相続税は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10カ月以内に、税務署に対して申告し、納税しなければなりません。節税対策を全く行っていないと、相続税があまりにも高額となり、期間内に払いきれない危険があります。
相続税は、現金で一括納付することが原則とされているため、仮に相続財産(遺産)が相当たくさんあったとしても、そのうちの多くの割合を不動産(土地・建物)が占めており、売却が困難な場合、早め早めの節税対策が重要となります。
そして、相続税を期間内に申告、納付できないと、相続税の「滞納」という状態になり、延滞税などの制裁(ペナルティ)が課せられます。
今回は、相続税を期間内に支払うことができない事態を回避するために、相続開始前に行うことで相続税の負担を少しでも安くすることのできる節税対策の基本を、税理士が解説します。
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相続税を滞納したときの制裁は?
相続税は、被相続人が亡くなったことを知った日(相続開始を知った日)の翌日から10カ月以内に申告・納税する必要があります。そして、相続税は、税務署が計算して支払を命じてくれるものではなく、相続税負担を負う相続人が、自分で計算して納めなければなりません。
相続税が一括で支払えないからといって相続税を滞納してしまうと、制裁が加えられる結果、税額がさらに高額となる危険があります。
延滞税
相続税を、期限内に納税しないと、延滞税を課税される危険があります。延滞税は、税金の納付を遅れたことによる制裁であり、延滞した税金を支払うのと同時に納付しなければなりません。
延滞税の税率は、改正によって変更されることがありますが、例えば、平成30年の延滞税の税率は、①納期限(注)の翌日から2か月以内:年2.6% ②納期限(注)の翌日から2か月超:年8.9%です。
納期限は次の通りです。
期限内申告:法定納期限
期限後申告・修正申告:申告書を提出した日
更正・決定:更正通知書を発した日から1月後の日
無申告加算税
相続税の申告、納付が遅れたというだけでなく、そもそも申告、納付をしなかった場合には、更に重い税負担が予定されています。
つまり、相続税の申告、納付自体を行わなかった場合には、無申告加算税を課税されます。
無申告加算税の税率は、申告の状況に応じて以下の通りです。
- ①税務調査前に自主的に期限後申告:納付税額の5%
- ②税務調査の事前通知の後にした期限後申告:50万円までは10%、50万円を超える部分は15%
- ③①、②以外:50万円までは15%、50万円を超える部分は20%
生前贈与による節税対策は?
相続税の負担を少しでも減らすための節税対策の中で、最も実行しやすいのが、生前贈与による節税対策です。ほぼすべての相続を予定しているご家族が、生前贈与による節税対策をしなければ損するおそれがあるといっても過言ではありません。
生前贈与をなにも考えずに行ってしまうと、相続税の負担が少なくなっても贈与税が課税され、結果的に節税対策とならない危険があります。
生前贈与がなぜ節税対策になるかというと、次のとおり、生前贈与をするときに活用できる非課税制度があるからです。贈与税が非課税となる生前贈与で相続財産(遺産)をあらかじめ減らしておくことで、相続税の節税対策となるというのが基本的な考え方です。
贈与税が課税されない生前贈与を行った場合であっても、非課税制度を利用するためには、生前贈与を行った翌年の2月1日から3月15日までの間に、贈与税の確定申告が必要となります。
暦年贈与による非課税制度
「暦年贈与」とは、毎年生前贈与を行うことをいいます。暦年贈与は、受贈者(贈与を受ける人)1名につき、1年あたり110万円までの贈与額は、贈与税が非課税になります。
この暦年贈与による非課税制度を利用して行うことのできる節税対策としては、子、妻などの相続人となるご家族や、孫、甥姪などの相続人とならないご家族に対して、年間110万円ずつ生前贈与を繰り返すという方法です。
暦年贈与による節税対策は、最も基本的な節税対策ですが、税務署から否認されて贈与税を課せられないための注意点の多い、危険性の高い節税対策でもあります。利用する際には、事前に税理士にご相談ください。
教育資金の贈与に関する非課税制度
教育資金として一括して贈与する場合にも、最大1500万円までの贈与額に対して、贈与税が非課税となる制度があり、この制度を利用した節税対策も、とても基本的な対策です。
ただし、一括して贈与するのでなく、学費などの教育資金が必要となるたびごとに贈与していれば、扶養義務者間の教育資金はそもそも非課税です。他方で、1500万円を一括して贈与しても、30歳までに使い切れなければ、残額に対しては贈与税が課税されます。
