企業の再生は、複雑で難しい法的な判断となります。そのなかで、よく用いられる方法に「私的整理」があります。
ただ、私的整理を選択する際には、法的整理との比較をし、状況に応じた最適な手法をとらなければなりません。その前提として、私的整理と法的整理の違いを知る必要があります。同じく会社をたたむ方法ですが、その手続きの内容は大きく異なります。また、私的整理を進めるには、その具体的なプロセスや手続きの注意点を理解してください。
今回は、私的整理の基本とメリット、デメリット、法的整理との違いを解説します。
私的整理とは
私的整理とは、債務の返済について債権者と債務者が直接に教示し、合意に基づく返済計画を立てることです。このとき、破産や再生といった法律に定められた制度に従うのではなく、あくまで任意に話し合うのが基本であり、この点をとらえて「任意整理」と呼ぶこともあります。柔軟性が高く、時間とコストを節約できるという利点があります。
私的整理では、まずは現在の財務状況を分析し、返済可能な額を算出します。その上で、協議によって、将来の利息をカットしてもらったり、債権を減額してもらったり、支払いスケジュールを後ろ倒しし、分割返済額を縮小したりといった解決策を目指します。私的整理の目的は、債務の状況を改善し、可能な限りの返済を確保することにあります。つまり、債務者の「再建」こそが、私的整理の目標であり、債権者、債務者の双方にメリットがあります。
法律の決まりがなく、裁判所の関与もないため、債権者間の公平性は担保されません。うまく交渉を進めず、債権者の一部から不満が出れば、強硬に反発されると私的整理を進めることができません。
私的整理と法的整理の違い
私的整理と法的整理とは大きく異なりますが、いずれにもメリット、デメリットがあり、単純にどちらが優れているということはなく、状況によっていずれか適切な選択をする必要があります
私的整理の特徴
私的整理の特徴は、法的な手続きを利用せずに、話し合いなどによって解決する点です。私的整理では、債権者と債務者が交渉を行うことで、債務の返済方法や条件を話し合います。このプロセスは、法的な手続きを介さないので、柔軟性が高く、かつ、迅速に進めることができます。
私的整理には、次の3つの特徴があります。
- 柔軟性
債権者と債務者の話し合いによって決めた結論は、違法でない限り法律による制約を受けず、双方のニーズに合わせた柔軟な解決策とすることができます。 - 秘密性
裁判手続きを経ない話し合いは非公開であり、企業の社会的信用を損なうことなく進めることができます。 - 簡潔性
法的整理と比べて簡潔に済ませることができ、コストと時間を節約できます。
法的整理との比較
これに対して、法的整理は、裁判所を通じて手続きをするものです。法的整理には、「清算型」の破産、特別清算と、「再建型」の民事再生、会社更生があります。清算型では、私的整理とは異なり、現在残っている財産で分配しきれない債務は、会社の清算によって免責されます。
法的整理は、裁判所の決定によって行われるため、その結論には法的拘束力があります。また、破産によって債務を免責してもらうなど、私的整理ではできない根本的な解決策をとることができます。その分、そのプロセスは透明性が重視されるため公開され、企業の信用は下がるおそれがあります。また、裁判所を利用するための費用や時間がかかります。
以上のことから、私的整理は、特に債務の規模が小さく、迅速に解決したいケースに適しています。債権者が少なく、債権額も小さく、債権者もさほど争ってこない場合や、事業の将来性が見通せて、廃業しなくても十分に返済可能な計画が立てられる場合などは、私的整理に向いています。
私的整理のメリット、デメリット
次に、私的整理のメリット、デメリットを解説します。
ただし、私的整理は法律によってやり方が一律に定められたものではないため、どのような方法をとるかによってその利点や弱点は変わります。デメリットを理解し、リスクを最小限に抑えられるように進めるため、弁護士の助けを借りるのが有効です。
私的整理のメリット
私的整理のメリットは、次の通りです。
- 迅速に解決できる
私的整理は、裁判所を通さずに直接交渉するため、時間を節約し、迅速な解決を目指すことができます。 - 柔軟に解決できる
債権者と債務者の間で直接交渉し、必ずしも法律によらない解決の可能な私的整理は、柔軟な解決策を模索することができます。 - コストが削減できる
