相続した不動産(土地・建物)を売却するとき、「高く売る方法」に目がいきがちですが、売却時にかかる費用と税金も馬鹿にできません。
相続した不動産を売却したときにかかる費用を甘くみると、思いのほか多くの費用がかかってしまいあまり手元にお金が残らないおそれがあります。売却額だけを重視した結果、不動産会社選びを間違えることのないよう注意してください。
相続した不動産売却時の仲介業者選びや、更には、そもそも相続した不動産を売却するかどうかを判断する際には、売却益から、今回解説した費用を引いた手元に残るお金で判断する必要があります。更に、譲渡益課税という税金にも配慮が必要です。
そこで今回は、相続した不動産を売却するときにかかる費用・税金と、できる限り費用・税金を安くする方法について、不動産相続についての数多くの相談実績のある税理士がまとめて解説します。
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田中博史"]
シリウス税理士法人、代表税理士の田中です。
相続した不動産を売却する必要性がある場合があります。例えば、相続税を支払いきれない、遺産分割協議を公平、円満に進めたいといった理由で不動産の売却を考える方が多くいます。
相続した不動産を売却した方が得かは、売却にかかる費用、特に譲渡益課税という税金への配慮が非常に重要です。不動産会社だけに任せるのでなく、専門の税理士にもあわせてご相談ください。
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【費用①】仲介手数料
相続した不動産を、仲介業者にお願いして、売買を仲介してもらうとき、その不動産会社に支払う報酬のことを「仲介手数料」といいます。つまり、不動産の買い手を見つけてきてくれたことに対して不動産会社に支払う費用です。
仲介手数料は、「宅地建物取引業法」という法律に、次のとおり上限額が定められており、これより高い金額となることはありません。
依頼者の一方(売主もしくは買主)から受領できる仲介手数料の上限取引額 | 報酬額 |
---|---|
取引額200万円以下 | 取引額の5%以内 |
取引額200万円を越え400万円以下 | 取引額の4%以内 |
取引額400万円を越える金額 | 取引額の3% |
そして、仲介手数料の上限額がこのように段階的に定められている結果、取引額が400万円をこえる不動産の売買の仲介の場合には、仲介手数料の上限は「3%+6万円」という計算式で算出できます。仲介手数料の例は、次の通りです(消費税別)。
取引額 | 報酬額 |
---|---|
5000万円 | 156万円 |
1億円 | 306万円 |
なお、仲介手数料は、次の解説で説明しているとおり、不動産会社によって、割引となったり無料となったりすることがあります。相続した不動産をそれほど売り急いでいない場合には、仲介手数料を安くするための交渉が可能です。
相続不動産を売却するときの費用のうち、「仲介手数料をできるだけ安く抑えたい」というご相談も、「相続財産を守る会」にお任せください。
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不動産売却の仲介手数料を安く抑える方法は、こちらをご覧ください。
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【費用②】印紙税
相続した不動産を売却するときには、印紙税を支払わなければなりません。郵便局などで収入印紙を購入して、不動産売買契約書に貼り付けることによって、印紙税を支払います。
印紙税の税額は、不動産売買契約書の場合には、その契約書によって売買される不動産の売買金額によって、次のとおり決められています。
売買代金額 | 印紙税額 |
---|---|
1万円未満 | 非課税 |
1万円超50万円以下 | 200円 |
50万円超100万円以下 | 500円 |
100万円超500万円以下 | 1,000円 |
500万円超1000万円以下 | 5,000円 |
1000万円超5000万円以下 | 1万円 |
5000万円超1億円以下 | 3万円 |
1億円超5億円以下 | 6万円 |
5億円超10億円以下 | 16万円 |
10億円超50億円以下 | 32万円 |
50億円超 | 48万円 |
