親から借金をしただけで税金を課税されることはないですが、借金の貸し手が親であることから、「実際にはお金をあげたのと同じだ」と税務署に目をつけられると、この借金が「贈与」となり「贈与税」がかかるおそれがあります。
人生には、次のように、親からお金を借りる機会が、しばしば訪れます。
よくある相続相談
- 結婚するときの結納金が足りない
- マイホームを建てたい
- 子供が大学にいくときの学費が足りない
本来であればお金を借りなければならない大変な状況なのに、「贈与」とみなされると高い税金がかかります。仮に500万円の贈与だと贈与税は48万5000円(20歳以上の子が親から贈与を受けた場合)にもなります。
家族間、親子間のお金の貸し借りや贈与は、相続のタイミングでもよく起こりますし、相続税の生前対策の一環として「贈与」が提案されることもありますが、正しく理解しなければ、損する相続になりかねません。
今回は、税金の専門家である税理士が、贈与とみなされないための財産移転のポイントを解説します。
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親子間の借金は「贈与」?
親子間でお金を渡すとき、よほどのことがない限り、厳しく督促したり、正確に利息計算をしたりといったことはされないのが通常です。この点、赤の他人にお金を貸すときとは異なります。
親子間、家族間であるがゆえに融通が利いたり、返済が滞ってもとくに催促がなかったり(ある時払い)、無利息だったりといったメリットがあることは、その借金が「贈与」であるとみなされやすくなる原因となります。
特に、客観的に、親から借りた借金を返済している事実が証拠として残っていないと、贈与と判断され、贈与税の対象となってしまう可能性が高まります。
親子間でまとまったお金を渡す場合の対処方法
親子間でまとまったお金を渡す方法の一つに親からの借金がありますが、借金の方法を間違えると、「贈与」とみなされる可能性があります。
もし仮に、最初から「贈与」とみなされることが明らかなのであれば、できるだけ贈与税が安く済むように、贈与税の特例を使ってお金を渡す方法もあります。贈与税の特例として、次の4つが利用できます。
贈与税の特例
相続時精算課税制度
:60歳以上の父母や祖父母などから20歳以上の子や孫に対し、贈与する場合に2500万円までの特別控除を受けることができる制度(相続時に贈与財産は相続財産とみなされ相続税の課税対象になる)
住宅取得資金贈与の非課税制度
:父母や祖父母などから子や孫に対し、住宅購入資金に充てるための資金を一括贈与する場合に、贈与税が非課税となる制度
教育資金一括贈与の非課税制度
:父母や祖父母などから子や孫に対し、教育資金に充てるための資金を一括贈与する場合に、贈与税が非課税となる制度
結婚・子育て資金資金の非課税制度
:父母や祖父母などから子や孫に対し、結婚・子育て資金に充てるための資金を一括贈与する場合に、贈与税が非課税となる制度
贈与税の特例は、まとまった金額を贈与しても贈与税が非課税となるメリットがありますが、相続時精算課税制度では相続税が課税されるデメリットがあったり、他の非課税制度でも贈与資金の使途が限定されるデメリットがあります。
あくまでも親子間の借入とするのか、贈与として贈与税の特例を使うのかは、その方のお金を渡す事情にもよりますので、最適な方法を選択できるように税理士に相談しながら進めてください。
贈与とみなされないように借金するポイントは?
