終活は人生の最終章のスタート。積み重ねてきた人生を振り返り、残された時間をどう過ごし、どのように終えるかを考える重要な過程です。そのなかでも「お墓」は、避けては通れないテーマです。
お墓は、私たちがこの世を去った後に残る記録であり、家族や後世に思いを伝える大切な役割を持ちます。終活の段階で、早めにお墓のことを考え、準備することには多くのメリットがあります。お墓の準備は単に「場所を決める」以上の意味があります。早く決めれば、相続人の負担が少なくて済み、税務面でもメリットですが、お墓の種類や性質、探し方には注意点もあり、焦りは禁物です。
本解説では、終活におけるお墓の準備のメリット、選ぶ際の判断基準やポイントを解説します。お墓選びを生前にする方は増えてきましたが、自分だけでなく家族のためにも、お墓に関する知識を深め、終活の一歩を踏み出してください。
終活でお墓を準備するメリット
終活の面では、お墓を生前に用意するのはメリットがあり、前向きに検討すべきです。
「生きているうちにお墓を建てるのは縁起が悪い」と抵抗感を覚える方もいるかもしれません。しかし、中国では生前にお墓を建てることを「寿陵」といって、縁起が良いとされてきました。また、「お墓の準備に関する全国調査(2020年・鎌倉新書)によれば、49.9%の回答者が「故人がお墓を既に持っていた」と答えています。
実際のところ、生前にお墓を買うのは決して珍しくありません。先祖代々の墓が既にある、というケースもありますが、大切なことは「どの墓に入るのかを、生前に決める」という点にあります。
遺志を反映できる
まず、生前にお墓を買うことで自分の遺志を反映できます。かつては、家ごとに先祖代々の墓があり、その家の子ども(主に男性)が跡継ぎ(墓守)としての役目を受け継いできました。
しかし、今は個々人がそれぞれの事情に合わせてお墓を選ぶ時代になっています。生き方が多様化し、一人暮らしの方や子供を持たない選択をする夫婦も増えた以上、「子に跡継ぎとして墓を守ってもらう」のが全てではありません。また、子供がいても負担をかけないために、墓じまいをした上で自分は別のお墓を用意するという方もいます。
加えて、現在は様々なお墓から、自分に合ったものを選ぶことが可能です。生前から自分の意思を反映させたお墓の準備を済ませれば、万が一のとき、死後に周囲が、あなたにとって不本意な形で進めるリスクを減らすことができます。
家族の負担を軽減できる
生前にお墓を用意すれば、家族が決める必要はなく、負担を大幅に軽減できます。
生前にお墓の計画を立てることで、遺族の精神的、経済的負担を軽減することが可能です。生前にお墓を用意しなかった状態でもしものことが起きた場合、遺族は先祖代々のお墓に入れるか、別にお墓を用意するかの選択を迫られます。仮にお墓があっても「遠方にある」「嫁ぎ先との関係で子に墓守りされるのは現実的ではない」などの理由で、その選択が困難な場合もあるでしょう。
ただでさえ家族が亡くなると相続税の申告や遺品整理などすべきことは山積みです。お墓の準備まで加わると相当な負担になり、家族の衝突が起きるかもしれません。家族の死後、お墓をはじめとした親族付き合いを絶つため死後離婚を活用することもあります。
終活の基本について
相続税を減らすことができる
生前にお墓を買うのは相続税対策としても有効です。
相続税法では、お墓を含む祭祀用財産は非課税財産とされています(相続税法12条)。生前にお墓の購入や管理に要する費用を準備しておけば、相続税の課税対象となる遺産の総額を下げておくことができます。
これによって遺産の総額が基礎控除の額(3000万円+600万円×法定相続人の数)以下になるなら、相続税はかかりません。遺族がお墓の心配をする必要はなくなるうえに、節税もできて一石二鳥です。
お墓を選ぶときの判断基準やポイント
次に、お墓を選ぶ際の判断基準やポイントについて解説します。
お墓は単なる遺骨の収納場所ではなく、故人を偲び、生きた証を残す場所としての意義も有しています。家族・親族・友人・知人にとっても大事な場所のため、慎重に選ばなくてはいけません。
跡継ぎの有無
お墓には管理する方が必要なので、跡継ぎがいる場合といない場合とでは選び方も変わってきます。
自分たちが希望するお墓に跡継ぎが必要かは事前に確認しましょう。跡継ぎが既に決まっているなら、その意見も聞きながら決められることも、生前にお墓を決める利点の1つです。どうしても墓参りや管理をする人が見つけられないなら、それらの不要な墓の種類を選ぶしかありません。
宗旨宗派の選択
お墓は宗教との結びつきが深いものなので、信仰している、もしくは、檀家になっている宗教や宗派があるなら、お墓や戒名に関する決まりを確認しましょう。決まりを無視してお墓を買ったり、戒名を考えたりするとトラブルを招くので気を付けてください。寺院墓地や寺院内の永代供養塔、寺院や教会などの納骨堂を考えている場合は特に注意が必要です。
