相続した不動産を売却しようとするときには、「仲介業者」と呼ばれる不動産会社が必要となります。このとき、不動産会社と締結する契約書を、よく読んで理解し、損のない不動産取引を目指してください。
相続した土地や建物を売るとき、相続人本人が全ての手続を行うのでない限り、売却に関する行為を、相続人に代わって行ってくれる人が必要です。このとき、不動産会社が提示してくる契約書には、「仲介(媒介)」と「代理」があります。
「仲介(媒介)」と「代理」は、あなたのために不動産会社が、相続した不動産を売るために必要となることを一部行うという意味では変わりませんが、いずれも法律の専門用語であり、法的な意味には違いがある部分もあります。
今回は、不動産相続を多く取り扱った経験のある弁護士が、不動産会社との間で結ぶ必要のある「仲介契約(媒介契約)」と「代理契約」の違いについて、わかりやすく解説します。
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相続不動産の売却には、不動産会社が必要!
せっかく不動産を相続しても、その不動産をすぐに売却したいというケースもあります。例えば、相続税を支払う資力がないとか、不動産が相続財産(遺産)に占める割合が大きく公平に遺産分割できない、といったケースです。
相続した不動産を売却するとき、買主探しから必要書類の準備、契約締結から代金支払い、登記まで、全ての手続を素人である相続人本人が行うのは困難ですから、不動産会社の助けが必要となります。
相続した不動産の売却を手伝ってもらうとき、どのような不動産業者を選択すべきかは、相続した不動産(土地・建物)の種類、地域、形状などによっても異なります。
「仲介(媒介)」と「代理」の違い
それでは早速、「仲介(媒介)」と「代理」の違いについて解説します。結論からいいますと、それぞれの取引形態では、不動産会社の関与の方法、責任などが異なります。その結果、かかる費用も異なる場合があります。
相続不動産を売却するときに、勧誘をしてくる不動産会社の中には、法律知識、法的専門用語の説明が十分でなかったり、会社の利益のために、素人にはわかりづらい説明をする業者がいる可能性もあります。
今回の弁護士解説を参考に、損のない不動産取引をしてください。
仲介(媒介)とは?
相続した不動産を売却することを考えて不動産業者を回ったとき、最も多く提案されるのが、仲介契約(媒介契約)です。
仲介(媒介)とは、不動産会社が、売主と買主の間に入って、取引をとりもつ行為のことをいいます。仲介(媒介)の場合には、実際に不動産の売買契約を結ぶ当事者は、売主・買主自身であって不動産会社ではありません。
仲介(媒介)をしてもらうと、仲介手数料が発生します。仲介(媒介)の場合には、仲介手数料は、売主・買主がそれぞれ、自分の依頼した不動産会社に支払います。売主も買主も1つの不動産会社が見つけてきた場合には、合計で倍の仲介手数料がもらえます(「両手仲介」といいます。)
仲介手数料には、宅地建物取引業法による上限がありますが、低い分には法律の制限はなく、不動産会社によっては割引してくれることもあります。
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仲介(媒介)には、さらに、その取引態様の違いによって、次の3種類があります。
ポイント
一般媒介契約
:仲介(媒介)を依頼した不動産会社以外の不動産会社や、相続人自身が、広く情報を流して顧客を探してよい仲介契約(媒介契約)
専任媒介契約
:仲介(媒介)を依頼した不動産会社以外の不動産会社には依頼してはならないが、相続人自身では顧客を探してよい仲介契約(媒介契約)
専属専任媒介契約
:不動産会社はもちろん、相続人自身でも顧客を探してはならない仲介契約(媒介契約)
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相続不動産を売却する流れと契約のポイントは、こちらをご覧ください。
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代理とは?
