相続をきっかけに、家族仲が深まるご家庭もありますが、少しのボタンの掛け違い、感情的な対立によって、家族間に決定的な亀裂が入り、「争続」となってしまう方たちもいます。
相続手続は多種多様で、スムーズに進めなければ、揉め事を加速させる原因ともなりかねません。弁護士や税理士に相談することのハードルが高いあまりに相続相談をせず、放置しておき、節税や生前対策の機会を逸してしまった方の相談をお受けすることもあります。
今回は、大阪府なにわ区で相続手続支援センターを運営し、12年間で2000件を超える相続手続きのサポートをしている、一般社団法人つむぐ、代表理事の長井俊行氏にお話をうかがいました。
一般社団法人つむぐ
代表理事 長井俊行
相続は、誰しもが迎える将来のリスクですが、生前準備の重要性を理解していないと、思わぬ失敗に見舞われます。当法人では、家族に提供したい手厚いサービスをモットーに相続手続をサポートします。
[toc]
次世代へ、遺志を「つむぐ」
――長井様は、これまでも相当長い期間にわたって、相続問題に携わってこられたのですね。この度、一般社団法人つむぐを設立された経緯や、法人の詳細などについて教えて頂けますでしょうか。
長井(以下、敬称略):私は、兵庫県出身で、大学から大阪へ。卒業後、税理士事務所へ勤務し、相続事業に携わりました。2012年より独立をし、7年間にわたって、株式会社サントレフォルムの代表取締役をつとめ、相続手続支援センターなにわ支部を運営してきました。
年間200件もの相続相談を見てきましたが、決して幸せな相続ばかりではなく、兄弟喧嘩や親子喧嘩も多くみてきました。
私達は弁護士ではないため、トラブルになってしまった相続問題は専門家である弁護士に任せざるを得ないですが、「生前に、もっと早く相談に来てほしい」、「相続相談を身近に感じてほしい」という思いから、一般社団法人つむぐを立上げ、地域ごとに拡大していく計画でおります。
――相続を得意とする弁護士、税理士、司法書士、行政書士などとのかかわりについて、どのようにお考えでしょうか?
長井:当法人にも、行政書士が1名おりますが、他の社員と同様に相続手続きのサポートを行っています。各地域に、弁護士、税理士、司法書士などの専門家が、複数、パートナーとして提携をしています。
専門家士業が行う相続サービスは、どうしてもその士業の利益に偏りがちです。私は、そうではなく、総合的にみて、客観的な立場から、相談者様の利益になるようなアドバイスをしたいと考えています。
――「相続財産を守る会」も同様の理念で運営しています。さまざまな専門家が集まることによって、1つの専門家の利益のために顧客の利益をないがしろにすることのないよう、総合的なアドバイスを受けることができますね。
長井:そうですね。一方で、争いになった場合には弁護士、税務申告は税理士など、私達では対応できない相続手続き業務は、日々多く発生しています。
専門家士業の方々を、ご相談者の方の性格やニーズに合わせて、きめ細かい紹介をすることができるよう、さまざまなタイプの専門家士業の方と付き合うようにしています。パートナーの専門家は、関西を中心に30事務所以上あります。
主婦雇用と、相続手続サポートの親和性
――一般社団法人つむぐと、相続手続支援センターにおいて対応していただける相続手続きには、どのようなものがありますか?
長井:まず、代表的なものとして、戸籍収集や相続財産目録の作成、相続のタイムスケジュールの作成があります。しかし、当法人ではそれだけにとどまらず、専門家士業が忌避するような細かい相談まで、逐一お話をお聞きしています。
――具体的には、どのような相談があるのでしょうか。
長井:「口座が止まってしまった」、「電気代の支払い口座の変更」、「NHKの解約手続きはどうしたらよいのか」など、士業が嫌がる細かいお困りごとのサポートも、当法人では嫌がりません。
一方で、専門家士業の方に頼まなければならない税務申告、相続登記なども、当法人が主導的にスケジュール管理をしてあげることによって、士業の方には、士業にしかできない仕事に専念してもらうことができます。
――各士業の方に直接頼むのではなく、相続手続支援センターに調整してもらいながら相続手続きを進めることには、他にどのようなメリットがありますか?
