相続財産のなかに不動産が含まれるケースにおいて、土地と建物の所有権が分かれてしまうことがあります。「親が所有する土地上に、子供が家を建てた」というのが典型例。この例では、子供は親から土地を借りていることになります。親子とはいえ、法的には別人なので、このときに税金の問題が生じないよう注意が必要です。
今回は、相続とともによく発生する、家族間の不動産の貸し借りにおける税金問題を、税理士が解説します。
親子間の土地の貸し借りの例
親子間で、土地の貸し借りが発生するのは、例えば次のケースです。これらの家族間のトラブルは、元気なうちは見えなくても相続によって顕在化してしまうことがよくあります。
- 親が代々相続によって取得した土地の上に、子供が自宅を立てた
- 親が所有していた家と土地のうち、家を生前贈与で子供に譲った
- 親の土地に子供が店舗を建て、事業を営んでいた
特に、子供が結婚して家族を持ったり、出産や育児などのタイミングで広い自宅が必要となったりした際に、親の不動産の一部を借りて生活基盤を作ることがあります。このような場合に気になるのが、税金(贈与税・相続税)の処理です。
親子間の「使用貸借」なら贈与税は非課税
親の土地を子供が借りて、その上に家を建築するようなケースでは、多くの場合、その土地の貸し借りは身内のものなので、金銭の授受は生じません。賃料はもちろん、通常ならば生じる敷金や礼金、保証金や権利金など、一切の金銭を受け取らないことが多いでしょう。
金銭の授受なく貸し借りすることを、法律用語で「使用貸借」と呼びます。使用貸借は、賃料などの対価を要する賃貸借と異なり、無償で行う貸借関係です。そして、親子間の土地の貸し借りが、使用貸借の形態を取るならば、贈与税は非課税であり、かかりません。
使用貸借は、無償で借りることができて、これによって利益が得られるので、一見すると贈与税が発生しそうにも見えますが、結論としては贈与税はかかりません。親の土地を無償で使用する権利を得ているものの、この権利自体は身内の人間関係を前提とするものであり、経済的な価値はなく、贈与とは評価されないのです。
「使用貸借」はみなし贈与とはならない
法律にいう「贈与」には、単純に「無償であげる」という以外に、「通常の売買よりも安い対価で譲渡する」という場合も含みます。つまり、本来よりも安い価値で譲渡すれば、それは贈与したのと同然だ、というわけです。このことを「みなし贈与」と呼び、みなし贈与に該当すれば贈与税が課税されます。
この点で、賃料や敷金、礼金、保証金などの一切の対価を払わずに親から不動産を借りた場合、みなし贈与にあたりそうにも見えます。しかし、前章で解説の通り、使用貸借による土地の使用に限っては、贈与税は非課税となると解釈されています。
使用貸借契約は、親子間で結ばれた場合には、当事者の死亡によって消滅するとても弱い権利であり、賃貸借契約によって設定される借地権ほどの経済的価値がないと考えられているからです。
地代を払うと課税される可能性がある
以上が、親子間でよく起こる、一切の対価を払わずにされた使用貸借に関する解説でした。一方で、生計を別にしている家族には、たとえ親子だったとしても賃料や地代などの金銭を払って、不動産を賃貸借する例もあります。「子供を甘やかしたくない」という親心を持つ方もいるでしょう。
このとき、親から借りている不動産の地代を支払っている場合であって、権利金を支払っていない場合には、権利金相当額の贈与を親から受けたものとして、贈与税を課税されます。
地代を支払いながら贈与税の課税から逃れるには、次の2つの方法があります。
- 地代を支払い、権利金も支払う
- 相当の地代を支払う
税法上で定められる「相当の地代」とは、周辺の相場価格を意味する一般用語とは異なり、次の通りの特殊な計算方法で算出される概念です。
- 相当の地代 = 自用地としての過去3年平均の相続税評価額 × 6%
この計算式で算出した「相当の地代」は、通常、周辺相場の地代より高額となり、権利金を支払ったのと同等の金額であると考えられます。そのため、相当の地代を払うならば、権利金を払わなかったとしても贈与税がかからずに済むのです。
なお、地代や賃料を払うとしても、土地の固定資産税以下の金額であれば、無償で賃借しているのと同様とされ、使用貸借であると評価されます。
親子間で貸借した土地も相続税がかかる
親が生きている間は、親子間で土地を貸し借りしても、贈与税などの税金はかからないことが理解できたでしょう。しかし一方で、贈与税はかからないものの、親が亡くなった後には、子供が借りていた土地は相続財産となり、相続税が課税されます。
納付すべき相続税を計算するには、土地の評価額を算出する必要があります。この際に、親から子供に対して無償で貸し与えられていた土地の評価額は、第三者に賃貸借されていた土地よりも、相続税の計算上、高額に評価されてしまうことに注意が必要です。これは、子供が親から無償で借りた土地は、親自身が使用しているのと同様のものとして評価額を算定するからです(つまり、「貸宅地」ではなく「自用地」として評価します)。
したがって、親子間に使用貸借の関係を残したまま、親が亡くなって相続が開始されると、相続税を多めに課税されてしまう危険があります。相続税が思わぬ高額となって支払いきれなくならないよう、入念な生前対策をすべき場面です。
なお、使用貸借された土地は、減額のない自用地評価額で評価されますが、親がそこに居住していて同居している子供が相続するなど、小規模宅地の減額特例の要件を満たすときは、評価額を減額することができます。
まとめ
今回は、親子間でよく起こり、かつ、相続時のトラブルの元ともなる、無償での不動産の貸し借りと税金の関係について解説しました。
基本的に、使用貸借であれば、贈与税は非課税となるのが原則ですが、地代を支払っている場合には贈与税がかかる場面があります。また、親が亡くなるまで使用貸借を続けると、他人に貸していたよときりも高額の相続税がかかることに注意が必要です。
相続時の税金のみに目を向けるのでなく、生前から相続に至るまで、幅広い視野で、ご家庭の状況にあわせたタックスプランニングを練る必要があります。