生前贈与は、相続対策において重要な役割を果たします。財産を次世代に移転するにあたり、相続が開始されるまで待つことなく、効果的な承継を可能とします。
ただ、生前贈与の方法によって財産を移すには、適切な契約書を作成しなければならず、贈与契約書が必須となります。契約書を作成することによってプロセスを証拠に残し、紛争に備える必要があるからです。法的に有効な契約書とするには、
今回は、生前贈与の契約書について、その基本から作成方法、注意点などを、書式を示して解説します。安心して生前贈与を行い、相続時に起こる将来の紛争を防ぎましょう。
生前贈与の基本と契約書の必要性
まず、生前贈与がそもそもどのような手続きかを知り、契約書の必要性についてよく理解してください。
生前贈与とは
生前贈与とは、個人が生存中に、自身の財産を他人に無償で移転することを指します。
生前贈与の主な目的は、財産を効率的に管理することにありますが、最も大きいのが、相続税負担の軽減という対策にあります。これによって、家族間の財産の分配を長期的に計画し、円滑に進めることができます。生前贈与をしておけば、相続時の手続きがシンプルになり、遺産分割における争いを減らすことに繋がります。
最大の利点は相続税の軽減。というのも、死亡時まで有した財産にかかる相続税より、生前の贈与にかかる贈与税は低額で、かつ、様々な非課税の特例が利用できるからです。贈与税は、受贈者1名につき年110万円まで非課税とされるため、この範囲では相続より前に毎年贈与しておくのが有利です(いわゆる暦年贈与)。
生前贈与契約書の重要性
生前贈与では、契約書を作成しておくのが紛争防止に特に重要です。
生前贈与契約書は、贈与の目的や条件、対象財産、両当事者の権利と義務を記録する重要な文書です。契約書なしに口頭でも贈与は成立しますが、契約書は証拠として重要な役割があります。
契約書があることで贈与の意図を明確にし、将来的な誤解や紛争のリスクを大幅に減らせます。特に、生前贈与契約書を作成する場面は、トラブルになったころには贈与者が死亡して相続になっており、改めて意思を確認できない例が多いです。また、税務申告でも、贈与の事実を証明する重要な書類となります。
リスク軽減に役立つ、法的に有効な契約書を作成するには、弁護士のアドバイスを受けるのがお勧めです。法的に贈与であると評価できない誤った相続税対策は、後日に税務署に否認されるおそれがあります。契約書で贈与だと明らかにしておかないと予想外の課税リスクがあるわけです。
また、生前贈与を繰り返した人が亡くなると、その贈与が不公平であると考え、特別受益を主張して争う相続人が出てくることが容易に予想されます。
特別受益の計算方法について
生前贈与の契約書の書き方【書式付き】
次に、生前贈与の契約書の書き方について、書式付きで解説します。契約書には決まった書き方はありませんが、有利に進めるには守るべきポイントがあります。
生前贈与契約書の書式
生前贈与契約書の書式は、次のものを参考にしてください。なお、あくまでひな形なので、家族や財産の状況に応じて修正、追記してご使用ください。
贈与契約書
贈与者相続太郎(以下「甲」という)と受贈者相続一郎(以下「乙」という)は、本日以下の通り贈与契約を締結した。
【現金を贈与する場合】
第1条 甲は乙に対し、現金XXX万円を贈与することとし、乙はこれを承諾した。
第2条 甲は乙に対し、第1条に基づき贈与した現金を、20XX年XX月XX日限り、乙の指定する乙名義の銀行預金口座に振込む方法で贈与するものとする。
記
金融機関名:○○銀行
支店名 :○○支店
口座の種別:普通預金
口座番号 :XXXXXX
以上
【不動産を贈与する場合】
第1条 甲は乙に対して、甲所有の下記不動産(以下「本件不動産」という)を贈与することとし、乙はこれを承諾した。
記
所在 東京都〇〇区〇〇
地番 〇〇番〇
地目 宅地
地積 XX.XX平方メートル
以上
第2条 甲は乙に対し、第1条に基づき本件不動産を20XX年XX月XX日限り引き渡し、所有権移転登記手続きを完了する。所有権移転登記にかかる費用は乙負担とする。本件不動産に発生する公租公課は、登記日までに発生した分を甲、登記日の翌日以降に発生した分を乙の負担とする。
以上の通り贈与契約が成立したことを証するため、本契約書を2通作成し、甲及び乙の署名押印の上、各1通を保有する。
20XX年XX月XX日
東京都XX区……
贈与者(甲) 相続太郎 印
東京都XX区……
受贈者(乙) 相続一郎 印
生前贈与契約書に必ず記載すべき事項
まず、生前贈与契約書に記載すべき基本的な事項については、必ず書いておきましょう。贈与は、誰が、どの財産を、誰にいつ贈与するか、といったことを記載しておかなければなりません。
- 当事者の情報
贈与者と受贈者を特定する情報を記載します。 - 贈与をする財産の情報
贈与の対象となる財産を特定できる情報を記載します。不動産であれば所在地や面積など、預貯金であれば金融機関名や口座番号などを、登記簿や通帳から正確に転記します。 - 贈与の条件
贈与が無償であるか、または負担付きであるかを記載します。 - 作成日
契約書の作成日を明らかにし、贈与日を特定します。 - 署名押印