長井:やはり、細かい相談ごとを逐一聞いてくれることによって、不安や心配が解消されたという喜びの声をいただいています。
そして、士業の方に負担をかけすぎないことによって、士業の方にも、相続手続支援センターの提携価格として、できる限りリーズナブルな金額で、ご相談者様に対してサービスを提供できるように努力していただいています。
――一般社団法人つむぐ・相続手続支援センターでは、主婦の方を雇用して、相続手続きを行ってもらっていると聞きましたが、どのようなメリットがあるのでしょうか。
長井:主婦の方の中には、育児のために短時間しか勤務できないけれども、社会的に役立つ仕事をしたいという方が大勢いらっしゃいます。相続手続きは、まさにその需要を満たす、良い仕事だと自負しています。
まず、市区町村役場や金融機関の窓口は日中しかあいておらず、仕事をされている人が相続手続きを進めるハードルの1つとなりますが、育児をしている主婦は、むしろその時間の方が仕事をするにあたり都合がいいのです。
また、大切な相談の時間などでなければ、相続手続きの書類提出などは、育児をしながらでも行ってもらうことができます。同じく育児をしながら仕事をしている方が多いため、お互いに助け合ってスケジュール調整することもできています。
――ご相談をいただく方にも、相続手続きの代行サービスを、よりリーズナブルな価格で提供していただけそうですね。
長井:そうですね。専門家士業が直接行うよりも、主婦パートの方にお手伝い頂くことによって人件費を抑えることができますので、ご相談者の方にも喜んでいただけています。
当法人としましても、大きな利益を生み出すという気持ちではなく、ご相談者の方に寄り添って、事業を継続していくことが、特に相続サービスにおいては重要だと考えています。
終活カフェ、終活信託を活用し、次世代への架け橋に
――一般社団法人つむぐの活動として、「終活カフェ」というイベントを開催しているのを拝見しましたが、どのようなものか、ご説明いただけますでしょうか?
長井:「終活カフェ」は、相続について、気軽に相談できる、カフェ感覚で来ることができる相談場所を用意しよう、という思いではじめたイベントです。
具体的には、お寺をカフェのように見立てて飲み物を提供し、相続相談を気軽に行ってもらうことによって、地域のコミュニティづくりにつなげようというものです。
――「終活カフェ」のイベントを開催して、どのような問題点を解決したいですか?
長井:相続相談を専門家士業にすることは、まだまだハードルが高い面があると思いますので、その部分を、地域のお寺に気軽にきてもらうことで解消するのが狙いです。
しかし一方で、お寺には相続に関する専門的なノウハウがなく、解決力が低いという問題点がありました。信頼されて、相談されるお寺で、もっとうまく相続問題を解決する道があるのではないか、というのが、私の感じている解決課題です。
相続財産の遺産分割問題などについて、「お寺にお金をあずけるから、あとは何とかしてほしい」という需要もありましたが、お寺にはそのノウハウもありませんでした。そこで私達が提案したのが「終活信託」です。
終活カフェの様子
[su_slider source="media: 2986,2985" height="300"]
――「終活信託」について、どのようなサービスなのでしょうか。「終活信託」の内容や、利用した場合のメリットなどについて教えていただけますでしょうか?