一方、これといって信仰している宗教や宗派がない、宗教にとらわれたくないなら民営墓地や公営墓地を選ぶこともできます。
予算の設定
お墓を選ぶ際は予算も重要なポイントになります。
まず、墓地に墓石を建てるお墓の場合、予算は100万円~300万円程度と考えましょう。これらは墓石費、工事費、土地代、維持管理費などの合計額です。使用する石やお墓を建てる場所によって相場に幅がありますが、墓石を大きくしたり、デザイン性の高いものにしたりする場合は、これよりも費用がかかる可能性があります。
一方、集合墓、共同墓、納骨堂、樹木葬など、墓石を建てないお墓や埋葬法は、費用を安く抑えられます。ロケーションや設備次第ですが、数万円~数十万円程度で済みます。お墓の予算を考えるにあたり、終活でかかるお金の全体像を把握して計画する必要があります。
終活におけるお金について
アクセスのしやすさ
お墓がアクセスしやすい場所にあるかも確認しましょう。
跡継ぎがいる、家族に墓参りに来てもらう予定がある場合は特に立地が重要になります。高齢になり車が運転できなくなったり、足腰が弱ってきたりした場合でもお墓参りができるよう、交通の便はしっかり確認しましょう。チェックすべきポイントをまとめました。
- 自宅からの距離
- 最寄りの駅、バス停からの距離
- 徒歩で行った場合の道路状況(坂道の勾配や車の往来)
- 車でのルートや所要時間
- 駐車場の有無や駐車台数
「最寄り駅から車で1時間半」など、あまりにアクセスが悪い場所に一族のお墓がある場合は、墓じまいを検討することもできます。
お墓の種類と特徴
一口にお墓や埋葬法といってもさまざまな種類があり、それぞれに特徴があります。わかりやすくまとめました。
種類 | 概要 | 跡継ぎ(墓守) |
---|---|---|
家墓 (いえはか) | 寺院墓地や公営墓地、民間墓地を契約し、墓石や墓碑を建てる。いわゆる昔ながらのお墓。 | 必要 |
個人墓 | 墓石や墓碑を建てるところは家墓と同じだが、故人だけもしくは故人とその配偶者だけが入る。 | 不要 |
納骨堂 | 遺骨を安置するための施設。ロッカー式、棚式、仏壇式など形態は多種多様。 | 施設により異なる |
樹木葬 | 墓石を建てず、木の下に納骨するお墓。1人1区画の場合が多いが、家族であれば数名で使えることもある。 | 施設により異なる |
集合墓 | 個々の骨壺のまま納骨を行うが、他の遺骨と一緒に納められるのが特徴。霊園や寺院によっては「合葬墓」「合祀墓」「合同墓」と呼ぶケースもある。 | 施設により異なる |
永代供養墓の知識とメリット
そもそも永代供養とは、寺院や墓地の管理者に遺骨を預け、供養や管理を行う手法を指します。いわば、永代供養墓とは承継者がなくても使える一代限りのお墓といったところです。
以下の条件に当てはまる場合、永代供養墓を選んでも問題ないでしょう。
- 子がいない、親族付き合いがないなどの理由でお墓の継承者がいない
- 家族にお墓の管理をさせたくない
- 他の方と合祀されることにあまり抵抗はない
逆に、以下のいずれかに当てはまる場合、永代供養墓はあまり向いていません。
- 他の方と合祀されるのに抵抗がある
- 将来的に改葬(お墓の引っ越し)を考えている
- 家族や親族から理解が得られない
かつては永代供養墓というと個人墓を設けず、すぐに供養塔などに合祀されるものを指していましたが、現在では「33回忌を過ぎたら合祀される」など一定期間は個別に入るものもあります。 一定期間は個別に入る永代供養墓であれば、お墓の形態を好みで選ぶことが可能です。寺院、施設により異なりますが、個人墓、納骨堂、樹木葬、集合墓といったものが用意されていることが多いので、確認してみてください。
お墓探しの方法
お墓探しをする場合の基本的な流れは、以下の通りです。
予算を決める
最初に、予算を決めましょう。家墓、個人墓など、墓石を建てるお墓は費用が高くなりがちなので、予算を抑えたいなら樹木葬や納骨堂など、墓石を建てないお墓も検討しましょう。また、墓石も規格墓と注文墓のどちらを選ぶかで値段が変わるので注意が必要です。
- 規格墓
ある程度サイズや形、デザインが決められているもの。 - 注文墓
形やデザインを自由に決められる墓石。
注文墓の例として、音楽好きの方がピアノなど楽器をモチーフにするなど、デザインにこだわることができますが、その分値段は高くなります。なお、統一感をもたせるため、デザイン性の高い注文墓を建てられない墓地もあるので事前に確認してください。デザインに問題がなくても、区画の面積との兼ね合いで建てられないケースもあります。
予算がわからない場合は、自分がお墓に求める条件を書き出し、一度墓地や石材店に相談するのをお勧めします。以下の点の希望をまとめ、石材店や墓地で見積もりを依頼します。
- 墓石は建てるか建てないか
- 規格墓と注文墓のどちらにするか
- 注文墓の場合はどのようなデザイン、石材を使うか
