★ 相続の専門家の正しい選び方!

親子間の借金は「贈与」?贈与税を回避・減額する方法を税理士が解説

親から借金をしただけで税金を課税されることはありません。しかし、借金の貸し主が親だと「実際にはお金をあげたのと同じだ」と税務署が目をつけ、この借金を「贈与」とみて贈与税を課せられることがあります。

進学や結婚、マイホーム建築など、ライフイベントの要で、親からお金を借りる機会はしばしば訪れます。借りなければならないほど苦境なのに、贈与税がかかってしまっては大変です。親子間の貸し借りや贈与は、相続の前後でよく起こるので、正しく理解し、損しないように注意しましょう。

今回は、贈与とみなされないための財産移転のポイントを解説します。

目次(クリックで移動)

親子間の借金は「贈与」?

親子間でお金を渡すとき、よほどのことがない限り、厳しく督促したり正確に利息を計算したりといったことはないのが通常です。この点で、赤の他人に貸すのとは大きく異なります。

家族であるがゆえに融通が利き、返済が滞っても「ある時払い」が許されたり、無利息だったりといった点はメリットですが、その借金が「贈与」だとみなされやすくなる要因ともなります。特に、客観的に、親からの借金を返済している事実が証拠として残っていないと、贈与と判断されやすく、贈与税の対象とされてしまう危険があります。

贈与とみなされないように親から借金するためのポイント

では、思わぬ課税を受けないよう、親子間の借金が、税務上も「借入」であり「贈与」ではないと認めてもらうために、注意すべきポイントを解説します。

金銭消費貸借契約書・借用書を作成する

家族や親子でない第三者と借金をするときは、書面で証拠化することが多いでしょう。一方で、親子間の借金だと、書面なく金銭を授受することが少なくないですが、贈与とみなされないためには、他人と契約するときと同じく書面化するのが大切です。

具体的には、金銭消費貸借契約書、借用書などを作成し、次の事項を記載してください。

  • 借入の金額
  • 返済日
  • 利息、利率

また、金銭消費貸借契約書などには、借入額に応じた印紙を貼る必要があります。金銭消費貸借の書式を示すので、状況に応じて修正し、活用ください。

金銭消費貸借契約書

貸主 相続太郎(以下「甲」という)と借主 相続一郎(以下「乙」という)は、次の通り金銭消費貸借契約を締結した。

第1条 甲は乙に対し、本日、金1000万円を貸付け、乙はこれを受領した。

第2条 乙は甲に対し、前条の借入金を、20XX年XX月から20XX年XX月まで、毎月末日限り金20万円ずつ、甲の指定する金融機関口座に振り込んで支払う(振込手数料は乙負担)。

第3条 利息は年3%とし、毎月末日限り当月分を前条と同様の方法で支払う。

第4条 乙が第2条の分割金又は第3条の利息の支払を1度でも怠ったときは、甲からの通知催告なく乙は当然に期限の利益を失い、直ちに元利金を一括で支払う。乙が期限の利益を失ったときは、以後完済に至るまで、乙は甲に対し、残元金に対する年14.6%の割合による遅延損害金を支払う。

第5条 本契約に定めなき事項が生じたとき、又は本契約条件の各条項の解釈に疑義が生じたときは、甲乙誠意をもって協議の上解決する。

第6条 本契約に関する一切の紛争は、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とすることに合意する。

本契約成立の証として、本書を2通作成し、甲乙は署名押印の上、各1通を保管する。

20XX年XX月XX日

貸主(甲)
 住所
 氏名

借主(乙)
 住所
 氏名

借金を返済した証拠を残す

次に、親子間の借金では、貸し借りの証拠はあっても実際には全く返済がされていないことがあり、これでは「あげたに等しい」と評価されても仕方ありません。家族であっても、金銭の授受が「借入」ならば返済するのが当然であり、金銭消費貸借契約書に定めた方法と期限にしたがって返済しなければなりません。

借金の返済をするときは、その証拠を残すよう注意してください。家族だからといって現金で渡すのではなく、子の口座から親の口座へ銀行振込するなどして証拠化してください。

法定金利を支払う

借金には利息がつきものです。親以外の第三者に借りる場合や、銀行や消費者金融、住宅ローンなど、あらゆる場面で利息がつくでしょう。利息がないことを期待して親に借りるのでは、その借金は贈与とみなされやすくなるため、利子はつけておくべきです。

2020年4月施行の改正民法により、現在の法定利率は、取引などの種類を問わず年3%とされています。実務上は、市場金利なども考慮して、1〜2%程度の利子を付けることが多いです。

現実に返済可能な金額・返済期限を決める

親子間の借金では、「お金が足りない」という借りる目的が先行し、そもそも現実に返済不能なほどの多額の借入をすることがあります。また、借用書を作っても、分割金額や返済期限に無理のあるケースも少なくありませんが、これでは「返す気がない」つまり贈与だとみなされてしまいます。

例えば、次の場合、現実的ではないと考えられ、贈与税を課されるおそれがあります。

  • 子の収入に見合わない高額な借金
    例:年間の総返済額が、年収の40%を超えるケース
  • 親が到底生きないだろう期間までの長期分割
    例;80歳の親と35年分割の返済を約束するケース

借金が贈与とみなされてしまうと、贈与税はいくら?

