先祖代々の土地をお持ちのご家庭では、土地を相続することによって相続人がどのような義務を負わなければならないのかが気になるところではないでしょうか。
今回は、土地を相続することで相続人が負う義務、行わなければならない行為などを、相続手続きに詳しい弁護士が解説します。結論からいうと、土地を相続することで、相続税・固定資産税などの納税義務のほか、土地の管理義務が生じます。
重い負担を負うおそれのある土地相続について、「そもそも、土地を相続すること自体が義務なの?」という疑問にお答えするため、土地の相続から逃れることができる方法についても合わせて解説します。
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土地を相続することで負う義務は?
ご家族が不動産、特に土地を所有しており、ご家族がお亡くなりになったときに土地を相続することが確実な相続人の方から、土地を相続することで負う義務について相談されることがあります。
土地を相続すると、土地を相続したことを対外的に明らかにするために、登記簿謄本の所有権の名義を変更します。これを「相続登記」といいます。しかし、相続登記は、義務ではありません。実際相続登記せずに長年、故人の名義のまま放置された土地もあります。
これに対して、土地を相続すると、相続によって土地を取得した相続人は、次の義務を負います。
ポイント
土地に対してかかる相続税を申告・納付する義務
土地の所有者として固定資産税を納付する義務
土地の所有者として土地を適切に管理する義務
そこで、土地を相続することによって必要となる以上の義務などについて、弁護士が順に解説していきます。
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土地を相続しても、相続登記は義務ではない
相続によって土地を取得すると、土地の所有者が、お亡くなりになったご家族(被相続人)から相続人に移転します。しかし、土地には名前が書けませんから、そのままでは、当事者以外の人には、土地の所有者が誰かがわかりません。
土地の所有者が不明確だと、これから説明する固定資産税の納付義務や、土地の管理義務・管理責任を負うのが誰かがわからず、第三者がその土地によって不利益、被害を受けるおそれもあります。
そこで、土地の所有者は、登記簿に記載されます。相続によって生じた所有権移転を登記簿謄本に反映する相続手続きを、「相続登記」といいます。
相続登記は義務でなくても相続直後に行う
結論からいうと、相続登記は法律上の義務ではありません。相続登記を行わずに放置したとしても罰金等の制裁(ペナルティ)はなく、また、相続登記を「いつまでに行わなければならない」という期限も、法律には定められていません。
しかし、相続登記が義務でないとしても、相続登記せず、お亡くなりになったご家族(被相続人)名義のまま土地を放置しておくとデメリットがあります。相続登記を行わないことによるデメリットは、例えば次のとおりです。
注意ポイント
- 相続した土地を売却することができない。
- 相続した土地を担保にお金を融資してもらうことができない。
- 相続登記しないうちに更なる相続(二次相続)が発生し、相続手続きが更に複雑となる。
- 相続した土地に権利を主張する人や他の相続人との争い(トラブル)を激化させる。
そして、以上のような問題点について「問題になったらすぐに相続登記すればよい。」と考えていると、相続登記の必要書類の収集、相続登記の複雑な手続きの履行などにより、タイミングよくすぐには相続登記が完了しないこともあります。
したがって、相続登記を先延ばしにすることなく、土地の所有者が死亡して相続が開始したら、遺産分割協議など必要な手続きを踏み、早急に相続登記をしてください。おひとりで相続手続きを進めるのが難しいときは、相続に強い弁護士、相続登記に詳しい司法書士にご依頼ください。
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相続した土地の登録免許税の納付は義務!
相続した土地の相続登記をすることは義務ではありませんが、速やかに相続登記を完了したほうがよいことはご理解いただけたのではないでしょうか。
そして、相続登記を行う場合、相続した土地の登録免許税を支払うことは、土地を相続した相続人の負う義務とされています。
相続した土地の相続登記の際に納付しなければならない登録免許税の金額は「固定資産税評価額×0.4%」という計算方法で算出されます。具体的には、法務局に収入印紙を貼付した登記申請書を提出する方法で納付します。
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【義務①】相続した土地の相続税を納付・申告する義務
相続した土地の評価額が高い場合、相続税を支払う義務が生じることがあります。具体的には、相続した土地だけでなく、その他の相続財産を全て足し合わせ基礎控除額を越える場合、相続税の納付義務があります。
相続税の基礎控除額
=「3000万円+600万円×法定相続人の人数」
相続した土地の評価額を調査するだけでなく、他の相続財産とその金額を調査し、相続税を支払う義務があるかどうか検討する必要があります。相続税は、相続人が申告し、納付しなければならず、税務署が計算して請求書を送ってくれるわけではありません。
土地を相続したとき、一般的には土地の評価額は多額となることが多く相続税の申告・納付義務が生じることが多いため、税務署から「相続税についてのお尋ね」という通知書が届くことがあります。
次のようなご不安、ご疑問のある方は、相続税に強い税理士に無料相談してください。
よくある相続相談
- 土地を相続したが、相続税を支払う義務が生じるかどうかがわからない。
- 土地の評価のしかたがわからない。
- 税務署から「相続税についてのお尋ね」が送られてきて義務が生じているか不安。
相続税の申告・納付は、期限があります。相続税の支払義務の期限は「相続開始を知ったときから10カ月」です。
期間内に納付義務が満たされない場合、延滞税、無申告加算税など余計なお金を払う必要があるほか、相続税が安くなる特例が利用できないことがあります。
【義務②】相続した土地の固定資産税を支払う義務
