相続が発生したとき、さまざまな書類が必要となりますが、その中でも「戸籍謄本」と並んで重要なのが「印鑑証明書」です。では、なぜ相続で印鑑証明書が必要か、理由を理解していますでしょうか。
日本では、「印鑑を押すこと」の重要性が非常に高く、特に「実印」は重要視されています。この「実印」を証明するのが印鑑証明書ですが、相続における印鑑証明書の役割を、正しく理解してください。
特に、意思表示をしたことを示す重要な事実の1つである「実印」と印鑑証明書の管理をしっかりして、盗用・悪用にご注意ください。
今回は、相続手続きを数多く行う司法書士が、相続で印鑑証明書が必要な場面と、印鑑証明書の取り方について、わかりやすく解説します。
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印鑑証明書とは?
印鑑証明書とは、市町村や法務局、裁判所が発行する印鑑登録証明書という証明書です。市町村などに登録された印鑑(これを実印といいます)の陰影を証明する書類です
つまり、相続手続きなどで、「印鑑証明書が必要」ということは、「実印を押印する」ということになります。
書類に押印された印鑑の印影と印鑑証明書に印刷された印影が(ほぼ)一致することで、その印鑑証明書に記載されている人物が、真意にもとづいてその書類に実印を押印したのであろうと、法律上とりあつかわれます。
印鑑証明書の重要性
印鑑証明書は非常に重要な書類です。印鑑証明書を、無用に第三者に預けてしまうと、悪用されても、法律上、実印が押印され、印鑑証明書がある場合、その書類に押印したことを否定することは、きわめて困難です。
たとえば、不動産の売買契約書に実印が押印され、印鑑証明書が添付されている場合、そんな契約をしていないと言って、契約の履行を拒否するのは不可能です。
3Dプリンター等の技術の発達で、印鑑証明書に印刷された印影から、印鑑を偽造することも、以前と比べて簡単になっているそうです。印鑑証明書を預けるときは、最新の注意を払わなければなりません。
印鑑証明書の必要な場面
一般的な生活の中で印鑑証明書が必要なことは、会社の代表など頻繁に重要な契約を交わす方でもないとないでしょうが、相続では、印鑑証明書が頻繁に必要となります。
印鑑証明書は、相続の場面以外では、不動産の売買や賃貸借契約締結、不動産の所有権者の名義変更、自動車の名義変更などの場面で必要書類となります。
印鑑証明書の悪用に注意
相続では、印鑑証明書を人に預けることがあります。たとえば、委任状で金融機関の預貯金残高を調べるといった手続きを委任できますが、この場合、士業などでなくても預金残高を調べることができます。
このとき、委任状に実印を押印して、印鑑証明書を預けることになりますが、委任状を改ざんされて、悪用されることも十分に考えられます。ですので、相続の手続きは信頼できる第三者(特に、専門の士業)に任せるべきです。
印鑑証明書の悪用を避けるための予防策は、遺産分割協議書の作成前に渡すのではなく、遺産分割協議書に押印をしてから印鑑証明書を渡すべきです。
可能であれば、相続人全員が一堂に会して、全員の目の前で遺産分割協議書に署名押印し、その時に印鑑証明書を渡すのが良いです。
なぜ、相続手続きで印鑑証明書が必要になるのか?