では、思わぬ贈与税の課税を受けて損をしてしまわないように、親子間の借金が、税務上も「借金」であって、贈与税の対象ではないものと認めてもらうために、注意しなければならないポイントを税理士が解説します。
金銭消費貸借契約書・借用書を作成する
家族や親子でない第三者と借金をするとき、金銭消費貸借契約書、借用書などに、借金の金額や返済日、利息などの条件を記載することが一般的です。
むしろ、自分が借金の貸し手側だと考えると、赤の他人にお金を貸すのに、書面の1つもかわさず口約束でお金を渡すのはとても怖いことでしょう。
他方で、親子間の借金の場合には書面なくお金を授受することが少なくありませんが、贈与とみなされないためには、第三者と結ぶのと全く同じように、金銭消費貸借契約書、借用書を交わして証拠化することが重要です。
また、金銭消費貸借契約書、借用書には、借入額に応じた印紙を貼る必要があります。以下では、イメージしやすいよう、親子間で借金するときの金銭消費貸借契約書の例を示します。
「相続財産を守る会」では、相続税に強い税理士以外に、弁護士も在籍し、契約書を法的な立場からもしっかりチェックできます。本解説の契約書部分の解説は、弁護士が監修しています。
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浅野英之"]
弁護士法人浅野総合法律事務所、弁護士の浅野です。「金銭消費貸借契約書」部分の解説は、私が監修しています。
当事務所では、相続問題を得意として取り扱っています。相続問題を解決するためには、必ずしも「争いごと」、「争続」にならなかったとしても、契約書作成が必要となる場面があります。
相続税の生前対策を円滑に、かつ有効に進めるためには、法的に適切な契約書を作成する必要がありますので、弁護士にご相談ください。
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貸主 相続太郎(以下、「甲」という)と借主 相続一郎(以下、「乙」という。)は、次の通り金銭消費貸借契約を締結した。
第1条
甲は乙に対し、本日、金1000万円を貸付け、乙はこれを受領した。
第2条
乙は、甲に対し、前条の借入金1000万円を、○○年○○月から平成○○年○○月まで、毎月末日限り、金10万円ずつ、甲の指定する金融機関口座に振り込んで支払う。なお、振込手数料は乙の負担とする。
第3条
利息は年5%とし、毎月末日限り当月分を前条と同様の方法で支払う。
第4条
乙が、第2条の分割金又は第3条の利息を1回の支払を1度でも怠ったときは、甲からの通知催告なく乙は当然に期限の利益を失い、直ちに元利金を一括で支払う。
乙が、期限の利益を失ったときは、以後完済に至るまで、乙は甲に対し、残元金に対する年14.6%の割合による遅延損害金を支払う。
第5条
本契約に定めのない事項が生じたとき、又はこの契約条件の各条項の解釈につき疑義が生じたときは、甲乙誠意をもって協議の上解決するものとする。
第6条
本契約に関する一切の紛争は、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とすることに合意する。
以上、本契約成立の証として、本書を2通作成し、甲乙は署名押印の上、各1通を保管する。
貸主(甲)
住所 東京都中央区銀座〇〇
氏名 相続太郎
借主(乙)
住所 東京都中央区銀座〇〇
氏名 相続一郎
借金を返済した証拠を残す
親子間の借金について、金銭消費貸借契約書や借用書などがあったとしても、実際には全く返済が行われていないケースでは、「そのお金はあげたに等しい」と評価されるのは当然です。つまり、借金が贈与とみなされます。
親子間、家族間でも、金銭の授受が「借金」なのであれば、返済するのが当然です。金銭消費貸借契約書、借用書に定めた返済方法、返済期限にしたがって返済してください。
借金返済するときに注意しなければならないのは、返済をした証拠を残すということです。必ず、銀行振込で、子名義の口座から、親名義の口座に借金を返済し、証拠化してください。
法的にいえば、現金で返しても、更には、逆に親が子に負っている債務と相殺して帳消ししても「借金を返済した」ことにはなりますが、これらの方法は、しっかりと証拠に残りません。
法定金利を支払う
借金には、「利息(利子)」がつきものです。親以外の第三者に借りるとき、たとえば、クレジットカードローン、消費者金融、住宅ローンや自動車のローンには、すべて利息がつきます。闇金など、違法な高金利で借金させる悪徳業者もいます。
しかし、親子間では、利息(利子)をつけないことがあります。「子どもから儲けてもしかたない」という親も多いでしょうが、無利息や、法定金利より安い金利だと、金利分の金額を贈与したものとみなされるおそれがあります。
法定金利は、個人間の借金であれば民法に定められた年利5%、事業に関する借金であれば商法に定められた年利6%が適用されますので、この法定金利を目安に、親子間、家族間の借金の利息を決めてください。
たとえば・・・
子供がマイホームを建てたいというとき、「住宅ローンを組むと金利がつくのがもったいないので、親が一括してお金を貸す。」というご家族がいます。
しかし、住宅ローンだったらつく利息を、親子間の借金ではつけないとなると、その利息分は贈与をしたこととみなされても仕方ありません。
現実に返済可能な金額・返済期限を決める
親子間の借金となると、ともすると借金する目的が先行し、そもそも現実的には返済が不可能な分割金額、返済期限を定めていることがあります。これでは「返す気のない借金」、すなわち贈与だ、とされて贈与税を課税されてもしかたありません。
例えば、次のような、現実的に返済が不可能なのではないかと思われる借用書、金銭消費貸借契約書は、贈与税を課税されることを覚悟すべきです。
注意ポイント
- 子の収入に見合わない、高額な分割返済を定めた借金
(例:年間の総返済額が、年収の40%を超える借金のケース) - 親が到底生きていない期間まで返済し続ける長期分割の借金
(例:80歳の親に対して、35年間で返済をする契約を結ぶ借金のケース)
借金が贈与とみなされてしまうと、贈与税はいくら?
