皆さまは、自分の家の近所に、どのようなお寺があるか、知っていますでしょうか。いざ、ご家族がお亡くなりになって、葬儀や法要が必要となったときに、依頼するお寺を決めていますでしょうか。
全国にはお寺が多数あり、更に、宗旨宗派は多種多様です。自分の葬儀や法要を任せるのに、宗旨宗派に拘りがある場合には特に、お近くのお寺のうち、どのお寺に頼めばよいのか、生前から知っておかなければなりません。
IT技術が進歩し、スマホ活用が当たり前となっている現代においては、お寺側でもホームページやSNSなどの新しい手段での情報発信が求められる時代になっているのではないでしょうか。
今回は、お寺と良いご縁を見つけるメディア「お寺の窓口」の運営会社、株式会社AVENIL、代表取締役の森(旧姓:遠島)光顕氏にお話を伺いました。
お寺の窓口 運営会社 株式会社AVENIL
代表取締役 森(旧姓:遠島)光顕
お寺との良いご縁を作るお寺メディア「お寺の窓口」を運営し、人口減少、宗教離れ等に対し、お寺の情報発信や、お寺とのコミュニケーションの活性化を目指す。代表自ら、北海道教願寺の副住職としても活動。
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100ヶ寺以上のお寺を集めた、お寺が運営するポータルサイト
――はじめに、遠島様の運営されている「お寺の窓口」が、どのようなホームページかを教えて頂けますでしょうか。
遠島(以下、敬称略):当社が運営するメディア「お寺の窓口」は、全国に7万7000ヶ寺以上存在するといわれているお寺を、宗旨宗派ごとに網羅的に掲載する、全国初のお寺のポータルサイトです。
運営者が、実際の当事者でもあるお寺の副住職の私であることが、他のメディアにはない大きな特徴です。お寺さんは、皆さん高齢の方が多く、インターネット、ITと聞くと怖がってしまう人もいますので、情報発信を積極的に行う手助けをするためにポータルサイトを立ち上げました。
――お寺さんの人たちは、「お寺の窓口」に登録すると、どのようなことができるのですか?そもそも、「お寺の窓口」に登録するのに、費用はかかるのでしょうか。
遠島:お寺さんは、「お寺の窓口」に登録していただくことで、お寺独自の、自分のWEBページを持つことができます。お寺の中には、ホームページの無いところも多くありますので、情報発信の場を得ることができるメリットがあります。
今のところ、全国津々浦々のお寺さんに広く登録していただきたいと考えています。無料でホームページを開設でき、有料プランではブログ機能を利用できる、とお考え下さい。
――登録費用はかからないのですね。「お寺の窓口」に、多くのお寺さんが登録してくれることに、どのような狙いがあるのでしょうか?
遠島:お寺さん側からすると、地域の住民の方に、ウェブ上からもアピールすることができるため、間口を広げて、葬儀、法要などの依頼をいただきやすくなるメリットがあります。紹介料などのマージンもいただきません。
当社としましては、「お寺の窓口」に多くのお寺さんがご登録いただけることによって、葬儀会社、旅行業、相続関連の士業など、お寺さんとの協業でビジネスを行いたい企業との提携を進めることができます。
お寺のエンドユーザーとなる地域住民の人達は、全国に存在しますので、できるだけ全国各地のお寺さんに、広く登録してもらいたいです。
――実際に、遠島様がお話されている中で、お寺さんの人たちのITやウェブに対する意識というのは、どのようなものなのでしょうか?
遠島:昨今、仮想通貨の流出や個人情報の漏洩などのニュースをよく目にすることも影響しているのでしょうが、高齢の住職の方ほど、「インターネット=怖いもの」という意識があります。
しかし、お寺のホームページを作成したり、ブログで情報発信したりなど、それほど大きな危険性、リスクは無いはずのことにまで、過剰な恐怖感を持ってしまっているという印象を感じます。
当社が正しい情報を広めることで、お寺さんにもウェブを活用してほしいと考えています。
相続だけでなく、インバウンド需要へも拡大
――「お寺の窓口」に登録しているお寺は、既に126ヶ寺(2019年2月現在)にもなるということですが、先ほど話にもあった、お寺との協業によって行うビジネスとして、将来どのようなものを考えているのでしょうか?
遠島:100ヶ寺を超えるお寺さんの登録をいただいて、おかげ様で、様々な事業提携のお話をいただき、他分野への進出の道が開けてきています。特に力を入れているのが、インバウンド事業、ストレスケア・メンタルケア事業の2つの領域です。
――では、まずはインバウンド事業についてお聞かせください。
遠島:1つ目の事業提携は、インバウンド事業です。
登録していただいているお寺さんに、海外から来日する方を招待し、写仏写経、ヨガなどのアクティビティを体験していただく事業です。
特に、欧米からの富裕層の人などは、日本の有名な観光寺は既に飽きてしまっている人もいます。小規模でニッチな檀家寺で、オーダーメイドのサービスを体験していただくことで、日本旅行玄人の方からのお申込みをいただくため、旅行関連の事業会社との提携を目指します。
――次に、2つ目の、ストレスケア・メンタルケア事業についてはいかがでしょうか?
