事業承継において、もっとも重要なことの1つが、「オーナー経営者様の経営する会社の株式を、どのように後継者にわたすか?」という点です。
会社における重要な決定が行われる株主総会で、議決権をもつのは「株主」です。後継者が安定して会社を経営するためには、「株式」を後継者にわたすことが欠かせません。
ところが、「株式」は、経営者の財産のなかでも大きな割合を占めるため、後継者に選ばれなかった相続人が「十分に財産をもらえていない」という不満を抱き、「争続」につながって会社経営にも悪影響を及ぼします。
事業承継のお悩みを解決するために活用すべき方策の1つが、「種類株式」です。「種類株式」とは、議決権や配当などについての権利の内容が普通の株式とは異なる株式です。
今回は、まず、種類株式とはどのようなものかを説明し、種類株式を事業承継にどのように活用できるかについて、会社法務と事業承継に強い弁護士が解説します。
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そもそも「種類株式」とは?
種類株式とは、配当をうけとる権利や、株主総会における議決権に関して、通常の株式とは異なる内容をさだめた株式です。
これに対して、一般的な会社で発行されている、特別な定めのない株式を、普通株式といいます。
一般的な中小企業であれば、普通株式だけを発行している場合も多いですが、種類株式を2種類、3種類…と、複数種類を発行することも可能です。
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種類株式にはどのようなものがある?
ひとことで「種類株式」といっても、その種類株式の内容の定め方はさまざまです。そして、種類株式の内容の定め方によって、その活用のしかたも変わってきます。
種類株式としては、いろいろな株式を発行することができますが、事業承継の場面でつかうことのできるものについて、弁護士が解説します。
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配当で優先される種類株式
配当で優先される種類株式のことを、一般に、「優先株式」と呼びます。優先株式は、「配当」などの会社から受け取るお金について、普通株式よりも優先する権利が与えられた株式です。
優先株式の定め方の一例としては、たとえば、「配当をするときは、普通株式に配当するよりも先に、優先株式1株あたり1万円を支払わなければならない」、といった権利を与える種類株式です。
この場合、優先株式をもつ株主に対して、1株あたり1万円を支払った後でなければ、普通株式をもつ他の株主に対して、配当することができません。
議決権について異なる定めをする種類株式
議決権について、普通株式と異なる定めをする種類株式には、「議決権制限株式」や「無議決権株式」などがあります。
「議決権制限株式」とは、株主総会において、議決権を行使できる事項に限定がある株式をいいます。たとえば、「取締役会の選任に関しては議決権を有しない」などと定められている種類株式です。
さらに、一切の事項について議決権がない株式を発行することもできます。このような株式を「完全無議決権株式」といいます。
拒否権付種類株式(黄金株)
「拒否権付種類株式」とは、株主総会や取締役会などで決議すべき事項について、「その種類の株式をもつ株主(種類株主)による株主総会(種類株主総会)の決議を必要とする」、というルールを設け、種類株式をもつ株主に、拒否権を与えるというものです。「黄金株」ともいいます。
たとえば、取締役の選任については、「通常の株主総会で過半数の賛成を得るほか、さらに、種類株主総会の過半数の賛成も得なければならない」、というルールを設けたとします。
すると、通常の株主総会において、取締役の選任議案が可決されたとしても、種類株主総会で「NO」と判断されれば、取締役は選任されないことになります。つまり、その種類株式をもつ株主には、拒否権が与えられるわけです。
事業承継で、種類株式が活用できる理由は?
では、「種類株式とはどのようなものか?」という一般論をご理解いただいた上で、なぜ、事業承継において種類株式を活用すべきであるのかの理由について解説します。
種類株式を活用するメリットをご理解いただくためには、「普通株式のまま、事業承継を行おうとすると、どのようなデメリットがあるのか?」を知っていただくのが一番です。
お亡くなりになるご家族が所有する「株式」は、普通株式であっても種類株式であっても、財産的価値のある相続財産(遺産)です。
そのため、後継者に株式を集中させる「株式の集中化」という相続対策をしなければ、最悪の場合、会社の経営権が、まったく意図しない親族や他人の手にわたってしまうこともあります。
しかし、生前に完璧な相続対策をしておくことは、なかなか困難な面もあります。万が一にも株式が「後継者以外の人」にわたっても、会社の経営におよぼす悪影響を最小限にすることが、種類株式を活用することの重要な目的の1つです。
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事業承継で、種類株式を活用する方法は?