私的整理は、法的手続きを利用する法的整理に比べて、裁判所を利用する費用、弁護士費用などのコストを節約できるメリットがあります。 - 秘密を維持できる
私的整理では、全債権者に通知する必要がなく、非公開で進みます。そのため、交渉中も事業を継続し、企業価値を維持でき、事業売却(M&A)による事業承継を見据えて利用されることがあります。 - 関係性を維持できる
私的整理では、直接の交渉により、債権者との良好な関係を維持することができます。また、一部の債権者に対して支払いをすることも、法的整理とは違って禁止されていません。
私的整理のデメリット
私的整理のメリットは、次の通りです。
- 法的拘束力がない
私的整理は法的手続きではないため、法的なプレッシャーは少なく、債権者が交渉に応じてくれないことがあります。 - 全ての債権者の合意が必要
私的整理が成功するためには全債権者の合意を取得しなければならず、反対する債権者に対しては債務の返済を続ける必要があります。 - 不公平感が生じることがある
債権者間で合意内容が不平等だったり、一部の債権者のみに返済をし続けたりすることが許されるため、債権者間に不公平感が生じます。 - 状況の変化による再交渉を要する
状況が変化すると、再交渉が必要となる場合があり、最終的な解決にはなりません。 - 透明性に欠ける
非公開であるがゆえに透明性に欠け、債権者間で不信感が生じると交渉がうまく進みません。
私的整理を選択すべきケースとその条件
私的整理には、メリットとともにデメリットやリスクもあるため、それに適した状況でなければ有効な手段とはなりません。そこで、以下では、私的整理を選択すべきケースを説明します。
- 業績悪化が一時的なものであるケース
キャッシュフローの悪化、環境要因、市場の変動といった一時的な資金繰りが原因で業績が悪化しているだけで、回復が見込め、延期すれば支払いが可能なケースは、私的整理に向いています。 - 債権者との関係を維持すべきケース
債権者との長期的な関係を維持することが重要な場合で、これを継続すれば業績が回復するという希望がある場合には、私的整理に向いています。 - 財務状況の悪化の原因が限定的なケース
ある特定の債務が大きな割合を占めており、その債権者との交渉をすれば解決できる場合には、財務状況が比較的単純で、特定の債権者との交渉が中心となる場合には、私的整理が効果的です。 - 債務の規模が小さく、迅速に解決できるケース
小規模な債務しかなく、迅速に解決できるなら、簡易に私的整理すべきです。 - 法的整理によるデメリットを避けたいケース
破産などの法的整理をとると公表される情報が不都合となるケース、他にも関連企業があるなど、企業イメージの悪化を避けたいケースは、私的整理に向いています。
ただし、私的整理を実行するためには、条件があります。以下の条件を満たさない場合には、私的整理を選んでも頓挫してしまうおそれがあるため注意してください。
- 債権者との良好な関係が構築されていること
- 弁護士など債権者との交渉能力を十分に有する人が窓口となること
- 秘密裏に進めることができる環境
私的整理ガイドラインとは?
私的整理のデメリットの多くは、整理の方法にルールがないことによって生じているものです。そのため、法律による厳格な定めはなくとも、ある程度、私的整理の一般的な進め方について決まりがあるべきと考え、作成されたのが私的整理ガイドラインです。
私的整理ガイドラインに依拠して進めることで、不透明、不公平といったデメリットを減らし、私的整理といえど、秩序をもってきちんと進めていくことができます。これにより、債権者の不信感を払拭し、私的整理に応じてもらいやすくすることができます。私的整理をする者の信頼感を上げることで、円滑に進めることができるのです。
私的整理ガイドラインは、法的拘束力はないものの、全国銀行協会、日本経団連によって平成13年に策定されており、金融機関などはこれにしたがった手続きには同意してくれる可能性が高いです。
まとめ
今回は、私的整理の基本と進め方、注意点について解説しました。
私的整理には、メリット、デメリットがあり、法的整理と比較し、会社の状況を見極めて最適な制度を利用しなければなりません。私的整理は、一定の条件や状況が整わないと、有効な手段として活用することができない場合もあるため、弁護士のアドバイスを得るのが非常に重要です。