遠島:2つ目の事業提携は、ストレスケア・メンタルケア事業です。
「ストレスチェックの義務化」が話題となったように、現代のストレス社会では、労働でストレスを負ったメンタルのケアが、重要課題とされています。
当社では、深刻なメンタル疾患にかかってしまう前に、福利厚生の1つとして、寺に相談にいったり、癒しを享受できたりするサービスを、会社向けに導入してもらうことを目指します。
人に愚痴を聞いてもらうだけで、ストレスの大部分が軽減でき、生きる活力がわいてきた、という経験があるのではないでしょうか。僧侶に話を聞いてもらうサービスは、現代のストレス軽減にとても活用できると考えています。
――相続分野については、いかがでしょうか。相続を専門とする弁護士、税理士、司法書士や不動産会社など、相続の専門家との事業提携も視野に入れていますでしょうか?
遠島:相続分野についても手掛けていく予定でいます。ただし、相続分野については、積極的に進出しているというよりは、お寺さんのポータルサイトを作成した中で、ご相談が特に多かったため、1つの事業分野として成立したという考えです。
お寺では、お亡くなりになった方の葬儀・法要を行いますが、初七日から四十九日までの間のであっても親族間で相続の揉め事が激化することが少なくありません。
相続専用のポータルサイトを作成し、お寺さんと関わることの少ない相続の専門家に対して、勉強会や相談会、セミナーなどの機会を提供します。
お寺のコンサルタントを目指す
――現在既に100ヶ寺を超えるお寺さんが登録されている「お寺の窓口」ですが、今後目指すのはどのような形なのでしょうか?
遠島:既に、お寺さんの中での「お寺の窓口」はかなり高いと自負しています。将来的には、全国展開、かつ、1万ヶ寺の登録をしていただくのが当面の目標です。
併行して、登録してもらったお寺さんには順々にご挨拶をしています。「お寺と近い、お坊さんの運営するポータルサイト」が、当社の目指す姿です。
――逆に、「お寺の窓口」に登録していただけないお寺さんもあるのではないかと思うのですが、どのような点が、メディアの課題として挙げられるのでしょうか?
遠島:お寺さんから話を聞いていると、副住職は若年層だけれども、インターネットやITに嫌悪感のある高齢者世代の住職が生きている限り、「お寺の窓口」には参加できない、というお寺さんもいます。
しかし、IT化の波は、お寺さんにも容赦なく押し寄せています。「お寺には電話をしにくい」という方に向けて、スマホアプリで簡単に、格安で僧侶を派遣するビジネスは、既に手軽で便利なものとして一般の方にも認知されています。
――遠島様が副住職をされているお寺では、やはりそういったインターネットの力を活用しているのでしょうか?
遠島:はい、私も活用しています。できる限りお寺との距離感を縮めるために、個人的には、SNSやLINEなどから、葬儀や法要の依頼をいただくこともあります。
――インターネットやITに対して偏見のあるお寺さんや、高齢者世代の住職の方に対して、「お寺の窓口」を広めるために遠島様がお考えになっていることがあれば、教えてください。
遠島:さきほど申し上げたとおり、お寺さんといえども将来的にはIT化は避けられません。私のような若手世代が、コンサルタントとしてお寺さんを教育、指導することで、お寺さんの情報発信を手助けしたいです。
そのために「お寺の窓口」での情報提供も重要と考え、仏教に関するコラムの作成をしています。
加えて、「お寺」というよりも「僧侶」個人に焦点を当てた注目が必要ではないかと考えています。「このお寺に任せたい」というのではなく、「この僧侶に任せたい」となるように、お寺さん側も情報発信を積極的にして、外部の方との付き合いを濃くしていくべきです。
――無料相談会なども、積極的に企画しているそうですね。
遠島:クライアント様がお寺を会場にして、関東(東京)および関西圏(京都)にてお寺での法律相談会を主催するお手伝いを致しました。「お寺にいる先生(士業)」という点で、士業の方からも信頼感があがったと喜びの声をいただいています。
――本日はありがとうございました。最後に、「お寺の窓口」を見て頂きたい方に向けて、一言メッセージをお願い致します。
遠島:お坊さんと関わる世間のイメージが「お葬式・法要」ですので、お寺の窓口をきっかけに地域にあるお寺が更に地域のコミュニティとしての役割を果たし、お寺のイメージを変えていきたいです。