現代社会における悲しい現実の一つが、孤独死です。
家族がいても、気付かれないうちに孤独死してしまう人がいます。また、身寄りがない孤独死においては、長期間が経過してはじめて発見される例もあります。このような孤独死の現場は、想像を絶する凄惨さであり、その後の清掃は必須です。また、遺された部屋は、ただの空間ではなく家族の生きた証であり、きちんと整理や片づけをしなければ故人も浮かばれません。
本解説では、孤独死の現場をどのように清掃すべきか、清掃の流れを解説すると共に、なかでも大切な特殊清掃の必要性と費用について説明します。孤独死の清掃には、専門の知識と技術が必要であり、専門業者に任せるべきです。
孤独死の清掃プロセスの全貌
孤独死の清掃プロセスは、故人の尊厳を保ちながら、「死」の現場を、安全で衛生的な状態に戻すための一連の手順です。
ここでは、孤独死を発見した人の立場で、各ステップについて詳しく解説します。
警察の現場検証
孤独死が発見された際、最初に警察が現場に入り、死因の確定や事件性があるかどうかの調査をします。そのため、遺体を発見したら、直ちに警察に通報する必要があり、このプロセスは、清掃作業よりも前に必ず行わなければなりません。警察の検証が終わると、清掃業者が入ることができます。
害虫や害獣、汚染物の除去
孤独死の現場は、ハエやウジ虫、ゴキブリ、ネズミなどの害虫や害獣が多く発生しています。また、現場環境の衛生状態は非常に悪く、遺体から流れ出た腐敗液、賞味期限切れの食品、放置されたペットの糞尿など汚染物が多くあります。
清掃業者はこれらの環境の中で作業を行い、汚染物を除去していきます。臭いを完全に取り除くには、汚染箇所の徹底した清掃はもちろんのこと、害虫や害獣の駆除や残骸の除去も細かく行わなければなりません。害虫や害獣が汚染箇所に集まった際には、汚染物質が付着してしまっているので、きっちり駆除しないと「ニオイ戻り」の原因になってしまいます。
特殊清掃の実施
特殊清掃は、単なる「掃除」ではなく、孤独死や自殺現場といった特に汚染状況の進んだ環境における清掃作業のことです。
孤独死の現場は、長期間放置されてゴミ屋敷になっていることも。特殊清掃が必要な様々なものが付着物があります。孤独死の現場では、腐敗した体液や血液、頭皮や髪の毛、糞尿などといった特殊な汚れが大量に存在します。なかでも、人体の体液は脂(アブラ)で出来ているため、アルカリ性の薬剤を使用して洗浄しなければなりません。薬剤の塗布は、使用する成分や量を誤ると、かえって汚れを広げるおそれもあるため、様子をみながら少しずつ、根気よく作業を進めていきます。
清掃後の消毒と消臭
特殊清掃が完了した後、次は消毒と消臭を行います。
実は、孤独死の現場における死臭や腐敗臭は、汚染箇所を清掃しただけでは完全に取ることはできません。室内にしみついた「ニオイ」の元が、害虫や空気の循環によって、部屋全体に広がっているため、これらを全て取り除かなければいつまで経っても臭いままです。
人間の腐敗臭は「チーズや生ごみが腐ったニオイ」と似ているといわれ、強い悪臭を帯びているため、部屋全体に消毒と消臭をしていく必要があります。場所や汚れ、悪臭の強さに応じて薬剤を塗布しながら清掃を行い消臭していきます。最後に、消毒剤を噴霧してやっと、人間が出入りできるレベルまで安全な状態に戻すことができます。
遺品整理
故人の遺品は、家族や遺族にとって大切なものです。清掃業者は、遺品を丁寧に整理し、家族が適切に整理、処分したり、保管したりできるようサポートします。遺品の整理は、単なる荷物の片付けではありません。丁寧に行えば、故人への敬意を示すとともに、遺族の心のケアにも繋がります。
リフォームの実施
最終的に、清掃が終了した後、場合によってはリフォームが必要となることがあります。例えば、壁紙の張替えや床材の交換など、孤独死の痕跡の残るものは、次に使う人のために取り替えた方がよいでしょう。
ここで注意しなければならないのは、リフォーム前に汚れや臭いがきちんと落とせているか再度確認することです。リフォーム後に汚れや臭いに気づいたとしても、そこから原状回復させるのは限界があります。リフォーム前に部屋全体の臭いを徹底的に確認し、安全な状態であることを確認してから施工するようにしてください。
孤独死の清掃では特殊清掃の必要性が高い
特殊清掃は、孤独死や事件、事故などの特殊な状況下で人が死亡した現場においては必要不可欠です。特殊清掃は、通常の清掃では取り除けない生物学的な汚染物質や危険物質を、安全かつ適切に除去するため実施されます。危険性を伴う業務であり、必ず専門家が行う必要があります。
専門家による汚染除去が重要
特殊清掃を行うにあたり、きちんと清掃して臭いを無くすには、高度な清掃技術と経験を持つ専門業者によって実施する必要があります。
