★ 相続の専門家の正しい選び方!

孫への仕送り(学費・生活費など)に贈与税がかかる?

孫のいる祖父母から、「財産を残して死ぬと相続トラブルになる」「生前に、孫の学費や生活費に充てるため、仕送りをしたい」という相談がよくあります。相続の開始前(死亡前)に、孫に財産を残そうと考える高齢者は多いですが、無償で贈与すれば贈与税がかかるおそれがあります。

一方で、孫への贈与によって早めに遺産を減らすことは、相続税の対策になります。

今回は、孫への仕送りについても贈与税がかかるのか、贈与税を少しでも安くする方法はないか、税理士が解説します。

目次(クリックで移動)

扶養義務者間の生活費・教育費の贈与には贈与税がかからない

本来、個人間の贈与では、贈与を受ける人に贈与税が課されます。なお、年間に110万円までの贈与は非課税とされています。

しかし、相続税法は、扶養義務者間の生活費、教育費の贈与なら、贈与税はかからず、非課税であると定めています。非課税となる条件を知るために、相続税法の条文を紹介します。

相続税法21条の3(贈与税の非課税財産)

1. 次に掲げる財産の価額は、贈与税の課税価格に算入しない。

一 法人からの贈与により取得した財産

二 扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの

三 宗教、慈善、学術その他公益を目的とする事業を行う者で政令で定めるものが贈与により取得した財産で当該公益を目的とする事業の用に供することが確実なもの

四 所得税法第七十八条第三項(寄附金控除)に規定する特定公益信託(以下この号において「特定公益信託」という。)で学術に関する顕著な貢献を表彰するものとして、若しくは顕著な価値がある学術に関する研究を奨励するものとして財務大臣の指定するものから交付される金品で財務大臣の指定するもの又は学生若しくは生徒に対する学資の支給を行うことを目的とする特定公益信託から交付される金品

五 条例の規定により地方公共団体が精神又は身体に障害のある者に関して実施する共済制度で政令で定めるものに基づいて支給される給付金を受ける権利

六 公職選挙法(昭和二十五年法律第百号)の適用を受ける選挙における公職の候補者が選挙運動に関し贈与により取得した金銭、物品その他の財産上の利益で同法第百八十九条(選挙運動に関する収入及び支出の報告書の提出)の規定による報告がなされたもの

2. 第十二条第二項の規定は、前項第三号に掲げる財産について準用する。

相続税法(e-Gov法令検索)

相続税法21条の3第1項2号の通り、「扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの」は非課税とされています。そもそも非課税であり課税価格にも含まれないので、年間110万円の非課税枠の算出にも加算されません。

孫への仕送り(生活費・教育費など)が非課税となるための要件

孫への仕送りが、前章で解説した扶養義務者間の生活費、教育費に該当して非課税となるためには、相続税法の定める要件に該当する必要があります。

「扶養義務者間」に該当するか

まず、非課税となるために「扶養義務者間」の贈与であることが条件です。扶養義務者とは、相続税法1条の2において次のように定義されます。

  • 配偶者
  • 民法877条に規定する親族
    (直系血族、兄弟姉妹、家庭裁判所の審判を受けて扶養義務者となった3親等以内の親族、3親等以内の親族で生計を一にするもの)

簡単にまとめれば、扶養義務のある人への生活費、教育費の贈与なら非課税というわけです。その理由は、扶養義務のある家族に対して生活費や教育費を渡すことは、まさにその扶養義務の1つと考えられ、これに贈与税を課すのは酷だからです。

なお、扶養義務者は、法定相続人の範囲と重複しますが、順位や割合などはなく平等である点が異なります。

「生活費又は教育費」に該当するか

扶養義務者間の贈与でも、その目的が「生活費又は教育費」に該当しなければ、その贈与は非課税とはなりません。「生活費又は教育費」にあたる例には、次のものがあります。

【生活費に該当する例】

  • 日常生活を営むのに当然必要となる費用
    (食費、水道光熱費など)
  • 病気の治療費、入院費
  • 養育費

【教育費に該当する例】

  • 義務教育(小学校・中学校)の学費
  • 高等教育(高校・大学)の学費
  • 専門学校の学費
  • 教材費、文具費
  • 塾代、予備校代

「通常必要と認められる」かどうか

最後に、扶養義務者間の生活費又は教育費の贈与であっても、通常必要と認められる範囲に限ってのみ非課税となります。常識的な限度の金額しか認められず、税逃れは許されません。

贈与された金額が、通常必要と認められる範囲かどうかは、総合的に判断して決まるため、その基準は曖昧と言わざるを得ません。具体的には、被扶養者の需要と扶養者の資力その他一切の事情を勘案し、社会通念上相当と認められる範囲とされます。

  • 被扶養者の需要
    扶養を受ける人が、贈与を必要としているかどうか
  • 扶養者の資力
    扶養義務を負う人の資力からして、贈与が適切な金額かどうか
  • その他一切の事情
    贈与を行う人の教育水準、生活水準が、贈与額に見合っているかどうか

教育や生活の水準は、家庭環境によっても様々です。祖父母や両親は、孫には高い教育を受けてほしいと考える方が多いでしょう。そのため、それなりに多額の贈与となったとしても親心としては理解できるため、通常必要と認められる限度かどうかの判断はとても難しい問題です。

実務上は、あまりに高額な場合や、生活水準すら大幅に超える非常識な贈与、明らかに相続税逃れとなる不当な贈与でもない限り、非課税であると認められる方向にあります。不安な場合には、贈与前に税理士に相談ください。

教育資金の一括贈与の特例との違い

扶養義務者間の贈与について、本解説と同趣旨の節税対策に、教育資金の一括贈与の特例があります。これは「30歳未満の子か孫に対する教育目的の贈与が、1500万円まで非課税になる制度です。この特例を利用して非課税とするには、一括して贈与し、その金額を30歳までに使い切らなければならず、使わず残った部分には課税されます。

これに対し、本解説の扶養義務者に対する教育資金の贈与は、必要な都度贈与した場合に控えいになるのであり、一括して贈与をするわけではありません。したがって、場面によって使い分けるため、一括贈与をする場合には、教育資金の一括贈与の特例の要件を理解し、次の点に注意しておきましょう。

  • 教育資金として利用した証拠(領収書、振込明細など)を残す
  • 一括贈与された金額は30歳までに使い切る
  • 祖父母全員からの贈与額の合計が1500万円以内に収まるようにする

したがって、余命がわずかであるなど、相続税対策を生前にまとめてしておきたい場合には、教育資金の一括贈与の特例を利用しましょう。とはいえ、そうでなければ、必要な都度の贈与と、年間110万円までの非課税枠によって十分対策が間に合うケースも少なくありません。

まとめ

今回は、「孫の生活費、学費として贈与したい」というよくある相談に回答しました。

相続税で取られるくらいなら、生前に贈与しておきたいという需要は多いでしょう。しかし、相続税対策として贈与したのに、逆に贈与税が高くかかっては意味がありません。余命がわずかな場合など、相続税対策をする時間的余裕がない方は、教育資金の一括贈与の特例を利用して1500万円の贈与をする手もあるものの、猶予が残されているなら、扶養義務者間の仕送りとして非課税で進めることもできます。

ただし、非課税の贈与を正しく行うには、相続税法の定める要件を理解せねばならず、注意して勧プランを組まないと課税される危険があります。

目次(クリックで移動)