相続によって土地を所有することとなった相続人は、その所有する土地について固定資産税を納付する義務を負います。固定資産税の納付義務は、土地を相続した人の負う義務の者の中でとても重いものです。
固定資産税は、相続だけでなく、土地を所有している人であれば等しく地方公共団体に支払わなければならない義務があります。
固定資産税の納付義務は、毎年1月1日時点でその土地を所有している人が負う義務ですが、途中で所有者が死亡して相続が発生した場合、相続人が、固定資産税支払義務を引き継いで負うことになります。相続は、マイナスの財産もすべて相続するからです。
相続人が複数いるとき「誰がどの財産・債務を引き継ぐか」を遺産分割協議・遺産分割調停などによって決めますが、相続財産の分割割合が決まっていないときや、土地を誰が相続するか決まっていないとき、固定資産税の支払義務を負うのは誰でしょうか。
固定資産税の支払義務は、相続登記が完了する前は、相続人全員が負い、相続登記が完了した後は、相続登記によって所有者となった人が負うこととされています。この点でも、登記名義が義務負担の基準となります。
【義務③】相続した土地を適切に管理する義務
土地は、所有者が管理しなければなりません。言い換えると、所有者が管理義務を負い、管理責任を負うということです。このことは、相続によって取得した土地でも同様です。
土地の管理がずさんであったことによって、他人に迷惑をかけた場合には、土地の所有者が管理義務を負担し、管理義務違反によって第三者の負った損害を賠償する責任を負います。これが、土地を相続した人の負う義務の3つ目です。
少子高齢化、独居老人の増加などによって、空き家の放置は社会問題化しています。
ケース①
相続によって取得した土地上に、樹木が生えていたとします。土地の管理を怠り、樹木の枝が伸び放題になっていた結果、通行人に怪我をさせてしまったというケースで、土地の管理義務違反の責任を負う可能性があります。
ケース②
相続によって取得した土地上に家屋が建っているものの、お亡くなりになった方(被相続人)が一人で住んでいたため、死亡後は空き家になっていたとします。
空き家にすること自体は義務違反とはなりませんが、空き家が古くなって崩れたり、火事で延焼したりして隣家に迷惑をかけた場合、土地の管理責任を問われる可能性があります。
そもそも土地を相続することは義務なの?相続放棄できる?
以上のとおり、土地を相続したときは、相続登記は義務ではないけれど速やかに行ったほうがよく、その他に、税金の支払や土地の管理など、いくつかの義務を負わなければならないことを理解いただけたでしょう。
相続した土地を自分では利用しない場合であっても、土地の利用価値が高く第三者に貸すことができる場合にはよいですが、そうでない場合、以上の義務を負ってまで土地を相続したくない、と思う相続人もいるのではないでしょうか。
そもそも、土地を相続する自体は、義務なのでしょうか。
土地の相続は、相続放棄できる
先祖代々の土地や、お亡くなりになった方が事業に利用していた土地などを相続することとなったとき、相続人間では、「土地を相続しなければならない」という義務感が生まれることがあります。
しかし、結論からいうと、土地を相続することは義務ではありません。納税・管理の義務を負ってまでどうしても土地を相続したくないというときは、土地の相続をしないために、相続放棄することができます。
ただし、相続放棄は、土地だけでなく、他の相続財産も放棄することになり、土地だけの放棄はできません。土地以外の財産が多く、相続放棄するのは不都合である場合には、次の方法によって土地を相続する義務を回避できます。
所有者のいない土地は最終的に国庫に帰属しますが、一旦相続によって土地を取得してしまうと、その土地の所有権だけを放棄することはできません。
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相続放棄と、限定承認・単純承認との違いは、こちらをご覧ください。
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相続した土地を売却できる
一旦土地を相続した後、売却することができます。土地をスムーズに売却するためには、土地の名義を相続人に移す必要がありますので、土地を売却したいのであれば相続登記は必須です。
複数の相続人が共同して相続するケースでは、相続登記をするためには遺産分割をしなければならず、相続した土地を売却することについて、他の相続人の理解が必要です。
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他の相続人の中に、納税・管理などの義務を負ってでも土地を相続したいという人がいる場合には、その人に土地を相続してもらい、その代償として相続分に相当する金銭をもらう「代償分割」という分割方法もあります。
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遺産分割の方法と手続について、詳しくはこちらをご覧ください。
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相続した土地を寄付できる
相続した土地が、納付・管理の義務を負うようでは誰も買い手がつかず売却できないようなものであるとき、土地を無償で引き取ってもらうことを検討しましょう。土地を寄付するということです。
特に、隣地所有者であれば、隣地を引き取ることによって自分の土地の価値があがるため、その土地単体では価値の低い土地であっても、取得してくれる可能性があります。
土地相続は、「相続財産を守る会」にお任せください!
いかがでしたでしょうか?
今回は、土地を相続したときに相続人が負う義務と、そもそも土地の相続自体が義務ではないことについて、相続に強い弁護士が解説しました。
土地は、相続財産の中でも高額化しやすい財産であって争いの火種となりやすいですが、その一方で、土地を相続することに伴う義務もあります。義務負担のほうが重い、価値の低い土地は、相続放棄、売却、用途変更など、活用方法を検討する必要があります。
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