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不動産の権利証を紛失したときの対応について解説

不動産の権利証はとても大切な書類であり、紛失するとトラブルにつながります。しかし、相続の場面では、権利証がなくなってしまいがちです。そもそも親が権利証を保管していなかったり、どうしても遺産のなかから探せなかったりして、権利証のない不動産を承継することはよくあります。

不動産の権利証は、再発行できませんが、最悪は、なくてもその後の手続きを進めることができます。とはいえ、権利証がないことをきっかけに、遺産分割が紛糾したり、相続登記が遅れてしまったりして、故人の名義のまま放置される不動産も少なくありません。

今回は、不動産の権利証を紛失したり、そもそも相続時点で存在しなかったりするとき、どのような対応が可能か解説します。

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そもそも不動産の権利証とは

まず、不動産の権利証とはどのようなものか、解説します。

権利証とは、ある不動産について所有権などの権利の登記がされたことを証明する書類です。不動産の売却や、住宅ローンの借り換えなどの場面で権利証を利用します。よく、ドラマなどで「借金のカタに権利証を取り上げる」といった場面を見るでしょう。権利証はそれだけ重要な書類です。ただ、権利証だけ持っていても、不動産を取得したことにはなりません。

不動産の権利証には、次の情報が記載されます。

  • 権利を取得する原因(売買や贈与)とその日付
  • 権利を取得した人の住所氏名
  • 権利を取得した不動産の情報

不動産の権利証は、正式名称を「登記済証」と呼びます。「登記済権利証」「権利証」「権利書」などという通称もあります。

B4(A4)用紙が束になった書類で、書類の最後に「登記済」という法務局のスタンプが押され、その登記申請日と受付番号が記載されます。

不動産は、大きく分けて土地と建物に分類されます。土地と建物は別の不動産ですが、中古不動産の場合には、土地と建物が同じ権利証であることが一般的です。戸建て住宅の建売購入など、土地と建物を一括して取得すると、双方の権利証が1部にまとめられることもあります。

相続登記において権利証が必要なケース、不要なケース

相続登記において、不動産の所有権を示す大切な資料である権利証は、不要なのが原則です。そのため、紛失してしまったとしても相続手続きは進められます。ただ、例外的に必要となるケースもあります。

権利証は不要なのが原則

相続登記では、原則としては不動産の権利証は不要です。念のため、相続登記に必要な書類を示しておきます。

  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
  • 相続人の戸籍謄抄本
  • 不動産を取得する相続人の住所証明書

ただし、あくまで一般的な例であり、遺言が存在したり、相続人が1名だったりする場合、省略できるものもあります。

例外的に権利証が必要なケース

原則として、相続登記に権利証は不要と解説しました。戸籍や住民票を提出することで十分な場面が多いですが、例外的に、不動産の権利証が必要となる場面があります。

例えば、権利証を要するのは次のケースです。

  • 相続人以外の人を受遺者とする遺言書があるとき
  • 登記上の住所が、被相続人の住所(または本籍地)と異なり、登記上の住所から転居したことがわかる住民票や戸籍の附票が存在しないとき

第一に、相続人以外の人を受遺者とする遺言があると、相続人の全員又は遺言執行者が、被相続人の代わりに、遺贈による所有権移転登記を申請します。この場合には、通常の売買や贈与の登記申請と同じく、権利証を添付する必要があります。

第二に、登記上の住所が変更されている場合にも、権利証を要するケースがあります。住民票は、各市町村において除票になった後5年保管されますが、それ以降は破棄されます。5年を超えて長いこと相続登記せず放置された不動産の登記には、権利証が必要となる可能性が高いです。なお、以前は権利証がある場合にも上申書が必要とされていましたが、平成29年以降は、権利証があれば上申書は不要、というのが実務的な扱いです。

相続登記の手続きについて

不動産の権利証を紛失してしまったときの対応

では、権利証が必要な相続登記なのに、紛失してしまって手元にない場合、どう対応したらよいでしょうか。結論として、最終的には権利証が手元になくても、不動産の登記簿上の所有者と、亡くなった方(被相続人)とが同一人物であることを証明できれば、登記は進められます。