では、「印鑑証明書とはそもそもどのような書類なのか」を理解していただいたところで、相続手続きで印鑑証明書が必要になる理由を、司法書士が解説します。
印鑑証明書が必要となる理由
相続人が二人以上いる相続手続きでは、どの遺産を誰が取得するかを決めるため、相続人全員で遺産の分割について話し合い(遺産分割協議)を行います。遺産分割協議の結果にしたがって、各相続人が遺産を取得します。
被相続人の現金や美術品などの動産でしたら、書面を作る必要はなく、話し合いがまとまったら、そのまま運んでしまうことが可能です。
しかし、不動産登記や自動車登録等の役所や、金融機関の預貯金の解約の場合はそうはいきません。役所などに対して、遺産分割協議の内容がわかるよう書類(遺産分割協議書)にする必要があります。
遺産分割協議書は私文書ですので、本当に遺産分割協議書に相続人全員が署名押印したかどうかを、役所などが知ることができません。そこで、相続人全員の印鑑証明書を添付することで、相続人全員でその協議書を作ったことを証明することになりました。
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相続人全員の印鑑証明書が不要な相続手続き
以上のとおり、相続手続きで印鑑証明書が必要となる理由は、遺産分割協議書に、相続人全員が真意で押印したことを証明するためです。
そのため、遺産分割協議書に間違いがないことが簡単にわかる場合は、印鑑証明書を添付する必要はありません。相続手続きにおいて、印鑑証明書が不要となる手続きは次のとおりです。
ポイント
- 遺産分割協議書が公正証書で作られている場合
- 家庭裁判所の遺産分割調停調書や審判書により遺産分割する場合
また、相続手続きであっても、次のような遺産分割が必要ない(遺産分割とは関係ない)手続きについても、当然、相続人全員の印鑑証明書を添付する必要がありません
ポイント
- 相続人が一人の場合(そもそも遺産分割協議の必要がありません)
- 保険金の請求(受取人が指定されている場合、受取人が被相続人となっている場合は、必要になることもあります)
- 遺族年金の請求
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遺言書が存在する相続手続き
遺言書が存在する場合には相続人全員の印鑑証明書は、原則不要になります。なぜ遺言書が存在する場合には印鑑証明書が不要かというと、遺産の分け方が、遺言ではっきりしているからです。
しかし、例外的に相続人以外の人が不動産を取得する場合は、手続の構造上、相続人全員の印鑑証明書が必要になってしまいます。
相続放棄するとき
相続人が家庭裁判所に対して相続放棄の申述をすることで、最初から相続人ではなかったことになります。したがって、そもそも相続人ではないので、印鑑証明書を取得する必要がありません。
しかし、遺産分割協議によって、財産を一切相続しないことにする場合は決めると遺産分割協議書に実印を押印する必要があるので、印鑑証明書も必要になります。
鑑証明書が必要な具体的な場面とポイント
では、次に相続手続きにおいて、印鑑証明書が必要な場面とその際のポイントを、司法書士が解説します。
不動産の相続登記をするとき
相続登記とは、不動産の登記名義人がお亡くなりになって相続が発生したときに、登記名義を相続人に変更することをいいます。一般的には、所有権の登記名義を相続により変更することをいいます。
相続登記を申請するとき、遺産分割協議書の一部として相続人全員の印鑑証明書が必要となります。相続人全員の印鑑証明書が必要ですので、不動産を取得しない相続人であっても印鑑証明書を準備しなければなりません。
通常の不動産登記申請と違い、遺産分割協議書に添付する印鑑証明書は原本を返却してもらうことができるので、他の相続手続きに使いまわすことができます。
相続手続きで用意しなければならない印鑑証明書は、一般的に、発行後3か月以内のものに限られる場合が多いですが、相続登記で必要となる印鑑証明書には、特に有効期限はありません。
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預貯金の払戻手続きをするとき
相続財産の中でも、預貯金をお持ちでないという方は少ないでしょう。預貯金の払戻手続きのときにも、印鑑証明書が必要になります。
預貯金の払戻手続きでも、相続登記の場合と同様に、遺産分割協議書に相続人全員の印鑑証明書を添付して行います。
以前は遺産分割協議書とは別に、金融機関指定の預貯金の払戻請求書に、相続人全員の実印を要求する金融機関もありましたが、最近ではあまりありません。
払戻手続きの場合も、不動産の相続登記と同様に、印鑑証明書の原本を返却してもらえる場合が多いです。有効期限は各金融機関によりまちまちですが、3か月から6か月以内である場合がほとんどですので、事前に確認してください。
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相続税の申告・納付のとき
相続税の申告・納付のとき、税務署に提出する必要書類にも、遺産分割協議書を添付する限り、相続人全員の印鑑証明書が必要になります。
相続登記と同様に印鑑証明書の有効期限はありませんが、原本の返却をすることができないため、印鑑証明書をまとめて取得するときは、取得する枚数に注意が必要です。
戸籍が取得できない場合
最近ではあまりありませんが、自然災害や戦争などで過去の戸籍が消滅していて、被相続人の戸籍の一部が取得できないことがあります。
戸籍が取得することができない旨の市町村の証明書とその部分の戸籍はないけれども、相続人全員で間違いありませんという趣旨の相続人全員の証明書を作成することがあります。
この相続人全員の証明書にも、実印を押印して、印鑑証明書を添付することが必要となります。
印鑑証明書がない場合、相続の対応方法は?
