「会社整理」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。「会社整理」というのは、古くは、旧商法時代に、法律上の手続をあらわす正式名称でしたが、現在は、平成18年会社法施行とともに、「会社整理」の制度自体は廃止になっています。
しかし現在でも、会社をたたむ方法のことを一般的に「会社整理」といいます。この会社整理には、「法的整理」、「私的整理」という2つの会社のたたみ方がありますが、その手続き内容には、大きな違いがあります。
会社経営者が高齢化し、事業承継を考える際に、事業承継、M&Aなどとともに、会社を辞め、会社整理することが選択肢にあがることがあります。
そこで今回は、「会社整理」の手続、特に「法的整理」と「私的整理」の違い、メリット・デメリットの比較などについて、相続・事業承継を多く取り扱う弁護士が解説します。
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法的整理と私的整理の違いとは?
会社を整理する方法、会社を廃業する方法には、「法的整理」、「私的整理」の2つがあります。いずれの方法にもメリット、デメリットがあり、単純にどちらが優れているということはなく、状況によっていずれか適切なほうを選択する必要があります。
法的整理、私的整理のいずれがよいかを選択するにあたって、考慮要素となるのは、例えば次のような事情です。
ポイント
- 廃業を検討している会社の事業内容(業種・業態)
- 会社の債権者となっている法人・個人の属性、債権額
- 会社の事業の将来性
- 事業承継の後継者の有無
端的にいうと、法的整理とは、法律に基づいて、裁判所を利用するなど法的な手続きによって会社の債務(借金)を整理することであり、私的整理とは、法的な手続き以外の方法で、話し合いなどで解決する方法です。
いずれの方法にも、会社を完全に辞めてしまう「清算型」と、会社の債務(借金)を整理しながら、立ち直り(リスタート)を目指す「再建型」があります。
法的整理とは?
法的整理とは、法律に基づいて会社の業務を整理することです。この際に、法律をつかさどる「裁判所」が、会社を整理する際の手続面の監督を行います。
法的整理のために用意されている法律の種類によって、「清算型」の破産、特別清算と、「再建型」の民事再生、会社更生などの手続の種類があります。
再建型の法的整理である民事再生、会社更生では、債権者と協議をしながら、債権額を減らしたり返済計画を立て直したりしながら、会社の事業からあがる収益で債務を返済することとなります。
これに対し、清算型の法的整理である破産、特別清算では、会社の債務を返済しきることをあきらめ、現在残っている財産を債権者に分配し、清算して、会社を終了する流れとなります。
法的整理のメリット・デメリットは?
法的整理のメリット・デメリットについて、弁護士が解説します。法的整理には、大きなメリットがある反面、当然ながらデメリットもあります。
【メリット①】公平性が担保される
法的整理では、破産、特別清算、民事再生、会社更生などいずれの方法であっても、「債権者間の平等」が担保されます。むしろ、債権者間に不平等が生じ「ある債権者にだけ返済する」という方法は、「偏頗弁済」といって、法的整理が認められなくなってしまう理由となります。
そのため、法的整理を利用して、債務を少しでも返済する場合には、債権額に応じて、債権者間で公平に返済する必要があり、このことを、裁判所も重点的に監督しています。会社財産を隠したり、散逸させたり、勝手に第三者に譲渡したりはできません。
【メリット②】債務を全額返済する必要がない
法的整理の方法は、裁判所を利用して、債権者間の公平性、公正性が担保されていることから、債務を全額返済する必要がないようになっています。
破産、特別清算などの清算型の法的整理であれば、残余財産を分配して、残った債務は返済しなくてもよいことになるのが一般的ですし、民事再生、会社更生など再建型の法的整理であっても、債務の全額を返済するのではなく、減額をされることとなるからです。
ただし、再建型の法的整理において、債務額を大幅カットしてもらうためには、債権者の過半数の同意や裁判所の許可など、厳しい要件が課せられています。
【デメリット①】取引関係が停止する危険がある
法的整理の特徴として、裁判所の監督のものに公正な手続きにもとづいておこなわれることから、債務額が大幅に減る(もしくは返さなくてもよくなる)反面、支払いたい債務の支払も、自由にはできなくなります。
「法的整理をするのだから仕方ない」といっても、債権の支払を受けることのできない取引先からすれば、商品納入、サービス提供などをストップしたいと考えるはずです。新たな資金調達も困難です。
そのため、法的整理に移行することによって、取引関係が停止し、たとえ「再建型」の法的整理を選んだとしても、しっかりとした根回しと準備がないと、事業活動が停止してしまう危険があります。
【デメリット②】社会的信用を失う
法的整理のうち、特に清算型の「破産」には、なにかとマイナスイメージがつきまといます。「経営破綻」、「夜逃げ」、「一家離散」など、「破産」という言葉には、実際に法律の制度上決められている以上の悪い印象があるからです。
そのため、破産を選択したことから、そのマイナスのレッテルにより、取引先、顧客の信頼を失い、リスタートの障害となってしまうこともあります。
取引先などとの契約書上も、破産をはじめとした法的整理の手続を申し立てることが、契約の解除事由として記載されていることが一般的です。
私的整理とは?
