「事業承継」とは、法人経営者や個人事業主の方が、お亡くなりになる際にその事業を継続することができるよう受け継ぐことをいいます。
「事業承継」には、相続問題と同様に、子孫に事業を受け継いでもらう方法もありますが、信頼できる社員に受け継いでもらう方法や、社外の第三者にM&A(事業買収)してもらう方法など、ケースによって適切な方法を選択しなければなりません。
インターネットメディアの隆盛により、昨今、出版物(書籍、雑誌)などの市場は低迷しています。市場規模の縮小に応じて、廃業を余儀なくされたり、社長の高齢化によって事業承継が必須課題となったりしている出版会社は少なくありません。
そこで今回は、メディア事業を核として、メディアの作成、支援だけでなく、出版会社などメディアにかかわる会社の事業承継のサポートをしている、株式会社メディアインキュベート、代表の浜崎正己氏に、お話を伺いました。
株式会社メディアインキュベート
代表取締役 浜崎 正己
私たちは、メディアに関わるあらゆる事業を行う会社です。メディア作成、運営支援だけでなく、出版会社の事業再生、M&A(事業買収)に積極的に取り組んでいます。
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なぜ、出版社の事業承継が必要なのか
――まず、御社の核となる「メディア事業」について、教えて頂けますでしょうか。メディアに関するどのような事業を取り扱っているのでしょうか?
浜崎(以下、敬称略):メディアを運営している方、これからメディアを運営したい方々の立ち上げと、運営を支援しています。例えば、出版社様や、新聞社様のデジタル化や、メディアに紐づく新規事業の開発をサポートしています。
具体的には営業面から、編集面、アライアンス先の開拓、イベント運営など、メディアに関わるあらゆることを支援し、場合によっては資金面でもサポートしています。
メディア支援事業を行われている会社は、いくつかあります。
メディアインキュベートは、メディア運営をされている方々と共同事業化していき、コンサルティングだけではなく、コミット力をより高めている点が異なるかと思います。
――メディアに関することなら、なんでも幅広くお取り扱いいただけるということですね。なぜ、いま、メディアのM&Aに注力されていますか?
浜崎:どの業界も再編が起きているかと思いますが、メディア業界も同様です。M&Aや、投資というのは、金融的な知識だけでなく、その領域の専門性も問われるかと思います。
メディアインキュベート はメディア事業に強みを持っています。特定領域でM&Aなどの仲介を支援することは、買い手、売り手、双方にとってメリットの大きいと考え、幸せなマッチングを実現できると考え、注力しています。
――最近、事業承継税制の改正など、事業承継には特に世間の注目が集まっているように感じます。その中でも、特に「出版業界」で事業承継の対策をしなければならない理由は、なぜでしょうか?
浜崎:「出版業界」は、特にメディア業界の中でも変革を求められているかもしれません。ユーザーの情報取得環境の変化により、発信方法自体を見直す必要性に迫られています。
どの企業でもそうかもしれませんが、出版社ではオーナー企業の場合も多く、ご子息に継承するのか、社員に引き継ぐのか、はたまた外の方にお願いするのか、いくつかパターンがあると思います。
その中でも、対策が必要と考える理由としては、デジタル化の波によって、現業への影響が著しく大きく、競合となるサービスが数多存在することです。
外部環境の変化に、内部体制がついていかない事例も見られます。そういった時に、事業承継というのをあくまできっかけとして、会社の行く末を見直すいい機会とするのは、良いことなのではないでしょうか。
出版業界の事業承継の「成功例」とは?
――出版業界だけでなく、さまざまな業界で事業承継の必要性が叫ばれている中で、特に出版会社が抱えている、会社オーナーの課題は、どのような特徴があるのでしょうか?
浜崎:事業承継というと、オーナーから引き継ぐということで、オーナーご自身が高齢の場合が多いのではないでしょうか。前述しましたとおり、今までのやり方ではなく、培ってきた強みが十分に活かせない外部環境になってきて、それに対応する内部体制にないことがあります。
特に課題としてあげられるのは、自身も同じことが言えますが、自分がターゲットでないユーザー体験が体感として分からないことは、あるかと思います。
デバイスの変化により、情報摂取環境が変わったこと影響の大小、年代によって異なるでしょう。その変化を実感していないことで、環境変化に対応するべきなのか、意思決定が遅れてしまうことは、大いにあるのではないでしょうか。
――会社ごとに課題は異なり、適切な方法は、その会社ごとにオーダーメイドで考えていかなければならないとは思いますが、出版会社の事業承継には、どのような方法がありますか?
