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相続時精算課税とは?利用する方法と節税になる具体例を解説

財産を「贈与」によって移転をするときは贈与税、「相続」によって移転をするときは相続税がかかります。贈与税、相続税にはそれぞれ非課税となる枠が定められていますが、その調整をするのが、本解説の「相続時精算課税」の制度です。

贈与税は、贈与を受ける人1名あたり年110万円までは非課税とされていますが、相続時精算課税を利用することで、この非課税枠を2500万円まで増やすことができます。しかし一方で、相続時精算課税を利用したときは、贈与した財産が、後の相続の際に、遺産に加算されるために、相続税が多くかかってしまう可能性があり、将来も見据えた税金の計算が必須となります。

今回は、相続時精算課税制度を利用するときの注意点、贈与税と相続税の合計が少しでも安くなるための節税のポイントについて解説します。

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相続時精算課税とは

相続時精算課税とは、贈与をするとき、贈与税の非課税枠を2500万円まで拡大する代わりに、その方が亡くなって相続が開始したときに発生する相続税の計算の際に、合わせて精算する制度です。

この制度を利用するには、次の2つの条件を満たす必要があります。

  • 贈与する人(贈与者)が、贈与した年の1月1日時点で満60歳以上の祖父母、もしくは、父母であること
  • 贈与を受ける人(受贈者)が、贈与された年の1月1日時点で満18歳以上の子、もしくは、孫であること

※ 「18歳」とあるのは、令和4年3月31日以前の贈与については「20歳」

つまり、贈与であればどのようなものでもよいのではなく、親子間や、祖父母と孫間という一定の続柄に限定してしか利用できない代わりに、贈与税や相続税について柔軟に計算できる方法です。なお、祖父母が、複数の孫に贈与する場合など、贈与の対象者が複数でも、対象者ごとに、暦年課税か、相続時精算課税かを選択できます。

2500万円までの贈与について贈与税が非課税

まず、相続時精算課税では、贈与税の非課税枠が広がります。

相続時精算課税制度を利用したとき、贈与した財産に対してかかる贈与税が非課税となるのは、贈与する財産2500万円が限度です。これを特別控除額と呼びます。つまり、2500万円までなら、贈与税を納税せずに贈与できるというわけです。贈与される財産の種類や贈与の回数に関係なく、合計額2500万円までの贈与が非課税扱いとなります。

このとき、贈与される財産の評価は、「贈与時点の評価額」によります。不動産や株式のように、価格変動の激しい財産を贈与するときは、評価時点を誤ると、非課税となる特別控除額を、意図せず超えてしまうおそれがあるので注意を要します。

なお、2500万円の特別控除額を超える控除には贈与税がかかります。この際の税率は一律20%です。したがって、贈与財産額が2500万円を超えた場合にも、贈与税だけを見れば税額が安く、節税効果があることとなります(次章の通り、将来かかる相続税と合算して、どちらが得かを判断しなければなりません)。

将来に相続税がかかる

相続時精算課税では、贈与税の非課税枠が広がる一方で、贈与した財産について、相続時に、遺産の額に加算して相続税を算出することとなっています。このとき、既に収めた贈与税額は、相続税額から控除されます(贈与税額が相続税額より高いときは、相続時に還付を受けられます)。

そのため、遺産の額が多いと、暦年課税を選択していた場合に比べて相続税が高くなり、贈与税が減った分を合わせて考えても節税にならないおそれがあります。この場合には、相続時精算課税に節税効果はなく、単なる課税の繰り延べに過ぎないこととなってしまいます。

相続税は、早めから生前対策をすることによって、税額を減らせるよう長期的に計画が立てられます。なので相続時精算課税を利用した方ほど、相続税の生前対策は欠かせません。

なお、相続時精算課税制度を利用した贈与には、相続税に関する小規模宅地の特例を利用できません。

小規模宅地の特例によって相続税を減らせる土地を所有している人にとっては、相続時精算課税を利用して特例を利用できなくなってしまうと、逆に相続税が高くなってしまう危険があります。

相続時精算課税を利用する方法

相続時精算課税を利用する具体的な手続きは、相続時精算課税選択届出書を、所轄の税務署に提出することによって行います。この届出書は、贈与をした翌年の2月1日から3月15日までの間に出す必要があり、期限に送れたり、届出書を出さなかったりすると、制度の利用はできません。