私的整理とは、法律に定められた制度にしたがうのではなく、債権者と話し合い(協議)を行って、債権額をカットしてもらったり、債務の支払スケジュールを変更してもらったりして、会社の再建を目指す流れのことです。
債権者と債務者の、任意の話し合いによって行う手続きであることから「任意整理」ともいいます。そのため、債権者が話し合いに応じてくれず、強硬に訴訟などを求めるとき、私的整理を推し進めることができない場合もあります。
裁判外の和解契約によって債権の整理を進めることから、債権者間の公平性は担保されておらず、それゆえに、交渉をうまく進めなければ、債権者側からの不満が、会社の事業に悪影響を及ぼします。
私的整理のメリット・デメリットは?
私的整理のメリット・デメリットについて、弁護士が解説します。私的整理にもメリット・デメリットがありますが、私的整理は法律にやり方が決まっているものではないことから、その進め方によって、注意点はさまざまです。
【メリット①】事業を継続できる
私的整理の方法による場合には、会社債権者にそれぞれ通知をして話し合いを行いますが、必ずしもすべての債権者に通知する必要はなく、また、通知をしたとしても、他の債権者に対して代金を支払ったり債務を返済したりすることは禁じられていません。
そのため、法的整理よりも私的整理のほうが、会社整理が完了するまでの間事業を継続しやすく、事業価値を維持しやすい点がメリットとしてあげられます。仕入先など、一部の重要な取引先には、私的整理の通知をせず、返済し続けることもできます。
特に、事業買収(M&A)と会社整理のいずれの可能性をもみすえながら進めるときには、私的整理の方法が向いています。
【メリット②】柔軟性がある
さきほど解説したとおり、私的整理の方法では、決められたやり方、守らなければならないルールが少なく、会社の状況にあわせて柔軟に進め方を検討することができます。
債権者間の公平性、平等性も、法的整理ほど意識することなく柔軟に会社整理をおこなえます。
【デメリット①】透明性に欠ける
しかし一方で、私的整理には明確なルールがなく、債権者間の公平性・平等性も、意図的に損なわれている可能性もあることから、債権者などの第三者からすれば、手続の透明性に欠け、不公平・不公正なものといわざるをえないケースもあります。
情報の偏在、資金力の違いなどにより、銀行などの金融機関など、競争力・交渉力の強い債権者ばかりが有利にひいきされ、一般の取引先、中小企業などの力の弱い債権者に、業績悪化による私的整理のしわ寄せがくることも少なくありません。
【デメリット②】債権者全員の合意を取得できない
私的整理は、あくまでも、債権者と債務者間の、任意の和解契約によって、債権額をカットしたり、支払時期を変更したりする手続です。そのため、債権者との関係性によっては、そもそも合意がもらえず、私的整理ができないこともあります。
法的整理の場合には、反対する債権者がいても強制的に法的制度にしたがって推し進めることもでき、破産の場合には、その結果債務が全てなくなることとなるのですが、私的整理ではそうはいきません。
私的整理の場合には、合意が得られない債権者に対しては、(法的整理に移行しない限り)決められた債務の返済を行う必要があります。さきほど改正した不透明感、不公平感から、不信感をもたれて同意がとれないこともしばしばです。
「私的整理ガイドライン」とは?
私的整理に関する解説と、メリット・デメリットの比較の際にもうしあげたとおり、私的整理では、あくまでも債権者の同意がなければ債務額(借金額)を減らすことが出来ず、不透明性が原因で不審がられ、同意がとれないことがあります。
「他の債権者には全額きちんと返済しているが、自分のところはうるさくいわないから任意整理の交渉をされているのではないか」という不信感が、債権者が私的整理に応じてくれない原因になります。
その大きな原因の1つには、私的整理のルールが、法律などに明確に定められていないことにあります。
そこで、私的整理の透明性を高め、私的整理を行う会社の信頼感をあげることで、私的整理を円滑に進めるためにつくられたのが「私的整理ガイドライン」です。
「私的整理ガイドライン」は、法的拘束力はないものの、全国銀行協会、日本経団連によって平成13年9月に策定されたものであり、金融機関などはこの私的整理ガイドラインにしたがった手続による交渉であれば、同意してくれる可能性が高いということです。
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いかがでしたでしょうか?
今回は、相続・事業承継の際に、事業承継もM&A(事業売却)もしない会社が考えるべき、会社整理の方法について、法的整理・私的整理を比較しながら、弁護士が解説しました。
会社整理の方法には、法的整理・私的整理という大きく分けて2分類があり、さらにその中でも、手続の種類によってメリット、デメリットがあります。会社の状況を見極めながら、最適な制度を利用しなければなりません。
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