例えば、汚染箇所を除去する際にも、汚れ具合や場所に応じた薬剤を選択肢、施工方法を変えて対応する必要があり、専門知識は必須となります。汚れ自体にも注意を払う必要があります。遺体から流れ出た腐敗液や血液の扱いには、ウイルスや細菌、病原菌が含まれている可能性があり、万が一作業中に体内に入り込むと、感染症にかかってしまう危険があります。
十分な臭いの除去ができていないと、次に使う住人の健康被害や、周囲への悪臭被害になり、二次被害が広がってしまいます。特殊清掃についての高度な技術と経験を持つ専門業者に頼ることにより、これらのリスクを徹底して排除しなければなりません。
感染症予防と臭い対策は必須となる
孤独死の特殊清掃で、最も重要なことは清掃員の安全を確保することです。現場には腐敗液や血液によるウイルスや病原菌が発生している可能性が高く、感染症のリスクを伴います。対策として、清掃員は防護服やマスク、ゴーグル、手袋の着用を徹底し、身を守りながら清掃に取り掛かります。
また、腐敗液は非常に強い悪臭をはなつので、対抗する強い薬剤や消臭機を使用して除去しなければなりません。対策のために使用する薬剤もまた、人体や環境に悪影響を与えかねない劇物であり、扱いには正しい知識が必要です。
孤独死の清掃にかかる費用
最後に、孤独死現場の清掃費用について解説します。
清掃業者の費用は、曖昧でわかりづらく、不安にあることも多いでしょう。その理由は、現場に応じて作業内容や作業範囲が変わり、これに応じて費用が増減するからです。現場を見てみないと作業内容が特定できず、事前の予想が難しいことも影響します。
そのため、必ず現場に立ち会って、見積もりをしてもらうことが大切です。
特殊清掃の費用の相場
特殊清掃の料金は、「作業内容×作業範囲」で算出されるのが一般的です。
作業内容と作業範囲のいずれもが、金額に大きく影響し、費用は変動します。例えば、ワンルームの簡易的な清掃では料金は安く済みますし、戸建ての広い家で大掛かりな清掃をすれば料金は高くなります。目安として、以下の相場を参考にしてください。
【作業範囲ごとの相場】
- 1K・1R:10~30万円
- 1LDK~3LDK:15~50万円
- 4LDK以上:20~70万円
【作業内容ごとの相場】
- 汚染箇所の清掃:3万円~
- 消臭・消毒:2万円~
- 汚染物の撤去:5000円~
- 消臭機稼働:5万円 ~
- 害虫駆除:1万円~
孤独死の現場に、1つとして同じ現場は存在しません。相場はあくまで参考であり、確実に損しない料金を知るためには、実際の現場ごとに見積もりを依頼するのが大切です。
特殊清掃の料金について
相見積もりが必要
作業内容や範囲によって、清掃の費用は大きく変動しうることから、相見積もりは必須です。複数の業者に問い合わせ、現場に赴いて必要な作業内容を把握してもらえば、状況に適した業者を選択できます。何社か現場を見てもらうことで、その特徴をつかみ、どの作業が本当に必要なのかを判断することができます。
孤独死の清掃では、必ず特殊清掃業者を選びましょう。優先順位を把握すれば依頼時の無駄が減り、結果的に納得のいく施工を、低コストで行うことができます。複数業者への見積もり依頼は、ぼったくり業者に遭うリスクも減らしてくれます。特殊清掃と一言で言っても、業者に応じて強みや得意分野が異なります。
孤独死の清掃費用は誰が負担すべき?
孤独死の清掃費用は、長期間放置されると必要な手間が多くなり、高額になってしまうこともあります。このとき、費用を誰が負担するかが、家族の死後に争いになる場合、その負担者について次の3パターンを理解しておいてください。
- 持ち家の場合は法定相続人
持ち家で亡くなった場合には、亡くなった方の法定相続人が負担します。法定相続人が全て相続放棄をしたり、法定相続人がそもそもいなかったりする場合は、残った遺産は国庫に帰属します。 - 賃貸物件の場合は連帯保証人または法定相続人
賃貸物件の場合は、連帯保証人が負担するのが通常です。連帯保証人は賃借人と同様の責任を負っているため、借主の原状回復義務を果たさなければなりません。なお、連帯保証人がいない場合には、法定相続人に支払いの義務が移ります。 - 賃貸物件では保証会社や貸主が負担するケースもある
保証会社と契約している場合は、保証会社が支払いを負担します。また、保証会社との契約もなく連帯保証人も法定相続人がいない場合は、貸主が事実上負担せざるを得ないケースもあります。
法定相続人がいない場合の手続きについて
まとめ
今回は、孤独死の現場における清掃と、特殊清掃の必要性を解説しました。
孤独死の現場では、特殊清掃が、様々なリスクを適切に管理し、衛生的な環境を取り戻すために不可欠です。この特殊清掃のプロセスでは、専門家が汚染を徹底して除去し、後に残された遺体による生物的な危険、汚染物質を安全に処理していきます。また、感染症の予防として、適切な消毒措置を施すことが重要であり、遺族や次の居住者の健康を守るためにも大切です。
特殊清掃は、専門知識を要する複雑な作業ですが、適切な措置を講じれば、故人の尊厳を守りつつ、安全かつ清潔な生活環境を保つことができます。