届出と同時に提出すべき必要書類は、次の通りです。この際に、納付する贈与税額がゼロだったとしても、贈与税申告が必要となる点に注意が必要です。

  • 相続時精算課税選択届出書
  • 贈与税の申告書
  • 受贈者の戸籍謄本及び戸籍の附票
  • 贈与者の住民票の写し

相続時精算課税制度を利用しない通常の贈与税の課税方式を「暦年課税」と呼びます。つまり、原則通り、毎年の贈与に対して、毎年税金を納付するやり方です。一度、相続時精算課税制度の届出をすると、その後に暦年課税の方式に戻すことはできません。この場合、暦年課税であれば利用できる年間110万円の非課税枠も、二度と利用できません。

そのため、制度利用の前に、十分に税額を計算し、将来の計画と照らして、有利かどうかを吟味する必要があります。

相続時精算課税が節税になる具体例

相続時精算課税を利用すべきかどうかの検討材料として、実際に節税になった具体例を紹介しますので、参考にしてください。

親から子に3000万円贈与するケースを想定します(相続時精算課税を利用する条件は満たしているものとします)。

暦年課税で計算すると、贈与税率は45%、1年で1回の贈与だとすれば、支払う贈与税額は1035.5万円((3000万円-110万円)×45%-265万円)。これに対し、非課税枠を利用しようと毎年110万円ずつ贈与しようとすれば3000万円移転しきるのに20年以上かかります。

相続時精算課税の方法なら、2500万円までは贈与税が非課税であり、残額500万円に対し20%の贈与税がかかり、支払う贈与税の額は100万円(500万円×20%)で済みます。これによる935.5万円の節税ができます(なお、相続時に、相続税で損しないよう、相続時精算課税制度を利用する場合は、速やかに相続対策を実施すべきです)。

相続時精算課税がおすすめのケースは?

相続時精算課税は、贈与税が節税でき、一方で相続税が増えるおそれがあります。そのため、うまく活用するには、適した場面で利用しなければいけません。

最後に、相続時精算課税の利用に向いているケースについて解説します。

贈与財産を加算しても相続税の基礎控除額を超えない場合

相続時精算課税を利用すると相続時に精算することとなりますが、相続税には基礎控除(3000万円+600万円×法定相続人の数)があり、遺産がこれを超えなければ相続税はかかりません。

したがって、贈与財産を加算しても相続税の基礎控除を超えない場合には、相続時精算課税制度の利用がお勧めです。例えば、次のケースです。

  • 贈与財産以外の遺産が少ない
  • 法定相続人が多数いて、基礎控除額が高くなる

贈与財産が値上がりする可能性が高い場合

相続時精算課税では、贈与した財産の評価は「贈与時」を基準とします。そのため、贈与時から相続開始時までの間、贈与財産が値上がりする可能性の高い場合、相続時精算課税の方が税額の合計が安くなる可能性が高いです。

短期間の間に財産価値が上昇する可能性のあるものは、次の通りです。

  • 利用価値の高い不動産
  • 経営が好調な会社の株式
  • 貴金属、骨董品、美術品など年代が古くなるほど価値の上がる資産

収益不動産を贈与する場合

収益不動産を所有している場合には、毎月の家賃収入が入ってくるため、その分だけ遺産が増えて、将来の相続税が増えてしまいます。そこで、収益不動産を親から子へ、相続時精算課税の方法によって贈与しておくと、それ以降の家賃収入は子が受け取ることができ、親の遺産の肥大化を防止できます。

この場合、子が受け取った家賃収入は、相続税の納税資金として活用でき、節税と納税資金の捻出のいずれも同時に対策できます。

円滑に財産移転を行いたい場合

相続時に、多額の遺産が残っていると、相続人間の争いの火種となります。相続時精算課税は、節税だけでなく、争続の防止にも役立てることができます。たとえ節税にならなかったとしても、遺産を円滑に移転し、遺産分割のもめごとを回避する目的でも、早く贈与しておくことには意味があります。

まとめ

今回は、相続時精算課税の制度について解説しました。うまく活用すれば、相続税の節税となる反面、知識をよく理解しなければあまり効果がないどころか、かえって税額が増える危険もあります。

相続時精算課税を利用するときは、後戻りできないため、制度利用の前に税理士に相談すべきです。そして、贈与税と相続税の額を合計して、支払い納税額を低く抑えられるよう計画的に実行すれば、十分な節税効果が期待できます。家庭や財産の状況に合わせた将来のタックス・プランニングが必要です。

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