収入印紙を貼らなくても、不動産の売買契約自体が無効となることはありませんが、印紙税をおさめなかったことが発覚した場合、印紙税額の3倍の過怠税を支払わなければならず、相続した不動産の売却によって得られる利益が少なくなってしまいます。
相続した不動産の売買契約を締結するとき、契約書を2通作成して、売主と買主が1通ずつ保管することが一般的です。この場合、収入印紙は、2通の契約書ともそれぞれに同額を貼り付けなければなりません。
【費用③】譲渡益課税(所得税・住民税・復興税)
相続した不動産を売却したときに、利益が出た時には、その利益に対して税金が発生します。このときの課税のことを「譲渡益課税」といい、具体的には、次のとおり、所得税、住民税、復興税がかかります。
税金を含めて考えたときに、相続した不動産を売却した方が得なのかどうかについては、相続に関する税金に詳しい税理士にご相談ください。
不動産売却にかかる譲渡益課税譲渡の種類 | 所得税率 | 住民税率 | 復興所得税率(2037年まで) |
---|---|---|---|
短期譲渡所得(所有5年以下) | 30% | 9% | 所得税×2.1% |
長期譲渡所得(所有5年越) | 15% | 5% | 所得税×2.1% |
相続した不動産の売却のとき、注意しなければならないのは、「短期譲渡所得」になるか、「長期譲渡所得」になるかによって、かかる所得税、住民税、復興所得税の税率が大きく異なるということです。
相続した不動産の場合には、「短期」か「長期」かを決める所有期間は、「被相続人が不動産を取得したとき」から数えます。つまり、親子で不動産を相続した場合には、子が相続によって取得したときではなく、親がその不動産を取得したときからの所有期間を数えます。
譲渡益課税の例
相続した不動産の売却のときにかかる譲渡益課税について、例をあげます。
短期譲渡所得の場合売却益 | 所得税 | 住民税 | 復興所得税 | 合計税額 |
---|---|---|---|---|
3000万円 | 900万円 | 270万円 | 18万9000円 | 1180万9000円 |
5000万円 | 1500万円 | 450万円 | 31万5000円 | 1981万5000円 |
売却益 | 所得税 | 住民税 | 復興所得税 | 合計税額 |
---|---|---|---|---|
3000万円 | 450万円 | 150万円 | 9万4500円 | 609万4500円 |
5000万円 | 750万円 | 250万円 | 15万7500円 | 1015万7500円 |
売却益から控除できる経費は?
相続した不動産にかかる税金(譲渡益課税)は、あくまでも「売却益」に対してかかるものであり、「売買代金」に対してかかるものではありません。つまり、「相続した不動産を売却したけれど、利益が出なかった」という場合、申告・納税は不要です。
売却益は、売買代金から、不動産の売買にかかった諸経費を控除することで算出します。控除できる諸経費は、例えば次のようなものです。
不動産譲渡益=売買代金 - 諸費用(取得費+譲渡費用) - 特別控除
控除できる経費
- 不動産の購入費用(相続不動産の場合、被相続人の購入費用、建物は購入時から売却時までの減価償却費を控除した額)
- 登記費用(相続不動産の場合、相続登記の費用も含む)
- 仲介手数料
- 印紙代
- 測量代
- 建物を解体して売却する場合は解体費用
譲渡益が出たときに利用すべき特別控除
相続した不動産を売却するときにかかる費用のうち、譲渡益課税を少しでも安くするために、利用できる控除について、税理士が解説します。
つまり、一定の条件を満たす場合には、次の特別控除を活用することによって相続した不動産の譲渡益を減らし、税金を減らしたり、かからなくしたりすることができます。
ポイント
3000万円の特別控除の特例
:居住していた不動産の売却時に、一定の要件を満たすことで所有期間に関係なく譲渡益から3000万円の控除をうけられる制度
特定居住用財産の買換え特例
:不動産を売却し、その代わりに居住用不動産を購入するときに、対象不動産が一定の要件を満たすことで課税を繰り延べできる制度
10年超所有軽減税率の特例
:居住している不動産の所有期間が10年以上のときに軽減税率を受けられる制度
相続空き家を売却する場合の3000万円の特別控除の特例
:被相続人が一人暮らししていた不動産の売却時に、一定の要件を満たすことで相続人が譲渡益から3000万円の控除を受けられる制度
