特殊清掃を要する現場は凄惨で、緊急性の高いケースが多いもの。具体的な料金体系や費用を理解せずに依頼してしまう方もいます。家族の死に直面し、緊急で特殊清掃が必要な場面では、余裕がなくて業者選定に時間をかけてはいられず、焦って高いサービスを選んでしまう例もあります。
本解説では、特殊清掃の料金と、費用の相場や目安を、事例を踏まえながら解説します。
特殊清掃は、必要なシチュエーションごとに料金が異なるので、実際には個別の事例に応じた見積もりをする必要がありますが、大まかな目安も知らず、業者の言うなりになって見積もりをしては、相場より高めの費用を払ってしまうおそれがあります。
特殊清掃の内容
特殊清掃とは、通常の清掃のレベルを超えた、専門的な知識と技術を要する清掃を指します。孤独死によって腐敗した遺体、血液や体液といった特殊な汚れの除去といった特別な対応を含むため、自分で進めるのは危険が大きく、費用を払ってでも専門業者に依頼すべきです。
具体的には、特殊清掃は次のような作業を含みます。
- 遺体発見後の清掃
放置された遺体が分解されると液体や臭いが周囲に広がり、深刻な汚染を引き起こします。特殊清掃は、生物学的な汚染物を安全に除去し、現場を衛生的な状態に戻します。 - 生物学的な汚染物の除去
血液や体液といった生物学的な汚染物は、病原菌やウイルスの拡散を防ぐ特殊な方法で除去する必要があります。 - 臭いの除去
特殊清掃は、単に汚れを除去するだけでなく、強い臭いの源となる物質を特定し、専用の機材や薬剤を用いて根本的に除去します。 - 有害物質の処理
災害や事故の現場において、化学物質や有害物質の除去も特殊清掃の一貫です。適切な保護具を着用し、環境や人に悪影響を与えないよう処理する必要があります。
特殊清掃は、特別な状況への対応を要し、通常の作業よりも高度な知識、適切な機材と薬剤が必要です。プロの特殊清掃業者を依頼するメリットの大きい分、デメリットとして費用がかかります。
特殊清掃の料金はいくらかかる?
そこで、どうしても特殊清掃を頼むしかない現場において、その料金がいくらかかるのかを解説していきます。費用の相場と目安を知っておけば、緊急時でも焦ることなく適正な価格で依頼することができ、ぼったくりの悪徳業者を見抜く助けとなります。
特殊清掃の料金は、大きく分けて次の3つの要素によって決定されます。
作業場所の広さごとに決まる費用
まず、作業場所の広さごとに決まる費用については、次の通りです(なお、間取りと広さはあくまで目安であり、実際の現場の状況に応じて料金が異なることがあります)。
間取り | 面積 | 料金 |
---|---|---|
1R~1K | 約20㎡ | 10万円~ |
1DK | 約30㎡ | 15万円~ |
1LDK | 約40㎡ | 20万円~ |
2LDK | 約50㎡ | 25万円~ |
3LDK | 約70㎡ | 35万円~ |
作業内容のレベルで決まる費用
次に、作業内容のレベルによって決まる費用についても解説します。
まず、特殊清掃の最初に、人が入れるレベルにまで消臭をする必要があります。簡易消臭のみであれば、料金の相場は10万円前後が目安となります。次に、汚染の除去について、軽度の汚染であれば、かかる費用はおおよそ15万円〜50万円が相場となります。一方で、孤独死で長らく放置された場合など、重度の汚染の場合には50万円〜100万円ほどの料金がかかるケースもあります。
作業に必要な経費
作業に必要な経費についてお、顧客負担となることが多いです。必要な経費は、大きく次の3つにわけることができます。
- 現場に必要な経費
専用の薬剤、除菌・消臭機、洗浄機、大工工具、建物を保護するための機材、仕分けや梱包に必要な資材 - 現場以外に必要な経費
車両関係費、機材を管理する倉庫、使用した機材の洗浄費、電話代、薬剤や機材の調達費 - 人に関わる経費
作業人件費、作業員を守るための防具(防護服やマスク、手袋など)、保険関係
特殊清掃は、現場以外にも目に見えないところで、たくさんのお金が動いているのです。
追加料金が発生する場合とその理由
特殊清掃の内容によっては、どうしても追加料金が発生してしまうケースがあります。当初の見積もりの段階で、考えられる費用は全て説明するのが当然ですが、特殊清掃を要する危険な現場では予想外のことが起こりがちで、追加料金を全くのゼロにすることは難しいでしょう。
とはいえ、料金を正確に把握するには、追加料金が発生しやすいケースと理由を知る必要があり、もし追加請求を受けたら、必ず納得のいくまで説明を求めなければなりません。
