時代が変わり、家族の形が多様化する中で、直面する相続問題もまた複雑さを増しています。少子高齢化、核家族化は、地方に残された墓の継承や管理の支障になっています。この課題にアプローチするのが、明るく、開放的な納骨堂です。
そこには、相続に関する悩みを家族が共に語り合い、解決への一歩を踏み出せる、安らぎの空間が広がっていました。納骨堂は、墓を放置して「無縁仏」にすることなく、墓じまいの方法の1つとして注目されています。
納骨堂のサポートを必要とする、いわゆる「おひとりさま」にとって、相続の相談をする場所がなく、知識の十分でない人もいます。墓の機能だけでなく、「終活」のよろず相談窓口としての機能も期待されています。
今回は、実相寺(東京都港区)の敷地内、青山霊廟の運営者である、せいざん株式会社の池邊文香氏にお話を伺いました。
ゲスト
実相寺青山霊廟運営者 せいざん株式会社取締役
池邊文香
事務所を実相寺内に置き、2011年より納骨堂「青山霊廟」の管理運営を担当。その他、「ここはらはじまるエンパーク」等、相続・終活に関連する複数の事業を継続的に行う。
四季を感じる明るい納骨堂が、家族の対話をうながす
――はじめに、納骨堂青山霊廟についてご紹介ください。
池邊:実相寺内にある納骨堂「青山霊廟」の管理運営サポートを一括して引き受けています。問い合わせいただいた方の対応から納骨堂の内覧、契約している家族の訪問や相談全般をしています。実相寺内に事務所があるため、お寺の日常業務、境内の清掃や近隣への挨拶も、協力して対応します。
――納骨堂が増えていますが、その現状について教えてください。
池邊:納骨堂は、もともとは無縁仏向けの永代供養が役割でした。いわゆる「合資墓」を個人向けにしたものという歴史があります。
昨今増えているのは、跡継ぎ不足、少子高齢化などの社会問題があり、話題になっているのでしょう。石のお墓は管理がつきまといます。これに対し、納骨堂は管理が不要で、気楽で安心ということで選ばれています。広くは、墓の一種と考えて差し支えありません。
お寺と納骨堂の共鳴、和のシナジー
――お寺と協力関係が築ける納骨堂、という貴社のメリットを教えてください。
池邊:お寺の住職と協力して契約者のサポートができますので、家族への手厚いサポートを速やかに行えます。利用者にとって良い状態を作ることができます。納骨堂の利用者は、お寺の檀家に限られず、宗旨宗派を問わず永代供養することができる点が特徴です。
お寺に密着した利用しやすい納骨堂なので、ウェブからの問い合わせを多くいただきますが、このようなメリットを活かすためにも、必ず住職と面談してもらうようにしています。
青山霊廟では、日本の四季をテーマにした装飾を、納骨堂内に施し、明るく美しい雰囲気を作って「お墓」という暗いイメージを払拭しています。味気ない場所では、心のこもったサービスはできませんから、温かいデザインが売りの1つとなっています。
――青山霊廟の運営で大切にされている思いは、どんなものですか?
池邊:納骨堂内を清潔に保つことにもあらわれているとおり、青山霊廟では「お参りしたくなる納骨堂を目指す」をモットーにします。当社の思いのもと、実際に青山霊廟に契約いただく約半数が、亡くなる前に納骨堂を決めていかれる、いわゆる「生前契約」です。
相談しやすい納骨堂で、相続サポート
――これまで数多くの相続相談を受けたと思いますが、納骨堂の立場として、どう考えていますか?
池邊:当社は、終活に関連するさまざまな事業を行っています。納骨堂の相談以外にも、幅広くお聞きできる、よろづ相談窓口として機能するのが、当社の強みです。
納骨堂の利用者には、地方からの改葬、生前の契約、死後の相談といった様々なパターンがあります。田舎に先祖の墓があるが管理できない、両親が健在なうちに納骨堂に改葬したい、死んだときに相続人に迷惑をかけたくないなど、様々な需要を一定に引き受け、ご相談をお聞きできます。
――納骨堂ならではの相談エピソードなどあれば教えてください。
池邊:離婚歴があって「おひとりさま」になった方には、墓ではなく納骨堂を選択する人が少なくありません。そのため、前妻の間の子と現妻との相続関係にお悩みの方の相談を受けることはよくあります。当社は、お参りに来た方に納骨堂を案内したり、花瓶を用意したりといった雑事をスタッフが対応するので、接触頻度が高く、立ち話が相談に発展します。
都心部にありながら、人間関係が希薄にならないよう、利用者のコミュニティを作り、「結の会」という生前の方向けの交流会を、実相寺内で開催しています。相続に限らず、今後の家族の相談などをいただき、必要に応じて葬儀社や弁護士、税理士をお繋ぎすることもあります。
心安らぐ相続相談を、もっと身近に
――貴社では、納骨堂の運営だけでなく、終活全般のサービスを広く行っているのですね
池邊:「enperk」など、複数のウェブメディアを運営しています。ウェブメディアでは、終活関連の情報発信を中心に、相続だけでなく「ライフ」に関する特集記事を組み、啓蒙に努めています。
――青山霊廟をはじめ、貴社の今後の展開についてお聞かせください。
池邊:青山霊廟だけではキャパシティに限界がありますが、満員となってもお参りしやすい環境を継続するのが当社の使命です。永代供養なので、33年後までお預かりする契約もあり、途中で倒れてはいけません。会社の持続性として、ウェブメディアの発信も積極的に行っています。
あわせて、更に相談しやすい体制として、ワークショップ形式での集まりを企画する予定です。相続法改正など、対応すべき課題は多いけれど、「相談会は怖い」という意見もあります。口コミがあり、よかったら次は友人を連れて、といった具合でハードルを下げる工夫をしています。
――本日はありがとうございました。最後に、納骨堂をはじめとした終活に悩む方に向け、一言メッセージをお願いします。
池邊:納骨堂からはじまり、供養に関わることは本人のためでもありながら、残された家族、友人、恋人、仕事仲間など生前に信頼関係を構築した大切な方々にとってのものでもあります。残された人が悲しい時、嬉しい時、亡くなった人に思いを馳せ、心の整理をすることで残された人の人生がより良くなるのが供養の大きな意義です。
そういった意味では、納骨堂はデザインや建物の立派さよりも、お参りにきやすか、相談しやすいか、運営がしっかりされているか、といった観点を大切にされてください。