- 墓地の広さ、立地
条件に合致するお墓の予算を見積もってくれるので、それを参考に予算を決めお墓探しをしてください。予算があまり割けない方は、樹木葬や納骨堂など、墓石を建てないお墓を選ぶと予算を抑えることができます。
終活にかかる費用について
継承者を決める
継承者とは簡単にいうと跡継ぎ(墓守)です。子など墓の管理をしてくれる方がいるかどうかで、選ぶべき墓の種類も変わります。継承者がいない場合は、継承者がいなくても利用できる、家墓以外のお墓を選びましょう。
また、家墓など継承者が必要なお墓を建てるなら、継承者になる家族に話して理解を得る必要があります。法律上、墓を継承する方の性別に関する決まりはありません(民法897条 )。しかし「子はいるが、娘は他の家に嫁いでいる」など頼みづらい事情があるなら、特に早いうちから話をしておかなければなりません。
実際に現地を見てから決める
ここまで決めたら、実際に見学に行きお墓を選びましょう。お墓参りに行く家族の都合も考える必要があるため、スケジュールを合わせて一緒に下見に行くのをお勧めします。ただし、現地での見学のほか、相談や移動の手間を考えると、回るのは1日に2、3ヶ所にしておくのが現実的です。
また、話し合う際の参考のために写真を撮ったり、パンフレットをもらったりしましょう。同じ日など、できれば見学から時間を空けずに話し合うのをお勧めします。話がまとまらないなら、弁護士などの専門家に話を聞いてみるのもひとつの選択肢です。
決めたお墓を家族に伝える
最後に、お墓を決めたら、家族に伝えましょう。遺言書を作成するのが最善ですが、終活を早めに初めた方など、まだ時間的な余裕が残されている場合には、エンディングノートにお墓のことをメモすることから始めてみてください。
せっかくお墓を決めたのに、家族に伝えていないうちに死亡しては、終活のメリットは生かせません。
遺言書の基本について
終活におけるお墓選びの注意点
お墓は決して安くないうえに、自分以外の家族にも深く関連するものなので、何となく選ぶとトラブルのもとになります。以下の点に注意し、自分や家族が納得できるお墓を選びましょう。
既にお墓がある場合その扱いを考える
既に菩提寺があり、自分が墓守になっている場合、他の方が継承しない限りは墓じまいせざるを得ません。その際は、親族や菩提寺の住職に相談しましょう。「外檀家」といって、寺院内に墓を持たず、法要の際には都度出張してもらう形で関係を保つのも一つの方法です。自分が墓守でない場合も、親族に独立する旨を伝えて理解を得る必要があります。
一緒にお墓に入る人と話し合う
一緒にお墓に入ることを希望する家族がいるなら、事前の話し合いが非常に重要です。
墓地やお墓の種類によっても、入れる人数は変わります。配偶者と入りたいなら、人数に関する扱いを確認しましょう。また、内縁関係のパートナーとお墓に入りたい場合も、墓地により扱いが異なります。規約で「血縁関係者のみ」と明記されているなら困難ですが、「親族及び縁故者」などの記載なら入れる可能性があるので事前に相談しておくのをお勧めします。
親の終活で子供がすべきことについて
契約期間を確認する
永代供養を選ぶ場合に注意したいのが契約期間です。
永代供養といっても、遺骨を永久に個別管理・供養してくれるわけではなく、契約期間が過ぎれば遺骨は自動的に他の方のものと合祀されます。できるだけ長く個別に管理・供養して欲しい場合は特に、以下の点について確認してください。
- 具体的な契約期間
- 契約更新の可否
- 契約更新した場合の追加費用
- 契約期間のカウント方法
終活とお墓についてのよくある質問
最後に、終活とお墓についてのよくある質問に回答しておきます。
お墓がない場合には遺骨はどうなる?
故人が死亡後に、お墓がなかった場合でも、遺骨の扱いは決めなければなりません。急いでお墓を用意して納骨先を決める方法のほか、散骨や永代供養墓、合祀墓を利用したり、一度自宅で保管しておく方法もあります。
遺骨はいつまで家に置いておける?
遺骨を家で保管できる期間に、法律上の制限はなく、基本はいつまででも構いません。ただ、保管状況によっては腐ったりカビが生えたりするので、風通しを良くしてください。家族の負担になるのは間違いなく、生前に納骨先となるお墓を決めるのがお勧めです。
まとめ
今回は、終活で考えておくべき「お墓」のことについて解説しました。
お墓は、生前にはあまり考えが及ばないかもしれませんが、人が死亡した後には必ず考えなければなりません。そして、終活において早めに決めておかなければ、その手間や労力は、残された家族が負うこととなり、大きな負担となります。
今回解説したポイントをもとに、まずは自分の心の中でよく考え、その気持ちをエンディングノートに書いてみてください。もう少し進んで、近い将来に死期が迫っている場合は、判断基準やポイントをもとに、実際にお墓を見に行き、気に入ったら契約する、といった手順で進めてください。