相続で、印鑑証明書が、非常に重要な書類となることはご理解いただけたでしょうか。一方で、遠方であったり病気、高齢で、印鑑証明書の準備が難しい場合や、そもそも印鑑証明書の用意をすることができない場合があります。
外出が困難で印鑑証明書をとれない人は、弁護士、司法書士などの専門家に代理を依頼していただく手もありますが、次に紹介する2つのケースでは、そもそも印鑑証明書を用意することができません
印鑑証明書のない人が相続人となったときでも、相続手続きは行わなければなりません。印鑑証明書がなくても可能な相続手続きの進め方について、司法書士が解説します。
未成年者が相続人の場合
印鑑登録をすることができる年齢は、15歳以上とされています。したがって、15歳以上の未成年者であれば、印鑑証明書を取得することは可能です。
しかし、未成年者の場合、判断能力が未熟であると考えられていて、未成年者だけでは遺産分割の協議をすることはできません。
未成年者の親権者が法定代理人となって、遺産分割協議をすることになりますが、多くの場合、親権者もその遺産分割協議に参加する相続人であることが多く、法律上は、利害関係が対立してしまいます。
そのため、未成年者の利益を保護するために、その遺産分割協議をするための特別代理人を選任するよう家庭裁判所に申立をして、特別代理人が未成年者のために遺産分割協議をすることになります。
この場合、遺産分割協議書に署名押印するのは未成年者ではなく、親権者又は特別代理人になります。印鑑証明書のご準備も、その親権者又は特別代理人の印鑑証明書を添付することになります。
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未成年者の特別代理人が必要なケースは、こちらをご覧ください。
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海外居住者が相続人の場合
印鑑登録の制度は、登録する人の住民票のある市町村に印鑑を登録して、その印影を証明する制度です。したがって、日本国内に住所がない人(海外居住者)は、印鑑登録をすることができません。
この場合、印鑑証明書に代わる方法として、在外領事館での署名証明(サイン証明)を利用します。署名証明(サイン証明)とは、領事館の職員の前でサインをして、その職員が間違いなくその人が署名したことを証明する制度です。
印鑑証明書に代わる署名証明(サイン証明)には二つの方法があり、単に署名のみを証明してもらう方法と、遺産分割協議書に署名をしてもらい、その遺産分割協議書に証明文を追加してもらう方法があります。
印鑑証明書の取り方
相続手続きで、印鑑証明書が必要となるとき、印鑑証明書の取得は、弁護士、司法書士などの専門家に任せなくても、自分で行うことができます。
印鑑証明書の取り方は、いくつかの方法があります。日中に仕事をしていて市区町村役場に行けないかたでも、印鑑証明書を取得できる方法がないか、役所に事前に確認しておくとよいでしょう。
市町村役場に直接行く方法
住所地の市町村役場に、実印又は印鑑カードを持参して、印鑑証明書を取得できます。
仕事で市町村役場の営業時間にいくことができない場合、夜間窓口などの対応をしている市区町村もありますので、確認してみてください。
市町村の役場や出張所の証明書発行機で取得する方法
印鑑登録の際に、印鑑カードを発行してもらうことができます。このカードがあれば、役場や役場の出張所等に置いてある証明書発行機で取得できます。
証明書自動交付機などを利用すれば、夜間や土日祝日であっても、印鑑証明書を取得することができます。
コンビニのコピー機で発行する方法
住基ネットカードやマイナンバーカード(通知カードではなくICカード)を持っている場合は、コンビニのコピー機で、印鑑証明書を取得できます。
住所地の市町村が対応していれば、コンビニのコピー機でも、印鑑証明書を取得できる場所もあります。
印鑑証明書をコンビニで取得することのできる市区町村は、こちらでお調べください。
相続手続きは、「相続財産を守る会」にお任せください!
いかがでしたでしょうか。
今回は、印鑑証明書という、あまりなじみのない書類が、相続を行うときには非常に重要で、何度も必要となるため、必要な場面と取り方について、相続手続きに詳しい司法書士が解説しました。
相続手続きは、印鑑証明書や戸籍謄本をはじめ、必要となる公的書類が多く存在するため、収集をするだけでも手間と時間が多くかかります。
相続手続きを多く取り扱う司法書士に、一任していただくことにより、相続手続きを円滑かつミスなく進めることができます。
「相続財産を守る会」では、相続手続きを常時多数取り扱う司法書士が在籍し、皆さまの相続をスムーズに、かつ素早く進めるお手伝いをしています。