それでは最後に、ここまでご説明してきた「種類株式」が、事業承継において、どのように活用することができるかを、事業承継や相続に強い弁護士が解説します。
「議決権について異なる定めをする種類株式」の活用ケース①
種類株式を活用できる事業承継の例として、次のケースを考えてみましょう。
ケース①
オーナー経営者である父親には、長男と次男の2人の息子がいて、長男が後継者になります。長男に会社を継がせるため、父親は長男に自社の株式を相続させたいです。
しかし、自社の株式には大きな価値があるため、株式のいくらかでも次男に与えなければ、次男の納得が得られない状態です。他方で、次男に少しでも株式を与えると、会社経営に干渉してくるのではないかという不安もあります。
このケースでは、次男に対して、「議決権はないが、配当に関して優先権のある種類株式」、すなわち、無議決権の優先株式を与えるという方法で解決できます。
次男としても、普通株式をもらって経営に関与できなくても、種類株式をもらって「配当」の形で会社の利益を優先的にもらえれば、長男が会社を継ぐことに文句をいわないかもしれません。
長男としても、多少の利益を次男にゆずってでも、会社経営に口出しされないことにメリットを感じるはずです。
「議決権について異なる定めをする種類株式」の活用ケース②
上記の事例と異なり、「議決権について異なる定めをする種類株式」を活用した方がよい解決となるかどうか、判断が微妙なケースをご紹介します。
ケース①
オーナー経営者である父親には、長男と次男の2人の息子がいて、長男が後継者になります。
ケース①と同様に、会社の経営はうまくいっており会社の株式には財産的価値があるものの、一方で、会社の株式以外にも、オーナー経営者が預貯金や不動産など財産を多く持っています。
この例では、株式を長男に渡したとしても、次男には預貯金や不動産を相続させることができますから、無議決権株式・優先株式などの種類株式を使わずとも、解決できる可能性があります。
ただし、「遺留分(いりゅうぶん)」には注意が必要です。遺留分とは、相続人に認められる、遺産の最低限の取り分のことです。
もっとくわしく!
遺言などによって、お亡くなりになった方(被相続人)が特定の相続人や第三者に対して多くの財産を与えてしまい、相続人が、この最低限の遺産すら受け取ることができないと、民法のルールで、この相続人は、多くの財産をもらった方に対して、財産の一部をよこせと請求することができます(遺留分減殺請求権)。
会社の株式を相続した相続人に対してこのような請求が来ると、株式を一部わたしたり、株式を売却して、お金を用意する必要が生じるリスクがあります。よけいな株主がいると、会社経営の安定性を害するので、このような事態はさけなければなりません。
そこで、会社を後継者にまかせ、株式をゆずりたいと考えた場合には、そのことによって、他の相続人の遺留分を侵害するおそれがないかを検討する必要があります。
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拒否権付種類株式の活用ケース
今度は、次の事例を考えてみてください。
ケース③
美容室を展開する会社のオーナー経営者である母親は、長女に経営を継がせようと考えており、長女も、会社を引き継ぐつもりでいます。
ただ、長女も経営の勉強はしているものの、まだ、会社の将来を左右する重要な決定までは任せられません。「自分の目の黒いうちは・・・」という、よくある経営者の考えです。
母親としても、長女が立派な経営者として成長するまでは、相続税がかかるくらいだったら会社の利益は長女にあげてしまいたいと考えているものの、取締役の船員など、重要な決定は自分で行いたいと考えています。
このケースでは、母親が単純に株式の過半数をもってしまうと、取締役の選任だけでなく、配当の決定など、株主総会で決定する他のことがらについても、母親が決定権をもつことになります。
しかしそれでは、長女がのびのびと経営することができませんし、自分の責任で判断をして経営者として成長する機会を奪う可能性もあります。
そこで、普通株式は長女にゆずりつつ、拒否権付種類株式を活用して、母親に、取締役の選任や、合併・解散などについて、拒否権を与えることで解決できます。
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今回は、種類株式を活用して、スムーズに事業承継を行う方法について、弁護士が解説しました。
オーナー経営者には、ご自分の経営する会社に対する「想い」があるため、引退された後も、会社が末永く続くことをお望みになるのが通常です。
引退後も安定して会社を存続させるためには、ご家族が後継者になってくれる場合も、相続になったときのことや、後継者の経営者としての育成期間のことなど、それぞれのオーナー様ごとに、考えておかなければならないことがあります。
「相続財産を守る会」では、相続や事業承継、会社法実務に強い弁護士・税理士・司法書士などの専門家が、それぞれの経営者様のおかれた状況を丁寧に確認したうえで、種類株式の活用性なども検討し、最適なご提案をいたします。
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