代理とは、不動産会社が、売主・買主などの一方当事者から代理権という権利をもらい、当事者の代わりに不動産契約を締結することをいいます。代理の場合、不動産の売買契約書を交わすのは代理人であり、その効果が、代理権を与えた相続人本人に及びます。
代理の場合、「双方代理禁止」というルールがあります。売主、買主の双方を代理してしまうと、不動産会社が勝手に売買条件を変更することすらできてしまうからです。代理人は、依頼人となる相続人のために行動する必要があり、依頼人不利な行動をしてはいけません。
そのため、代理の場合には売買の際の手数料は売主だけからもらうことが一般的です。売主側としては、仲介よりも多くの手数料(仲介でいう買主分も加算した金額)を支払わなければならない代理契約もあります。
代理契約の場合に、不動産会社に支払う手数料については、契約によって決められるため、不動産会社から代理契約を提案されたときは、売却したときにかかる手数料、その他の費用を必ずチェックしておきましょう。
必ず契約書を締結する
仲介契約(媒介契約)であっても代理契約であっても、相続不動産の売却を不動産会社に依頼するときには、必ず、契約書を書面で取り交わすようにしてください。契約書で、契約条件を証拠化することによって、いざというときのトラブルに備えるためです。
仲介契約(媒介契約)も代理契約も、通常は、不動産の調査、価格査定から、買主を探すこと、顧客の選定、買主との交渉、売買契約の締結、決済、引渡しなど、不動産取引に必要となるすべての行為のサポートが含まれていることが一般的です。
契約書をよく理解し、不動産会社のどのような業務に対して、いくらの対価を支払う必要があるという取引内容なのか、事前に知っておいてください。
また、仲介契約(媒介契約)の場合には、買主が決まった後、買主との間で、相続不動産の売主となる相続人自身が、売買契約書を締結する必要があります。したがって、そのときにも、不動産売買契約書が不利な内容でないか、専門知識をふまえた契約書チェックが必要です。
仲介(媒介)と代理のどちらがお勧め?
結論からいうと、売主と買主の間に、2つの不動産会社を挟んだ仲介契約(媒介契約)、つまり、「片手仲介」が最もお勧めです。
「片手仲介」を選択して相続不動産を売却することが、相続不動産の売主である相続人にとって、最もかかる費用が少なくなる場合が多いからです。
代理の手数料は高い?
契約内容によりますが、一般的には、代理契約によって不動産を売却したほうが、手数料が高くかかる場合が多いといえます。
仲介契約(媒介契約)の場合には、売主・買主の情報を多く持っている大手不動産会社ほど、「両手仲介」が決まりやすく、売主からも買主からも上限いっぱいの仲介手数料をもらうことができます。
これに対して、代理契約の場合には「双方代理」が禁止されているため、代理権をもらった売主側からしか手数料がもらえません。そのため、契約によっては、売主に対して、買主の仲介手数料相当分の金額も、手数料として支払わせる内容の代理契約もあり、注意が必要です。
もっとくわしく!
相続不動産を購入する買主側の立場からすると、代理契約によって売り出されている不動産の場合、「仲介手数料無料!」という売り文句で広告されていることがあります。代理の場合、買主からはお金をもらえないのですから当然です。
相続不動産を、費用などは度外視して、とにかく早く売りたいという場合には、この「仲介手数料無料」の売り文句は、売主に対して大きな影響を与える効果的な殺し文句となります。
仲介手数料が多めにかかっても、とにかく早く相続不動産を売却したいという場合、例えば、相続税の申告期限が迫っていて税金を払う資力がない場合などには、代理契約を検討してもよいでしょう。
両手仲介のデメリットは?
先ほど解説したように「片手仲介」をお勧めする理由は、「両手仲介」にはデメリットもあるからです。
仲介契約(媒介契約)の場合、代理契約と異なり、当事者の代わりではなくあくまでもサポートに過ぎないため、「双方代理の禁止」のルールははたらきません。つまり、売主の仲介(媒介)、買主の仲介(媒介)は、同じ不動産会社が行ってよいのです。
しかし、不動産会社の立場で考えると、「両手仲介だと倍額の仲介手数料が入る」と考えたときに、もし、自分の探してきた買主候補が、「もう少し値下げしてくれたら買うのに・・・」と言って来たら、どうするでしょうか。
できるだけ自社でマッチングし、両手仲介をするためにも、売主である相続人を説得し、相続不動産を安売りしようと努力する危険は十分高いことが容易に予想できます。つまり、両手仲介は、取引のケースによっては売主の損になるおそれがあるのです。
不動産相続は、「相続財産を守る会」にお任せください!
いかがでしたでしょうか?
今回は、不動産相続を多く扱う弁護士が、不動産売買のときに注意しておいてほしい取引形態の違い、「仲介(媒介)」と「代理」の違いについて解説しました。
不動産会社が、これらの違いについて解説することはよくありますが、不動産会社に勧誘されたときには、その会社の営業マンがいうことだけを闇雲に信じるのではなく、正しい法律知識を身に着けるのが、相続不動産を有利に売却する大事なコツです。
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