印鑑証明書は、実印が大きな効力を持つ日本の文化的背景において、とても重要な役割を果たす書類です。役所や金融機関を中心とした多くの手続きにおいて、印鑑証明書が必要書類として求められています。
その一方で、印鑑証明書が重大なものだからこそ、不正に使用されると深刻な影響があります。印鑑証明書が悪用されると、不正な資金移動や財産の奪取、更には詐欺行為に繋がる危険もあります。リスクから身を守るには、印鑑証明書を管理し、不正使用の疑われる場面では迅速な対応が不可欠です。間違っても、必要のないタイミングで、不用意に渡してはなりません。
今回は、印鑑証明書の悪用リスクと、その危険を最小限に抑える対策を解説します。特に多くの書類が必要な相続の場面で、どのようなケースで印鑑証明書が必要かについても紹介します。
印鑑証明書の悪用とは
まず、印鑑証明書の悪用がどのようなときに起こるのか、よく理解してください。
印鑑証明書とは
印鑑証明書とは、市町村や法務局、裁判所が発行する印鑑登録証明書という証明書です。市町村などに登録された印鑑(つまりは「実印」)の印影を証明する重要な書類です。
印鑑証明書の必要なタイミングとはすなわち、実印を押し、その証明が必要な場面です。書類に押された印影と印鑑証明書の印影が一致することで、その書類をその人が押したということを法的に証明します。
悪用されるケースとその影響
印鑑証明書は非常に重要な書類なので、不用意に第三者に預けてしまうと、悪用されても文句はいえません。悪意ある人にとって印鑑証明書は悪用の格好の的です。実印が押印された書類と印鑑証明書がそろえば、あなたの意思に反する内容でも有効なものと扱われる危険があります。
印鑑証明書の悪用は、例えば次のような不正な取引や詐欺行為に利用されます。
- 他人の印鑑証明書を不正に取得した
- 預かっている印鑑証明書を悪用して不動産名義変更をした
- 印鑑証明書を用いて本人を偽り、不正な契約を締結した
このような行為は、財産権の不当な移転を引き起こし、被害者に大きな損害をもたらします。特に、相続手続きにおいては不動産の名義変更などの機会に印鑑証明書が頻繁に使用され、不正使用されるリスクはどうしてもつきまといます。
印鑑証明書は、実印とそろうと効果を発揮しますが、実印はその印影から偽造も可能です。更に、印鑑証明書と実印の悪用をすると、委任状を偽造し、白紙委任して様々な処分行為ができてしまう状態を作出できます。
印鑑証明書の必要な場面
印鑑証明書の悪用を避けるには、必要なタイミングでのみ交付するよう心がける必要があります。この重要な書類が特によく登場する相続手続きにおいて、印鑑証明書は多くの場面で要求されます。
印鑑証明書は、正しく使えば、自身の意思表示が正しいと端的に示す重要な効果を有する便利なものであり、相続手続きをスムーズに進めるのに欠かせません。しかし、いざ悪用されると、相続人の権利が侵害されるだけでなく、相続の問題を離れても大きな紛争に巻き込まれる危険があります。
そのため、印鑑証明書の管理と使用には細心の注意が必要となります。
印鑑証明書が悪用されないための対策
次に、印鑑証明書が悪用されないための事前の対策について解説します。
印鑑証明書を安全に管理する
まず、印鑑証明書を安全に管理することによって、悪用を防ぐ必要があります。そのためには、印鑑証明書の必要なタイミングを理解し、不必要に発行することを避け、必要最小限に留めるべきです。また、発行した印鑑証明書は、鍵付きのキャビネットや金庫など、安全な場所に保管し、間違っても机の上に出しっぱなしにしておくといったことのないようにしましょう。
必要な場面が済んだら、手元にある印鑑証明書は必ず破棄してください。第三者に預けたままにしておくことなく、不必要な通数だとわかったら必ず返却してもらいましょう。コピーを取ることも、偽造の可能性を上げてしまうため最小限にすべきです。
実印とは別に保管する
印鑑証明書の効果が特に強いのが、実印と合わさった場合です。そのため、盗まれたり奪われたりして悪用される危険を少しでも下げるには、実印と別に保管することが大切です。