したがって、教育資金の贈与に関する非課税制度をつかった節税対策を利用するときは、「計画性」が重要です。
結婚資金・子育て資金の贈与に関する非課税制度
結婚資金・子育て資金として贈与をするときは、最大1000万円までの贈与額に対して、贈与税が非課税となります。
特に、娘が嫁入りすることとなると、結納金、結婚式場代、結婚指輪代、引き出物代、新居の礼金、敷金など、多くの費用が必要となります。ゆくゆくは相続財産として残しておいても相続税をとられてしまうのであれば、必要なときに贈与して節税対策をしておきましょう。
住宅取得等資金の非課税制度
住宅取得等資金の非課税制度を利用した節税対策とは、子や孫が住宅を購入するための資金を贈与する場合に贈与税が非課税となります。。
この制度を利用して、非課税とすることのできる限度額は、住宅の購入又は請負契約を締結した時期と消費税10%の負担で住宅を取得したかによって変わりますが、最大で3000万円の贈与額に対する贈与税を、非課税とすることができます。
ポイント
教育資金、結婚資金・子育て資金、住宅取得等資金は、いずれも親から子だけではなく、祖父母から孫への贈与も認められています。
子を飛ばして孫に財産を渡せるので、相続を1回飛ばして(本来であれば、親から子、子から孫と2回相続が続かないと孫が財産を相続できない)財産を移転できるため節税効果が非常に高い制度です。
夫婦間で居住用不動産を贈与したときの配偶者控除
配偶者(夫または妻)は、死亡時に存在する場合には、必ず相続人となります。夫婦は、相互に法律上の扶助義務を負っており、お互いの財産で扶養しあっていることが一般的だからです。
そのため、相続の際にも夫婦間では相続税が非課税となる特例がありますが、贈与の際にも、節税対策に利用できる非課税制度があります。これが、居住用不動産を贈与したときの配偶者控除です。
具体的には、居住用不動産又は居住用不動産を取得するための資金の贈与であれば、その評価額が2000万円まで、贈与税は非課税となります。
生命保険による節税対策
生命保険をかけて保険料を支払うことにより、相続財産(遺産)の金額をあらかじめ減らしておくことで、生前に相続税の節税対策を行うことができます。
生命保険の死亡保険金は、「みなし相続財産」とされており、相続財産それ自体ではないですが相続税の課税対象となります。ただし、「500万円×法定相続人の人数」の金額までは非課税とされているため、この限度額まで生命保険に加入することが、相続税の節税対策になるのです。
養子縁組による節税対策
相続税の節税対策に使える非課税枠はまだまだあります。相続税の基礎控除を利用した基本的な節税対策の1つに、養子縁組を利用した節税対策があります。つまり、相続税には「3000万円+600万円×法定相続人の人数」という基礎控除額があり、相続財産(遺産)がこの金額を越えなければ、相続税はかかりません。
ここまでの節税対策はいずれも、相続財産(遺産)の金額を、贈与税がかからないように減らすことで基礎控除額を下回ることを目指すものですが、反対に、法定相続人の人数を増やすことで基礎控除額を上げることによっても節税対策が可能です。
具体的には、養子縁組をすることで子(養子)を増やし、法定相続人を増やすことで基礎控除額を上げるという節税対策です。
養子縁組を利用した相続税の節税対策は、平成29年1月31日に出された最高裁判決で、「相続税の節税目的は養子縁組をする意思と併存しうる」と判示されました。つまり、租税回避の意図が悪質なケースでない限り、養子縁組による節税対策が合法的に可能ということです。
注意ポイント
ただし、養子縁組による相続税の節税対策には、相続税法上の限界があります。
現実的にあり得ないほどの養子縁組を交わして相続税の課税を回避するような悪質な脱税手法を禁止するため、「実子がいる場合には1人まで」、「実子がいない場合には2人まで」しか、相続税の基礎控除を計算する際の「法定相続人」には含まれません。
相続税対策は、「相続財産を守る会」にお任せください。
いかがでしたでしょうか?
今回は、複雑で難しい相続税の節税対策のうち、どのようなご家庭であっても利用を検討しておいてほしい、特に基本的な節税対策についてまとめました。
誰でもいずれは向き合わなければならないご家族の死と相続の問題について、早めの対策をすることが、相続税の節税対策においては非常に重要です。
今回の解説は、あくまでも基本的な節税対策をまとめたものですが、「相続財産を守る会」では、相続税の節税対策の経験が豊富な税理士が、対面で相談を受け、ご家族の状況、財産の状況に応じたふさわしい節税対策をオーダーメイドで提案します。