預貯金は土地などと異なり、引き出してすぐに使うことができるため、相続人にとっては使い勝手がよく、重要な財産です。
自分が相続したと思っていた預貯金を突然知らない誰かに持っていかれてしまったら・・・。考えたくもありませんね。
相続をした預貯金を守れなかったことで、相続人が損をしてしまったという相続相談の例を紹介します。
たとえば・・・
亡くなった母親がのこした遺言の中で、自分がA銀行の預金500万円全額を相続することになっていました。
A銀行は自宅から遠いため、しばらくそのままにしていたところ、どうやら母親には借金があったらしく、母親の債権者が、400万円を差し押さえてもって行ってしまいました。
今回は、相続で損をするこのような事態をさけるため、預貯金を相続で多くもらった相続人が、預貯金を守るための方法を、相続に強い弁護士が解説します。
今回の記事は、以下のいずれかにあてはまる方に、特に読んでいただきたい記事です。
ポイント
遺産分割で預貯金を多めに受け取った相続人の方
遺言の中で、「A銀行の預金は〇〇に相続させる」などと指定された相続人の方
相続になった場合に、他の相続人よりも預貯金を多めにもらうことが想定される相続人の方
特に、2018年に成立した改正相続法が施行された後に、特に重要になりますので、一度この解説を読んでみて下さい。
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相続財産を守る会を運営する、弁護士法人浅野総合法律事務所では、相続問題と遺産分割協議のサポートに注力しています。
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浅野英之"]
弁護士法人浅野総合法律事務所、代表弁護士の浅野です。
預貯金は、相続財産の中でも、特に重要な財産です。遺産分割協議のとき、不動産はうまく分割することが難しいため、現金や預貯金で、相続人間が公平となるように調整することが多いためです。
遺産分割協議を円滑に進めたり、遺言による故人の意思を尊重するために重要な助けとなる預貯金を守るため、2018年法改正を踏まえた預貯金の保全のしかたについて解説します。
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預貯金の相続手続とは?
被相続人が亡くなった時点では、預貯金は、被相続人の名義になっています。被相続人の名義のままでは、預貯金を相続した相続人がその預貯金を使うことはできません。
預貯金の名義を被相続人(亡くなった方)の名義から、相続人の名義に変える必要があります。
現在の金融機関の実務では、預貯金が相続された場合には、以下のような方法で、亡くなった方の名義になっている預貯金口座を、相続人の名義に変更することができます。
遺言書がある場合とない場合とで必要なものが異なりますので、ケースに分けて説明します。
遺言書がある場合
遺言の中で、亡くなった方(被相続人)のA銀行の預貯金を相続することとされていた場合には、その遺言書をA銀行に持参し、自分の名義に変更してもらうことになります。
たとえば・・・
お亡くなりになったご家族が手書きで作った「自筆証書遺言(じひつしょうしょいごん)」に、預貯金の相続についての記載があったとします。
この場合、自筆証書遺言書の原本か、あるいは、裁判所の「検認(けんにん)」という手続の中で作られる「検認調書(けんにんちょうしょ)」の謄本を預貯金口座のある金融機関に持参して、手続きを行います。
検認調書には、遺言書の写しが添付されています。
検認(けんにん)とは、自筆証書遺言(手書きの遺言書)の保存状態を確認するために、裁判所で行われる手続です。
手書きの遺言書を見つけた場合には、家庭裁判所でこの手続をする法律上の義務がありますので、放置したり、隠匿してしまったりしてはなりません。
遺言書がない場合
遺言書がない場合には、相続人どうしの話合いである遺産分割(いさんぶんかつ)によって、被相続人ののこした相続財産(遺産)を分けることになります。
話合いで遺産の分け方を合意できる場合には、「遺産分割協議書(いさんぶんかつきょうぎしょ)」を作成することになりますので、この遺産分割協議書を銀行に持っていって、預貯金の名義変更の手続をします。
現在の手続のポイント
遺言書がある場合でも、ない場合でも、基本的には金融機関の窓口に行って手続きをすることになります。
窓口に行かずに自分が相続した預貯金を守る方法もないわけではありません。しかし、現在の法律のルールでは、相続人全員の協力がなければ、この方法は使えません。
預貯金の相続に関するルール変更
2018年7月に、民法のうち、相続に関するルールが改正されました。
法改正による新しいルールでは、預貯金を相続した場合に、法定相続分をこえる部分を守るためには、「対抗要件(たいこうようけん)」をそなえる必要があります。
「法定相続分(ほうていそうぞくぶん)」とは、法律でみとめられた、その相続人の原則的な遺産の取り分をいいます。たとえば、相続人が配偶者と子どもの場合、配偶者の法定相続分は、遺産の1/2です。
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「法定相続分」の割合と計算方法について、詳しくはこちらをご覧ください。
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相続人が忘れてはならない相続財産の「対抗要件具備」は、こちらをご覧ください。
今回は、相続財産(遺産)を得た相続人が、その財産を守るために忘れてはならない「対抗要件の具備」について説明します。 相続財産の「対抗要件の具備」の問題は、2018年7月に成立した改正法でつくられた新し ...
