「遺言を書いておいたほうがよいのでしょうか?」という相続相談が、弁護士のもとに多く寄せられています。結論からいうと「遺言を書かないほうがよい」という人はいません。
相続人も相続財産も、相続債務も全くない、という人でない限り、「遺言を書いた方がよい。」というアドバイスを差し上げることとなります。むしろ、「遺言書かないと危険だ」というリスクある方もいます。
今回は、その中でも「絶対に遺言書を書いておいた方がよい(むしろ、遺言を書かないと不利益がある、損をする)」と強くお勧めしたい方について、相続に詳しい弁護士が解説します。
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遺言書を絶対に書いておくべき人とは?
では早速、「絶対に遺言を残しておくべき」というほど強く遺言書の作成を勧める人について、5つのパターンに分けて、相続に強い弁護士が解説していきます。
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相続財産(遺産)のほとんどが不動産の人
遺言書の主な目的は、誰にどの財産を取得させるかについての故人の思いを明確にし、相続人間のトラブルを防ぐことです。そして、相続財産(遺産)のほとんどが不動産の場合、不動産は簡単には分割できないため、相続人が揉める可能性が高くなります。
預貯金があれば、不動産を相続しなかった人には変わりに預貯金を渡せばよいですが、預貯金が十分にないと、相続紛争は避けがたいでしょうから、遺言で予防しておきましょう。
マンション、アパートを所有している場合、その不動産を取得し、管理して賃料などの収益を得たり、修繕費を支払ったりする人がどの相続人なのかでもめることがあります。
以上の通り、相続財産に占める不動産の割合が多ければ多いほど「絶対に遺言を残しておくべき人」であるといえます。
相続人以外に、財産を与えたい人が決まっている人
「絶対に遺言を残しておくべき人」の2つ目の類型は、既に相続財産(遺産)を与えたい人が決まっていて、しかもその財産を与える人が相続人ではない、という人です。
まず、相続人以外の人に財産を分け与えることは容易ではなく、遺言を残すことによって実現できるとても重要な事項です。そのため、相続人以外に大切な人がいる方は、絶対に遺言を残した方がよいでしょう。遺言がないと、相続財産は法定相続人で分割します。
ただし、相続人以外の人に財産を与えるときは、遺留分を侵害しないかどうか注意してください。
たとえば・・・
内縁の妻(事実婚のパートナー)は、法律上の婚姻関係にはないため、相続法上は「配偶者」にはあたらず、法定相続人とはなりません。
そのため、内縁の妻(事実婚のパートナー)に相続財産(遺産)を与えたい場合、遺言による贈与(遺贈)の方法によってしか実現できません。
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事業を経営している人
事業を経営している場合にも、遺言作成が必須であるといってよいでしょう。法人の経営者(代表取締役社長など)はもちろん、個人事業主として家業を行っている人も、遺言を絶対に書くべき人です。
事業を経営している人の場合には、死亡した後に、誰がその事業を行うか、すなわち「事業承継」が、遺産分割を大揉めにする重大な事項となるからです。
事業についての権利(事業用不動産の所有権、株式、リース機器など)は、いずれも財産的価値のある権利で、相続の対象となります。遺言を書いて手当をしておかないと、事業を承継する人と、権利を取得する人がゴチャゴチャになってしまい、事業継続の支障となります。
「経営権」に財産的な価値があるということです。経営権とは会社の行く末を決める力であり、その決定権は、株式に付随しています。
生前に家族相談を一切したことがない人
人の一生にはいろいろなライフプランがあります。複数回結婚したり、離婚をしたりする人もいれば、全く結婚をしなかったり、晩婚であったりする人もいます。子の人数も、夫婦によってさまざまで、子どもを欲しがらない夫婦もいます。
生前に、相続を見据えた家族相談を繰り返していれば、「誰が相続人となるか」「どのような相続財産(遺産)があるか」「借金がないか」といったことは、既に相続人に共有されているはずです。