相続時においても正しく活用する
相続手続きにおいては、印鑑証明書が特に頻繁に使用されるため、相続人間での情報共有が悪用を防ぐために重要です。渡したくなくても、交付さざるを得ないことがあります。このとき、相続に必要な印鑑証明書を渡すのはしかたないとしても、
- 誰に何通渡したのか
- 何に使用する目的で渡したのか
- どのような用途で使用してよいのか
といった点を明確にし、互いの同意のもので使用するよう、相互にチェックし、監視することが重要です。また、司法書士や弁護士などの相続手続きを代行する人に直接渡すようにし、対立する可能性のある親族などには渡さないといった工夫も必要です。資格を有する専門家であれば信頼でき、悪用される危険はありません。
不正使用が疑われる場合の対処法
次に、いざ印鑑証明書の悪用にあってしまったときに対処法を解説します。印鑑証明書の不正使用が疑われる場合は、速やかに対応する必要があります。
速やかに対処すれば、不正使用による損害の小さいうちに対処できます。被害の回復や、将来のリスクを軽減するため、適切な対応をしてください。
警察署への届出
まず、紛失した際には警察署に届出をしましょう。警察へ届け出たことは、いざ悪用によって不利益を被りそうになったときにも、紛失であることの証明となります。
役所での手続き
印鑑登録をしている市区町村役場に連絡し、印鑑登録を無効にするよう申請します。
印鑑登録制度は、個人が自身の印鑑を市区町村役場に登録し、その印鑑に関する証明書(印鑑証明書)を発行できるようにする制度です。これによって登録された印鑑はいわゆる「実印」としての効力を持ち、重要な契約や手続きにおいてその意思が真意に基づくものであると認められることとなり、また、身元保証や信用の証明にも使われています。
登録された印鑑は、悪用が分かった場合などには変更することができ、これにより、その後は、不正使用された印鑑証明書は無効となり、新たな悪用は防ぐことができます。
不正利用された提出先への連絡
不正利用がわかったら、その提出先には速やかに連絡し、悪用であることを告げ、影響が最小限に収まるよう努力しましょう。警察への届出などによって、不正使用であることを示す証拠を残し、説明資料として交付するのが適切です。
弁護士に相談する
印鑑証明書の悪用をもとに、法的な紛争に巻き込まれてしまう場合には、弁護士のアドバイスを求めるようにしてください。弁護士は、不正によって生じてしまった契約関係について、取り消しを求めて裁判をすることもできます。
相続に強い弁護士の選び方について
印鑑証明書についてよくある相談
最後に、印鑑証明書についてのよくある質問に回答しておきます。
印鑑証明書を取得できないときはどうする?
海外に居住している場合には印鑑証明書を準備できないため、在外公館の発行する署名証明を利用し、そのサインが本人の真意に基づくものであることを証明してもらって代用します。
印鑑証明書の有効期限はある?
印鑑証明書そのものには有効期限がありません。ただし、本解説のように悪用の危険があることから、提出先ごとに、発行日から3ヶ月〜1年程度に、使える期限を限定しているのが通例です。悪用であると疑われないためにも最新のものを取得しましょう。
印鑑証明書の取得方法は?
印鑑証明書は、マイナンバーカードがあればコンビニでも取得することができます。その他に、窓口でも交付されます。本人確認書類のほか、手数料として1通300円程度の実費がかかります。
まとめ
今回は、印鑑証明書という、あまりなじみのない書類が、実際には非常に大切な役割を果たすことから、その悪用の危険について対処すべきことを解説しました。
相続では、どうしても印鑑証明書を多く活用すべき場面が多く、第三者に渡さざるを得ないことありますが、できれば渡したくないことでしょう。司法書士や弁護士に手続きを任せることにより、相続人や親族に印鑑証明書を渡す機会を減らすことは、悪用をさせないための最大の対策となります。