SNSアカウントは現代人にとって欠かせないデジタル資産となっているのが現状ですが、その所有者が亡くなった後、SNSのアカウントはどうなるか、不安に思う方もいるでしょう。SNSのアカウントは、相続の場面でも重要な関心事です。
死後のSNSのアカウントの問題は、単なる財産の承継だけでなく、プライバシーや個人情報も絡む、デジタル時代における新たな課題となっています。多くの人々が生前、思い出をSNSに残しており、亡くなった後の扱いは、金銭などの財産よりも場合によっては複雑な問題を抱えています。そして、SNSは新しいサービスであるために必ずしも法律が十分でなく、プラットフォームによって扱いが異なることもあります。
今回は、SNSアカウントが相続の対象となるか、そして亡くなった人のアカウントがどうなるのか、解説します。
SNSアカウントの相続と法的な問題点
まず、SNSアカウントと相続の基本的な知識を解説します。
SNSは、相続の場面では、いわゆる「デジタル遺品」に分類されます。デジタル遺品は厳密には法律用語ではありませんが、デジタルの形になった故人の記録。なかでも財産的価値のあるものは「デジタル遺産(デジタル資産)と呼びます。例えば仮想通貨(暗号資産)が典型例で、SNSアカウントについても集客力や財産的な価値を持つとき、デジタル遺産にあたると考えてよいでしょう。
新しい資産であるデジタル遺産は、相続において複雑な問題を引き起こします。
所有権が明示できない
デジタル遺産は、不動産などの物理的な資産と違って「登記」などの制度が十分に整備されておらず、所有権を明確に表示することができません。あくまで、プラットフォームとユーザーの契約関係に過ぎません。
故人の死後のアクセスが困難
ユーザーが死亡した際には、たとえ相続人といえど第三者がアクセスするのは難しい場合もあります。パスワードが秘密にされているとそもそもパソコンにすらログインできないこともあります。このとき、当然ながらSNSアカウントがあるかどうかすら判別できません。
SNSは、現代において個人の連絡手段となっていることが非常に多く、もしログインできる状態のスマホやPCがあるなら、家族が亡くなった後すぐに情報を引き出しておく必要があります。間違ってもログアウトしてしまったり電源が切れてしまったりしないよう注意して扱いましょう。
運営企業が海外にあることが多い
主要なSNSを運営する企業は、海外にあることが多く、日本の法律や裁判所の権限が届きづらいおそれがあります。日本法が適用されなかったり、されたとしても裁判や執行は事実上困難であったりすることも珍しくありません。
SNSのアカウントは相続の対象となるのか
SNSアカウントは、現金や預金、不動産といった目に見える資産ではありません。「アカウント」という「物」があり相続の対象となるわけではなく、法的にいえば、SNSを運営する起業との間の契約上の地位の相続の問題だと言い換えることができます。
故人がSNSアカウントを保持しているとき、その人は、プラットフォーム(例えばXやFacebook)との間で、そのアカウントを利用する契約を締んでいます。契約書などはなくても、利用規約が存在し、そこに契約の内容が記載され、その契約に基づく範囲で、サービスを利用するのです。
相続が開始したときには、この契約上の地位を承継するかどうかを検討する必要がありますが、この点については法律の整備はまだ十分ではなく、各SNSプラットフォームごとの対応を検討する必要があります。
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主要なSNSプラットフォームのポリシー
現時点での、主要なSNSプラットフォームのポリシーは、次のようになっています。なお、変更の可能性もあるため、相続のタイミングであらためて検討するようにしてください。
各種SNSの対応は、大きく次の2通りに分かれています。
- 遺族が削除する。
- 追悼アカウントとする。
(Instagram・facebookで可能)
主要なSNSの相続への対応状況は、次の通りです(2024年2月時点)。
X(旧:Twitter)
X(旧:Twitter)では、ユーザーが亡くなった場合、権限のある遺産管理人又は故人の家族によってアカウントを停止することができます。ご逝去されたユーザーのアカウント削除を依頼し、Xが要求する書類を提示することでアカウントの削除がされます。