では、ここまでの対策をしてもなお、贈与とみなされてしまった場合に、贈与税がどれほどの金額になるかを検討しましょう。贈与税は、年110万円を超える贈与額に対し、次の計算式で算出されます。

  • 贈与税 = (課税価格 - 基礎控除110万円) × 贈与税率 - 控除額

贈与税の税率と控除額は、次の速算表をご覧ください。

【18歳以上の者が直系尊属から贈与を受けた場合】

※ 「18歳」とあるのは、令和4年3月31日以前の贈与については「20歳」

スクロールできます
基礎控除後の課税価格税率控除額
200万円以下10%なし
200万円超え、400万円以下15%10万円
400万円超え、600万円以下20%30万円
600万円超え、1,000万円以下30%90万円
1,000万円超え、1,500万円以下40%190万円
1,500万円超え、3,000万円以下45%265万円
3,000万円超え、4,500万円以下50%415万円
4,500万円超え55%640万円
参照:国税庁タックスアンサー No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)

【上記以外の場合】

スクロールできます
基礎控除後の課税価格税率控除額
200万円以下10%なし
200万円超え、300万円以下15%10万円
300万円超え、400万円以下20%25万円
400万円超え、600万円以下30%65万円
600万円超え、1,000万円以下40%125万円
1,000万円超え、1,500万円以下45%170万円
1,500万円超え、3,000万円以下50%250万円
3,000万円超え55%400万円
参照:国税庁タックスアンサー No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)

  

以上の計算式と表を参考に、借金と評価するのが困難なほどの多額のお金を借りなければならない場合も、贈与税ができるだけ有利になるよう計画する必要があります。

親子間でまとまったお金を渡す場合の対処方法

親子間でまとまったお金を渡す方法に、親からの借金がありますが、やり方を間違えると「贈与」とみなされる危険があります。もし最初から「贈与」だと明らかなら、できるだけ贈与税を安く済ませるために、親や祖父母との間で利用できる贈与税の特例を使って資金を移転する対策をとれます。

  • 相続時精算課税
    60歳以上の父母や祖父母から18歳以上の子や孫にする贈与について、2500万円までの特別控除を受けられる制度(贈与財産は相続財産とみなされ、相続税の課税対象となる。令和6年からの贈与については、毎年110万円までの贈与は相続財産への加算は不要)
  • 住宅取得資金贈与の非課税
    住宅購入資金に充てるための資金を一括贈与する場合に、贈与税が非課税となる制度
  • 教育資金一括贈与の非課税
    教育資金に充てるための資金を一括贈与する場合に、贈与税が非課税となる制度
  • 結婚・子育て資金の非課税
    結婚・子育て資金に充てるための資金を一括贈与する場合に、贈与税が非課税となる制度

以上の特例は、まとまった金額を贈与しても税金がかからないメリットがあるものの、相続時精算課税では相続時に課税されるため、どちらが得か計算しなければなりません。また、他の非課税制度も、贈与した資金の使途が限定されるデメリットがあります。

親が死んだら親からの借金はどうなる?

最後に、親子間の借金をしていた場合によくある質問、「親が死んだら親からの借金はどうなりますか?」というものに回答しておきます。ケースによって対処法が異なるので、場合分けして説明します。

相続人が1人の場合

相続では、プラスの財産だけでなくマイナスの財産(相続債務)も同時に相続するので、親が亡くなると、子供は「自分に対する借金を相続する」という状態になります。

このとき、相続人が1人ならば、借り主と貸し主が、共に自分のみ、という状況になり、親子間の借金は消滅します(法律用語で「混同」といいます)。債権者と債務者が同じ人になった結果、返済する必要がなくなるからです。

相続人が複数人の場合

これに対し、相続人が複数いる場合、ある1人の子が借りた借金の債権者の地位は、相続人全員に分割して承継されます。その結果、自分との関係では返済する必要はありませんが、他の相続人に対しては、その相続分にしたがった割合で、借金を返済し続けなければなりません

この場合に、相続された借金には経済的な価値があり、相続税の対象となる可能性もあります。相続人が複数いるケースで、親子間の借金から生じる問題を回避するには、遺産分割の際に、借金については借りた子が相続するように相続人間で合意する方法が有効です。

なお、借金の帳消しや、遺産分割時の配慮によって得をすることになる分、もらう相続財産を少なくするなど、他の相続人との公平のために調整が必要となります。

まとめ

今回は、相続の際に問題となる、親子間の借金が「贈与」とみなされる問題と、その対策を解説しました。親子間の借金は「贈与」とみなされやすく、そうすると贈与税が課税され、税額が高くなります。最初から贈与だと考えれば利用できていたはずの特例も使えません。

せっかく相続税を減らす努力をしようとしても、贈与税がかかることで無に帰すおそれがあります。より有利な借金による財産移転、家族間の贈与について、税理士のアドバイスを聞くようにしましょう。

目次(クリックで移動)