相続税は、相続が開始されたことを知った時から10ヶ月以内に納付しなければなりません。生前対策を全くせずに放置していたとき、税額が高すぎて、期限内の支払いが困難な場合もあります。相続税の期限を守らないと、延滞税、無申告加算税によるペナルティがあり、税負担はますます増加します。
相続税の期限に間に合わなそうなとき、期限を延長したり、他の納付方法を考えたりといった対処法をとる必要があります。家族の死はいつ訪れるかわからないので、早めの対処が必要です。
今回は、相続税の期限と、間に合わないときの対処法を解説します。
相続税の期限は10ヶ月以内
まず、相続税の期限は、相続の開始を知った時から10ヶ月です。この期限内に、原則として現金で一括納付する必要があります。
民法上の期限は、その翌日が起算点となるため、正確には、相続の開始を知った日の翌日からスタートすることになります。例えば、2023年12月1日に亡くなった場合の相続税の期限は、2024年10月1日です。期限については1日でも過ぎれば違反となります。
相続税の期限を詳しく知るために、よくある質問について回答します。
- 相続開始を知らなかった場合は?
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相続税の期限は、相続開始(つまり被相続人の死亡)を知った時から進行します。仲違いや音信不通、行方不明などで知らなかったなら期限は進まず、相続人ごとに期限が異なることもあります。
- 期限の最終日が土日祝の場合は?
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相続税の期限の最終日が土日祝の場合、次に到来する平日が期限となります。相続税は、現金で税務署に納付するので、税務署の閉庁日には物理的に納税できないからです。
相続手続きの期限について
相続税の期限に間に合わないときの対処法
次に、前章で解説した相続税の期限に間に合わないときの対処法を解説します。
ダメもとでも申告を試みる
相続税の期限に間に合いそうにないとしても、まずはダメもとでも申告を試みてください。相談のなかには「遺産分割協議が終わらない」といった理由の方もいますが、相続税を送らせて良い理由にはなりません。むしろ、放置すれば、節税の特例を使えなくなり、遺産分割の争いはますます拡大してしまいます。
このとき、協議が終わらずとも、申告と同時に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付し、遺産分割協議の見込みを伝えて申告する方法があります。この方法で分割協議中に納税したときは、申告期限後3年以内に遺産分割をまとめ、合意に至った日の翌日から4ヶ月以内に更正の請求をすれば、「配偶者の税額軽減」「小規模宅地等の特例」といった制度の適用を受けることができます。
相続税の期限の延長
相続税は支払えるものの、特別な事情があってどうしても期限に間に合わないときには、相続税の期限を延長してもらうことができます。期限の延長が認められる特別の事情は、次のようなものです。
特別な事情があるときに認められる相続税申告の期限の延長は、最大で2ヶ月とされています。税務署にあらかじめ申請し、認めてもらう必要があります。
相続税の延納
次に、遺産に占める不動産の割合が高いために相続税を払いきれないケースでは、相続税の延納制度を利用できます。このとき、手元の現金が足りず、相続した不動産を売却して換金しなければ資金を準備できないために、納税を先延ばしするしかないからです。
延納の期限は、相続財産に占める不動産の割合によって次の通りとなります。
- 不動産の割合が50%未満
最大5年 - 不動産の割合が50%以上75%未満
10年~20年 - 不動産の割合が75%以上
10年~20年
延納を利用すると、上記の期間内に相続税を毎年払う、年賦払いとなります。また、デメリットとして延納利子税がかかり、期限までに一括払いするより相続税の総額が高くなってしまいます。延納利子税も含めた支払い計画を練らなければならず、途中で資金が枯渇しないようにしましょう。
なお、相続税の延納を利用できる条件は、次の通りです。
- 相続税額が10万円を超えること
- 相続税を金銭で納付するのが難しい理由があること
- 延納税額および利子税額に相当する担保を提供できること
- 相続税の納期限までに延納申請書などの必要書類を提出すること
相続税の延納は、「相続税を支払う現金が不足している」という理由だけで自由にできるわけではなく、一定の条件を満たし、税務当局の許可が必要です。現金納付が可能だとされれば許可されないこともあります。
相続税の物納
相続税を期限までに現金で払えず、延納の許可も下りないケースもあります。次のような場面では、相続税を物納する方法も検討してください。
- 資産はあるが現金化できない
- 延納制度を利用しても納税が困難である
- 延納による利子税額を考慮し、現実的な計画が立たない
物納は、相続税を、遺産に含まれる現物で払う制度です。物納によく利用されるのは、不動産や株式です。ただ、あくまでも最終手段であり、例外的なものと考えてください。
税金を物で納める特殊な方法は、国の許可があってはじめて利用できる制度です。相続人の都合で選択できるわけではありません。そのため、物納にも条件があり、認められないケースもあります。「物納しか他に手がない」と悩む方は、ぜひ税理士に相談ください。
相続税の期限を過ぎてしまった場合は?
相続税の申告期限までに納税できないと、次のペナルティがあります。
- 延滞税
期限までに納付しなかった、または税額が足りなかった場合に課される税金で、その税率は、原則として、納期限から2ヶ月以内は年7.3%、2ヶ月を超えると年14.6%(ただし、特例として令和4年1月1日から令和6年12月31日までの期間については年7.3%は2.4%に、年14.6%は8.7%に減額されます)。
※ 納期限は、各手続について次の通り。
期限内申告:法定納期限
期限後申告・修正申告:申告書の提出日
更正・決定:更正通知書を発した日から1月後の日 - 過少申告加算税
相続税の申告が過少で、追加納付が必要となったときに追加納税額に対して課される税金。 - 無申告加算税
納付すべき相続税の申告をしなかったときに課される税金。期限後に申告した税額に対し、50万円以内は15%、50万円超えは20%追徴されます(なお、自主的に申告したときは5%、税務調査の事前通知後にした場合は50万円まで10%、50万円を超える部分は15%となり、令和6年以降に法定申告期限が到来するものについては300万円を超える部分に25%が課されます)。 - 重加算税
過少申告加算税、無申告加算税の要件に該当し、故意に事実の隠蔽をしたなど悪質性の高い場合に課される税金。追加納税額に対し35%〜40%が追徴されます。
また、申告期限に遅れると、追徴されるだけでなく、税額を軽減できる「配偶者の税額控除」「小規模宅地等の特例」などの制度を利用できなくなります。これらの特例は、相続税を期限までに申告することが適用の条件となっているからです。
なお、期限前に遺産分割が整っている場合などには、期限後申告であっても特例を適用できる場合があります。詳しくは、相続税に精通した税理士にご相談ください。
まとめ
今回は、相続税の期限について解説しました。相続税の申告は、相続開始を知った時から10ヶ月以内に行わなければならず、違反すると厳しいペナルティがあり、税額が高くなってしまいます。
相続税の問題は、生前からしっかりと節税対策も含めて税理士に相談し、備えるべきです。いつ突然降りかかるかわからない家族の不幸に備え、できるだけ早いうちから対策しておきましょう。