長井:相続手続きをサポートしていると、お助けするのが困難なケースもあります。例えば、相続財産は1億円あるものの、ずっと面倒を見てくれていたのは「いとこ」であり法定相続人はいない、という件で、遺言がないと「相続人不存在」となってしまいます。
「特別縁故者」という救済策はありますが、申請が通るまで2年程度かかり、その間、もらえるかどうかわからない相続財産をあてにしながら、自腹で葬儀費用を出したりしなければなりません。
このような事態を避けるために、あらかじめ一定の財産を葬儀費用などの目的で預けて頂くのが、「終活信託」の制度です。
――「終活信託」の活用例について教えて頂けますでしょうか。
長井:「終活信託」と名付けたことには、「信託」という固い言葉を使うと専門用語っぽくなってしまいますので、この信託を利用する心理的なハードルを下げたいというのが狙いです。
いずれ意識改革が起こり、「信託を利用する」という対策が浸透するのではないでしょうか。そのときがくるまで、教育・啓蒙を続けたいと考えています。
終活信託を活用して相続問題を解決した例を、2つご紹介します。
ケース1
ご家族が娘さんしかおらず、娘さんの仕事がとても忙しい方で、もしものときに動けないので、葬儀費用を事前に預けておきたいというご相談を、「終活信託」により解決しました。
ケース2
夫婦の方からご相談をいただき、子供がおらず、どちらかが認知症になったり死亡したりしたとき、葬儀を行う人がいなくなってしまい不安だ、というご相談を、葬儀費用を「終活信託」によって預けていただくことで解決しました。
自分の家族にも提供できるサービスを目指す
――相続相談に来る方々のご相談を聞いて、思うことはありますか?
長井:やはり、共通して思うのは、「もっと早く相談に来てほしい」ということではないでしょうか。銀行など金融機関からご紹介いただく方の大多数は、既に節税の機会を逃してしまっている方です。
――長井様が、相続問題を手掛けるにあたって、大切にしていることを教えてください。
長井:相続問題は、すべて人と人とのつながりを解きほぐすことでしか解決できません。相続手続の代行サービスを提供している事業者は増えていますが、手続だけを形式的に行う、味気ないサービスにだけはしたくないと考えています。
当法人では、スタッフ一同、「このサービスを自分の家族の相続にも提供したいと思えるかどうか」を大切な指針にして尽力しています。「家族だったらこれくらいやってあげる」、「家族だったらもっと必死に、対策を考えるのではないか?」とスタッフそれぞれが考えることで、より良いサービスを提供しています。
――お話は変わりますが、長井様のご家族について教えて頂けますでしょうか。長井様のご家族の相続問題などはどのようになさっていますか?
長井:私は今41歳で、両親は70歳を超えました。この仕事をはじめて、70歳の方の相続手続きを行うことも多くなり、私もひとごとではないなと感じています。
実際、私も親元離れて住み、仕事をしていますので、両親に万が一のことがあったときに、はたして周りに信頼できる相続サービスがたくさんあるのかというととても不安でした。特に、突発的に介護の必要性が生じたとき、誰に任せるか、真剣に悩みました。
現在は、兵庫県加古郡播磨町にある先輩の事務所にも、一般社団法人つむぐの相談所を開設しております。
――近くに、長井様の運営している相談所があると、とても安心ですね。
長井:そうですね、これで私も、両親の万が一の事態に備えることができました。私と同様の安心を、皆さまにも提供したいと考えています。
「つむぐの相談所があるから安心」、この思いを、私だけでなく、全国の方に実感していただきたいです。
交通網が発達した現代といえども、しかしながら、やはり万が一の突発的な事態への緊急対応はすぐには難しい面があります。ご家族の死亡と相続という緊急事態に、地域ですぐに対応できるよう、当法人は、「相続は地域ごとに解決する」をモットーにしています。
――本日はありがとうございました。最後に、相続にお困りの方々に向けて、一言メッセージをお願い致します。
長井:核家族があたりまえの世の中になってきて、「おひとりさま(単身世帯)」が増えて来ている時代です。
「家族や周りの方とのコミュニケーション」を、どのように取っていくかが、今後の最重要課題と考えております。皆様の「はじめの一歩」として、一般社団法人つむぐが終活のきっかけになれば幸いです。