まだ一度も家族相談をしたことがない人の中には、「死後のことは話しづらい」とう方もいますが、そういう人こそ遺言を絶対に書くべき人といえます。遺言を書くことを家族相談を開始するきっかけにしてください。
特に、離婚をした場合、前妻や子のことを、現在の家族には言いづらいのではないでしょうか。しかし、前妻との間にできた子もまた、法律上は必ず相続人になります。夫婦関係が切れても、親子関係は切れません。死後に発覚すれば、相続が「争続」となりトラブルの元です。
配偶者と子がいない人
相続のとき、特に相続の優先順位が高いのが、配偶者(夫または妻)と子です。特に、男性がなくなった場合、妻子が夫の扶養に入っていて、妻子に手厚く相続すべきである場合が少なくありません。
しかし一方で、生涯未婚の人もいれば、子はいらないという夫婦もいます。そのため、配偶者も子もいない家庭は、個人の価値観の多様化が進むにつれてますます増えています。
配偶者と子のいずれもいないという方は、絶対に遺言を書いておくべき人といえます。配偶者と子がいない場合、相続人としては両親、祖父母、兄弟姉妹となりますが、いずれも、配偶者や子よりも、相続を期待していなかった「棚ぼた相続」となる場合があります。
直系尊属(父母・祖父母)や兄弟姉妹に相続財産(遺産)を渡す前に、世話になった人や団体に財産を取得してもらいたいと考えるのであれば、絶対に遺言を作成しておいてください。
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遺言書に絶対書いておくべきことは?
遺言書を書く目的は、相続財産(遺産)を、誰に、どのような割合で相続してもらうかを明らかにすることです。そのため、遺言書に絶対に書いておくべきことは、財産の分配に関することです。
遺言書に、財産の分配に関する記載をするとき、財産が正確に特定できるよう、登記簿謄本、預貯金通帳などを見ながら、情報を正確に記載します。
その上で、相続のしかたを指定する方法は、「特定の財産を、特定の人に相続してもらうことを記載する方法(例えば、「自宅不動産は妻に与える。」など)」と、「相続人の、相続割合を指定する方法(例えば、「長男の相続割合は2/3」など)」の2つがあります。いずれの方法でも、法定相続人の遺留分を侵害しないよう注意してください。
その他、遺言書に書いておいた方がよいことには、つぎのものがあります。
- 推定相続人の遺言廃除、取消し(民法893条等)
- 特別受益の持戻しの免除(同903条)
- 相続人相互間の担保責任の指定(同914条)
- 遺留分減殺方法の指定(同1034条)
遺言に書いておくことによって行うことのできる行為は、民法だけでなく、その他の特別法にも存在します。
- 一般財団法人の設立,財産の拠出(一般法人法152条)
- 生命保険受取人の変更(保険法44条)
- 信託の設定(信託法3条)
遺言を書いて損することはない
今回は、「遺言を絶対に残すべき人」について解説しましたが、そもそも遺言を書いて損をするという人はいませんから、「遺言を書くべきでしょうか?」という相談に対しての回答は既に出ているといってよいでしょう。
自分の死後の財産の処分について、あなたの意思を遺言によって明確にし、少しでも相続人間のトラブルを避け、円満な遺産分割をするよう導くことが、被相続人の責任ともいえます。
なお、弁護士などの専門家士業、公証人などの関与なく、自筆証書遺言を作成したがあとあと無効となってしまった場合など、正しい知識をもとに遺言を活用しなければ「遺言を書いて損をしてしまった」という事例もありますので注意が必要です。
遺言作成は、「相続財産を守る会」にお任せください!
いかがでしたでしょうか?
遺言は、作成しておいたほうが相続が円滑に進み、いいことばかりですが、今回はその中でも「遺言を絶対に書いておいた方がよい人」に絞って、重点的に解説をしました。
今回の解説にあてはまる人で、まだ遺言を書いていない人や、遺言を書いたけれども自筆証書遺言であり自信のない人は、ぜひ、相続に強い弁護士に無料相談してください。
「相続財産を守る会」では、遺言を絶対に書いた方がよいケースでの遺言作成の実績が多数あります。ご家族の状況、遺言を書く理由に即した、適切な遺言作成を、ご相談者に歩み寄りながらお手伝いします。