相続登記など、不動産登記(名義変更)を行うときに「登記先例」「通達」ということばが出てくることがあります。今回は、この「登記先例」「通達」がどのようなものかという基礎知識について、司法書士が解説します。
「登記先例」や「通達」は、相続登記など不動産登記を進めるときに知っておかなければならず、先例とは異なる登記申請をしてしまうと、登記申請を却下されるというデメリットを受けてしまうおそれもあります。
実務上、登記先例や通達に反する登記は、法務局(登記所)に申請した時点で、申請を取り下げるよう指示されるケースがほとんどです。
一方で、「登記先例」や「通達」は、専門的なもので、司法書士など登記の専門家でなければ知らないことが多く、読んでも理解できないものも多いかと思います。
この点で、「登記先例」や「通達」を知り、これに基づく正しい登記ができるかどうかが、良い司法書士を選ぶポイントにもなります。
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吉越清顕"]
弁護士法人浅野総合法律事務所、司法書士の吉越です。
「登記先例」というと、一般の方には聞きなれない言葉かと思いますが、実際に相続登記をはじめとした登記実務を進めるにあたり、先例の調査がとても重要です。先例は、法律・法令の下位に位置する、行政機関の発する通達です。
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登記先例・通達は、事例に合わせた判断
不動産登記のときに遵守しなければならない基本的なルールは、不動産登記法、不動産登記規則という法令に定められています。また、民法などより一般的な法律を守らなければならないことも当然のことです。
しかし、上記の法令はいずれも、ごく一般的なケースについて定めているに過ぎず、個別具体的な事例に沿った判断をする際には、不動産登記法、不動産登記規則などの法令に書かれた文言を「解釈」し、法令を「適用」する必要があります。
個別具体的な、登記の事例が起こったときに、どのように法令を解釈し、適用するかといった事例にあわせた判断について、法務省民事局長が発する質疑応答集や通達などが、「登記先例」と呼ばれるものです。
登記を申請する側の司法書士だけでなく、登記を受理する側の法務局(登記所)もまた「登記先例」「通達」にしたがい、これに基づいて登記実務を運用しているため、円滑に登記を行うためには、登記先例、通達を調べ、理解しなければなりません。
最高裁判所の「判例」と似た考え方
相続問題をはじめとする紛争、トラブルは、最終的には裁判所で判断されます。つまり、人と人との間のトラブルを最終的に、その事例に合わせた判断を下すことができるのが、裁判所の役割です。
そして、裁判所の中でも、最も権威をもっているのが最高裁判所であり、最高裁判所の下した判決、決定は、「判例」と呼ばれ、他の事例の判断においても尊重されています。
最高裁判所の出した判例が、同種の事例の際には参考にされ、その判例の範囲内においては、判例変更がされない限り同様の判断が下されるというわけです。
この最高裁判所の判例と同様のことが、登記実務でいう「登記先例」で行われています。つまり、登記実務で、同種同様の状況が起こったときには、「登記先例」に照らして、同様の登記判断が下されるのです。
注意ポイント
ただし「判例」も「登記先例」も、全く同一の状況という事態が起こることはむしろ稀であり、その判断の範囲には注意が必要です。
似たような状況であっても、違った事実関係があることから、「判例」や「登記先例」どおりの結論にならないケースもあるからです。
登記先例・通達の調べ方は?
登記先例や通達は、とても数が多く、全てを記憶することが難しいことはもちろん、相続登記を専門的に取り扱う司法書士であっても、全ての登記先例・通達を知っているということはありません。
登記実務上で困った事態におちいったときに、同種の登記先例や通達がないかどうか、司法書士ですら、その都度調査をして、解決していかなければなりません。まして、相続登記を本人申請で行う場合などには、登記先例や通達がわからず困ることが多いかと思います。
登記先例や通達をまとめた「不動産登記先例集」などの書籍が出版されていますので、これらの書籍を調査することによって、有名な登記先例・通達を調べることができます。より詳しく、細かい登記先例や通達まであたりたいときには、次のような方法もあります。
ポイント
- 過去の登記の専門誌
- インターネット先例検索サービス(有料サービス)
- 法務局(登記所)の窓口での相談
いずれにしても、登記先例・通達の調査まで必要となるような困難な登記のケースでは、不動産登記に詳しい司法書士に調査を依頼したり、登記自体を代わりに行ってもらったりするほうが、登記を間違いなく、スムーズに進めることができます。
なお、先例を詳しく調査しても、法務局(登記所)ごとに取扱いが微妙に異なる場合もあるため、実際に登記をするときには、法務局(登記所)の担当者に事前確認を徹底することをお勧めします。
相続登記は、「相続財産を守る会」にお任せください!
いかがでしたでしょうか?
今回は、相続登記などの登記実務を進める際に必要となる「登記先例」、「通達」についての基礎知識を、司法書士が解説しました。
特に、相続登記を本人申請で進める場合など、登記の専門家のサポートを受けない場合には、登記先例や通達に反する誤った登記申請になっていないかどうか、注意が必要です。相続登記にお困りの相続人の方は、ぜひ「相続財産を守る会」の司法書士にご相談ください。