死後離縁は、養子縁組していた親子が、親の死亡による相続開始の後に、親子関係を解消することをいいます。離縁の多くは、生前に行う協議離縁ですが、離縁する前に親が亡くなってしまうとき、話し合うことはできません。そのため、死亡後に親子関係を消滅させる死後離縁は、裁判所を介した強制的な方法です。
死後離縁をした場合、親子関係はなくなりますが、養親または要しの死亡によって生じた相続関係には影響しません。したがって、離縁後であっても遺産は相続されます。
今回は、死後離縁の基本と方法、実際に行った場合の効果や注意点について解説します。
死後離縁の基本
まず、死後離縁の基本的な法律知識について解説します。
死後離縁とは
死後離縁とは、養子縁組をした親(養親)が死亡した後に、残された養子が、親子関係を消滅させるために行う離縁の手続きです。死後離縁は、具体的には、養親または養子が、片方の死亡後に家庭裁判所に申請し、許可を得ることで行います。
一旦は養子縁組しても、理由あって解消を希望する方は少なくありません。養子縁組によって構築された親子関係の解消を「離縁」といいます。生前に行える離縁は次の4つです。
- 協議離縁
養親と養子の話し合いによって、合意で解消する方法 - 調停離縁
調停によって解消する方法 - 審判離縁
審判によって解消する方法 - 裁判離縁
裁判によって強制的に解消する方法
これらの方法は生前でなければとることができません。養親と養子の合意や話し合いは、双方が存命でないとできないからです。また、養親と養子のいずれかが死亡したとしても、それによって自動的に養子縁組が解消されるわけでもありませんので注意が必要です。
死後離縁では、具体的には、養親か養子のいずれかが、その他方の死後に、家庭裁判所に申請して、許可を得ることによって離縁します。
養子縁組と相続の基本について
死後離縁を活用すべきケース
死後離縁は、養子縁組は生前にされているものの、その解消を死後に行うのが特徴です。死後になって養子縁組を解消することを希望する場面には、例えば次のケースがあります。
- 養親(もしくは養子)との関係が悪化していたが、生前に離縁できなかった場合
- 義理の親子関係は良好だが、その親族との縁は絶ちたい場合
死後離縁によって、義理の親子の片方が亡くなったときに、将来に渡って公正な親族関係が保てるようになります。少なくとも、存命している一方の意思に反するような親子関係を、ひとたび養子縁組を行ったからといって将来に渡り残し続けるのは、妥当とはいえません。
死後離縁と相続の関係
次に、死後離縁によってどのような影響が出るのか、特に相続との関係について解説します。
死後離縁しても親子間の相続関係はなくならない
死後離縁しても、相続関係はなくなりません。つまり、養親または養子の死亡によって開始された相続には全く影響しません。
義理の親子関係は解消されたとしても、相続人の地位は失わず、相続権はなくならないのです。相続の関係では、相続開始時点(被相続人の死亡時点)での身分関係が基準となるため、その後に親子関係が消滅しても相続についての扱いは変化しないからです。
死後離縁後の親族からの相続はなくなる
ただし、養親と養子の間の相続は起こるものの、その後に親子の更に親族との関係は途絶えます。そのため、例えば、死後離縁後に養親の親族が死亡した場合に、その相続について離縁した養子が関与することはなくなります(法定相続人にならないのはもちろん、養親を代襲相続することもありません)。
死後離縁により扶養義務はなくなる
死後離縁は相続には影響しないものの、親子関係が解消されることによる影響はあります。その最たる例は、親子関係がなくなることによる親族間の扶養義務がなくなることです。つまり、死後離縁した後は、例えば養親の血族が病気の療養や介護、金銭的援助を必要としたとしても、離縁後の養子が法的な扶養義務を負うことはありません。
このような死後離縁による扶養義務の消滅は、死後離婚の場合と同じです。
死後離縁の手続きの流れ
次に、死後離縁の手続きの流れについて解説します。具体的には、家庭裁判所に申し立て、許可を得るまでの方法です。死後離縁について定める民法の条文は、次の通りです。
民法811条6項(抜粋)
6. 縁組の当事者の一方が死亡した後に生存当事者が離縁をしようとするときは、家庭裁判所の許可を得て、これをすることができる。
民法(e-Gov法令検索)
死後離縁の許可申し立ては、申立人の本籍地または住所地を管轄する裁判所に、審判申立書を提出して行います。次のステップで進めるようにしてください。
養親ないし養子が死亡し、その他方が相続人であることを戸籍などで確認します。
養子縁組が行われたことを戸籍などで証明し、あわせて故人の死亡証明書、相続に必要となる戸籍謄本(被相続人の出生から死亡までの全戸籍など)を収集します。
申立人の本籍地または住所地を管轄する裁判所に、審判申立書を提出します。
裁判所が審理し、条件を満たす場合には離縁が許可されます。基本的には、濫用的なものでない限り申立人の意思に沿って判断するのが実務です。
審判が確定したら、それを戸籍に反映させるための離縁届を要します。
そして、許可の審判が確定後は、市区町村役場に離縁届、審判書の謄本、確定証明書を提出し、離縁の届出を行います。死後離縁の効果は、離縁届が受理された時点で生じますので忘れないようにしてください。審判が終わった後で放置し、その期間中に養親の親族が死亡してしまうと、本来であればしたくなかった相続が生じるおそれがあります。
家庭裁判所における死後離縁を許可するかどうかの判断は、恣意的、濫用的なものでない限り、基本的には許可されるものというのが実務の運用です。
死後離縁についてよくある質問
最後に、死後離縁についてのよくある質問に回答します。
死後離縁はいつから可能?
死後離縁を開始できる時期は、養子縁組をした親子のいずれかが死亡した時点です。なお、双方とも存命である場合には、生前の離縁をすることも可能で、この場合、話し合いによって協議離縁できないか検討し、決裂する場合は調停離縁、審判離縁、裁判離縁といった方法をとります。
死後離縁後の子の氏は変わる?
養子縁組をすると養親の氏を名乗ることができます。この場合、死後離縁をした後の氏について、民法は次のように定めています。
民法816条(離縁による復氏等)
1. 養子は、離縁によって縁組前の氏に復する。ただし、配偶者とともに養子をした養親の一方のみと離縁をした場合は、この限りでない。
2. 縁組の日から七年を経過した後に前項の規定により縁組前の氏に復した者は、離縁の日から三箇月以内に戸籍法 の定めるところにより届け出ることによって、離縁の際に称していた氏を称することができる。
民法(e-Gov法令検索)
つまり、原則は、死後離縁後は、子の氏は養子縁組前に戻ります(復氏)。例外的に①配偶者と共に養子縁組をした養親の一方のみと離縁したとき、②7年を経過して届出したときには、養子縁組後の氏を使い続けることができます(氏の続用)。
まとめ
今回は、養親もしくは養子の死亡によって相続が開始した後で、養子縁組を解消する手段について解説しました。死後離縁は、方法と手続きをよく理解し、注意して進めてください。
死後離縁は家庭裁判所の許可を要しますが、許可されることが基本となっており、残された養子(もしくは養親)だけでも行うことができるでしょう。しかし、死後離縁を含む相続手続きにおいて、最適な選択肢を選ぶためには、法律と税務を理解した総合的な判断が必要であり、専門家のサポートが有益です。