最後に、契約書が真意にしたがって有効に作成されたことを証するために署名し、押印をします。
その他に、必須の事項ではないものの、相続に向けた生前贈与をする際には、他の相続人を納得させるために、贈与の目的や背景、その意図などを詳しく記載しておくのがお勧めです。
未成年者に贈与する場合
相続の対策として生前贈与するとき、その相手は子や孫になり、未成年となることがあります。未成年に贈与するときには特有の注意点があります。未成年は、単独で契約を締結することができず、親権者が法定代理人としてあわせて署名押印する必要があります。
そのため、未成年に生前贈与する契約書には、親権者である両親署名欄を作成して、連名で署名押印をします。
生前贈与契約書の作成手順
生前贈与契約書を作成する手順について、ステップで解説します。
贈与する資産を評価する
まず、贈与する対象となる財産の評価を行います。贈与税の計算をはじめ、将来の資産計画に大きな影響があるためです。不動産であれば不動産鑑定士、株式であれば公認会計士といった専門家のサポートを受けます。
受贈者と話し合い、同意を取り付ける
贈与は、当事者間の合意で成立しますから、贈与者と受贈者で話し合い、贈与の目的を伝え、条件のすり合わせを行います。相続対策としての贈与の場合、両当事者で誤解があると将来の禍根を残してしまいます。
贈与契約書の作成と署名押印
合意できたら、贈与契約書を作成し、双方が署名押印します。贈与を確実なものにするために、公正証書化することもできます。
生前贈与契約書の作成は複雑なプロセスであり、特に大きな資産や複雑な家族関係が絡む場合には、専門家のアドバイスを求めるのが賢明です。このとき、契約書は、贈与の意図を明確にし、将来的な誤解や紛争を防ぐための重要なツールとなります。
生前贈与契約書の注意点
次に、生前贈与契約書を作るにあたり注意すべき点を解説します。
連年贈与とならないようにする
暦年贈与をするにあたり、税務署に否認されやすいのが連年贈与となってしまっているケースです。暦年贈与が、毎年非課税枠である110万円に満たない財産を贈与し続ける方法ですが、連年贈与とみなされると、一括贈与と同じく評価され、贈与税がかかってしまいます。
税務署から連年贈与と評価されないためには、贈与契約書は必須となります。この際に、贈与の月日をずらしたり、毎年違う財産、異なる金額を贈与したりといった工夫が必要です。
不動産の資産評価に注意する
生前贈与の方法で不動産を贈与するとき、年間110万円の非課税枠を超える可能性が高く、贈与税がかかるケースが多いでしょう。そのため、その資産評価にくれぐれも注意が必要です。贈与税と相続税では、控除できる額や特例が異なるため、どちらが得か、税理士のアドバイスを聞いてください。
また、不動産を贈与するときには、贈与税以外にも、登録免許税や不動産取得税、登記にかかる司法書士費用など、多くの出費があり、気軽には進められません。
長期的な管理と事後のコミュニケーションが重要
相続の生前対策として贈与を活用する場合、早く始めるほど、相続の開始までにはまだ時間のある場合が多いでしょう。このとき、長期的な計画で贈与を進める必要があるので、財産の管理もまた長期に及びます。贈与者、受贈者のいずれが管理するにせよ、財産が目減りしない運用の計画が大切です。
また、相続開始までの間に、贈与者と受贈者はもちろん、その他の家族や親族ともよく話し合い、コミュニケーションを継続することによって、相続のトラブルを未然に防ぐことができます。
生前贈与契約書についてよくある質問
最後に、生前贈与契約書についてよくある質問に回答します。
生前贈与契約書に印紙は必要?
印紙は、契約書に貼り付けることで印紙税を支払う手段となります。贈与契約書の印紙額は、次のように定められます。
- 不動産の贈与契約の場合:200円
- 不動産以外の贈与契約書:印紙は不要
贈与は無償で財産を渡す契約なので、不動産の価値が高くても、印紙は一律同額です。ただし、負担付き贈与の場合に、負担が重いと実質的には売買だと評価され、売買契約と同額の印紙を要すると判断されるおそれがあります。
生前贈与契約書の署名は手書き?
生前贈与契約書をはじめ、契約書の多くはパソコンで作成し、印刷します。この場合でも、最後の署名は手書きで署名し、押印するのがお勧めです。印字でもよいですが、個人間の贈与であれば、自筆で手書きしたほうが偽造や悪用のおそれがなく、契約書の信用性が上がるからです。
また、押印は実印でなくてもよく、認印や三文判でも構いませんが、偽造の容易なシャチハタは避けるのがよいでしょう。贈与額が高い場合には、実印を押して印鑑証明書を添付すれば、証拠としての価値が上がります。
まとめ
今回は、生前贈与契約書の作成のポイントを解説しました。生前贈与は、相続の場面での活用例が多いですが、成功するためには契約書が欠かせません。今回解説した書式、ひな形を参考に、必ず契約書を作成するよう心がけてください。
生前贈与を行うには、法務、税務の複数の側面からの検討が必須となります。いずれも相続まで見据えた長期的な計画となるため、必ず専門家に相談して進めるようにしてください。