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たとえば・・・
銀行の預金が600万円あり、相続人が、亡くなった方の妻Aと、子どもB・Cの合計3人だったとします。この場合、Bの法定相続分は1/4、つまり150万円です。
遺言や、相続人どうしの話合い(遺産分割協議)によって、Bが預金600万円をすべて相続することも可能です。
しかし、法定相続分と異なる遺言や遺産分割協議の内容は、相続と関係のない第三者には通常わかりません。
この例で、妻Aにお金を貸している第三者が、妻Aも預金を半分相続しているはずだと考えて、Aが相続したであろう預金を差し押さえたとします。
しかし、預金の全額をBが一人で相続したということが分かれば、今の法律のルールでは、Aの差し押さえは空振りとなってしまいます。
「対抗要件」とは、自分がその財産の持ち主となったことを主張するために必要となる条件のことです。
わかりやすい例でいえば、土地については「登記」が対抗要件です。土地を取得した場合には、登記をして初めて、自分の土地であると他人に対して主張できるのです。
改正後のルールでは、上の例のように、法定相続分と異なる遺言、遺産分割協議があったとき、誰が預貯金を相続したのかが客観的に明らかになるよう、相続をした人が、「対抗要件」をそなえなければならないことになったのです。
預貯金の場合には、「対抗要件」を備えるための方法として、「金融機関に通知する」という方法があります。
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2018年の民法改正(相続法)について、詳しくはこちらをご覧ください。
平成30年(2018年)7月6日に、通常国会で、相続に関する法律が改正されました。 正式名称、「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」という法律が成 ...
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預貯金を相続した相続人による金融機関への通知【2018年改正法対応】
預貯金について、法定相続分と異なる遺言、遺産分割協議の当事者となったときは、対抗要件を備えておかなければ、預貯金を守れなくなってしまう可能性があります。
預貯金の対抗要件を備える方法には、金融機関(銀行など)に通知する方法がありますが、2018年法改正によって、より簡便な通知方法が認められることになります。
新しいルールは、2019年の夏ごろから適用されます。
新しい「通知」方法が認められる!
上記のとおり、預貯金について「対抗要件」を備えるための方法として、「金融機関に通知する」という方法があります。預貯金口座のある金融機関に、「自分がこの預貯金を相続しました」と伝える方法です。
改正法では、この「金融機関に通知する」方法として、新しい方法が認められることになりました。
現在のルールでは、金融機関に通知する方法は、相続人全員の協力がなければできませんが、2018年(平成30年)の相続法改正によって、預貯金を相続した相続人が単独で対抗要件を備えることができます(改正民法899条の2第2項)
言いかえると、自分以外の相続人の協力が得られない場合であっても、預貯金について対抗要件をそなえることができるようになります
この新しいルールを使うと、預貯金を相続した人が「自分だけで」、しかも「窓口に行くことなく」、預貯金に関する権利を保全することができる(対抗要件を備えることができる)という点がポイントです。
誰が「通知」を使うべき?
郵送によって、預貯金を相続した事実を金融機関に通知すべき(対抗要件を備えるべき)ケースは、以下のような場合です。
ポイント
- 遺言や遺産分割によって、法定相続分よりも多くの預貯金を相続した相続人
- 預貯金をのこした被相続人、または自分以外の相続人が、お金に困っている(困っていた)
- 相続した預貯金のある金融機関が遠いため、窓口で手続をするのが大変である
金融機関の窓口に行って手続きができるのであれば、それに越したことはありません。
しかし、口座のある金融機関が遠方にあるためすぐに行くことができない、あるいは費用がかかるという場合には、相続によって自分の預貯金になったことを、ひとまず郵送で通知しておくべきです。
金融機関への通知はどのように行う?
金融機関に対して、預貯金を相続した事実を、郵送で通知をする方法には、次の方法があります。
具体的な通知方法の流れについて、弁護士がまとめました。
ポイント
- 自分がどの預貯金を相続したかが分かるように書面に書く
- その書面を内容証明郵便でその金融機関に送る
- 相続したことの証拠となる書類(遺言書や遺産分割協議書)を、別途金融機関に郵送する
通知を郵送する方法は、普通郵便では十分ではありません。自分の権利を十分に守るためには、後日の証拠となるよう「配達証明付き内容証明郵便」で送る必要があります。
通知を郵送するときに同封する、相続したことの証拠資料は、コピーでは足りず、原本か、または原本に準じる書類を用意することを求められる可能性があります。
通知をする前に、金融機関に問い合わせをして、どのような書類が必要であるか尋ねるのがよいでしょう。
相続問題は、「相続財産を守る会」にお任せください!
いかがでしたでしょうか。
今回は、「預貯金を相続した場合に、どのような手続きを行えばよいのでしょうか。」という相続相談について、2018年の相続法改正を踏まえ、預貯金の対抗要件の備え方を相続に強い弁護士が解説しました。
預貯金は、相続財産の中でも重要な部分を占めます。不動産がある場合、相続財産が高額になりやすいですが、相続財産が高額になったとき、公平かつもめないように遺産分割するためには、預貯金の保全が重要となります。
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