いずれの制度の利用が可能か、また、併用が可能かどうか、どの特別控除の制度を利用するのが得かは、ケースによって異なるため、詳しくは税理士にご相談ください。
【費用④】測量費用
相続した財産の中に、土地が含まれているとき、土地を売却するときに、測量費用がかかる場合があります。
不動産の中でも、土地の場合には、測量図や公図などが登記とともに役所に保存されていますが、次のような場合には、売却前に権利関係を明確化させるために、測量が必要となるからです。
ポイント
- 土地の境界が確定していない
- 土地の面積が測量図・公図と明らかに異なる
土地の境界を明確化し、隣接するそれぞれの土地の権利をはっきりさせるために行う測量のことを「確定測量」といいます。確定測量を行い、登記をしなおすことが、正確な売買のためには必要となります。
相続した不動産を売却するときにかかる費用を節約するために、確定測量を行わず「公募売買」することがあります。「公募売買」は、上記のような問題点に目をつむって、登記簿どおりの内容であることを合意して売買することです。
【費用⑤】ローン返済
不動産を売却する場合には、ローンをすべて返済しなければならないことが一般的です。多額のローン返済の残っている不動産(土地・建物)を買いたいという人はいないですから、当然です。
相続した不動産の場合には、被相続人が、住宅ローンを組んで購入している場合には、生命保険の一種である「団体信用生命保険」というサービスに加入している場合、被相続人の死亡によって相続不動産のローンは返済されている可能性があります。
住宅ローンが残っている場合には、売却処分前に完済が必要であり、その際にかかる費用は、ローン残高に加えて、「繰り上げ返済事務手数料」が数千円程度かかることが一般的です。
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【費用⑥】抵当権抹消登記手続き費用
相続した不動産のローン返済が終わっていなかったとき、相続した不動産には、そのローンの担保となる抵当権がついていることが一般的です。不動産を担保にして銀行などの金融機関からお金を借りているということです。
この場合、ローン返済が遅れると、抵当権が実行されてその不動産自体をとられてしまうことになりますから、売却のときにかかる費用の1種として、ローン返済とともに行う「抵当権抹消登記手続き費用」が必要となります。
抵当権抹消登記手続き費用は、「登録免許税」という税金であり、不動産1個につき1000円とされています。不動産が土地と建物の場合には、2000円かかります。
「相続財産を守る会」では、抵当権抹消登記手続きについて、相続登記とともに、司法書士にご依頼いただくことができます。
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相続登記にかかる費用と司法書士報酬は、こちらをご覧ください。
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【費用⑦】その他の実費など
以上の特別な費用のほか、相続した不動産を売却するときにかかる費用には、細かな実費も多く必要となります。相続した不動産の売却時にかかる実費には、次のようなものがあります。
- 戸籍・住民票の収集費用
- 印鑑証明書の取得費用
- ローン残高証明書の取得費用
- 残置物の処分費用(遺品整理代なども含む)
- ハウスクリーニング費用
- 引っ越し費用
これらの実費は、いずれもそれほど多額とはならないことが一般的ですので、いずれも、「相続した不動産を売却したほうが得かどうか」を判断する考慮要素とはならないことが多いですが、念のため、確認しておいてください。
不動産相続は、「相続財産を守る会」にお任せください!
いかがでしたでしょうか?
今回は、不動産を相続したときにかかる費用を、税理士がまとめて解説することで、「不動産を相続しましたが、売却処分したほうがよいか、それとも有効活用したほうがよいか、迷っています」というご相談に回答しました。
相続不動産が「高く売れる」ことは重要ですが、その際にかかる費用も合わせて知っておかなければ、手元に残るお金が思いのほか少なかった、ということにもなりかねません。
「相続財産を守る会」では、相続税・不動産売買に強い税理士はもちろんこと、相続不動産を売却した実績を多数有する不動産会社や、その際の登記手続きを行う司法書士などの、相続についての多数の専門家が在籍しています。