継承といったメリットがあります。一方で、失敗すれば、経営の存続が危ぶまれる事態ともなりかねません。
今回は、親族内承継の方法と、成功のポイントを解説します。親族内承継に失敗しないために、ぜひご理解ください。
親族内承継の基本
まずは、事業承継のうち、親族内承継の基本的な法律知識について解説します。
親族内承継とは
親族内承継とは、親族内の後継者に、企業の経営を引き継ぐプロセスです。特に、家族経営の企業においては、親族内承継によって次世代に企業や資産を移すことが多く、この承継方法は、家族経営を守るために大きな役割を果たすことができ、中小企業や小規模な事業者で重宝されます。
親族内承継によって事業を継続し、財産を安全に移すには、円満な相続がポイントとなります。親族内承継がうまくいけば家族の結束は更に強化され、伝統を継ぐことによってビジネスの価値は更に高まると期待できます。
事業承継の基本について
親族内承継の種類
多くのケースでは、親族内承継は直系の親族間で行われます(祖父母から父、父から子など)。主には親から子への承継が多いです。古い日本の慣習では、家を継ぐために長男が事業を承継することが多かったですが、現在はそれに限らず様々な成功例があります。
直系血族間の承継のほかに、兄弟やその他の近親者など、親族間で承継される例もあります。このとき、同居の家族でないことが多く、コミュニケーションを密にとり、意見や方針の不一致を避けることが重要なポイントとなります。
親族内承継の進め方と具体的な流れ
次に、親族内承継の進め方と、具体的な流れについて解説します。
承継計画を策定する
まず、事業承継を親族内承継の方法によって進めるとき、計画立案が大切です。親族内承継では、家族内でのプロセスのみで進むため、透明性が担保しづらく、曖昧な方針のまま進んでしまうことがありますが、そのような進め方は慎むべきです。
計画を明確に定めることは、後継者にとってはもとより、事業の長期的なビジョンを明らかにし、働く社員のモチベーション向上や価値観の共有に役立ちます。
後継者を選定する
親族内承継では、後継者の選定が非常に重要となります。跡継ぎ選びに成功の大部分がかかっているといっても過言ではありません。「長男が家業を継ぐ」といった風潮は根強く残りますが、会社を継ぐ意思と能力、適性があればそれでもよいでしょうが、そうでない場合もあります。
子供に経営者の資質がないとき、直系でない他の親族に承継する方法や、社内外に他の候補者を探す方法も検討しなければなりません。また、いずれにせよ、候補者を定めたら、承継のタイミングが来るまでにノウハウの教育や理念の定着を図る必要があります。
後継者となる人の意思を尊重しながら、親族内承継では家族や他の相続人の意見も聞きながら選定を進めることが大切になります。
既存社員との融和を図る
親族内承継をうまく進めるために、家族内だけでなく、既存の社員とのコミュニケーションも不可欠です。長年勤務し、貢献度の高い古株社員がいるのに、突然入ってきた親族が後継者となったことによって恨みを買うケースもあります。親族内承継では避けて通れない大きな課題です。
親族内の後継者と、既存社員との間のいさかいを解決するには、緊密な意思疎通が重要なポイントです。現経営者が生前のうちに、相互理解を進める手助けをしておきましょう。
親族内承継の課題と注意点
次に、親族内承継に内在する課題と、進める上での注意点について解説します。親族内承継には良いことばかりでなく、リスクもあるため慎重に進めなければなりません。
親族内承継の法律面の課題
親族内承継を進めるにあたり、法律的に気をつけるべきことは多くあります。承継時に所有権を移転することとなるため、契約締結や登記など、法的な手続きを多く伴います。適切かつ正確に進めるには、弁護士のアドバイスを聞くことが有益です。
また、親族であるがゆえに、相続問題と絡むことがあり、生前対策をしっかりしておかないと、計画通りに後継者が承継することができなくなります。遺産のなかには家業の会社の株式、事業用資産といった親族内承継のためにはどうしても入手すべき財産も多くあり、これらが他の相続人の手に渡ると、承継が頓挫してしまいます。
親族内承継の税務面の課題
親族内承継には、税務面の課題も多くあり、対策は必須です。
特に、承継のプロセスにおいて家族間で財産を移転するにあたり、その方法に応じて相続税や贈与税がかかります。これらの税金は、総合的にできるかぎり有利になるようにするには、事前に計画的に権利を移転していかなければなりません。税負担を最適化するには、税理士に協力してもらいサポートを受けるのがよいでしょう。
親族内コミュニケーションの重要性
親族内承継を成功させるには、家族内の対話が欠かせません。オープンなコミュニケーションをすることによって、被相続人の死亡後のことをよく検討し、共通の目標に向かって進まなければ、事業の発展は望めません。話し合いを透明性をもって行うことは誤解を防ぎ、信頼を築くのに役立ちます。
特に、親族内承継の支障となる衝突を避けるためには、兄弟間の不公平を解消しておかなければなりません。後継者となる子(例えば長男)とそれ以外とで、取得できる遺産に大きな差があると、トラブルの原因となります。
不公平な相続の対策について
継続的な事業発展
親族内承継を成功させるには、事業の長期的なビジョンの確立が不可欠です。将来の市場の動向や、競合他社の状況も踏まえた上で、持続的な発展のできる計画を立てなければなりません。そして、そのビジョンは、現経営者と後継者が一致することのできる内容である必要があります。
創業オーナーがカリスマ的な経営力を持つ会社では、親族内承継をするにはリーダーシップの移行を円滑に進める必要があり、現経営者の能力が高すぎることが承継の大きなハードルとなることがあります。時間をかけて段階的かつ計画的に行うしかありません。
親族内承継の成功の鍵は事業価値を高めること
最後に、親族内承継の成功の鍵は、事業価値を高めることにあります
そのために、会社の事業価値を把握し、現経営者が元気なうちにその価値を高めておく必要があります。自社の強みがどの点にあるか、他社と比較したときの優れたポイントを理解し、その利点を活かした承継、後継者選びと教育をしなければなりません。
親族内承継には、承継先が早く決めやすいメリットがありますから、最初から「息子に継がせる」などと覚悟が決まれば、準備期間は他の方法よりも長く確保することができます。その期間を、現状把握と価値向上の努力に使うのは、現経営者の責務ともいってよいでしょう。
事業承継を行ったばかりの後継者は、経営者としては新人であり、最初から赤字の立て直しなどをうまく実施できるとも限りません。また、現在の事業に魅力があるほど、後継者も事業承継の希望が増し、モチベーションを向上させることができます。
事業承継の専門家について
まとめ
今回は、事業承継の手法のうち、親族内承継について解説しました。
中小企業や小規模事業などで、特に家族経営でこれまで進めてきた会社では、親族内承継をするのが当然の前提で進んでいることも多いものです。しかし、親族内承継は、そのリスクが甘く見られることも多く、ポイントを抑えて進めなければ、思わぬトラブルの元です。相続と絡む紛争となったとき、その弊害は非常に大きいものです。
ビジョンの共有から計画の策定、後継者の選定に至るまで、時間をかけて進めるべき場合が多く、弁護士など専門家のサポートを受けながら早めに着手すべきです。