なお、遺族がアカウントを引き継ぐことはできず、ログイン情報も公開されず、追悼アカウントのサービスもありません。
LINE
LINEでは、家族が亡くなった場合に、遺族によって削除の手続きが可能となっています。なお、相続人であってもアカウントを引き継ぐことはできません。
Instagramでは、故人のアカウントを、追悼アカウントへ変更することが可能です。
追悼アカウントにすることにより、ご逝去された方の友人や知人に、亡くなった事実を伝えることができます。また、友人や家族への配慮として、追悼アカウントに関する言及はInstagram上に表示されなくなり、アカウントが凍結されることでプライバシーが保護されます。
あるいは、一部の関係性の方に限り、必要書類を提出することで故人のアカウントの削除を依頼できますが、アカウントを引き継ぐことはできません。
Instagramと同様に追悼アカウントに移行か、アカウントの削除が可能です。また、アカウントを引き継ぐことはできず、ログイン情報についても公開されません。追悼アカウントの管理人については、生前に設定することも可能です。追悼アカウントの管理人になると、投稿の閲覧やプロフィール写真の変更など、様々な情報更新ができます。
事前に依頼をした方がいる場合は、生前から追悼アカウントの管理人として登録しておくことが、有効な生前対策となります。
相続において取るべきSNSに関する対策
最後に、SNSの特殊性を踏まえて、相続人や、被相続人の取るべき対策について解説します。
生前に整理しておく
SNSがその種類によっては、死後に追悼アカウントとして、故人の親族・知人へ発信が行うことができる場合があり、そういった対応を望む方もいるでしょう。あるいは、そういったことは行わずに削除を望む方もいるでしょう。
残された家族からすると、どう行動するのが故人にとって最善なのか非常に悩ましいところですが、死後に聞くことはできません。ご自身のプライバシーの保全のためにも、どのSNSを利用しているか定期的に棚卸しをして、親族が分かるようにしておくことが良いでしょう。また、死後の手間とならないよう、不要なアカウントは早めに削除するようにしてください。
死後の扱いを決め、家族に伝える
死後、自分のアカウントを「削除」あるいは「追悼アカウントとして発信」といった複数の方法があるとき、どのような扱いにしてほしいのかを決め、家族に伝えることが大切です。削除をして欲しい場合も、その旨をお伝えしておくのがスムーズです。
特に、Facebookは事前に追悼アカウント管理者を決めることができるので、誰に依頼したいか、そして、どう運用して欲しいかを事前に共有しておくべきです。実名で使っている人も多いSNSなので、うまく追悼アカウントに移行できれば、死後の連絡手段として活用できます。
直接生前に言葉で伝えない場合には、エンディングノートの活用も有効です。
財産を記載する遺言に記載した場合、情報が多く、かつ、流動的ですので非常に使いづらくなってしまいます。いつでも自分が書きかえられるエンディングノートを1冊手元に置き、SNSアカウントの死後の扱いのように金銭以外のことはそちらに記すのが効果的です。
経済的価値の高いSNSアカウントに注意
SNSアカウントの死後の扱いについてエンディングノートをお勧めしましたが、SNSアカウント自体あるいは内容が、故人の財産的価値と大きな結びつきがある場合は、通常のアカウントの手続き以上に煩雑な手続きとなる可能性があります。例えば、SNSそのものが事業となっているYoutuberやTiktoker、インスタグラマーなどのケースが典型例です。
エンディングノートはあくまで「お願い」のようなもので法的拘束力はありません。きちんと財産的な処分について検討する場合には、全体の財産の棚卸しと含めて遺言書を作成しておくべきです。価値の高いアカウントは、今後新しい時代においては、不動産や預金と同じく、相続トラブルで奪い合いになる可能性もあります。
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まとめ
今回は、SNSアカウントをめぐる相続の問題について解説しました。
SNSアカウントは、故人にとっては非常にプライベートな情報があふれるものであり、どのように処分するかは故人の家族にとっても非常に悩ましいところです。元気なうちに不要なアカウントは削除し、死後の手続についても近しい人と共有することで、死後の手続きを少しでもスムーズに安心に進められるように準備することをお勧めします。