相続によって不動産を取得した相続人が、他の相続人と、その不動産を交換することがあります。このとき、かかる税金をできるだけ安くするための節税方法を、税理士が解説します。
不動産の「交換」は、不動産の「譲渡」と「取得」の組み合わせです。そのため、一見すると、譲渡所得税、住民税など、不動産の所有権移転時にかかる税金を払う必要があるようにみえます。しかし、交換の特例に関する税制を活用できれば、これらの税金をかからないようにできます。
どんな場合に非課税になるのか、実際の相談を紹介し、Q&A形式でお答えします。
【相談】不動産の交換にかかる税金は?
相談内容は、次の通りです。
父が先日亡くなりました。父は地方の資産家だったので、私も、郊外にある広大な敷地や邸宅のいくつかを、相続によって取得することになりました。
しかし、私は既に実家を離れており、実家周辺の不動産を相続しても活用できません。私としては、現預金以外の財産は不要なのですが、とはいえ相続人間で不公平が生じ、私が損するのも納得いきません。
父の相続人には、私以外に、私の兄がいます。兄は長男で、実家の家業を継ぐため、生家の近くに自宅を構えて生活をしています。そのため、私の相続した土地も、兄にもらってもらえるなら、そのほうが有効活用できるのではないかと考えます。
幸い、兄は、母の相続時(3年前)に相続で都心部の投資用マンション1棟を譲り受けています。私の相続した父の不動産の1つを、兄の投資用マンションと交換したいと考えているのですが、不動産が高額なため、かかる税金が高額になるなら交換を中止するしかないかと悩んでいます。
【回答】交換の特例が利用できれば非課税
土地や建物の所有権が、その不動産の売買などによって移転するときには、その譲渡人に対して、譲渡所得税、住民税がかかるのが基本です。そのため、相談ケースでも、不動産を交換で取得した相談者と兄のそれぞれに、課税が発生する可能性があります。
しかし、不動産の「交換」は、譲渡時に同程度の価値の不動産を取得するため、交換の特例という税制を利用し、譲渡所得税や住民税を非課税にできる可能性があります。交換の特例による節税には要件があり、かつ、確定申告を行う必要があります。特例によって税金がかからないからと油断して申告を忘れていると、制度を利用できず、無駄な税金がかかってしまいます。
今回の相談ケースでも、交換する不動産を「建物と建物」「土地と土地」とすれば、兄が投資用マンションを3年前から所有しているため、交換の特例の条件を満たします。
Q. 不動産の「交換の特例」を利用して、譲渡所得税を節税したいです。交換の特例を利用するための要件を教えてください。
不動産の交換の特例は、「交換」の手法による財産移転ならどんな場合でも使えるというわけではなく、条件を全て満たす必要があります。
- 交換する不動産がいずれも固定資産であること(棚卸資産は対象外)
- 交換する不動産が、「土地と土地」「建物と建物」というように同じ種類の不動産であること
- 交換により譲渡及び取得する不動産が、それぞれ1年以上所有していたものであること
- 交換により取得する不動産が、交換目的で取得されたものではないこと
- 交換により取得する不動産が、取得後も同じ用途に使用されること
- 交換対象となる2つの不動産の時価の差額が高い方の時価の20%以内であること
今回の相談ケースでは、兄は3年前から投資用マンション1棟を所有しているため、3つ目の要件(1年以上所有)、4つ目の要件(交換目的以外で取得)は確実に満たしているでしょう。それ以外の要件を満たし、交換の特例が適用可能かどうか、慎重に検討を進める必要があります。
Q. 上記の要件を1つずつ検討した結果、交換の特例を適用するのが難しいケースにあたる可能性があります。本税制を利用できない場合、譲渡所得税は高額になるでしょうか。
例えば、交換対象が「土地と建物」であるとか、「土地と、建物の共有持分」であるなど、不動産の種類が違う場合には、特例は適用できません。また、交換対象となる2つの不動産の時価に、20%を超える大きな開きがある場合にも、特例の対象となりません。
この場合に、交換によって譲渡する不動産について、交換時の時価で譲渡したものとして譲渡所得税、住民税が課されてしまいます。交換にともなって、不動産の時価の差額分を現金でもらった場合(交換差金)には、たとえ交換の特例の要件を満たしてもなお、交換差金に対しては譲渡があったものとして課税されます。
また、譲渡所得税と住民税が交換の特例によって免除される場合にも、不動産取得税や移転登記時の登録免許税は、通常の売買と同じく、交換で取得した人が払う必要があります。不動産の交換は、思わぬ税金が発生することが多いため、税理士のアドバイスを受け、慎重に行ってください。