相続税がかかるかどうかは、複雑な計算が必要となりますが、相続のことを考えるにあたっては、まずは簡単に調べる方法を理解しておきましょう。
相続税は、相続財産の金額によって異なります。具体的には、遺産が、相続税法の定める「基礎控除」の金額の範囲内であれば相続税はかかりません。一方で、相続税法は度々改正されており、被相続人の死亡日を基準として、どの改正法の基準が適用されるかを知らなければ、正しい税額の計算をすることができません。
また、相続税を安くする節税対策、相続税をかからなくする免税措置といった専門知識によって税金を減らすことも、正しい相続税の額を知るのには重要です。
今回は、相続税がかかるかどうか、簡単に知る方法を、税理士が解説します。
相続税がかかるかどうかを知る3つのステップ
相続税の相談例のなかには「うちの家族はさほど裕福ではなかったので、相続税はかからないだろう」という人も少なくありません。しかし、通帳に記載された預貯金が少なくても油断してはいけません。不動産やタンス預金など、実際には財産があって、思わぬ相続税がかかってしまうこともあります。
本解説の通り、相続財産の金額が3600万円を超える場合は、相続税がかかる可能性が高いです(相続人が1人の場合)。この3600万円というのは、決して「お金持ちだけ」というイメージではありません。そこで、相続税がかかるかどうかを簡単に知る方法を、3つのステップに分けて解説します。
なお、あくまで簡易に知るための方法なので、実際の相続が生じた際には、正確に知るために、税理士にご相談ください。
相続人を確定する
相続税がかかるかどうかを簡単に知るために、まず、相続人の人数を確定することが重要です。後述する基礎控除額を算定するには、相続人の人数が基準となるからです。基礎控除額は「3000万円 + 相続人の人数 × 600万円」なので、相続人が1人違うだけで、基礎控除額に600万円の差が出ます。
民法の定める相続人を「法定相続人」と呼びます。法定相続人の考え方では、配偶者は必ず相続人となり、これに加え、①子・孫、②直系尊属(両親・祖父母)、③兄弟姉妹という優先順位で、順位の最も高い1つの続柄の人が相続人となります。法定相続人を調査するために、亡くなった方(被相続人)の出生から死亡までの戸籍謄本を収集して、相続関係図を作成してください。
相続手続きに必要な戸籍収集について
相続財産を調査し、評価する
次に、相続税の対象となる相続財産の評価額を調査する必要があります。相続財産には、プラスの財産に加え、借金などのマイナスの財産(いわゆる「相続債務」)も含みます。したがって、遺産全体の価値は、プラスの財産の額から、マイナスの財産の額を控除した合計額です。
- 不動産
土地、自宅、マンションなど - 預貯金
- 現金
- 生命保険金
- 死亡退職金
- 有価証券
株式(上場・非上場)、投資信託、債権(社債・国債) - 動産
自動車、事業用機械、貴金属など
まず、抜け漏れのないよう全ての財産を一覧にしてください。その上で、預貯金や現金など、金銭換算が容易な財産の評価額は、市場価格で算定します。
しかし、不動産や非上場株式のように、時期によって価値が変動する財産の評価は一義的には困難なため、税理士に相談することをお勧めします。ご自身で概略を掴みたい場合には、土地については固定資産税評価額に8/7を乗じた金額を評価額としていただくと、おおよその土地の評価額を把握することができます。
正確に算定する場合には、その場所、面積、用途などによって大幅に変わるため、必ず専門家にご相談ください。
相続財産調査について
基礎控除額を計算する
最後に、基礎控除額を計算します。相続税の基礎控除は、一定以上の財産のある人にだけ相続税を支払わせるために、それ以下の財産の人は相続税を免除する制度です。
基礎控除は、次の計算方法で計算されます。2015年の法改正により変更されているため注意してください。
- 基礎控除額 = 3000万円 + 相続人の人数 × 600万円
したがって、相続人1人なら3600万円、相続人2人なら4200万円です。この基礎控除額と比べて、調査した相続財産と相続債務の合計の方が多額であれば、相続税がかかることが明らかになります。
相続税の負担は減らすことができる
以上の3ステップで、相続税がかかるかどうかを簡易に判別できます。
しかし、実際に支払う相続税をもっと安くする方法があります。相続税に強い税理士なら、家庭の状況、遺産の内容に合わせ、税負担をできるだけ軽減する対策のために、次のような提案が可能です。
配偶者の税額軽減
配偶者とは、結婚している夫婦の一方(つまり夫または妻)のことです。配偶者は、そのパートナーの財産によって扶養されている場合、財産を相続しても、相続税を支払わせるのは酷なことがあり、税負担が軽減される制度が設けられています。
具体的には、次のいずれか多い方の金額に達するまでの相続財産について、配偶者に相続税はかかりません。
- 1億6000万円
- 配偶者の法定相続分相当額
1億6000万円までであれば、配偶者に全て相続させるなら、相続税は非課税ということになります。配偶者の税額軽減は、基本的には有利な制度ですが、ただし、配偶者の相続(いわゆる「二次相続」)での税負担も考慮して適用しないと、一次相続と二次相続のトータルでの負担で、かえって多額になる危険性があります。
小規模宅地の評価減
相続財産のうち、特に土地の評価額は、評価の方法によって大幅に変化します。この最たる例が、小規模宅地の評価減という制度です。
この制度は、自宅や事業用(貸付事業を含む)で使用していた宅地を、相続税の算出において実際の評価額よりも低額に評価する制度です。ただし、不動産の用途に応じて一定の要件を満たす必要があるため、「小規模宅地に該当するかどうか」は専門的な知識を要する判断です。
二次相続など、長期的な相続を踏まえると、土地を分割して相続することによって小規模宅地の評価減を有効活用することができます。
相続税を申告・納付しないとどうなる?
今回は、相続税がかかるかどうかを簡単に知る方法を解説しました。相続税がかかるのに、納付せずに放置していると大きなデメリットがあり、取り返しのつかない事態になってしまいます。そのため、相続が発生したことがわかったら、まずは簡易な方法でもよいので、相続税がかかるかどうかをチェックしましょう。
相続税の申告と納付は、相続開始を知ったときから10ヶ月以内に行う必要があります。相続税を申告しないと、延滞税、無申告加算税といったペナルティを追加で課されます。
相続税がかからない場合にも、前章で解説した配偶者の税額軽減、小規模宅地の評価減といった減税の特例を利用するには、相続税の申告をする必要があります。そのため、特例を知らず、利用していないと、余計な相続税を支払わなければならなくなります。
まとめ
相続税法は年々改正され、最近では増税傾向だと言われています。「相続する財産はそれほどない」と安心していた方も、相続税を申告しないと損してしまう危険があります。
「自分は相続税がかかるだろうか」という疑問は、税理士に相談すべきです。ただ、忙しい方にとってすぐに税理士に相談する時間もないことがあるため、本解説をもとに、相続税がかかるかどうかを簡単に知る方法を理解し、まずは自分で相続税を計算してみてください。
なお、本解説をもとに相続税がかかりそうな場合には、ぜひ一度税理士に相談ください。税理士の相続に関する知識によって、相続税が数百万円、数千万円単位で変わることもあります。