そのため、次の書類を収集することで、不動産の登記簿上の所有者と被相続人との同一性を、法務局に対して証明することとなります。

  • その不動産についての固定資産税納税通知書や名寄帳と相続人の上申書
  • 登記上の被相続人の住所についての不在住・不在籍証明書と相続人の上申書

相続人の上申書は、相続人全員で作成するのが原則ですが、非協力的な相続人がいる場合には、その人以外の全員で作成したものでも構いません。

新しい権利証(登記識別情報)について(法改正)

2004年の不動産登記法の改正によって、これまでの紙の権利証から、新しい形態に改められることになりました。それが「登記識別情報」です。登記識別情報は12桁の英字と数字を羅列した組み合わせでできあがったパスワードのようなものです。

登記識別情報は、相続人など、相続で不動産を取得した人にだけ交付されます。登記識別情報を他人に知られてしまうと、相続した不動産を第三者に勝手に売却される危険がありますから、家族といえど軽々に伝えてはいけません。登記識別情報の記載部分は目隠処理がされているので、第三者に盗み見られることのないようそのままにして保管ください。

新しい権利証として登記識別情報が活用されるようになった後も、従来の形式の不動産の権利証が無効になるわけではありません。手元にある古い権利証も大切に保管してください。

所有権の登記には、登記識別情報とともに実印、印鑑証明書が必要なため、識別情報だけでは不正な登記はできません。

とはいえ、紛失した際は法務局に申し出ることにより、不正登記防止申出制度や登記識別情報の失効制度を利用できます。

新しい権利証(登記識別情報)も紛失してしまったら?

登記識別情報は数字とローマ字の羅列なので、情報さえ覚えていれば、書面がなかったとしても登記手続きが可能です。しかし、登記識別情報も既に紛失して手元にない場合の対応についても知っておいてください。

本人確認書類を作成する

まず第一に、司法書士に本人確認情報を作成してもらう方法です。本人確認情報は、不動産の権利証の代替となる書類であり、これがあれば権利証がなくても登記できます。

本来、権利証は重要であり、所有者本人が持っているのが当然です。しかし、手元になかったとしても、相続人が相続登記するなら、戸籍謄本などで「相続人であること」を強力に証明できるので、問題はありません。司法書士という資格者が本人であると担保することで、法務局は相続登記に応じてくれることとなっています(司法書士費用は数万円〜10万円)。

事前通知の制度を利用する

第二に、事前通知の制度を利用する方法です。事前通知は、登記申請の際に、所有権の登記名義人が権利証または登記識別情報を持っていないときに、その登記申請について名義人本人の意思を確認するために、法務局から申請人に対して郵便で意思確認をする手続きです。

事前通知制度を利用する場合、登記申請後すぐに所有権登記名義人に「登記申請をしたこと」と「自分が確かに登記申請をしたことを申し出る旨」の通知がされます。通知書発送から2週間以内に、法務局に間違いない旨を申し出れば、登記申請が受理されます。

司法書士による本人確認情報と比べ、特別な手数料はかかりませんが、通知書を郵送するなどの手間から、通常の申請よりも、登記完了までに時間がかかります。

公証人に本人確認してもらう

最後に、公証人に、登記申請書や申請の委任状に「確かに本人が署名した」という認証文を付与してもらうことで権利証の代わりとすることができます。

資格者代理人の本人確認情報と比べると、手数料が数千円と安く済みますが、事前予約して公証役場に出向く手間がかかります。

まとめ

不動産の権利証は、非常に重要な書類であることを理解し、しっかり保管してください。しかし、相続してから数年後に登記する場合など、もはや手元にないケースも多いことでしょう。

相続では、そもそも、不動産自体が、遺言や被相続人のメモなどによってかろうじて発見できるケースすらあります。不動産の権利証が見つからなくても仕方のないことです。このようなときこそ、経験豊富な司法書士の対応が必要です。

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