浜崎:先ずは、決して培ってきた強みが無駄ではないことを知っていただきたいです。
行ってきたことは、本を作ることが強みなのか、編集力なのか、顧客との接点なのか、営業力なのか、業界とのパイプなのか、信頼なのか、様々あるかと思います。
強みについて外部環境を把握した上で、しっかりと認識する必要があります。
その上で、どんな座組みがいいのか、どういった形であれば、社員、株主、お客様、皆さんが幸せになるのか、を信頼できる方々と一緒に考えていっていただきたいです。
基本的に、資金調達の方法は主に借入だったかと思います。スタートアップや、上場企業などは、借入以外の方法も上手く活用して、事業推進を行ってきました。
自社だけで完結するのではなく、自社の強みを明確化することで、他社との提携もスムーズに行えます。
なので繰り返しになりますが、強みを明確にすることで、そのプロセスの中で、どんな形で事業承継を行うのか、提携先を探すべきなのか、答えを出していっていただきたいです。
――浜崎社長がご経験された中で、出版会社、メディア会社の事業承継の成功例を教えてください。
浜崎:あるメディア企業では、ご子息に継承する過程で、様々な事業の見直しを図りました。会社の強みはなんなのか、外部と比較しても戦えるものはなにか、明確にし、改めて今後の方向性を定めていきました。
現在は、外部の会社とも提携し、自社が持っていないリソースを活用し、再成長を遂げています。特にこの会社が上手かったのは、自社の不得意なこと、得意なことをちゃんと明確にして、不得意なことを解消するための提携先と話す際にも、自社にアドバイザーを置いたことです。
全てを唯々諾々に従っては、相手の思う壺となってしまうこともあるでしょう。そこに対して、うまく対応、対等に話すためにも自社のリテラシーをあげることは必須かと思います。ただよく起こりがちなのが、何を持って「乗っ取り」と言うのか、分からずにただ環境が変化をすることに対しての恐怖心から糾弾することがままあります。
――事業承継を成功させるためには、専門的な知識やノウハウも必要となりますね。会社乗っ取りなど、メディア会社に事業承継でも、将来後悔することのないように進めなければなりません。
浜崎:
そもそも何が「乗っ取り」なのか。会社は誰のもので、今までの会社はどう運営されており、自分たちはどんな諸環境の中で生きてきて、今後どうなっていってしまうのか。それを急激な変化に晒されて、ただ反射的に糾弾するのは、学習自体を拒否していることになりかねません。
現業が忙しいこともあるでしょうし、学ばなければならないことがたくさんあるかとは思いますが、悪くしたいという気持ちはないでしょうし、お互いにとって幸せな形が何かを模索した上で、それぞれの方々が提案しているはずです。
その利害の調整をきっちりと、事実ベースで行うためにも、強みを明確にし、弱みも明確にすることは大切なのではないでしょうか。
出版業界・メディア業界の事業承継にかける思い

※子会社の共同代表・三浦祐輝氏と共に
――出版業界、メディア業界で、事業承継対策をしなければならない必要性が高いことは、読者の方にもご理解いただけたかと思います。「まだ事業承継をする時期ではないのではないか」と考える方に向けて、メディア会社が事業承継をするメリットを教えてください。
浜崎:特段必要と考えていなければ、しなくてもいいのかもしれません。ただし、備えあれば憂いなし、ではないですが、全く知識がない中でただ不必要と判断するのは、勿体無いように思います。
いずれ適切なタイミングが来た時に、あらためて検討いただければと思います。しかしながら、環境の変化は激しく、それに自社だけのリソースや、今までのやり方だけではなんともしがたい場合、検討いただくこと自体は、それほど無駄ではないのかなと思います。
他社からの提案を受ける良い機会かと思いますし、現業のブラッシュアップにも役立ってくるのではないでしょうか。
――浜崎社長が、出版業界・メディア業界の事業承継の相談を受ける上で、大切にしていることはありますか?
浜崎:創業者の思い、会社の歴史を大切にし、長く繁栄し続けられるにはどうしたらいいのか。強みというのは会社の文化だったり、人だったりします。単純なサービスや、製品だけではありません。そのためには、どうやって会社ができて、成り立ってきたのか、などを把握するのはとても大切な仕事です。
またお互いに分からない部分も最初はあるかもしれません。しかし、関わる方々が幸せになるための方法を、一緒に模索したい、その一心であることは、ちゃんと申し上げたいです。
不安や、大切にしたいことは、しっかりとお伝えいただきながら、それを我々としても聞いて、叶えられるよう、最大限努力したいと思っています。大切な仲間だと思ってもらえたら嬉しいです。
――最後に、お悩みの出版会社、メディア会社に向けて、御社にご相談いただくメリットなど、一言いただけましたら幸いです。
浜崎:メディアに強みを持ち、メディア企業様の支援を通して、多くの人の幸せに貢献したいと思っています。事業や、諸環境に対する理解は、元々私も出版社や新聞社、テレビ局への入社を目指して、メディアについて大学時代も学んできたこともあり、自信があります。
デジタルや、新しいことをやることが何が何でも大切とは思いません。しかし、それを考慮して、生き残る可能性、より繁栄するために注力していただくことは、必要かと思います。
文化、歴史を大切にしながら、皆様の更なる繁栄と、関わる方々の幸せに貢献したい、と心から思っております。メディア業界を志していたからこそ、メディアへの愛情があります。皆様の思いを大切にしながらサービスを提供していきたく、信頼していただけるよう、務めてまいります。
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