例えば、追加料金が発生してしまうケースに次のものがあります。
汚染箇所が予想以上に広がっていた
アパートの2階で孤独死が発生したケースにおいて、当初は、汚染箇所があまり目立っていませんでしたが、いざ床を開口してみると床下に大きく汚染が広がっていました。更に、1階の天井付近にまで染み込んでしまっていたため、依頼者の同意のもと、急遽、清掃範囲を広げる必要が生じました。
- 【追加料金】清掃範囲の拡大 5万円
建物が老朽化し解体せざるをえなくなった
キッチン付近で亡くなった方の特殊清掃をしました。当初は、清掃だけで終わる予定でしたが、体液がキッチン下まで染み込んでいたのと、キッチン自体もかなり劣化していたという理由から、依頼主がキッチンを取り変えたいとの方針変更がありました。そのため、急遽特殊清掃に加え、キッチンリフォームの追加料金が発生しました。
- 【追加費用】キッチン取り換え 100万円
多額の遺産が出てきて相続関係の問題が発生した
こちらは少し特殊なケースです。特殊清掃と遺品整理を行ったさいに、故人様のお部屋から多くの財産が出てきました。相続関係の進め方がわからないとのことだったので、相続専門の士業を紹介しました。相談料はかかったものの、相続人同士がもめることなく、適切に財産を分配することができました。
- 【追加料金】弁護士の相談料11,000円/1時間
相続の専門家について
事例で理解する特殊清掃の費用の相場と目安【ケース別】
前章のように、特殊清掃の料金の決め方を知った上で、わかりやすくイメージしてもらうために、ケース別に、実際にかかった費用について解説します。
特殊清掃は、ケースによって金額が異なります。写真付きで解説しますので、自身の置かれた状況と比べて、費用の相場や目安を知る参考にしてください。
単身者の孤独死のケース
単身者が死亡すると、誰にも気付かれず長時間放置されてしまうことがあります。独居老人の孤独死が典型例です。このとき、遺体が腐敗し、液体が流れ出て、臭いが充満してしまいます。現場に染み付いた死の痕跡を除去するために、特殊清掃の必須な場面といえます。
【間取りと広さ】
- 1K
【作業内容】
- 孤独死現場の特殊清掃
- 遺品整理
- 貴重品捜索
- 消毒・除菌作業
- 脱臭機の設置
- クリーニング作業
【料金】
- 50万円
孤独死の清掃について
戸建て在住の夫婦の特殊清掃と遺品整理
特殊清掃に加えて、遺品整理を必要とする場面もあります。人が死亡すると相続が始まり、財産は後世に承継されます。しかし、故人の遺品が多いと、死亡直後にまず遺品整理をし、財産的価値のあるものとないもの、承継すべきものとゴミを分ける必要があります。
【間取りと広さ】
- 1戸建て(平屋)
【作業内容】
- 孤独死現場の特殊清掃
- 遺品整理
- 貴重品捜索
- 消毒・除菌作業
- 脱臭機の設置
- クリーニング作業
【料金】
- 100万円
ゴミ屋敷の特殊清掃
ゴミ屋敷となってしまうと、特殊清掃が必須だといってもよいでしょう。
【間取りと広さ】
- 1戸建て(2階あり)
【作業内容】
- ゴミ屋敷の片づけ
- 貴重品捜索
- 消毒・除菌作業
- 脱臭機の設置
- クリーニング作業
【料金】
- 70万円
浴室とトイレの特殊清掃
浴室やトイレは、特に汚れを取りづらく、特殊清掃が必要となる場面が多いです。また、水回りには死の危険がつきまとい、孤独死においても浴室やトイレで死亡していた例は珍しくありません。
【間取りと広さ】
- 1K(トイレとお風呂は別)
【作業内容】
- 浴室の特殊清掃
- 配管洗浄
- 消毒・除菌作業
- 脱臭機の設置
- クリーニング
【料金】
- 25万円
特殊清掃の料金を安く抑える方法
特殊清掃は高度な専門性を要するため、料金が高額になることがあります。しかし、以下に示すいくつかの方法を知っておくことで、特殊清掃の料金をできるだけ抑えることが可能です。
実績が豊富な業者を選ぶ
まず、実績が豊富な業者を選定するのが大切です。
特殊清掃の料金は、清掃する範囲の広さや汚染の程度、必要な作業によって増減します。依頼前に必要な内容を特定し、不要なサービスを省き、どの程度の状態に回復してほしいかを明らかにすることが、無駄な費用をかけないポイントです。
実績と経験が十分な特殊清掃業者なら、必要なサービスを取り揃え、かつ、無駄な作業を押し付ける営業もしません。相続の場面ではよく特殊清掃が必要となるので、相続の専門家の口コミや評価、紹介が大いに参考になるでしょう。
相続の専門家について
明朗会計の業者を選ぶ