では、親子間の借金が、以上の対策を怠ったがために「贈与」であるとみなされてしまった場合に、贈与税はどれくらいの金額になるのかについて、税理士が解説します。
贈与税は、年間110万円を越える金額の贈与に対して、次の計算式にしたがって算出することができます。
- 贈与税の金額
=(課税価格―基礎控除額110万円)×贈与税率―控除額
贈与税の税率と控除額は、次の速算表をご覧ください。
20歳以上の者が直系尊属から贈与を受けた場合[su_table]
控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | 0円 |
200万円を超え、400万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円を超え、600万円以下 | 20% | 30万円 |
600万円を超え、1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,000万円を超え、1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
1500万円を超え、3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
3000万円を超え、4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4500万円超 | 55% | 640万円 |
[/su_table]
上記以外の場合[su_table]
控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | 0円 |
200万円を超え、300万円以下 | 15% | 10万円 |
300万円を超え、400万円以下 | 20% | 25万円 |
400万円を超え、600万円以下 | 30% | 65万円 |
600万円を超え、1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1000万円を超え、1500万円以下 | 45% | 175万円 |
1500万円を超え、3000万円以下 | 50% | 250万円 |
3000万円超 | 55% | 400万円 |
[/su_table]
上記の相続税の速算表は、現在の最新版です。
以上の計算式と表を参考に、借金と評価することは到底困難なほどの多額を借りる場合などであっても、贈与税ができるだけ有利になる贈与の方法は、税理士にご相談ください。
親が死んだら、借金はどうなる?
親子間、家族間の借金と、相続の問題で、よくある質問は、「親が死んだら、親子間の借金はどうなるのですか?」というものです。
親子間に借金があるときに、親がお亡くなりになってしまったときの対処法は、ケースによって異なるため、今回の解説をご覧いただいても不安なときは、相続に詳しい弁護士に相談してください。
相続人が1人の場合
相続とは、プラスの財産である相続財産(遺産)だけでなく、マイナスの財産である相続債務(借金など)も同時に相続することになるため、親が亡くなってしまうと、子は、「自分に対する借金を相続する」という状態になるからです。
この場合、法律の専門用語で「混同」という状態が生じて、親子間の借金は消滅します。具体的には、借金の貸し手(債権者)と、借り手(債務者)が同じ人になった結果、返す必要がなくなります。
親子間の借金について贈与とみなされないよう、きちんと金銭消費貸借契約書、借用書を交わし、利息を付して、現実的に可能な計画で返済し続けたとしても、親が亡くなれば、返済する必要がなくなるのです。
相続人が複数人の場合
しかし、相続人が複数いる場合には、借金を借りたのは1人の子ですが、借金の貸し手(債権者)の地位は、相続人全員に分割されることになります。その結果、親から借金をした子は、他の共同相続人に対して借金を返済しつづけなければなりません。
この場合、その借金は、「借金を返してもらえる」という意味で経済的な価値があるため、相続税の課税対象となるおそれがあります。
相続人が複数いて、親子間の借金が相続されることで起こる問題を回避するためには、次の2つの方法が考えられます。
ポイント
- 借金の内容を示す金銭消費貸借契約書・借用書に、親が亡くなったときは借金の返済を免除することを定めておく
- 親の相続において、借金については借りた子が相続するように遺産分割する
相続税申告は、「相続財産を守る会」にお任せください!
いかがでしたでしょうか?
今回は、相続のときによく問題となる、親子間の借金が贈与とみなされてしまう問題について、その対応策を税理士が解説しました。
親子間の借金が贈与とみなされ、贈与税が課税されてしまうと、税額はかなり高くなります。せっかく、相続税の生前対策としておこなった行為が、贈与税がかかることで無に帰すおそれもあります。
「相続財産を守る会」に所属する税理士は、相続税に強く、死後の相続税申告・納付をサポートするだけでなく、生前から、より有利な借金による財産移転、より有利な家族間の贈与などについても、総合的にアドバイスできます。