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暦年贈与信託とは?メリット・デメリットや利用方法、注意点など

暦年贈与とは、毎年繰り返し行う贈与のことです。相続の場面では、相続税の対策として、節税のために行われることが多いです。つまり、亡くなる前、生前に、家族に対して毎年贈与をし、少しずつ財産を減らしておくのです。

暦年贈与のうち一定額(受贈者1名につき年110万円)は贈与税が非課税となるので、死亡後にそうぞくで財産移転した際にかかる相続税よりも、負担する税金の合計額は少なくできます。ただし、暦年贈与は「非課税の贈与のつもりが税務署に否認され、贈与税を課税される」という落とし穴があります。このような事態を回避するために銀行などの提供するサービスが、本解説の暦年贈与信託です。

今回は、暦年贈与信託のメリットとデメリット、利用時の注意点を解説します。

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暦年贈与とは

相続税対策の1つとして、暦年贈与を勧められることは多いでしょう。暦年贈与とは、毎年定期的に行う贈与のことです。贈与税の非課税枠(受贈者1名につき年110万円)の限度内で贈与することで、相続のときに財産移転すると相続税がかかるところを、非課税で贈与することができる方法です。

しかし、次の場合には、暦年贈与が認められず、税務署から否認されるおそれがあります。対策が否認されると、余計な課税をされてしまいます。

  • 連年贈与(1つの贈与を何年かに分割した)とみなされる場合
  • 贈与の事実がないとみなされる場合(名義は子でも親の財産のままの場合など)
  • 受贈者が同意していない贈与だとみなされる場合

暦年贈与ではなく連年贈与だとすると、年110万円ずつに限定したとしても、合計すると非課税枠を超える扱いとなり、贈与税が課されます。また、贈与の事実がない、贈与が履行されていない、と評価される場合には、そもそも贈与者の財産のままであるため、亡くなった際に相続税の課税対象となります。

なお、暦年贈与を認めてもらう可能性を上げるには、法的に有効な生前贈与契約書を作成するのが効果的です。

暦年贈与信託による節税

暦年贈与に失敗するリスクを理解したところで、節税を認めてもらう可能性を上げるため、金融機関の提供する暦年贈与信託について知っておきましょう。

暦年贈与信託は、暦年贈与の非課税枠のしくみを確実に利用し、有利に財産を移転するために、銀行などの機関が提供する金融商品です。贈与したい人が、金融機関と暦年贈与信託契約を締結し、贈与を受ける人の口座に対して、毎年の非課税枠の限度内の額を、金融機関が代行して振り込んでくれるというものです。

なお、暦年贈与信託は、メガバンクをはじめとした銀行、信託銀行や証券会社のサービスとして提供されますが、サービス名称は会社によって様々です。

暦年贈与信託のメリット

暦年贈与信託のメリットは、非課税枠のしくみを確実に利用でき、税務署に否認されるリスクが小さいことです。

信託を利用せずとも、慎重に注意すれば、否認のリスクは避けられます。ただ、そのためには贈与のたびに契約書を作成したり、通帳振込の方法をとったりといった注意点が多く存在し、神経を使います。暦年贈与信託なら、金融機関の提供するサービスを利用する以外には、必要な契約書や手続きはなく、金融機関の指示に従えば問題ありません。

贈与税が非課税となる制度は、暦年贈与の非課税枠のほかにもありますが、いずれも教育用、住宅取得用など、資金の使途が限定されてしまいます。この点で、暦年贈与はとても便利なのです。

暦年贈与信託のデメリット

暦年贈与信託のデメリットは、費用面です。また、最初に申し込む際にかかる手間もネックとなります。

暦年贈与信託では、管理手数料のほか、暦年贈与信託による財産の入金時、贈与時の振込手数料、事務手数料が無料となるサービスも多く提供されています。中途解約には、解約手数料がかかることがあります。また、次のような制限がある可能性もあるので、申込書や契約書をよく読むようにしてください。

  • 贈与できる対象が限定される(3親等以内の親族など)
  • 贈与できる回数が年1回に限られる

暦年贈与信託は、税務署から否認される可能性は低くなりますが、銀行などが税制適格を必ず保証してくれるわけではありません。国税庁への事前照会に対し「定期金贈与にはあたらない(つまり、非課税枠内なら贈与税がかからない)」と回答された例もあるようですが、あくまでも事情に即した判断であり、リスクがないわけではありません。

暦年贈与信託を利用する方法

次に、暦年贈与信託の利用方法について解説します。

暦年贈与信託は、銀行や証券会社など多くの金融機関が提供しており、サービス内容は手続きは事業者によって異なるため、利用時には必ず直接確認してください。

暦年贈与信託契約を締結する

まず、家族に財産を贈与したい側の人が、金融機関との間で暦年贈与信託契約を締結します。この際は、金融機関の容易した契約書に署名押印をすることで足ります。サービス提供先が銀行などの場合、口座を持っている必要のあることが多いため、口座開設し、必要な資産を入金します。

暦年贈与する金額を指定する

契約締結後、実際に毎年いくらの贈与をするか、金額を指定します。贈与する金額を指定すると、毎年その金額を、銀行などの金融機関があなたに代わって受贈者の口座に振込します。暦年課税の原則ルールから、1月1日から12月31日が基準となるので、12月31日に贈与が間に合うように指定する必要があります。

贈与を受ける側の確認書を提出する

暦年贈与信託のサービスによって贈与額の振込を受ける側も、贈与を受けることを承認する意思表示をしなければなりません。というのも、受贈者が贈与を受ける意思がないのに一方的にした財産移転は、贈与の履行とはみなされないからです。

具体的には、確認書を提出することによる場合が多いです。銀行の仲立ちのもと、贈与者と受贈者が贈与契約書を作成し、署名押印をするサービスを提供する金融機関もあります。

暦年贈与信託は元本が保証される

信託とは、財産を預けるという意味です。暦年贈与信託を利用する方の相談でよく聞くのは「預けた財産がなくなってしまわないか」という不安です。

しかし、実際には、メガバンクなどの大手銀行、信託銀行の提供する暦年贈与信託は元本保証の物が多く、預けたお金が減ることはないと約束されています。実際に利用する際は、必ず元本保証のものを選ぶよう、サービス内容を確認してください。

金融機関によっては、円建てだけでなく、ドルなど外貨建ての暦年贈与信託を提供するなど、節税対策だけでなく、資産運用や投資の側面を持った商品もあります。サービス内容は契約書次第なので、損のない相続にするためにも事前確認は必須です。

まとめ

今回は、銀行などの金融機関が提供する暦年贈与信託について、メリットとデメリット、具体的な利用方法や注意点を解説しました。

相続税対策をすべき財産があるとき、せっかく節税のために行った暦年贈与が、後に税務署に否認されては元も子もありません。納税額は、予想していたよりはるかに多額となり、支払いきれないおそれもあります。生前の対策こそ、よく税理士に相談し、慎重に行うべきなのです。

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