次に、明朗会計の業者を選ぶことです。料金体系の不透明な業者や、複雑すぎて料金の内訳や総額が分からない場合、依頼すべきではありません。経験豊富な業者ならば、質問には的確に回答し、しっかりと理解できるまで説明するのが当然です。
ただし、「安かろう悪かろう」の低品質のサービスを選ぶべきではありません。必要なサービスを適切に実施しなければ、特殊清掃の現場の危険を拭い去ることができないからです。コストを節約しすぎて、サービスの質や信頼性に劣る業者に依頼するのは止めましょう。
できるだけ早く特殊清掃に着手する
特殊清掃の必要が生じたら、できるだけ早く業者に依頼するのがコスト軽減のポイントです。というのも、時間が経過するほどに汚染が広がり、特殊清掃が複雑になってしまう危険があるからです。必要となる作業が多くなると、どうしても料金が高くなってしまいます。
なお、孤独死によって特殊清掃せざるを得ない状況となるケースはしかたないですが、ゴミ屋敷など、そもそも日常の定期的な清掃、メンテナンスで防げることもあります。特殊清掃の必要な状況に追い込まれないことが、最も料金を節約できる方法です。
複数の業者に相見積もりしてもらう
特殊清掃の料金についてネットの情報は錯綜しています。それは、業者によって料金体系が異なるからです。このような状況からして、料金をできるだけ下げるには、複数の業者から見積もりを取得し、サービス内容と料金を比較することが重要です。
ただし、最安値の業者を選ぶことが正解だとは限りません。サービスの質や口コミ、実績についても、業者選びの際に考慮に入れておかなければなりません。
補助金や保険を活用する
自治体によっては、特殊清掃に対する補助金制度を設けている場合があります。補助金が出るほどに、空き家やゴミ屋敷は社会問題となっているのです。
また、加入している損害保険や生命保険から、死後の清掃費用が補填されることがあります。契約している保険の内容を確認し、適用が可能ならば必ず利用するようにしましょう。火災保険や地震保険、事故保険などが活用できる場合もあります。
特殊清掃の費用は誰が払うのか
特殊清掃の料金がいくらかかるかを理解できたところで、次に、その費用を誰が負担するのかを検討してください。費用負担については、状況に応じて異なります。
第一次的な支払いは、孤独死の現場を発見した家族や親族、身寄りのない人の場合には物件の所有者が支払うといったケースもありますが、最終的な負担については次の順序で検討してください。
- 相続人
賃貸物件には原状回復義務があります。この義務は、亡くなった方(被相続人)の相続人に承継されるので、特殊清掃の費用も相続人が負担するのが原則です。ただし、相続放棄をすれば費用負担を免れることができます。 - 保証人
賃貸契約に保証人(または保証会社)が付いているとき、保証人もまた原状回復義務を負い、費用を負担します。なお、連帯保証人は借主本人と同等の責任を負うものの、いずれにせよ借主本人(死亡している場合には相続人)に求償請求ができます。 - 物件の所有者
所有不動産の特殊清掃は、物件の所有者が費用を負担します。賃貸アパートでも、上記のような相続人、保証人のいずれも費用負担をしようとしないとき、危険を速やかに除去するために所有者が払うしかないケースもあります(後に相続人、保証人に請求し、支払わない場合には訴訟を起こします)。 - 保険や公的支援の活用
最後に、特殊清掃について損害保険や生命保険の範囲内ならば保険会社に費用を負担してもらえます。また、一部の自治体にある補助金や支援を使うことも検討してください。
特殊清掃の費用負担に関しては、個々のケースによって異なるため、具体的な状況を考慮し、必要に応じて弁護士に法的なアドバイスを求めることも重要です。
相続に強い弁護士の選び方について
まとめ
今回は、特殊清掃の料金について、その費用の相場や目安がわかるように説明しました。
特殊清掃は一般的な清掃とは異なり、放置された遺体や生物学的な汚染物の除去といった、特別な技術と専門知識を要する作業です。そのため、費用は通常の清掃作業より高額になることが多いものの、必ず業者に依頼しなければなりません。素人判断で手を付けるのは非常に危険です。
早期に依頼することで、複数の業者から見積もりを取る余裕を確保し、かつ、汚染が広がる前に掃除をすることができます。本解説におけるケースごとの料金の例と比較して、自身の状況においていくらの料金がかかるのか、理解することができます。適切な業者選びこそ、特殊清掃の料金を安く抑える最大のコツとなります。